もくじ
第1回結びの始まり 2019-03-19-Tue
第2回薬玉の結び方 2019-03-19-Tue
第3回結びの図 2019-03-19-Tue
第4回結ばない国はない 2019-03-19-Tue
第5回結びのススメ 2019-03-19-Tue

うどん県からやってきた一児の母です。
都会の生活にはまだ慣れません。
娘とのお絵かきの時間が唯一の癒しです。

結びの世界

結びの世界

担当・まつ

みなさんは「結び」という言葉を聞いて、
何を思い浮かべるでしょうか。

家庭科で習った玉結びや、
靴紐を結ぶときの蝶々結び、
中には縁結びという言葉を思い出す方も
いらっしゃるかもしれません。

なんだかよくわからないという方は、
ちょっとお守りを見てみてください。

お守り袋と紐が、
少し凝った結び方でつながっていませんか。

娘の誕生月にいただいたお守りがきっかけで
結びに惹きつけられた私は、
一体どんな方が紐一本でこんなに美しいものを
作っているんだろうと気になり、
結びをご専門にしていらっしゃる
関根みゆき先生の存在を知りました。

それ以来、いつかこの方のお話を聴いてみたい
と思っていたのですが、
今回、ありがたいことに直接お会いして
お話をお聴きすることができました。

結びの世界は私が想像していたよりもずっと深く、
そして遠くの国まで広がっていました。
この場をお借りして、
皆さんにもその世界を少しでもお伝えできればと思います。

全5回と長い文章になりますが、
結びの世界に是非おつきあいください。

プロフィール
関根 みゆきさんのプロフィール

第1回 結びの始まり

ーー
先生が結びを始められたきっかけは何ですか。
関根
きっかけとしては、仕覆(しふく)の結びですね。
東京国立博物館のミュージアムショップで
結びの本に出会ったんです。
『花結び』という本で、仕覆のいろんな結びの写真と
結び方が書いてある本がありまして、
それを綺麗だなと思って。

仕覆(しふく)
:茶入れ袋のことを言います。
上の写真の右下に映っているのが仕覆で、中には茶入れ(茶道で使うお茶を入れる道具)が入っています。
袋の上部についている緑色の紐を使って、様々な結びを作ることができます。

ーー
もとはピアニストでいらしたんですよね。
関根
はい、そうです。
もともと手芸とか見るのは好きですけど、
やろうと思ったことは一度もなかったんですね。
でも、その本を読んでみると、
結びがずっと口伝で伝えられてきて、
ある時期、鍵の役割をしていたと書いてあったんです。
ーー
封じ結びのことでしょうか。
関根
はい。鍵は、がっちりした開けられないもの
というイメージがあったのに、
柔らかい紐で美しく結んで、
そこに鍵という役割を持たせているところに
本当にびっくりしたんです。
一撃を浴びた感じで、とにかくこれをすぐ習いたい
と思ったんです。


(関根先生に結んでいただいた封じ結び)

ーー
それが最初だったんですね。
関根
はい。あの時初めて日本の文化に興味を持ったんです。
美しいものに鍵の役割をさせる繊細さとか
いろんなものが入り混じって、
その奥に何かがあるような気がしたんですよね。
 
でもまあ習いに行ってもすぐに仕覆の結びを
させてもらえるわけではないので、
最初の数年間はひたすら地道に基本の結びをやってました。
それも楽しかったですけどね。
ーー
最初はどんな先生に習われたんですか。
関根
『花むすび』の著者である田中年子先生の教室で
2年ぐらい習いました。
仕事が終わってから通ってたんですけど、
当時先生の教室で通えるのは月曜の夜だけでした。
それなのに、毎週月曜日に会議が入るようになって
どうしても通えなくなってしまったんです。
 
そしたら、田中先生のところに長く通われてた方が
時間がある時に何か一緒にやりましょう
と言ってくださって、
その方のところに2年ぐらい行きました。
ーー
その先生はどんな方でしたか。
関根
その方はもう80歳を過ぎてらっしゃったんですが、
アクセサリーとか新しい結びを考えるのが得意な方でした。
その方のところではアクセサリーや色紙の結びを
たくさん学びました。
 
そんな感じでなんとなく教えてもらうままに
やっていた時期があったんですが、
母が急に倒れて亡くなったんですね。
そのとき父も高齢だったので、
介護をするためにすぐ仕事を辞めたんです。
 
私、山口県の下関出身なんですけど、
年に6、7回、10日から二週間ぐらいの間、実家に帰って
ケアマネジャーさん達と相談しては戻るという
遠距離介護の生活が約7年間続いたんです。
ーー
それは大変でしたね。
関根
はい。大好きだった仕事を辞めたこともあって
半年から1年目ぐらいが一番辛かったです。
 
それで、何か楽しみを見つけようと思ったときに
そういえば京都に素晴らしい結びをする先生が
いらっしゃると誰かが言っていたことを思い出して
調べて、京都で途中下車して会いに行きました。
ーー
下関から戻ってくる途中にですか。
関根
はい。実家にはほとんど新幹線で帰っていたので、
途中下車したら習えると思ったんです。
京都までわざわざ通うことはできないですけど、
実家に帰る途中に習えるなら、私は楽しくなるし、
父も私に気を遣わなくてよくなるし、
お互いにいいんじゃないかと思ったんですね。
 
それで先生に事情を話したら、
じゃあ、あなたの都合のいいときにどうぞ
って言ってくださったんです。
ーー
その先生はどんな方でしたか。
関根
西村望代子先生という先生なんですが
衣紋道(えもんどう)を宮島健吉先生のもとで
学ばれて、葵祭の装束の着付けもされてる先生
だったんです。
ですから、やっぱり古い文献とか、着付けにしても
いろんなことを勉強されていました。
 
西村先生から、作品を作る時の3つの柱ということで
口をすっぱくして言われたのが、一つは機能性、
次に装飾性、でも一番大事なのは精神性だと。
 
結びの中には意味のあるものもあるし、
吉凶もあるし、陰陽もあると。
結び目も紐の重なり方に上下の違いがありますよね。
ーー
そうですね。ちょっと動かすだけで形が違ってきます。
関根
はい。
全く同じ結びでも重ね合わせや真逆もできるわけです。
 
あるとき、私がなんとなく手でやって、
結びがバラバラになっているところがあったんです。
そのとき西村先生に、
これは意識してやったのかって言われて、
いや、意識してないですと答えたんです。
そしたら、左半分と右半分は逆にした方が綺麗じゃないか
と言われたんですね。
ーー
左右対称にするということですか。
関根
はい。対称に綺麗にした方がいいと。
結びがぐしゃぐしゃだったとしても
あえてそうしたならいいけど、
そうなっちゃったはダメだって言うんです。
 
私はそれまでそんな細かいことを気にしたことが
なかったんですが、確かに日本の結びって
一対で置く場合には対称にしてるんですよ。
古い結びを見ていくと、同じ結びでも
対称にするとか、裏表にするとか、
そういうこだわりがあるんです。
そういうことをもっと大切にしなさいって言われて、
それからいろいろ本を読みだしました。
ーー
その頃はご自身で考えた結びを作られてたんでしょうか。
関根
結びの技術は基礎的なものだけでも
ものすごい種類があるんです。
でも、私は京都に住んでいたわけではないので
毎週とか、毎月というペースで先生のところに通うことは
できなかったんですね。
 
先生に教えていただく時間は貴重な時間なので
基本的な結びは自分でひたすら練習しつつ、
先生が見せてくださる文献の中から
自分の興味があるものをお伝えして、
その中から先生が選んでくださった作品を
一つずつ仕上げていくということをしていました。
 
西村先生はもう亡くなられたんですが、
そんな風にして最後に指導していただいた作品が
「薬玉」(くすだま)だったんです。
 
(薬玉って何でしょう。つづきます。)
第2回 薬玉の結び方