燃え殻さん、あれから、どうですか?
担当・ゴトウナナ
第5回 続けてきたことは、確かなこと。
- 糸井
-
燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。
パノラマの、スケッチみたいな。
- 燃え殻
-
そうですね。その景色さえ決まってしまったら、
あとはクサくても、何も起きなくても
大丈夫なんじゃないのかなっていうふうに思う。
- 糸井
-
絵、やってた?
- 燃え殻
-
昔はやってました。小学校のときとか。
- 糸井
-
やっぱり。
- 燃え殻
-
なんでですか?
- 糸井
-
いや、とてもビジュアルっぽいから。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9909-3.jpg)
- 燃え殻
-
ぼく、山藤章二の似顔絵塾っていうのに
ずっと出してたんです、似顔絵を。
- 糸井
-
それで入選したの?
- 燃え殻
-
20回以上載ってます、「週刊朝日」の裏側に。
ぼく、今でも持ってますよ、全部。
- 糸井
-
‥‥知らなかった。
- 燃え殻
-
で、山藤さんがコメントくれるんです。
ぼく、本名で出してたんで、
「○○君、今回もまた竹中直人だね」って。
ぼく、一年間、竹中直人だけの似顔絵で、
いろんなバリエーションを。
- 糸井
-
(笑)。
- 燃え殻
-
学ランでエプロン着てる竹中直人とか、
‥‥なんか着てそうじゃないですか。
体育座りしてる竹中直人とか。
一年じゅう、バリエーションを変えて、毎週、
竹中直人を山藤章二さんにずっと送ってたんです。
まあ、嫌な人だったと思いますよ。
- 糸井
-
はぁー。
- 燃え殻
-
でも、それ一年間で4回、5回ぐらい出ました。
- 糸井
-
山藤さんも選び続けた。
- 燃え殻
-
そう。だから、「また竹中直人だね」って書いてくれて。
- 糸井
-
(笑)。
- 燃え殻
-
そこでぼくは、生存確認してました、だから。
みんなが、「ジャンプ」を、発売の前の日に
コンビニに買いに行くんですよ。
それみたいに、「週刊朝日」は火曜なんですよね、
で、それを、前日の月曜の夜にもうコンビニ行って。
だれもいないんですよ、
「週刊朝日」をそんな待ってる人は(笑)。
- 糸井
-
そうだろうねえ(笑)。
- 糸井
-
載ってない場合もある?
- 燃え殻
-
もちろん載ってない場合のほうが多いです。
- 糸井
-
計何回ぐらい載ったの?
- 燃え殻
-
いや、もう本当に二十何回載った。
- 糸井
-
それは素晴らしいんじゃない?
何か勲位をもらったんじゃない?
- 燃え殻
-
一時期はすごく載って。
で、一年間でよかったやつを、最後、選ぶんですよね。
それにこう選んでいる、なんか‥‥
- 糸井
-
審査風景?
- 燃え殻
-
はい、審査風景みたいのにぼくのがあって、
結果としてはダメだったんですけど、「ある!」っていうので、
そのとき、山藤章二さんとナンシー関さんとか
松本人志さんとか、たぶんそのあたりの人たちだったんです。
そういう人たちが選んでくれているとこに
自分のものがあるっていうのが‥‥
- 糸井
-
ああ、それはすごい。
- 燃え殻
-
それこそ、だから、エクレア工場でバイトしてたりとか
そのへんの頃だったんで、「生きてる」っていうか、
もうそこで、山藤さんが選んでくれてるということで、
価値がある人間なんじゃないか、って。
- 糸井
-
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
- 燃え殻
-
そう(笑)。
- 糸井
-
ちょっとおもしろい形をしてるぞと。
- 燃え殻
-
俺はおもしろいんだ、どこかおもしろいんだって
思わないと、たぶんやってられなかったんですけど。
- 糸井
-
それは大事な何かだね。やり続けられたんだね、でも。
いや‥‥今、思い出したんだけど。
あなたの語りはいつも人に何か思い出を掘り起こすね。
- 燃え殻
-
いやあ。
- 糸井
-
「ブレーン」という雑誌があって。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9892-5.jpg)
- 燃え殻
-
ああ、はい、ありますね。
- 糸井
-
「ブレーン」という雑誌にぼくが原稿書いたとかの
話じゃないんですよ。もっと全然くだらないんですよ。
「ブレーン」に、当時、コピーライターの養成講座があって、
その先生で、ヤマカワさんという人が原稿を書いてる中に、
「若手のコピーライターのI君が」って書いてあった。
その「I君が」っていうだけで、これ俺なんだって、
とびあがるほどうれしかった。それで買った、その号。
- 燃え殻
-
わかる。わかる。
- 糸井
-
だから、そんなんだよね。その「いてもいいんだ」感。
- 燃え殻
-
ラジオで自分の投稿が読まれるみたいなのも
そうかもしれないけど、何かこう、まったく血縁関係のない、
自分にとって有利でない場所で突然スポイルされるみたいな。
そうすると「あ、俺はいてもいいのか」、
そういう感じに思えたのかもな。だから、うれしくて。
- 糸井
-
うれしいと思う。
で、それは、へたをすると、
ただの有名になりたい病になったりする可能性もあって、
そうやってダメになっちゃうやつも山ほどいて。
俺は、そのダメになっちゃうみっともなさみたいなもの
に対してものすごく慎重だった気がするんですよね。
でも、やっぱりいい気になって踊っちゃうのもあるし、
両方‥‥
- 燃え殻
-
両方ですよね。
- 糸井
-
両方ですよね。それで、だんだんとこれは一番だろう、
みたいなものに出会うようになったりすると、
もう1回普通に戻るみたいな。普通にすごいなって(笑)。
だから、何でしょうかね、そのままでもよかったんだな、
っていう答えになるかもしれないよね。
だれにも知られない人のままでも
本当はよかったのかもねって。
- 燃え殻
-
いや、本当にそうかもしれない。
ぼくがトークショーで話すときにしても、
「それでさ」って相手が、
さっきの楽屋で話したそのままの話だったり、
自分が会いたかった人が普通の人だった、
っていうことに感動したり。
- 糸井
-
うん、普通なんですよね。
- 燃え殻
-
とくべつな話とか、そこでしか聞けなかった何かも
もちろんおもしろかったんだけど、
最終的にはその人がぼくとつながってたっていうか。
- 糸井
-
そうですね。同じ人間だっていうか。
- 燃え殻
-
同じ人間だったって確認をしたかったんですよね。
それはその人の作品だったりとか、
そういうものが素晴らしいから。
- 糸井
-
うん、そうですね。
みんなが何億円だって言ってるものの価値が、
ピカピカした100円玉の一つなんだっていうか。
昨日かおとといのほぼ日に、任天堂にいた岩田さんのことを
書いたりしゃべったりするのが出てたんだけど。
- 燃え殻
-
あ、はい、見ました。
- 糸井
-
みんなが好きなのは、
岩田さんが普通だったからなんですよね。
5億円だと思って、100億円だと思って見てたのが、
じつは、いち100円玉だったって話を、
うちの会社にいる人たちはみんなそれを知ってて、
そこが好きなんですよね。その100円玉感が。
で、そこをキープすることを
やっぱり美意識で持ってますよね。
岩田さんも宮本さんも、いち100円玉としていようとする。
岩田さんは、「それは糸井さんから学んだんだ」って
言い張るんです。
ぼくは「岩田さんのほうがそうだよ」って。
- 燃え殻
-
お互い。
- 糸井
-
そうそうそう。
- 燃え殻
-
それと、「いてもいい」みたいなことでいうと、
ぼく自身は、以前は、自分が社会の数に入っていなかった、
みたいな感じが猛烈にあって、
それをどうにかしなきゃいけない、と。
でも、そこから今の会社に入って、そしたら、
今度はいろいろなテレビ局だったり制作会社の人たちから、
「おまえのところは数に入っていない」って説明を
いろんな言葉でされるわけですよ。
これを、この会社を世の中で認めてもらえるには、
どうしたらいいだろうって、たぶん、社長も一緒に
いろいろと考えながらやってきて。
で、やっと、それこそ何度か似顔絵が選ばれたかのように、
社会に認めてもらうことが会社であって、
「そこにいていい」みたいなことが起きて、
その喜びというのがあるんですよね。
その中の延長線上に、ぼくは最初は全然そんなこと
思っていなかったんですけど、
小説を書いてこうなったときに喜んでくれたのが
社長だったんですよ。
それが何につながるかとかじゃなくて、
ただ、喜んでくれたんです。
- 糸井
-
うん、仲間が。
会社は辞めないですか。
- 燃え殻
-
絶対辞めないです。
- 糸井
-
絶対辞めないですか(笑)。
- 燃え殻
-
そうですね。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9830-3.jpg)
- 糸井
-
うんうんうん。
- 燃え殻
-
それこそ、自分と血縁関係もないところで
今こう一緒に働いてる人たちが
ある意味、親より喜んでくれて。
それが一番うれしかったかなあ。
だから、「会社は辞めないんですか」っていうのは
よく言われるんですけど、辞めないよっていうか。
- 糸井
-
その答えはすごくいいですね。耳にいいですね。
- 燃え殻
-
あ、そうですか。
- 糸井
-
うん。聞いててうれしい気がしますね、なんだか。
- 燃え殻
-
本音です。
- 糸井
-
何か書くってことは、やめないんですか。
- 燃え殻
-
やめないつもりではいるんですけど、
受注があったことに対して全力で取り組むっていうのを
ずっとやってきていて、これは、恥ずかしさもあって
言ってることなんですけど、
それが小説だろうが、美術制作のフリップ1枚だろうが、
本当に一緒で、全力で取り組んで、
できれば喜んでもらいたいっていう。
小説のときもそうで、できれば全然知らない、
たとえば富山の女子高生が喜んでほしいなっていうか。
会ったこともない人が喜ぶには
どうしたらいいんだろうってことばっか考えてたんです。
- 糸井
-
子どもがまだ小さいときに、
寝かしつけるのにデタラメな話をしてたことがあって。
主人公を子ども本人にしてあげたり、
してあげなかったりいろいろして、
出まかせにいろんなこと言ってるとウケるんですよね。
なんか似てますよね。
- 燃え殻
-
似てる。
- 糸井
-
ね(笑)。
だれかが喜んで聞いてるんだったら、
さあ、その喜んでる人に向かって何かを、
そのあとどうしようかなって思いながら
一緒に手をつないでたい、みたいな。
- 燃え殻
-
はい、ぼくはもう、それだけですね。
仕事はべつにあるんだから、自分の好きなことだけ
やればいいじゃないか、っていう人もいると思うんです。
でも、せっかくそれが流通するものだとしたら、
いろいろなノイズがないほうがいいなとか、
関わった人も含めてみんなが喜んでほしいなっていうのは
何なんだろうみたいなことを探すのが楽しかったし。
- 糸井
-
うん、そうですよね。
- 燃え殻
-
それはツイッターもそうかもしれないですけど、
自分の作品だったら、物語だったら、
どんな残酷にもできるじゃないですか。
- 糸井
-
自分のハンコを必ず押すもんね、ツイッターとかってね。
- 燃え殻
-
その人を驚かせるとか、悲しませるとかって
ある意味簡単というか、狂気的なことをすればいいけど、
おもしろがらせるってけっこう大変だぞって思って。
- 糸井
-
そうだよね。
- 燃え殻
-
あと、安心させるとかね。
- 糸井
-
浮かない気持ちでいるもんね、人って案外普段はね。
それを、ウキウキさせるっていうのは、
じつは力仕事ですよね、案外ね。
- 燃え殻
-
その人が今どんな状態かってわからないじゃないですか。
- 糸井
-
わかんない。そうだ。
- 燃え殻
-
だから、まあ、自分自身がそんな明るい人間じゃないんで、
ぼくがこれぐらいに思えば、ほとんどの人は、きっと、
もうちょっと、それこそ調子が出てるだろうから‥‥。
- 糸井
-
調子が出る(笑)。
- 燃え殻
-
うん。ぼくがこのぐらい喜んでるんだから、
けっこうみんな喜んでくれるんじゃないかなって。
- 糸井
-
それと、ずっとやってきたことは確かだよね。
それは確かだよね。
- 燃え殻
-
はい。
- 糸井
-
ずーっとやってきたんだよね、壁新聞から始まってね。
- 燃え殻
-
そうですね。
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