燃え殻さん、あれから、どうですか?
担当・ゴトウナナ
第2回 景色が残る。共有できる。
- 糸井
-
書く、書きたい、って思ったときに
すぐ書くとは限らないんだけど、
あぁ覚えとこう、と思うだけで、なんかいいですよね。
- 燃え殻
-
そう、そうですよね。
- 糸井
-
燃え殻さん、前に話をしたときに、
学級新聞みたいな壁新聞を作って毎日書いてた、
って言ってましたよね。
- 燃え殻
-
はい。
- 糸井
-
で、なんでその「思うだけじゃなくて書きたいんだろう」
っていうところが、何なんだろうねっていう話なんですけど。
- 燃え殻
-
その話ですね。
- 糸井
-
いや、たとえばね、
「やせ蛙まけるな一茶これにあり」っていう俳句ですけど、
これは「やせ蛙」っていう見方をしたな、
っていうのがまずうれしいじゃないですか。
ただ蛙だったところに、「やせ蛙」って言っただけで
あ、いいな、そうか、やせ蛙だなみたいな(笑)。
で、なんだか知らないけど、
そこに「負けるな」って気持ちが乗っかって、
自分に言ってるんだか、蛙に言ってるんだかわからない。
「負けるな一茶これにあり」っていうのは、
どっちが応援されてるのかわからないけれども、
やせた蛙を見たことを形にしたら、うれしくなるみたいな。
何かを書いてみるうれしさ。
- 燃え殻
-
うん、そうですね。
ぼくだけが見てる景色、みたいな‥‥。
- 糸井
-
そうそうそう。
- 燃え殻
-
それを切り取れた喜びみたいなものだったりとか。
あと、ぼくはそれでいうと手帳とかが、
21冊、全部取ってあるんですよ。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9456-12.jpg)
- 糸井
-
らしいんだよね。
- 燃え殻
-
はい。
デスクに、まあ21冊全部置いとくと邪魔なんですけど、
本当に6冊、7冊ぐらいは常に置いてるんですよ。
べつに並びは、終わっちゃった手帳なんで、
いつの手帳かっていうのはもう適当にランダムで、
横の引き出しの中に全部入れてて。
それを読み返すのが、
仕事中とかちょっと時間ができたときとかに、
自分の安定剤というか、
そういう形で手帳を使っているんですね。
その手帳は日記でもなく、もちろん手帳なので、
予定がまず書いてあります。
- 糸井
-
書いてあるね、うんうん。
- 燃え殻
-
で、ぼくは今、テレビの裏方の仕事を主にやってるので、
ここに納期がこう、
で、次はこの仕事がこのぐらいの納期であって、
この打ち合わせがあるって書いてあるんです。
それがどうなったかってもちろん書かなきゃいけないので、
それを書いてある。
- 糸井
-
必要だからね、そこはね。
- 燃え殻
-
はい、必要なんです。
そこにもう一つ、
たとえばその人のことを次に会ったとき忘れないために、
ヒゲが特徴だったとか似顔絵が描いてあったりとか。
名刺をそのまま貼って、名刺に似顔絵描いて、
そういう人いると思うんですけど。
- 糸井
-
うん、いるよね。
- 燃え殻
-
あと、その日はたまたま食った天丼屋がうまくて、
でもたぶん忘れるなって思って、
その天丼屋の箸を貼ってあったりとか。
- 糸井
-
箸袋、だね(笑)。
- 燃え殻
-
あ、そう、箸袋(笑)。
結局、十何年行ってないんですけど、
でも、天丼にシミとか付いてる店で。
- 糸井
-
行くかもしれないっていうのが、なんていうか、
自分が生きてきた人生にちょっとレリーフされるんだよね。
- 燃え殻
-
はい。
- 糸井
-
で、行かなくてもレリーフは残ってんだよね。
- 燃え殻
-
そう、行かなくても残ってる。
- 糸井
-
その感じっていうのと、
燃え殻さんの文章を書くってことが、すごく密接で。
- 燃え殻
-
すごく近い気がして。
- 糸井
-
ねえ。
これは俺しか思わないかもしれない、って思うことが
みんなにうなずかれたときって、
「くやしい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
- 燃え殻
-
すごくうれしい。
- 糸井
-
だから、ゴールデン街で酒飲んでそのまま何だか寝ちゃって
起きたときのお天気なんていうのは、
たぶん、うなずける人は、同じこと経験してないけど、
けっこういると思うんです。
で、発見したのは「俺」なんです、明らかに。
だけど、同時に、それが通じるっていう。
- 燃え殻
-
そうですね。
「経験してないけど、わかるよ」っていうところがうれしいし、
あと、なんだろう、その断片みたいな手帳の話でいくと、
あとから振り返ったときに、
その頃の自分の悩みも書いてあったりとか。
そのときうれしかったことに、
ぼく「超ラッキー」って、王冠とか描いてるんです(笑)。
- 糸井
-
王冠(笑)。
- 燃え殻
-
どれだけうれしいんだみたいな(笑)。
でも、それが、たいしたことじゃないんです。
で、嫌なこともたいしたことじゃないんです。
嫌なことも、これだけ嫌だって思ってたその人と、
今、それこそゴールデン街、酒飲みに行ったりするんです。
でも、昔の手帳には、
「この人には来週また会わなければいけない。
嫌過ぎる。死にたい」と書いてるんです。
- 糸井
-
そうか、会うために行ってたゴールデン街に、
今は用事がなくて行けるんだ。
- 燃え殻
-
そうそう、行ける、行ける。
で、なんていうか、その悩みだったり関係性が
どんどん変わっていくさまだったりとかが見えるから、
手帳を読み返すんですよね。
- 糸井
-
はぁー。
その手帳に書いてあることの中に、
書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
これとこれのときに、この音楽みたいな。
- 燃え殻
-
はいはい。
- 糸井
-
書いてないけど、じつは流れてますよね。
- 燃え殻
-
うん、そうですね。流れてる。
- 糸井
-
どこかに流れてるというか。
人が「思ったんだよ」ってことを刻んでおきたいって、
なんかとても貴重ですよね。
- 燃え殻
-
そうですね。
で、たぶん音楽でいえば、
音楽もさらに共有できることじゃないですか。
だから、小説を書いたときに、
そのところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
- 糸井
-
はい、入れてますよね。
- 燃え殻
-
それは、自分自身がそこでこの音楽がかかってたら
うれしいなっていうのと、
ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう、
その両方で音楽は必要だったんで。
そうすると、読んでくれている人が
共鳴してくれたり共有してくれたり、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
- 糸井
-
音楽って、ある種、こう耳ってふさげないから、
聞きたくないとしても流れてくるじゃないですか。
- 燃え殻
-
はいはいはい。
- 糸井
-
で、そこまで含めて思い出、みたいなことっていうのは、
あとで考えるとうれしいですよね。
- 燃え殻
-
そうなんですよ。
- 糸井
-
なんだろうね。
- 燃え殻
-
なんなんだろう。
- 糸井
-
景色みたいなものだね。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9679-5.jpg)
- 燃え殻
-
そうですね。
景色に、風景に、一つずつ重ねていって
共感度とか深度が深まるような気がして。
この小説でいうと、
同僚と最後別れるっていうシーンがあるんですけど、
そこってもしかして映画だったりいろいろなドラマだったら、
やっぱり悲しい音楽が流れてほしいじゃないですか。
でもそこでAKBの新曲が流れるっていうところを
ぼくは入れたかったんですよ。
- 糸井
-
いいミスマッチですよね。
- 燃え殻
-
なんかその、もう俺たち会わないなっていうのはわかる。
で、わかるけど、それは言わないで、
「おまえは生きてろ」みたいなことを言う。
で、それ言ってるときに、
AKBの新曲がのんきに流れてるって、ある、あるよなって、
なんかこう‥‥(笑)。
- 糸井
-
あるある。
- 燃え殻
-
思いませんか。
- 糸井
-
大いにある。
だから、「自分が主役の舞台じゃないのが世の中だ」
っていうのを表すのに、
外れた音楽を流すというのはすごく、すごくいいですね。
ぼくはそれ、意図的に書いたことを
はっきり覚えてることがあって、知らないと思うんだけど、
『ただいま』っていう矢野顕子のアルバムがあるんです。
それで、要するに「ただいま」って言うために
階段を駆け上がってくるときに、
「テレビの相撲の音とか聞きながらね」っていう歌詞がある。
- 燃え殻
-
へぇー。
- 糸井
-
つまり、テレビの相撲の音って、
自分のためのものじゃないんですよね、若い男女にとって。
そのときに、要するに男の子と別れた女の子が歌う歌の中に、
なんで俺、相撲の音とかって書くんだろうって、
書きながら思ったんですよ(笑)。
で、ああ、自分のための世の中じゃないとこに
いさせてもらってる感じだなと。
- 燃え殻
-
ああ、今思いました。
- 糸井
-
ですよね。
- 燃え殻
-
今思いました。なんでぼく、AKBの曲入れたんだろうって。
- 糸井
-
燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのは
それですよね。
俺のためにあるんじゃない町、に紛れ込んでみたり(笑)。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
俺のためのパーティじゃないところにいたり(笑)。
- 燃え殻
-
はいはい(笑)。
なんかこう、そこに所在無しみたいなとこに
ぼくはずっと生きてるような気がします。