結びの世界
担当・まつ
第3回 結びの図
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その後はどんな風に活動されていたんでしょうか。
- 関根
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2007年頃、折形デザイン研究所の山口信博さんという方が
よく新聞で取り上げられていたんですね。
当時、私は折形(おりがた)っていう包みの礼法にも
興味があって、山口先生は結びについても興味を
示されていたので、山口先生のところに行ったら
もう少し深いところがわかるかなという期待をして、
折形教室に通うようになったんです。
江戸時代に、日本で最初の包み結びの本を書いた
伊勢貞丈という人がいるんですが、
その人が書いた『包之記(つつみのき)』を
山口先生はずっと研究されていて、
結びについても、もっと深めたいので
結びの教室も一緒にやりながら
研究を進めましょうということでお話があったんです。
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そんな時代から結びの本があるんですね。
- 関根
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この『包結図説』というのが、最初の包み結びの本です。
それまではほとんど口伝ですね。
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よく残ってましたね。
- 関根
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はい。これは代々伝わる、その家の財産のようなもの
なんですね。
伊勢家と小笠原家は室町時代からの武家礼法の家なので、
小笠原家にももちろんあります。
内々に伝わってきたものをこうして本にして出版する
というのは、当時でも画期的なことでした。
これが出たことで、江戸後期から明治にかけて
結構結びの本が出るんです。
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図だけを見て結んでいくのはすごいですね。
- 関根
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最初は結びの図はなかなか読めないですね。
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先生はご覧になったらどうなってるかわかるんですか。
- 関根
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今はやっぱりだいぶわかります。
でも平面ですから裏は見えないわけです。
だから当時の人も裏は想像するしかなかったと思います。
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当時からいろんな結びがあったんですね。
- 関根
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貞丈は仕覆の結びについても若干書いています。
仕覆の紐は輪状になっていて、紐端がない丸い形ですから
どうやって結んだらいいか、
最初はわからないと思うんですけど、
ここから始めるよっていうのだけは書いてくれています。
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結び始めのところですね。
- 関根
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それからお花の結び方とかですね。
紐が輪で繋がってるから、結局辻褄があうわけです。
本当によくできていて、こういう花の図に関しては
結び方を載せています。
- 関根
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この結びは花びらの一片を引っ張るだけで
全部ほどけるんです。
要するに結ぶことだけではなくて、
ほどくところまで考えて結んでいます。
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よく考えられていますね。
- 関根
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ただ、全ての結びがすぐにほどける結びではなくて、
封じ結びという鍵のような役割をする結びもあります。
仕覆の場合は、茶入れに毒を盛られたりしないように
封じ結びをしていたわけですが、
文箱(ふばこ)という塗りの箱についても
大事な手紙を見られてはいけないということで
封じ結びが結構たくさん載っています。
大切なものに結びをつけて、
綺麗に飾って置いてあるんですけど、
実は鍵の役割も担っているということです。
紐ですから切っちゃえばそれで終わりですけど、
要するにわかりますよ、ということですよね。
- 関根
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ちょっと話が戻るんですが、
以前、作品展の時に私が着けていたアクセサリーを
気に入ってくださった方がいて、
そういうのも出したらって言われたことがあるんです。
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結びを使ったアクセサリーを作っておられたんですか。
- 関根
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はい。その時は楽しかったので、たくさん作って、
他の文化的な展示、つまり古い結びを再現したものとかと
一緒に置いてたんですね。
- 関根
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それで、次の年もう一回作品展をやるとなったときに
自分が好きな方向性はどこかで展示したい、
ただ、やっぱり気に入ってくださった方がいたから
アクセサリー作りもやろうということで
やってみたんですけど、なんともう2年目にして
アクセサリー作りがちょっと苦痛になったんです。
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売れるかなって考えながら作ることがですか。
- 関根
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いや、売れなくてもいいんですけど、
これが私の本当にしたいことだろうかということですね。
私は結びでこれをしたいんだろうかと。
ひたすらこれを作って売るということが嫌というよりも
こっちの方向じゃないなっていうのが
わかってきたんです。
多分京都の先生の影響が大きかったと思うんですけど、
古い文献を再現して、昔の人たちがどういうふうに
結びに触れ合ってきたかというのを体現しながら、
新しいものを作るっていうのが自分の方向性なのかなと。
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見た目の装飾的な部分だけではなくて、
精神的な部分が先生にとってはすごく大事なんですね。
- 関根
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そうですね。
「タカミムスヒ」と「カミムスヒ」という
古事記の最初に出てくる神様がいるんですけど、
そういうことも2年目の時は発信したくなって
書いてたんです。
すると、結びの神様がいるんだってことで
いろんな質問がくるんですよね(笑)。
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それはなかなか大変そうです。
- 関根
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はい。
わかる質問には答えてたんですけど、
結びと産霊の関係とか
その時は全く説明できなかったんですね。
結びの神様がいてご利益があるってことでもないだろうし
縁結びの神様も違うだろうし。
それですごく気になってしまって、
漢字の語源まで行かないとわからないかなと思って
白川静さんの甲骨文字についての本を読んだり、
実際に甲骨文字を習いに行ったり、
国学院大学のオープンカレッジに行って
折口信夫を研究している先生の講座を
受講したりもしました。
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すごいですね。
- 関根
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それでわかったんですが、
折口信夫も白川静さんも、すごく大事にしていたのが
万葉集なんです。
松の枝を結んで旅の無事を願ったりとか、
男女の愛情を結びで表したりとか。
万葉集の歌の中に紐が結構出てくるんですね。
古代の人たちが結びに対して
どういう風に思っていたかっていうのは
万葉集を知らなければわからないんじゃないかな
と思って、万葉考古学っていう講座に
行ってみたりとかもしました。
本当に手探り状態ですね。
(広がりながらつづきます)