もくじ
第1回ちょっとウソを話してるんです。 2017-10-17-Tue
第2回自分だけの切り取り方 2017-10-17-Tue
第3回捨てられないから、大人になれない。 2017-10-17-Tue
第4回みんな同じ人間だから。 2017-10-17-Tue
第5回「商品」と「作品」のハムレットの中で 2017-10-17-Tue

「ものを書くこと」と「ものを買うこと」が大好きな、ライター兼webプロデューサー。テレビ局を辞めて、いまは「ものづくり」に関する記事をまとめています。息をするように買い物ばかりするので、いっぱい働かねばなりません。

ボクたちは、なぜ「書く」のか?

ボクたちは、なぜ「書く」のか?

第4回 みんな同じ人間だから。

燃え殻

ぼく、この夏、怖い人にしか会ってないんですよ。


糸井

ああ、いいですね。

燃え殻

大好きだけど、糸井さんに会うのも超怖かったんですよ。
糸井

言われてる本人としては、ああ、そうですかって感じだけど。


燃え殻

ずっと肝試ししてるみたいな。
だって、大槻ケンヂさんとか会田誠さんとか、
大根仁さんとかに毎週会ってるんですよ。
「このミーハーめ」って見てる人もいるわけです。



糸井

ああ、なるほど、なるほど。


燃え殻

でも、そんなふうに見る人たちと1回飲みたいぐらいなの。
これは新人レスラーがすげえ強い選手相手に
7番勝負とかさせられて、バカみたいにやられるのに近いプレイで。


糸井

トップクラスのプロがどういうふうに恐ろしいか、
みたいなね(笑)。


燃え殻

もう本当に。だから、これは組手ですよ。
また、それぞれ宗派もちがう。


糸井

全部ちがうよね。


燃え殻

それに、ことごとくやられるわけですよ。
でも、だからこそ勉強になるんです。
いろんな組手をして、
自分がいかに「なんでもない」かがわかるし、
自分が置かれてる立場が、x軸、y軸の座標でわかるんです。
そうすると、すっげえ持ち上げてくれる人と
出会ったとしても気づける。


糸井

燃え殻さんが自分で気づいてないけど、
「あなたはすごいですよ」ってはっきり言えるものがあって。
それは、あのとんでもない角度からいろいろな質問受けてる
人生相談(文春オンライン『燃え殻さんに聞いてみた。』)。
あれは、ものすごい発見がある。全部面白い。

燃え殻

えー、ありがたい。


糸井

もし職業名であるならば、「人生相談士」っていうのかな。


燃え殻

また怪しい(笑)。


糸井

そんなものになってもいいくらい、あれは面白い。
本当にそう思う。


燃え殻

ああ、ありがとうございます。


糸井

本当にあれ一生懸命やってますよね。


燃え殻

一生懸命やるしかないですからね。
テレビで見てたようなすごい人たちと組手もしましたけど、
「わっすごいな、全然かなわねえ」って
当たり前のことを思う一方で、失礼なんですけど、
「あ、人間じゃん」とも思ったんですよ。
数パーセントは「みんな、いっしょやん」って思って。
糸井
うん。

燃え殻
だから人生相談も、性別や年代や場所が違かったとしても、
まったく同じことはないけど、
「そういう気持ちに俺もなったことがあるよ」っていう、
この小説みたいなことばかりなんですよ。
その人と握手したいというか、
「俺はこういうことで同じような気持ちになった憶えがある。
もしかしてこうなんじゃないかな。違ったらごめんなさい」
ぐらいまで入れるっていう感じですよね。


糸井

そうですね。ぼくがいいと思うのは、
その燃え殻さんのいい意味での気の弱さなんだろうね。
その相談してきた人に「嫌な思いしてほしくない」という。


燃え殻

ああ、それは思ってます。


糸井

一番真実に近いところで回答するんだったら、
その人を1回傷つけてでも
「悲しいかもしれないけど、こうしたほうがいいんじゃないか」
ってことはあるわけで。
だけど、燃え殻さんは、その人が嫌な目をしませんように
っていうのを前提にしながら答えてる。


燃え殻
あれは本気の悩み相談なんで。
自分が悩んでいて、さらにそれをメールで相談するって、
熱量の継続が半端ないというか、相当悩んでる。
もう充分に傷ついたじゃないか、
それを投げ出さなかったという時点ですごいなあ、
ってぼくは思っていて。


糸井

あれは「答えてる」というより、
その人と隣り合わせで「慰めてる」んですよね。


燃え殻

ああ、そうです。ぼくは、そう思ってました。



糸井

このところぼくも「慰め」っていうことの大事さを
考えてるんだけど、
燃え殻さんの人生相談の中にはそれがあるんです。
「演歌を歌ってこの悲しみをごまかしてはいけない」
っていうのが厳しい人の
言うことかもしれないけど、
この境遇を演歌を歌って慰めることで
明日もし笑って過ごせるなら、
それこそブルースだとも言えるし。
燃え殻

ああ、そうだと思います。
傷がかさぶたになって、それが取れてきれいになるなら
すごく素晴らしいですけど、そんなことばっかりじゃないから。


糸井

そうそう。


燃え殻

かさぶたでも、止血しながらでも
生きていかなきゃいけないときってあるじゃないですか。


糸井

そうそうそう。


燃え殻

悩みを「一旦保留にしようぜ」って言ってあげる人生相談が、
なんでこれまでなかったんだろうって。


糸井

それを燃え殻さんはやってますよね。


燃え殻

ぼく手帳を見返すと解決してないことばっかりなんですよ。
だけど、保留にしたことによって忘れられることもある。
一旦置いといたことで、将来の自分が解決してくれたり。
そういうほうが、なんかリアルなような気がして。


糸井

あるある。

子どもでも、なにかでウワーッて泣いてても、
ウッウッ、て「あとは泣いてるだけ」っていう状態になって
終わるじゃないですか。あの状態に対する手を差し伸べ方が、
「あんた、それをもう一生の仕事にしなさい」
ってぐらいうまい(笑)。
だから、この人モテるの。



燃え殻

モテない、モテない(笑)。
でも、答えが要らないときって多いと思うんですよ、人生で。
お腹いっぱいになると、けっこう解決したりしません?


糸井

ある。あと、歩くとかね。
燃え殻

ああ、歩くとアイディア出ますしね。


糸井
あと、これじゃないなって方向に行きそうになってる問題が
忘れられますね。「歩く」は本当にいいんだ。

(つづきます)

第5回 「商品」と「作品」のハムレットの中で