もくじ
第1回結びの始まり 2019-03-19-Tue
第2回薬玉の結び方 2019-03-19-Tue
第3回結びの図 2019-03-19-Tue
第4回結ばない国はない 2019-03-19-Tue
第5回結びのススメ 2019-03-19-Tue

うどん県からやってきた一児の母です。
都会の生活にはまだ慣れません。
娘とのお絵かきの時間が唯一の癒しです。

結びの世界

結びの世界

担当・まつ

第3回 結びの図

ーー
その後はどんな風に活動されていたんでしょうか。
関根
2007年頃、折形デザイン研究所の山口信博さんという方が
よく新聞で取り上げられていたんですね。
当時、私は折形(おりがた)っていう包みの礼法にも
興味があって、山口先生は結びについても興味を
示されていたので、山口先生のところに行ったら
もう少し深いところがわかるかなという期待をして、
折形教室に通うようになったんです。
 
江戸時代に、日本で最初の包み結びの本を書いた
伊勢貞丈という人がいるんですが、
その人が書いた『包之記(つつみのき)』を
山口先生はずっと研究されていて、
結びについても、もっと深めたいので
結びの教室も一緒にやりながら
研究を進めましょうということでお話があったんです。
ーー
そんな時代から結びの本があるんですね。
関根
この『包結図説』というのが、最初の包み結びの本です。
それまではほとんど口伝ですね。

ーー
よく残ってましたね。
関根
はい。これは代々伝わる、その家の財産のようなもの
なんですね。
伊勢家と小笠原家は室町時代からの武家礼法の家なので、
小笠原家にももちろんあります。
内々に伝わってきたものをこうして本にして出版する
というのは、当時でも画期的なことでした。
これが出たことで、江戸後期から明治にかけて
結構結びの本が出るんです。
ーー
図だけを見て結んでいくのはすごいですね。
関根
最初は結びの図はなかなか読めないですね。
ーー
先生はご覧になったらどうなってるかわかるんですか。
関根
今はやっぱりだいぶわかります。
でも平面ですから裏は見えないわけです。
だから当時の人も裏は想像するしかなかったと思います。
ーー
当時からいろんな結びがあったんですね。
関根
貞丈は仕覆の結びについても若干書いています。
仕覆の紐は輪状になっていて、紐端がない丸い形ですから
どうやって結んだらいいか、
最初はわからないと思うんですけど、
ここから始めるよっていうのだけは書いてくれています。

ーー
結び始めのところですね。
関根
それからお花の結び方とかですね。
紐が輪で繋がってるから、結局辻褄があうわけです。
本当によくできていて、こういう花の図に関しては
結び方を載せています。

関根
この結びは花びらの一片を引っ張るだけで
全部ほどけるんです。
要するに結ぶことだけではなくて、
ほどくところまで考えて結んでいます。
ーー
よく考えられていますね。
関根
ただ、全ての結びがすぐにほどける結びではなくて、
封じ結びという鍵のような役割をする結びもあります。
 
仕覆の場合は、茶入れに毒を盛られたりしないように
封じ結びをしていたわけですが、
文箱(ふばこ)という塗りの箱についても
大事な手紙を見られてはいけないということで
封じ結びが結構たくさん載っています。
 
大切なものに結びをつけて、
綺麗に飾って置いてあるんですけど、
実は鍵の役割も担っているということです。
紐ですから切っちゃえばそれで終わりですけど、
要するにわかりますよ、ということですよね。

関根
ちょっと話が戻るんですが、
以前、作品展の時に私が着けていたアクセサリーを
気に入ってくださった方がいて、
そういうのも出したらって言われたことがあるんです。
ーー
結びを使ったアクセサリーを作っておられたんですか。
関根
はい。その時は楽しかったので、たくさん作って、
他の文化的な展示、つまり古い結びを再現したものとかと
一緒に置いてたんですね。
 
関根
それで、次の年もう一回作品展をやるとなったときに
自分が好きな方向性はどこかで展示したい、
ただ、やっぱり気に入ってくださった方がいたから
アクセサリー作りもやろうということで
やってみたんですけど、なんともう2年目にして
アクセサリー作りがちょっと苦痛になったんです。
ーー
売れるかなって考えながら作ることがですか。
関根
いや、売れなくてもいいんですけど、
これが私の本当にしたいことだろうかということですね。
私は結びでこれをしたいんだろうかと。
ひたすらこれを作って売るということが嫌というよりも
こっちの方向じゃないなっていうのが
わかってきたんです。
 
多分京都の先生の影響が大きかったと思うんですけど、
古い文献を再現して、昔の人たちがどういうふうに
結びに触れ合ってきたかというのを体現しながら、
新しいものを作るっていうのが自分の方向性なのかなと。
ーー
見た目の装飾的な部分だけではなくて、
精神的な部分が先生にとってはすごく大事なんですね。
関根
そうですね。
「タカミムスヒ」と「カミムスヒ」という
古事記の最初に出てくる神様がいるんですけど、
そういうことも2年目の時は発信したくなって
書いてたんです。
すると、結びの神様がいるんだってことで
いろんな質問がくるんですよね(笑)。
ーー
それはなかなか大変そうです。
関根
はい。
わかる質問には答えてたんですけど、
結びと産霊の関係とか
その時は全く説明できなかったんですね。
結びの神様がいてご利益があるってことでもないだろうし
縁結びの神様も違うだろうし。
 
それですごく気になってしまって、
漢字の語源まで行かないとわからないかなと思って
白川静さんの甲骨文字についての本を読んだり、
実際に甲骨文字を習いに行ったり、
国学院大学のオープンカレッジに行って
折口信夫を研究している先生の講座を
受講したりもしました。
ーー
すごいですね。
関根
それでわかったんですが、
折口信夫も白川静さんも、すごく大事にしていたのが
万葉集なんです。
 
松の枝を結んで旅の無事を願ったりとか、
男女の愛情を結びで表したりとか。
万葉集の歌の中に紐が結構出てくるんですね。
 
古代の人たちが結びに対して
どういう風に思っていたかっていうのは
万葉集を知らなければわからないんじゃないかな
と思って、万葉考古学っていう講座に
行ってみたりとかもしました。
 
本当に手探り状態ですね。
 
(広がりながらつづきます)
第4回 結ばない国はない