- 燃え殻
-
ぼくが90年代に集めた、映画のチラシとか
雑誌の切り抜きをファイルしたようなものを、
今ちょうどそこで展示させていただいてるんです。
小説にも出てきたラフォーレの『横尾忠則展』の
チラシとかもある。広告の専門学校に通ってたときは、
神保町の古雑誌屋とかにも行って
いろんな人のコピーを切って、それをファイルしてたんですよ。
- 糸井
- へえ。
- 燃え殻
-
発表する場は無いのに「資料集め」って
自分で言ってたんですけど。
- 糸井
- ああ、何の資料かはわからないんだ。
- 燃え殻
-
別に課題があるわけでもなくて、
いつか自分に役に立つであろう資料だったんですね。
今日のために集めてたのかもしれないですけど(笑)。
- 糸井
- ただ集めてた。
- 燃え殻
-
ただ集めてました。これは持っておきたい、
いつか何かになるんじゃないか、
ってそんな淡い淡い宝くじみたいなことを
思いながらやっていて。
すぐに役に立つわけでない努力をすごいしてたんですね。
- 糸井
- それって、みんなはしないのかな。俺もちょっとしてたな。
- 燃え殻
- あ、してました?
- 糸井
-
たとえばそれがチラシというかたちだったから捨ててただけで、
捨てられない本とか、みんな持ってるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
- ああ、なるほど。
- 糸井
-
他人がやってることとか、よその人が表現したことも、
すでにもう「自分の物語」になってるというか。
- 燃え殻
-
そうだと思います。自分が考えたことにしちゃうと
失礼かもしれないけど、これは俺しか知らないんじゃないか、
教えなきゃ、みたいな想いでコラージュのように集めて、
友達に見せたりしてましたからね。
ぼくは基本的にモノを捨てることとか、
人と縁が切れることが、すごい苦手なんです。
この小説の中でもそうなんですけど。
- 糸井
- それは、何だろう。
- 燃え殻
-
自分ですらガラクタだと思うんですよ。思うんですけど、
こういうものを自分の手元に置いて、
何度も何度も読み返していないと安心しないというか。
捨ててリセットすると、今までの自分と離れちゃった気がして
怖くなっちゃう。「あいつはこう言ってたな」とか
「いつか口が利ける人間になろう」というのもあるし。
絶対一生捨てないと思う。
- 糸井
-
それは個性なんですかね。
ブチの犬がいたり、白い犬がいたりするみたいに。
- 燃え殻
- そうかもしれない。
- 糸井
-
タイトルにも「捨てられない」って
書いてあるようなものですよね、
『ボクたちはみんな大人になれなかった』って。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
ぼくなんかは、だからこそ捨てる痛みも好きなんですけど。
「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」
みたいなことを涙と共に味わうのが好き。
それが、ぼくの個性ですね。
- 燃え殻
- へぇー。じゃ、けっこう捨てるんですね。
- 糸井
-
捨てますよ。捨てざるを得ないから捨てるのと、
やけになって部屋ごと捨てることもある。
- 燃え殻
- え?
- 糸井
- 本棚3つか4つ全部捨てたりします。
- 燃え殻
- えぇー?
- 糸井
-
何回もやってます、それは。
「これだけは取っとく」とかやりはじめると、もうダメだから。
で、何の差し支えもない。
- 燃え殻
- 本当は何の差し支えもないって、ぼくもわかってるんです。
- 糸井
-
もしあるとすれば、それは寂しさです。本とかモノとかは、
よほどのものじゃないと実は結果的には要らなかったっていうことになる。
燃え殻さんみたいな人がいると、
ますますぼくは男らしくなっちゃって、
「捨てなさい」なんて言いますけど、でも根は同じです。
ものすごく寂しい時期はある。
- 燃え殻
- 寂しさを感じちゃう?
- 糸井
-
で、その寂しさが好きなんだと思うんだよね。
そのキュンとしてるときの自分のこう、実在感?
- 燃え殻
- 「生きてるー」みたいな(笑)
- 糸井
-
うん。昨日、ビートルズについて取材をされたの。
若いときの話をするから、どういうふうに自分が
モテなくてフラれたかって話を軽い気持ちでしはじめたら、
悲しくなっちゃって。
そのとき受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。
- 燃え殻
- ちょっと涙が?
- 糸井
- 滲んじゃって(笑)。「ごめん、ちょっと待って」みたいな。
- 燃え殻
- ぜんぜん大人になれてないじゃないですか(笑)。
- 糸井
-
そうだと思う。
だから、みんな大人になれなかったって言ってるんだね(笑)。
(つづきます)