- 燃え殻
- ぼく、この夏、怖い人にしか会ってないんですよ。
- 糸井
- ああ、いいですね。
- 燃え殻
- 大好きだけど、糸井さんに会うのも超怖かったんですよ。
- 糸井
- 言われてる本人としては、ああ、そうですかって感じだけど。
- 燃え殻
-
ずっと肝試ししてるみたいな。
だって、大槻ケンヂさんとか会田誠さんとか、
大根仁さんとかに毎週会ってるんですよ。
「このミーハーめ」って見てる人もいるわけです。
- 糸井
- ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
-
でも、そんなふうに見る人たちと1回飲みたいぐらいなの。
これは新人レスラーがすげえ強い選手相手に
7番勝負とかさせられて、バカみたいにやられるのに近いプレイで。
- 糸井
-
トップクラスのプロがどういうふうに恐ろしいか、
みたいなね(笑)。
- 燃え殻
-
もう本当に。だから、これは組手ですよ。
また、それぞれ宗派もちがう。
- 糸井
- 全部ちがうよね。
- 燃え殻
-
それに、ことごとくやられるわけですよ。
でも、だからこそ勉強になるんです。
いろんな組手をして、
自分がいかに「なんでもない」かがわかるし、
自分が置かれてる立場が、x軸、y軸の座標でわかるんです。
そうすると、すっげえ持ち上げてくれる人と
出会ったとしても気づける。
- 糸井
-
燃え殻さんが自分で気づいてないけど、
「あなたはすごいですよ」ってはっきり言えるものがあって。
それは、あのとんでもない角度からいろいろな質問受けてる
人生相談(文春オンライン『燃え殻さんに聞いてみた。』)。
あれは、ものすごい発見がある。全部面白い。
- 燃え殻
- えー、ありがたい。
- 糸井
- もし職業名であるならば、「人生相談士」っていうのかな。
- 燃え殻
- また怪しい(笑)。
- 糸井
-
そんなものになってもいいくらい、あれは面白い。
本当にそう思う。
- 燃え殻
- ああ、ありがとうございます。
- 糸井
- 本当にあれ一生懸命やってますよね。
- 燃え殻
-
一生懸命やるしかないですからね。
テレビで見てたようなすごい人たちと組手もしましたけど、
「わっすごいな、全然かなわねえ」って
当たり前のことを思う一方で、失礼なんですけど、
「あ、人間じゃん」とも思ったんですよ。
数パーセントは「みんな、いっしょやん」って思って。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
-
だから人生相談も、性別や年代や場所が違かったとしても、
まったく同じことはないけど、
「そういう気持ちに俺もなったことがあるよ」っていう、
この小説みたいなことばかりなんですよ。
その人と握手したいというか、
「俺はこういうことで同じような気持ちになった憶えがある。
もしかしてこうなんじゃないかな。違ったらごめんなさい」
ぐらいまで入れるっていう感じですよね。
- 糸井
-
そうですね。ぼくがいいと思うのは、
その燃え殻さんのいい意味での気の弱さなんだろうね。
その相談してきた人に「嫌な思いしてほしくない」という。
- 燃え殻
- ああ、それは思ってます。
- 糸井
-
一番真実に近いところで回答するんだったら、
その人を1回傷つけてでも
「悲しいかもしれないけど、こうしたほうがいいんじゃないか」
ってことはあるわけで。
だけど、燃え殻さんは、その人が嫌な目をしませんように
っていうのを前提にしながら答えてる。
- 燃え殻
-
あれは本気の悩み相談なんで。
自分が悩んでいて、さらにそれをメールで相談するって、
熱量の継続が半端ないというか、相当悩んでる。
もう充分に傷ついたじゃないか、
それを投げ出さなかったという時点ですごいなあ、
ってぼくは思っていて。
- 糸井
-
あれは「答えてる」というより、
その人と隣り合わせで「慰めてる」んですよね。
- 燃え殻
- ああ、そうです。ぼくは、そう思ってました。
- 糸井
-
このところぼくも「慰め」っていうことの大事さを
考えてるんだけど、
燃え殻さんの人生相談の中にはそれがあるんです。
「演歌を歌ってこの悲しみをごまかしてはいけない」
っていうのが厳しい人の
言うことかもしれないけど、
この境遇を演歌を歌って慰めることで
明日もし笑って過ごせるなら、
それこそブルースだとも言えるし。
- 燃え殻
-
ああ、そうだと思います。
傷がかさぶたになって、それが取れてきれいになるなら
すごく素晴らしいですけど、そんなことばっかりじゃないから。
- 糸井
- そうそう。
- 燃え殻
-
かさぶたでも、止血しながらでも
生きていかなきゃいけないときってあるじゃないですか。
- 糸井
- そうそうそう。
- 燃え殻
-
悩みを「一旦保留にしようぜ」って言ってあげる人生相談が、
なんでこれまでなかったんだろうって。
- 糸井
- それを燃え殻さんはやってますよね。
- 燃え殻
-
ぼく手帳を見返すと解決してないことばっかりなんですよ。
だけど、保留にしたことによって忘れられることもある。
一旦置いといたことで、将来の自分が解決してくれたり。
そういうほうが、なんかリアルなような気がして。
- 糸井
-
あるある。
子どもでも、なにかでウワーッて泣いてても、
ウッウッ、て「あとは泣いてるだけ」っていう状態になって
終わるじゃないですか。あの状態に対する手を差し伸べ方が、
「あんた、それをもう一生の仕事にしなさい」
ってぐらいうまい(笑)。
だから、この人モテるの。
- 燃え殻
-
モテない、モテない(笑)。
でも、答えが要らないときって多いと思うんですよ、人生で。
お腹いっぱいになると、けっこう解決したりしません?
- 糸井
- ある。あと、歩くとかね。
- 燃え殻
- ああ、歩くとアイディア出ますしね。
- 糸井
-
あと、これじゃないなって方向に行きそうになってる問題が
忘れられますね。「歩く」は本当にいいんだ。
(つづきます)