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今日は、私に北欧家具の魅力を
たくさん教えてくれた森下さんに、
椅子のことについて、
おうかがいしていきたいと思います。
- 森下
- はい、どうぞ。
- ――
-
さっそくなんですが、
森下さんは「キルト工芸」で
おもに海外営業をされていて、
海外の名作とされる椅子をはじめ、
いままでいろんな椅子を見て、座ってきたと思います。
森下さんは、椅子の良さっていうものを
どういう風に見極めているんですか?
- 森下
-
わりと直感ですよね。
いい椅子かどうかっていうのは、
まあ一応プロの端くれなんで
すぐわかっちゃうんです。
- ――
- ふふふ(笑)。
- 森下
-
もうある種の職業病みたいなもので。
じぶんのなかに、
いろんな椅子が判断できる
ものさしを持っています。
だから、建築物を見るときにも、
室内に置いてある椅子のレベルで
その建築物全体のことが、なんとなくわかります。
- ――
-
森下さんがお家で
マイチェアとして愛用しているのは
デンマークを代表する家具デザイナー、
ハンス・J・ウェグナーのデザインした、
ザ・チェアなんですよね。
- 森下
-
そうです。
ちょうどいま、この部屋にある、この椅子です。
我が家にある僕の椅子は
座面の部分が藤で編まれていて、
妻の椅子は座面が革張りです。
- ――
-
じゃあ夫婦で同じ種類の椅子を使っていて、
座面の部分だけ、ちがうんですね。
- 森下
-
はい。
ちがう座面にしたいというより、
僕は藤のほうが好きだったので。
- ――
-
森下さんはお家でマイチェアに座って、
「これをするときが楽しみ」っていう時間はありますか?
- 森下
-
なにもしないときが
いちばん、いいんじゃないですか?
- ――
-
ああ。
私も、マイチェアに座るときは、
なにもしないです。
私は最近、毎日5分だけでもいいから、
マイチェアに座る時間を持つことを
ルールにしています。
できるだけスマートフォンも見ません。
- 森下
-
そうそう。
仕事とかでどうしてもっていうときは、
家でもPCで作業するけど。
まあ家にいるときっていうのはね、
奥さんと話したり、もう家を出た子どもが帰ってきたら
「最近どうだ?」って聞いたりして過ごしたいから。
家で一生懸命になにかをやろうっていうのは、
僕はないですね(笑)。
- ――
- いいですね(笑)。
- 森下
-
マイチェアってことは、
栗田さんがインターンに来たときに
うちの会社でつくった椅子?
- ――
-
はい。
本体は大きいので実家に置いていて、
オットマン(椅子の前に置いて使う足乗せ用ソファー)
だけ東京のひとり暮らししている部屋で使っています。
- 森下
- どのくらいの大きさだったっけ?
- ――
-
これがマイチェアとオットマンのセットです。
5年くらい前に、ここの工場で、
椅子が完成したときの写真ですね。
- 森下
-
ああ、そうだった。
いろいろ思い出しますね。
いやあ、栗田さん、ラッキーだったよね(笑)。
- ――
-
ラッキーでした(笑)。
廃棄するサンプル用の布を使って、
エコをテーマにして椅子をつくらないかと
森下さんにご提案いただいたんですよね。
その布を並べて、「キルト工芸」の縫製工場で、
アドバイスもらいながらミシンを踏んで。
ほんとうにいろんな職人さん、
とくに御手洗さんには助けてもらって、つくりました。
いやもう、御手洗さんがつくってくれた部分も
多いですけど(笑)。
- 森下
-
いい経験でしたね。
御手洗は、うちの会社の製造部の部長で、
特別な仕事を任されてる職人さんですから。
- ――
-
マイチェアをつくるまでに、森下さんには
いろんなところに連れて行ってもらって、
椅子のことを、学問じゃなくて体験として、
教えてもらいました。
あの。
むかし、森下さんに言われて
心に残ってる言葉があります。
森下さんがマイチェアにしている
ザ・チェアはその名の通り、
「椅子のなかの椅子」とされる
名作中の名作ですけど、
「キルト工芸」のショールームで私が座ると、
なんだかブカブカな感じだったたんです。
その感想を素直に言ったら、森下さんがひとこと、
「椅子もひとを選ぶんだよ」って。
- 森下
- ああ、言ったね(笑)。
- ――
-
もう、すごくかっこいいと思いました!
ひとのためにつくられた椅子だけど、
椅子もひとを選ぶ。
おもしろいものだなあって。
- 森下
-
そうですね。選びますよ。
それだけ、いい椅子っていうのは
職人さんも精魂込めてつくってるので。
だから、その想いをちゃんと
感じてあげないといけないんだよね。
- ――
-
ああ。
感じてあげる。
そうかあ。
- 森下
-
たとえば、2016年に行われた伊勢志摩サミットのときに、
首脳会議用の椅子を「キルト工芸」でつくったんですけど、
ドイツ首相のメルケルさんはね、
用意した椅子がとても似合ってました。
- ――
-
そうでした、
伊勢志摩サミットの椅子もつくられてたんですよね。
- 森下
- はい、三重県の木材も使って、うちの会社でつくりました。
- ――
-
それから、
「椅子に選ばれるかどうか」ということのほかにも、
「座りかたを知っているかどうか」という差も、
ひとによってあるんだと学びました。
- 森下
-
ああー。そうねえ。
ある女優さんのお家に、ザ・チェアと同じデザイナーの
ウェグナーがデザインしたテディベアチェア
を納入したことがあります。その女優さんは
「じぶんがどうしたら美しく見えるか」
ということをすごく意識して座っていましたね。
くつろぎかたの問題だと思うんだけど。
- ――
-
家に置く椅子って、だいたい、
くつろぐためにあるじゃないですか。
テディベアチェアなんか、とくにそうだと思うんです。
クマに抱きしめられてるような
包容力のある座り心地の椅子ですよね。
……くつろぐための椅子なんだけど、美しく見える。
- 森下
-
正しくくつろぐ方法っていうものは、
僕はあると思ってます。
家のなかでも、かっこよく座りたいですよね。
妙にだらしなくなるっていうのは、
寝るときにベッドですればいいんであって。
やっぱり、椅子座るときのルールっていうのはあるし。
- ――
-
ルール。
あるんですか?(笑)。
- 森下
-
あります(笑)。
その椅子によって、
じぶんがいちばん美しくくつろげる方法
っていうのがあると思うんですよ。
- ――
-
それは、すべてのひとに
共通のものではなくて、試してみて、
じぶんでどう感じるかってことですよね。
- 森下
- そうそう。
- ――
-
座っている姿を
鏡を見るわけでもないけれど、
ひとそれぞれに、美しくくつろげる方法がある。
ああ。
- 森下
- うん。
- ――
- 不思議ですねえ(笑)。
- 森下
-
そうねえ(笑)。
こんな話でいいのかな?
いや、栗田さんが、
今日はなんでも僕が思ったことを
自由にしゃべっていいっていうから(笑)。
- ――
-
はい、なんでも気軽に
しゃべってください(笑)。
(つづきます)