もくじ
第1回「なんでこの本を書いたんですか」 2017-10-17-Tue
第2回景色が残る。共有できる。 2017-10-17-Tue
第3回燃え殻さんと、ブルース。 2017-10-17-Tue
第4回心に、永ちゃんと、鶴瓶さんを。 2017-10-17-Tue
第5回続けてきたことは、確かなこと。 2017-10-17-Tue

おもに編集者として約10年働いてきたものの、意図せずいつのまにかプロジェクトマネジメント的なお仕事が増え、「書くこと」はこれからどうしよう?とさまよう30代半ば。「ほぼ日の塾」に乗っかって、考えてみます。

燃え殻さん、あれから、どうですか?

燃え殻さん、あれから、どうですか?

担当・ゴトウナナ

第4回 心に、永ちゃんと、鶴瓶さんを。

(トークライブの3日後、ほぼ日オフィスにて)

糸井
この前は、ありがとうございました。
燃え殻
こちらこそありがとうございました。
大丈夫でしたか、あれで。

糸井
ものすごく大丈夫だったんじゃないですか?
燃え殻
大丈夫でした? 大丈夫かどうかってことだけ
気にしながら生きてるんです(笑)。
糸井
よく頑張ってるよねぇ。
燃え殻
あ、久しぶりにほめられた。
糸井
だって、いろんな、いいこともストレスだし、
悪いこともストレスなんだから。

新婚はストレスらしいからね。
燃え殻
あ、いいことでも?
糸井
環境が変わったら人体が変わったのと同じだから、いわば。
だから、あらゆるそういう、変化はストレスなんですよね。
燃え殻
そうか、そうなんだ。それでいえば、ここ2か月ぐらい
今までの人生にない変化しかしてなくて、
それに少しだけ慣れましたね。
糸井
いや、たいしたものだ。
燃え殻
いえ、あの、1年前のロフトの、
糸井さんと一緒に写ってる写真が出てきたんですよ。
糸井
ああ。
燃え殻
その前のときに糸井さんと1回ご飯を食べて、
あれが2回目で。
糸井
そうだね。そうだ、そうだ。
本当に1年前。
燃え殻
でも、ぼく、あのときが、
人前で話すっていうことが人生初だったんです。
糸井
‥‥ちょっといいなあ。何だ、何だ、何だ(笑)。
燃え殻
それ初で、さらに糸井重里がいて。
またそうそうたる変わった方々がいらっしゃって‥‥
糸井
(笑)。
燃え殻
緊張したー。その1年前のやつを見たときに、
あ、少し慣れたかもしれないと思ったんですよ。
糸井
いっくらでもやってるじゃない、もう人前で。
燃え殻
ここ2か月ぐらいです。
糸井
あ、それは変化かもしれない。
燃え殻
うん。
糸井
人前っていう意味はつまり、
知らない人が自分の話を聞いてるってことか。
燃え殻
そうですね。
糸井
なかなかないよね、そういえば。
燃え殻
ない、ないですよ。
気軽に糸井さん誘いましたけどね、ロフトへ(笑)。

すごい、人は気軽に誘うんだなと思いました。
糸井
(笑)。
燃え殻
ぼく、会田誠さんもそうだったんです。
会田誠さんから飲みに行かないかって言われて
断ることもないんで、「行きたいです」って言ったんです。
そしたら人前でした。
糸井
ああ、あ、そうですか。
ぼくは会田さんみたいな芸術家じゃないんで、
「よかったら来ていただけませんか」。
燃え殻
あ、ちゃんと。
糸井
選択肢があるようにしてたはずですよ、たぶん。
「よろしければ、出ていただけませんか」って、
形式的にもそうしたんじゃないかな。
燃え殻
ありました、ありました。
糸井
だから、そこはぼくのしぶといところで、
絶対断られるんじゃないかって今でも思ってるんです。
燃え殻
あ、そうですか?
糸井
そこをけっこう本気で思ってるんです。

それは、自分もそうだから。
だれが何と言おうがそれは行きたくないとか、
ちょっと今は勘弁してくださいとか、いろんな理由があるから、
断れるように誘ってほしいなって思ってるので。
燃え殻
断れる、ああ、それはいいですねえ。
糸井
だから、「すぐ来いよ」みたいなことを言うまでの関係って、
やっぱり、いや、まだないかもな、俺、それ。
自分の娘にでもそうだな。

気が弱いせいもある。
燃え殻
気が弱いんです。ぼくは、ですよ。
糸井
でも、それのおかげで、俺はだいぶ長生きできると思うよ。
損得にする必要はないんだけど、
たぶんトータルにものすごく健康でいられる気がする。
燃え殻
こっちが断るときは、どうやって断るんですか。

けっこう入り口って広いじゃないですか。
「じゃ、今度ご飯食べましょう」を断るともう、
そんなに一生食いたくないのかって話になるので、
「あ、そうですね」って
まず言わなきゃいけないじゃないですか。
糸井
うん、そこは言う。言うかもね。

あ、言わないときもある。「あー」つって(笑)。
燃え殻
「あー」って(笑)。
糸井
ねえ。「んー」。「あー」。
燃え殻
「んー」。吸い込むっていう(笑)。
糸井
そうやって、なんか音だけ出してるっていう。
糸井
あと、友達なんだけど、
今ものすごくドタバタしてるから、ご飯はちょっと、
みたいなときは「んー」でも「あー」でもなくて、
「あ、いいね」って言って。
燃え殻
ああ、はいはい。

はっきり断ることもある‥‥?
糸井
うん、5、6年にいっぺんぐらいはあるんじゃないですか?
燃え殻
えー?

糸井
「嫌だよ」って言ったりする。
燃え殻
「嫌だよ」。
糸井
うん。こっちが誘う側のときには、
「嫌だよ」を相手が言う可能性はいつも持ってて、
自分が誘われた側のときには、「嫌だよ」から、
「うーん」から、「おお、いいね! いついつ?」
っていうのから。
燃え殻
バリエーションが。
糸井
バリエーション(笑)。1つじゃ、やっぱり無理。
燃え殻
入り口がぼく、1つだから苦しいのかな。
糸井
そうかもしれないね。
今聞いてたらね、「はい」しかなさそうだもんね。
燃え殻
「ああ、いいねえ」って絶対言っちゃうんですよ、ぼく。
うちの会社の若手の食事会みたいなのも、
たぶん、若手も本当には、ぼくに来てほしくないんですよ。
糸井
(笑)。
燃え殻
ただ、誘ってなかったっていうのも
まずいじゃないですか。
糸井
ああ。ああ。
燃え殻
だから、たぶん向こうはお知らせのつもりなんだけど、
「いいね」しかぼくないんで、「ああ、いいね」。
‥‥裏では、「あいつ、行くらしいぜ」みたいな話に
なってると思うんです(笑)。
糸井
おもしろい(笑)。おもしろいですね、その加減。
燃え殻
若手のやつ、「あっ」って、気づくんです。でも、毎回そう。
毎回ぼく、最初の入り口は「うん」って言っちゃうんです。
糸井
仕事もそうやって引き受けちゃうんだ。
燃え殻
はい。
糸井
今日もそれで来たんだ。
燃え殻
違います(笑)。
糸井
「違います」の早さ、すごく好感が持てた(笑)。
燃え殻
はい、そうです(笑)。
糸井
ああ、そういう人がこの2か月を過ごしてたっていうのは、
ちょっと、すごいね。
燃え殻
うーん、でも、今までそういうことをやってこなくて、
どこかで自分の中で欠損してると思ってたんですよ。
糸井
我慢して人前に出るとかってこと?
燃え殻
そうです。で、憧れてたというか、そういうことが
普通じゃなきゃいけないなって思ったんです。

だから、あの、あるじゃないですか、
これはもう新人レスラーの、夏のカーニバルみたいな、
8試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
糸井
苦手かどうかでいえば、それはぼくも本当同じですよ。
ものすごく社内ミーティングしてて、
一人でしゃべりまくってますけど、
得意かっていったら、得意じゃないね。苦手だね。
燃え殻
え、そうですか?

でも、それ毎週やってて、
その日の朝とか緊張するんですか、ちょっと。
糸井
緊張はしないけど、そのとき永ちゃんが出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、「矢沢、楽しめ」って
俺に声かけるんですよ。
燃え殻
糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる‥‥?
糸井
うん、明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。
「矢沢さんのおかげでここまで来たんすよね」
みたいな(笑)。

燃え殻
永ちゃんが、入ってる。
糸井
入ってる、入ってる。
燃え殻
それが一番そういうピンチのときだったりとかに、
永ちゃんが語りかけてくれる? 曲が流れるんですか。
糸井
そんなふうにはなんない。それは、今の話でいうと、
永ちゃんが、「俺もステージの前はドキドキする」って話を
真面目にしてるわけよ(笑)、俺と会話してて。
燃え殻
へぇー。
糸井
「緊張するのは当たり前だよ」みたいな感じで。

で、もっと若いときだったら、勝負ごとみたいに、
鏡に向かって、「おまえならやれる」って言う。
で、終わってから、「よくやったよ、永ちゃん」みたいな。
燃え殻
そうやって、語りかけて。
糸井
うん。で、ある段階まで行ったら今度は、戦いじゃなくて、
「楽しめ」って言うようになったっていうわけだよ。

「矢沢、楽しめ、OK」。

楽しみにしてる人と俺とが楽しめばいいんだってなったら、
勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、「楽しめ」、
そうすると「おお、そうかい」って出てくるんだって。
燃え殻
ああ、でも、そうかもしれない。
糸井
ものすごいそれはうれしくなっちゃうわけで、
嫌に決まってることだらけだよ、苦手なことはね。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、
どれだけしのいだか。
燃え殻
「楽しむんだ」っていう。
糸井
そう。
燃え殻
ぼく、トークショーみたいなのがあったとき、
新潮社の編集の人に、「嫌だ嫌だ嫌だ」つったんです(笑)。
そしたら、「いいんですよ。動いてるの見たいだけ
なんですから」って言われたんですよね。
糸井
うん。とくに対談は、相手がいて、
一人で講演をしろって話じゃないから。
燃え殻
ああ、そうですねえ。
糸井
だから、たとえばの話、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って言ってくれるじゃない。
だから、ただ、「会って話そう」だよ(笑)。
燃え殻
そうですね。そういうほうがおもしろいっていうふうに
糸井さん思ってるんですよね。
だって、3日前のも、「10分前に来てくれ」
だったじゃないですか。
糸井
うん。このことだけは伝えなきゃみたいなことは
ひとつもないから。
燃え殻
ああ(笑)、そうか。
糸井
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
燃え殻
「これだけは言ってくださいね」みたいな。
糸井
もしそういうことがあるんだったら、もう時間区切って、
急に言ってくださいみたいにしたほうが。
で、もし、ギクシャクした言い方になったら、
「ギクシャクしてますね」って言って(笑)、
また違う話をしたいんですよね。
燃え殻
ああ、そっちのほうがいい。
糸井
テレビとかも、台本の通りに進んで、
まるで今考えついたかのように進むっていうのが
だいたいだから、用意してあることをしゃべってるし。

それは確実に、望んだおもしろさにはなるわけですよ、
でも、なんかそこで失われるものについてね、
ぼくは嫌なんですよね。
燃え殻
はい、もう、求めてる答えがあるんですよね。

ぼく、何度か受けた取材で、答えが決まってるのが
あったんですよね。シートが来たんです。
それに「ぼくの答え」が書いてあったんです。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
で、「そうじゃなくてもいいんですけど、
一応答えは書いときました」って。
それで、「あ、そうですか」って言ったんですけど、
それが話の流れの中で、やっぱり‥‥
糸井
引っかかる(笑)。
燃え殻
引っかかる(笑)。
糸井
引っかかるよね。
燃え殻
で、また、ぼくの肩書みたいなのが、また難しいんですよ。
ネットで出すとき、新聞で出すとき、で、雑誌のときに、
向こうからある程度、「この肩書どうですか」って、
またそれもスッと来るんです。

糸井
いくつもあるわけだ。
燃え殻
はい。
糸井
たとえば何がある? 「作家」はある?
燃え殻
「作家」もある。
「会社員」もあった。
糸井
あとは何がある?
燃え殻
「コラムニスト」みたいな。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
コラムニストと言っていいの? って(笑)。
糸井
はいはい、でも、まあ、あるだろう。
燃え殻
あと、「テレビ美術制作」。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
「ツイッタラー」。
糸井
「ツイッタラー」(笑)。
燃え殻
「それでいいです」ってぼく言いましたけどね(笑)。
糸井
それね。ぼくも、もうずっと「もういいか」ですよ。

それだったらそれでいいやって、ぼく、もう最近ほら、
「樋口可南子の旦那です」って‥‥
燃え殻
(笑)。
糸井
もういざとなったら自分から言うからね。
それが、「あ、出ない、えーと、えーと、あの人の」
ってなったときとか。
燃え殻
(笑)。
糸井
「はい、樋口可南子の旦那です」って
もうね、攻めてくの。さっきの「楽しめ」と同じ。
鶴瓶さんから学んだよ、それ。
鶴瓶さんも、声かけられそうだなと思ったら、
「鶴瓶でございます」って。
燃え殻
あ、もう先に。
糸井
うん。「どうした。おばちゃんどうした」って。
燃え殻
鶴瓶さんは逆に攻めてく。
糸井
俺、一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。
攻める攻める(笑)。攻める、歩いてく。
燃え殻
また目立ちそうですもんね。
糸井
そう。遠くからこっち見てるなって気づいただけで、
「どこ行くん?」。どこ行くかどうだっていいの(笑)。
燃え殻
あ、質問すらする?
糸井
そう。質問する。あれはすごいわ。

だから、さっきの「楽しめ」とそれは似てますよ。
主体は自分で、自分のやることとして、どうしたいんだ、
っていうのを問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。

「こんなコンサート、だれがやるつったんだよ。俺だよ。
なんでやるんだよ。自分が楽しいからだろ? うれしいんだろ?
じゃ、楽しもうよ」っていう、こういう順番ですよね、いわば。
燃え殻
うん。そしたら楽しめる。
糸井
ねえ。あ、それはだから、今日みたいな場面にも言えるよ。
別にこれが嫌だと言ってるわけじゃなくて(笑)、
より楽しむ。
燃え殻
より、もっと楽しめばいいじゃないか。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
でもね、それ、本当そうなんですよねえ。
糸井
本当そうなんですよ。
だから、俺がこんなにしつこく言ったおかげで、
燃え殻さんも、きっとちょっと覚えてると思うんだよ、
このことを。

「そう言ったってな、楽しめるなんてもんじゃないよな」
って思いながらタクシーで移動してるときに、でも、でも、
楽しめっていう選択肢はあるんだってだけで変わると思うよ。
燃え殻
そうだなあ。それでいえば会田誠さんが、
「まあ、べつにそんなの緊張する必要ないよ」
みたいなことを言ったときに、
「でも、メモ持って待ち構えてる人がいるんですよ」って
言ったら、「メモのこと忘れるぐらい適当な話しよう」と。
糸井
ああ。
アーティストだね、やっぱりね。
燃え殻
ああって思いました。脱力しました。
第5回 続けてきたことは、確かなこと。