- 潤子
-
愛犬に対してどう向き合うかを考えるのは、早い方が良くて。
のんびりはしていられない。
小型犬だと人の5倍くらい、大型犬だと7倍くらいの速さで
年を取るの。人間にとっての1日が1週間ね。
それだったら早く気づいてあげた方がいい。
犬の時間はキュッと詰まってるから。
- みき
- 食べ物ひと口とっても、キュッと凝縮されているし。
- 潤子
-
かける言葉もね。
だったらいい言葉をかけて、
いい環境で、一緒に暮らした方がいい。
- みき
-
犬にとって暮らしやすい環境と
人にとって暮らしやすい環境を
潤子さんが提案してるじゃない?
プロがちゃんと研究して、成果を提供してるってことよね。
- 潤子
- そう。
- みき
-
自分で試行錯誤をして見つけるのもいいかもしれないけど、
プロの意見を聞いて、より早くっていうのがポイントね。
- 潤子
-
犬の時計に合わせて考えたら、スピードは大切。
やっぱり時計は戻せないので。気づくタイミングが早くて
早く実行に移せたら、犬も人もどっちも幸せ。
- みき
-
それはわたしの仕事も一緒だね。きっと。
早くたのしくなるに越したことはない。
- 潤子
-
愛犬にとって安全安心な環境というのは、
結局、自分にとっても安全で安心なんだよね。
愛犬の足腰が弱くなったり、病が出てきたりした時、
あるいは予防のために住環境を整えていくと、
究極はね、私たちが年を取った時に安全な住まいになるの。
- みき
-
ああ、そうなんだ。
犬を飼ったら滑らない床にするってよく聞くけど
確かに人間も同じだね。
犬と人間は共有しやすいかもしれないけど
たとえばこれが、ライオンとかだったら
きっと難しいじゃない?
だから犬と人って一緒にいるのかな。一緒にいやすいのかな。
- 潤子
-
そう! たぶんお互いが不得手なところを補完しあってね。
古ければ7万年前、通説としては4万年前から
一緒に暮らしてるって言われてる。
- みき
- その間に、一緒にいられる環境を作ってきたのかな。
- 潤子
-
そうなの。今は科学的には証明されてないんだけど、
いずれされると信じていることがあって。
たぶんね、人間と犬って、お互いを必要とする欲求が
DNAに入っているんじゃないかって(笑)。
- みき
-
おおー!(笑)
たしかに、わたしは犬を飼っていないけど
ドコノコで写真を見るの、やめられないから。
その説、なくはないよ。
- 潤子
-
やったー(笑)。それが猫でも同じだけどね。
人間は、人間だけでは、きっと生きてはこられなかったな
と、わたしは信じていて。
だから、自分が普通に犬と共生しているのも、
ある意味、動物への恩返しでもあるかな。
- みき
- なるほどね。
- 潤子
-
動物に愛情を持つことは、イコール過保護じゃないの。
もともと家族だったんだから。
- みき
- そこ。そこって、誤解されやすくない? 逆の意味でも。
- 潤子
-
たとえば田舎でね、おばあちゃんがいて、犬が外にいてね。
いつも番犬をしています。
そこに愛情がないか、というとそんなことはないと思う。
- みき
- うん。うん。
- 潤子
-
スタイルが違うだけで、きっと愛情は固いと思う。
だからスタイルだけ見てると、
本当の関わりが見えなくなったりする。
人と犬、動物同士、敬意を持って
愛情に基づいた関わり方は、千差万別だから。
- みき
-
そういえば、この前たまたま見た雑誌でね
ニューヨークの犬の特集があって。
やっぱりニューヨークで暮らす犬は、
ニューヨークに合ったしつけをするんだ、と書いてあった。
人混みにびっくりしない、とか、電車に乗れるように、とか。
それを読んで、なるほどなって思った。
ニューヨークに住む犬と
オーストラリアの牧場で暮らす犬は、きっと違う。
- 潤子
-
そうなの。
理想とするスタイルをひとつに決めてしまうと、
無理が生じるの。
今の自分のライフスタイルの中で
変えられることをちょっと変える、あるいは
マインドを変えて接し方が変わってくると、
伝わる愛情は変わるから。
犬のためになることなのか、自分に無理がないのか、と
バランス良く考えられたら
わたしは今の日本では、充分な進歩なんじゃないかなって。
- みき
-
そこの見極めというか、飼い主に無理がなく
でも、飼い主ができることを少しずつ増やしながら、
犬にとっての幸せを探るために、
潤子さんが研究しているんだよね。
- 潤子
- そうそう。
- みき
-
わたしは、可能性がたくさんある方が
豊かな社会だと思うので、
たとえば、
お留守番させる時間がとても長い家族が犬と暮らしたい場合、
そのひとつの条件だけで、
無理ですね、じゃあだめですってなるよりは
どうしたらいいのか、何ならできるかって
専門家と一緒に考えられるような方向に
なればいいなって思う。
- 潤子
-
そうなの。
社会全体で見るとね、うまくバランスが取れるはずなの。
たとえば、そういう方が犬と一緒に生きたいと思った場合、
地域社会の中の動物として触れ合う機会ができるとか。
足りない力は誰かに協力をあおぐことができるような、
そんなオープンな社会になったらいいよね。
- みき
- そうか。たとえばマンション犬がいてもいいのか。
- 潤子
-
そう。そこにちゃんと、
その犬が幸せに過ごすことができるような環境や、
人への教育なんかがあるように。
愛情を搾取して終わり、ということじゃなくて。
動物同士の倫理観を持ってね。
やってもらったら、ちゃんと恩返しをするっていうのは
当然だから。
- みき
- そういう取り組みって、一般的?
- 潤子
- そうでもないね、たぶん。
- みき
- いい取り組みだと思うけどなあ。
- 潤子
-
社会全体に認めてもらうには、なかなか大変。
そのためのひとつの手段として
あえて過去にさかのぼって、
わたしたち人間が文明を築いていられるのは、
あのとき犬が助けてくれたからだ、っていうところを
解き明かしたいの。
人が犬に出会って始まったことを。
- みき
- それがオオカミを知ることにつながっている?
写真提供:潤子
- 潤子
- うん、オオカミが犬になった瞬間のことを知りたい。
- みき
- そこなんだ。
- 潤子
-
そうなの。
『人イヌに会う』という本がわたしのバイブルで。
コンラート・ローレンツの。鳥の刷り込み理論を発見した人。
- みき
- おおー。知ってる。
- 潤子
-
わたしは動物園に通ってるんだけど、
最初から認めてなんてくれなくて。
- みき
- あえて聞きますが、オオカミに、ですね?
- 潤子
-
そう。
1日中立ってる日が何日も続いて、
とにかく名前を呼んで、その子達をよく見ているうちに
わたしが行くと、目が合うようになったの。
その時ね、震えが止まらなかった。
あ、通じたっていうか。
ホモ・サピエンスの初期の人たちは、
この瞬間を味わったのかなあって。
怖さよりも感動が大きかったんじゃないかなって思ったの。
写真提供:潤子
- みき
- 聞いてて、わたしもちょっとふるえた。
- 潤子
-
オオカミから犬になった瞬間っていうのは、
ここかもしれないと思って。
で、人と一緒にいたのは、きっとどっちも弱かったから。
- みき
- 補い合う形でね。
- 潤子
-
一緒に狩りをする中で、言葉がなくても通じたの。
その方法が、目線。
私たちは白眼があるから
目が動くと黒目がどこを見ているかわかるでしょ。
イヌ科の生き物も同じことができるの。
でもね、これ、ほかの霊長類はできないの。
- みき
- え? そうなの?
- 潤子
-
すごいでしょ?
飼い主があっちを向いたら、愛犬も向くんだけど
当たり前のようにみなさんやってるんだけど
これ、犬しかできないの。
- みき
-
へえええ。
その話を、動物園のオオカミの前で聞きたい。
- 潤子
-
やりましょう。お友達を誘って、桜の頃に。
オオカミと桜ってすごくきれいよ。
(おわります。)