(トークライブの3日後、ほぼ日オフィスにて)
- 糸井
- この前は、ありがとうございました。
- 燃え殻
-
こちらこそありがとうございました。
大丈夫でしたか、あれで。
- 糸井
- ものすごく大丈夫だったんじゃないですか?
- 燃え殻
-
大丈夫でした? 大丈夫かどうかってことだけ
気にしながら生きてるんです(笑)。
- 糸井
- よく頑張ってるよねぇ。
- 燃え殻
- あ、久しぶりにほめられた。
- 糸井
-
だって、いろんな、いいこともストレスだし、
悪いこともストレスなんだから。
新婚はストレスらしいからね。
- 燃え殻
- あ、いいことでも?
- 糸井
-
環境が変わったら人体が変わったのと同じだから、いわば。
だから、あらゆるそういう、変化はストレスなんですよね。
- 燃え殻
-
そうか、そうなんだ。それでいえば、ここ2か月ぐらい
今までの人生にない変化しかしてなくて、
それに少しだけ慣れましたね。
- 糸井
- いや、たいしたものだ。
- 燃え殻
-
いえ、あの、1年前のロフトの、
糸井さんと一緒に写ってる写真が出てきたんですよ。
- 糸井
- ああ。
- 燃え殻
-
その前のときに糸井さんと1回ご飯を食べて、
あれが2回目で。
- 糸井
-
そうだね。そうだ、そうだ。
本当に1年前。
- 燃え殻
-
でも、ぼく、あのときが、
人前で話すっていうことが人生初だったんです。
- 糸井
- ‥‥ちょっといいなあ。何だ、何だ、何だ(笑)。
- 燃え殻
-
それ初で、さらに糸井重里がいて。
またそうそうたる変わった方々がいらっしゃって‥‥
- 糸井
- (笑)。
- 燃え殻
-
緊張したー。その1年前のやつを見たときに、
あ、少し慣れたかもしれないと思ったんですよ。
- 糸井
- いっくらでもやってるじゃない、もう人前で。
- 燃え殻
- ここ2か月ぐらいです。
- 糸井
- あ、それは変化かもしれない。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
-
人前っていう意味はつまり、
知らない人が自分の話を聞いてるってことか。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
- なかなかないよね、そういえば。
- 燃え殻
-
ない、ないですよ。
気軽に糸井さん誘いましたけどね、ロフトへ(笑)。
すごい、人は気軽に誘うんだなと思いました。
- 糸井
- (笑)。
- 燃え殻
-
ぼく、会田誠さんもそうだったんです。
会田誠さんから飲みに行かないかって言われて
断ることもないんで、「行きたいです」って言ったんです。
そしたら人前でした。
- 糸井
-
ああ、あ、そうですか。
ぼくは会田さんみたいな芸術家じゃないんで、
「よかったら来ていただけませんか」。
- 燃え殻
- あ、ちゃんと。
- 糸井
-
選択肢があるようにしてたはずですよ、たぶん。
「よろしければ、出ていただけませんか」って、
形式的にもそうしたんじゃないかな。
- 燃え殻
- ありました、ありました。
- 糸井
-
だから、そこはぼくのしぶといところで、
絶対断られるんじゃないかって今でも思ってるんです。
- 燃え殻
- あ、そうですか?
- 糸井
-
そこをけっこう本気で思ってるんです。
それは、自分もそうだから。
だれが何と言おうがそれは行きたくないとか、
ちょっと今は勘弁してくださいとか、いろんな理由があるから、
断れるように誘ってほしいなって思ってるので。
- 燃え殻
- 断れる、ああ、それはいいですねえ。
- 糸井
-
だから、「すぐ来いよ」みたいなことを言うまでの関係って、
やっぱり、いや、まだないかもな、俺、それ。
自分の娘にでもそうだな。
気が弱いせいもある。
- 燃え殻
- 気が弱いんです。ぼくは、ですよ。
- 糸井
-
でも、それのおかげで、俺はだいぶ長生きできると思うよ。
損得にする必要はないんだけど、
たぶんトータルにものすごく健康でいられる気がする。
- 燃え殻
-
こっちが断るときは、どうやって断るんですか。
けっこう入り口って広いじゃないですか。
「じゃ、今度ご飯食べましょう」を断るともう、
そんなに一生食いたくないのかって話になるので、
「あ、そうですね」って
まず言わなきゃいけないじゃないですか。
- 糸井
-
うん、そこは言う。言うかもね。
あ、言わないときもある。「あー」つって(笑)。
- 燃え殻
- 「あー」って(笑)。
- 糸井
- ねえ。「んー」。「あー」。
- 燃え殻
- 「んー」。吸い込むっていう(笑)。
- 糸井
- そうやって、なんか音だけ出してるっていう。
- 糸井
-
あと、友達なんだけど、
今ものすごくドタバタしてるから、ご飯はちょっと、
みたいなときは「んー」でも「あー」でもなくて、
「あ、いいね」って言って。
- 燃え殻
-
ああ、はいはい。
はっきり断ることもある‥‥?
- 糸井
- うん、5、6年にいっぺんぐらいはあるんじゃないですか?
- 燃え殻
- えー?
- 糸井
- 「嫌だよ」って言ったりする。
- 燃え殻
- 「嫌だよ」。
- 糸井
-
うん。こっちが誘う側のときには、
「嫌だよ」を相手が言う可能性はいつも持ってて、
自分が誘われた側のときには、「嫌だよ」から、
「うーん」から、「おお、いいね! いついつ?」
っていうのから。
- 燃え殻
- バリエーションが。
- 糸井
- バリエーション(笑)。1つじゃ、やっぱり無理。
- 燃え殻
- 入り口がぼく、1つだから苦しいのかな。
- 糸井
-
そうかもしれないね。
今聞いてたらね、「はい」しかなさそうだもんね。
- 燃え殻
-
「ああ、いいねえ」って絶対言っちゃうんですよ、ぼく。
うちの会社の若手の食事会みたいなのも、
たぶん、若手も本当には、ぼくに来てほしくないんですよ。
- 糸井
- (笑)。
- 燃え殻
-
ただ、誘ってなかったっていうのも
まずいじゃないですか。
- 糸井
- ああ。ああ。
- 燃え殻
-
だから、たぶん向こうはお知らせのつもりなんだけど、
「いいね」しかぼくないんで、「ああ、いいね」。
‥‥裏では、「あいつ、行くらしいぜ」みたいな話に
なってると思うんです(笑)。
- 糸井
- おもしろい(笑)。おもしろいですね、その加減。
- 燃え殻
-
若手のやつ、「あっ」って、気づくんです。でも、毎回そう。
毎回ぼく、最初の入り口は「うん」って言っちゃうんです。
- 糸井
- 仕事もそうやって引き受けちゃうんだ。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
- 今日もそれで来たんだ。
- 燃え殻
- 違います(笑)。
- 糸井
- 「違います」の早さ、すごく好感が持てた(笑)。
- 燃え殻
- はい、そうです(笑)。
- 糸井
-
ああ、そういう人がこの2か月を過ごしてたっていうのは、
ちょっと、すごいね。
- 燃え殻
-
うーん、でも、今までそういうことをやってこなくて、
どこかで自分の中で欠損してると思ってたんですよ。
- 糸井
- 我慢して人前に出るとかってこと?
- 燃え殻
-
そうです。で、憧れてたというか、そういうことが
普通じゃなきゃいけないなって思ったんです。
だから、あの、あるじゃないですか、
これはもう新人レスラーの、夏のカーニバルみたいな、
8試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
- 糸井
-
苦手かどうかでいえば、それはぼくも本当同じですよ。
ものすごく社内ミーティングしてて、
一人でしゃべりまくってますけど、
得意かっていったら、得意じゃないね。苦手だね。
- 燃え殻
-
え、そうですか?
でも、それ毎週やってて、
その日の朝とか緊張するんですか、ちょっと。
- 糸井
-
緊張はしないけど、そのとき永ちゃんが出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、「矢沢、楽しめ」って
俺に声かけるんですよ。
- 燃え殻
- 糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる‥‥?
- 糸井
-
うん、明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。
「矢沢さんのおかげでここまで来たんすよね」
みたいな(笑)。
- 燃え殻
- 永ちゃんが、入ってる。
- 糸井
- 入ってる、入ってる。
- 燃え殻
-
それが一番そういうピンチのときだったりとかに、
永ちゃんが語りかけてくれる? 曲が流れるんですか。
- 糸井
-
そんなふうにはなんない。それは、今の話でいうと、
永ちゃんが、「俺もステージの前はドキドキする」って話を
真面目にしてるわけよ(笑)、俺と会話してて。
- 燃え殻
- へぇー。
- 糸井
-
「緊張するのは当たり前だよ」みたいな感じで。
で、もっと若いときだったら、勝負ごとみたいに、
鏡に向かって、「おまえならやれる」って言う。
で、終わってから、「よくやったよ、永ちゃん」みたいな。
- 燃え殻
- そうやって、語りかけて。
- 糸井
-
うん。で、ある段階まで行ったら今度は、戦いじゃなくて、
「楽しめ」って言うようになったっていうわけだよ。
「矢沢、楽しめ、OK」。
楽しみにしてる人と俺とが楽しめばいいんだってなったら、
勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、「楽しめ」、
そうすると「おお、そうかい」って出てくるんだって。
- 燃え殻
- ああ、でも、そうかもしれない。
- 糸井
-
ものすごいそれはうれしくなっちゃうわけで、
嫌に決まってることだらけだよ、苦手なことはね。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、
どれだけしのいだか。
- 燃え殻
- 「楽しむんだ」っていう。
- 糸井
- そう。
- 燃え殻
-
ぼく、トークショーみたいなのがあったとき、
新潮社の編集の人に、「嫌だ嫌だ嫌だ」つったんです(笑)。
そしたら、「いいんですよ。動いてるの見たいだけ
なんですから」って言われたんですよね。
- 糸井
-
うん。とくに対談は、相手がいて、
一人で講演をしろって話じゃないから。
- 燃え殻
- ああ、そうですねえ。
- 糸井
-
だから、たとえばの話、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って言ってくれるじゃない。
だから、ただ、「会って話そう」だよ(笑)。
- 燃え殻
-
そうですね。そういうほうがおもしろいっていうふうに
糸井さん思ってるんですよね。
だって、3日前のも、「10分前に来てくれ」
だったじゃないですか。
- 糸井
-
うん。このことだけは伝えなきゃみたいなことは
ひとつもないから。
- 燃え殻
- ああ(笑)、そうか。
- 糸井
-
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
- 「これだけは言ってくださいね」みたいな。
- 糸井
-
もしそういうことがあるんだったら、もう時間区切って、
急に言ってくださいみたいにしたほうが。
で、もし、ギクシャクした言い方になったら、
「ギクシャクしてますね」って言って(笑)、
また違う話をしたいんですよね。
- 燃え殻
- ああ、そっちのほうがいい。
- 糸井
-
テレビとかも、台本の通りに進んで、
まるで今考えついたかのように進むっていうのが
だいたいだから、用意してあることをしゃべってるし。
それは確実に、望んだおもしろさにはなるわけですよ、
でも、なんかそこで失われるものについてね、
ぼくは嫌なんですよね。
- 燃え殻
-
はい、もう、求めてる答えがあるんですよね。
ぼく、何度か受けた取材で、答えが決まってるのが
あったんですよね。シートが来たんです。
それに「ぼくの答え」が書いてあったんです。
- 糸井
- はいはいはい。
- 燃え殻
-
で、「そうじゃなくてもいいんですけど、
一応答えは書いときました」って。
それで、「あ、そうですか」って言ったんですけど、
それが話の流れの中で、やっぱり‥‥
- 糸井
- 引っかかる(笑)。
- 燃え殻
- 引っかかる(笑)。
- 糸井
- 引っかかるよね。
- 燃え殻
-
で、また、ぼくの肩書みたいなのが、また難しいんですよ。
ネットで出すとき、新聞で出すとき、で、雑誌のときに、
向こうからある程度、「この肩書どうですか」って、
またそれもスッと来るんです。
- 糸井
- いくつもあるわけだ。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
- たとえば何がある? 「作家」はある?
- 燃え殻
-
「作家」もある。
「会社員」もあった。
- 糸井
- あとは何がある?
- 燃え殻
- 「コラムニスト」みたいな。
- 糸井
- ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
- コラムニストと言っていいの? って(笑)。
- 糸井
- はいはい、でも、まあ、あるだろう。
- 燃え殻
- あと、「テレビ美術制作」。
- 糸井
- ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
- 「ツイッタラー」。
- 糸井
- 「ツイッタラー」(笑)。
- 燃え殻
- 「それでいいです」ってぼく言いましたけどね(笑)。
- 糸井
-
それね。ぼくも、もうずっと「もういいか」ですよ。
それだったらそれでいいやって、ぼく、もう最近ほら、
「樋口可南子の旦那です」って‥‥
- 燃え殻
- (笑)。
- 糸井
-
もういざとなったら自分から言うからね。
それが、「あ、出ない、えーと、えーと、あの人の」
ってなったときとか。
- 燃え殻
- (笑)。
- 糸井
-
「はい、樋口可南子の旦那です」って
もうね、攻めてくの。さっきの「楽しめ」と同じ。
鶴瓶さんから学んだよ、それ。
鶴瓶さんも、声かけられそうだなと思ったら、
「鶴瓶でございます」って。
- 燃え殻
- あ、もう先に。
- 糸井
- うん。「どうした。おばちゃんどうした」って。
- 燃え殻
- 鶴瓶さんは逆に攻めてく。
- 糸井
-
俺、一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。
攻める攻める(笑)。攻める、歩いてく。
- 燃え殻
- また目立ちそうですもんね。
- 糸井
-
そう。遠くからこっち見てるなって気づいただけで、
「どこ行くん?」。どこ行くかどうだっていいの(笑)。
- 燃え殻
- あ、質問すらする?
- 糸井
-
そう。質問する。あれはすごいわ。
だから、さっきの「楽しめ」とそれは似てますよ。
主体は自分で、自分のやることとして、どうしたいんだ、
っていうのを問いかけてるのが「楽しめ」ですよね。
「こんなコンサート、だれがやるつったんだよ。俺だよ。
なんでやるんだよ。自分が楽しいからだろ? うれしいんだろ?
じゃ、楽しもうよ」っていう、こういう順番ですよね、いわば。
- 燃え殻
- うん。そしたら楽しめる。
- 糸井
-
ねえ。あ、それはだから、今日みたいな場面にも言えるよ。
別にこれが嫌だと言ってるわけじゃなくて(笑)、
より楽しむ。
- 燃え殻
- より、もっと楽しめばいいじゃないか。
- 糸井
- そうそうそう。
- 燃え殻
- でもね、それ、本当そうなんですよねえ。
- 糸井
-
本当そうなんですよ。
だから、俺がこんなにしつこく言ったおかげで、
燃え殻さんも、きっとちょっと覚えてると思うんだよ、
このことを。
「そう言ったってな、楽しめるなんてもんじゃないよな」
って思いながらタクシーで移動してるときに、でも、でも、
楽しめっていう選択肢はあるんだってだけで変わると思うよ。
- 燃え殻
-
そうだなあ。それでいえば会田誠さんが、
「まあ、べつにそんなの緊張する必要ないよ」
みたいなことを言ったときに、
「でも、メモ持って待ち構えてる人がいるんですよ」って
言ったら、「メモのこと忘れるぐらい適当な話しよう」と。
- 糸井
-
ああ。
アーティストだね、やっぱりね。
- 燃え殻
- ああって思いました。脱力しました。