- 清水
- ここ社長室なの? いいね、重厚感がなくて(笑)。
あれは、「おれ、ゴリラ」じゃないですか。
私もあれ持ってる。めっちゃ、かわいがった。大事にした。
- 糸井
- え? あれ持ってたんですか?
あれを持ってるのはエリートですよ。
- 清水
- オッホッホッホッホ(笑)。
- 糸井
- いや、本当に(笑)。
チョコレートを買って抽選で当たるともらえたんだけど、
「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」というコピーがついてて、
当時は歌奴、今は圓歌に名前がかわった落語家が、
「おれ、ゴリラ。おれ、けいしん」って言ってたんです。
- 清水
- 江戸っ子(笑)。
- 糸井
- そのコピーを書いたのが、ぼくの憧れの人、土屋耕一さん。
そのコピーとそのプレゼントと、
全部がなんて面白いことをしているんだろうって、
そのゴリラはぼくの憧れのものだったんだけど、
これは当時、石坂浩二さんからもらったものなんだよ。
- 清水
- なんで? なんで石坂さん?
糸井さん、まだ学生だったでしょ?
- 糸井
- 二十歳ぐらいだったけど、もう仕事をしていて。
- 清水
- その頃の糸井さんの仕事って?
- 糸井
- コピーライター。養成講座から出て就職したばかりで‥‥。
ねえ、これって、逆にぼくがインタビューされてない?
- 清水
- でも知りたい(笑)。
- 糸井
- 小さい会社に入ったんだけど、たまたま少し大きめの
仕事が入って、やる人がいないのでぼくがやってたら、
なぜか石坂さんとは馬が合って面白がってもらえたんだ。
「原宿のあの交差点のところで」と言われて待っていると、
ポルシェのオープンカーに乗った石坂さんが現れて、
マンションに連れていってくれて、
ご飯を作ってくれたり、痛いと言えば按摩してくれたり。
- 清水
- なんでそんなにかわいがられたの?
- 糸井
- いい人なんだよ。ぼくが知っている中でも、
「いい人番付」の中に絶対いる人だよ。
そのときに家にゴリラを見つけて、
「あ、憧れの!」って言ったら、
「そんなに気に入っているなら持っていっていいよ」って。
当時、石坂さんは明治製菓のコマーシャルに出てたからね。
それでゴリラを抱いて帰ってきた。
- 清水
- 二十歳過ぎた人がぬいぐるみもらったんだ。
- 糸井
- ぬいぐるみは、なんか好きでさ。
ぼくには来世に残したいようなぬいぐるみがあるんですよ。
- 清水
- 意外とメルヘンっぽいというか女の子っぽいところ
ありますもんね、糸井さん。
- 糸井
- 女の子っぽいと言われていることを、
男もしちゃいけないのかな、という気持ちがある。
- 清水
- 今の風潮だ(笑)。
- 糸井
- 以前、「ダ・ヴィンチ」の編集長だった横里さんという人と
一緒に本を選ぶ仕事をやったんです、毎月ね。
その彼が、女の子が選ぶようなオシャレな本を選ぶんだよ。
「なんで選んだの?」って訊くと、「かわいいなと思って」。
- 清水
- 正直だね(笑)。
- 糸井
- その正直さがすごく気持ちいいわけ。
こうこうこういう理由でね、と説明が続くんだけど、
「なんか女の子っていいなと思って」って。
それを素直に言える横里さんを、
ぼくはすごく尊敬していて、
あのくらいのところまで行こうと思った。
- 清水
- ほう、そんな日があったんだ。
男の憧れとして、あのくらいまで行こうと(笑)。
- 糸井
- 今よりもうちょっと男だったのかもしれない。
‥‥すごいな。全部ぼくが訊かれてる。
- 清水
- 私、もともと聞きたいことがいっぱいあった。
いつも仕事で流れていっちゃうからね。
- 糸井
- じゃあ、ぼくのところに質問が来たら、
それはそれでしょうがないっていうか。
- 清水
- しょうがないとは何ですか(笑)。
- 糸井
- ぼくもね、清水さんには、
言ったり聞いたりしてみたかったのよ。
伸坊とも、「伸坊ってどうだったの?」という
あらたまった話はあんまりしてないしさ。
そういう典型の人が清水ミチコで、
アッコちゃんとは案外、人生の深淵を語ってるんだよ。
上原ひろみと共演したあとに足を痛めた話は知ってる?
- 清水
- 知らないです。なんで足なの?
- 糸井
- ペダル。普段使わないぐらいにガンガン踏むから。
結局、足の筋肉おかしくなっちゃった、みたいな。
カッコいいだろう?
- 清水
- カッコいい! やっぱり出ないね、素人に、
そのコメントは(笑)。
- 糸井
- すごいだろ? そんな話から、
同じことやってるとつまんないから、
こういうことを考えているだとか、
急に「あの本読んだ」みたいなことだとか。
ビジネスというより事業家として
戦略的に発想しているところがあるよね。
- 清水
- 意外。
- 糸井
- 例えばサッカーをやっている人は、
サッカー界をどうしていくか、チームをどう立て直すか、
考えるじゃないですか。そういうことが、
アッコちゃんの中にはずいぶんあるよね。
- 清水
- うんうん。とにかく汚れない人ですよね、矢野さんって。
石川さゆりさんと何回か共演されているけど、
『天城越え』みたいなのはやらないものね。
自分の世界じゃないものは、上手に身を離すというか。
- 糸井
- それはやっぱり、
中学生から1人で生きてきたところを持ってる人だから。
- 清水
- 中学のときに、宿題もしたし勉強もした、
あとは自分の世界に没頭して詩の世界に入るだけ、
という時間があったって本かなにかに書いてあった。
- 糸井
- そうだと思うよ。親と子がいつどう離れるかは
一番難しい問題だけど、アッコちゃんのところは
両方がもうわかってて離れた感じがする。
清水さんは大学では勉強したの?
- 清水
- うん。家政科だけど、料理は好きだったし、面白かった。
うちの田舎は短大や大学行く以上は、
教員免許を取るのが当たり前みたいな常識があったの。
だから、それを取るまではちゃんと勉強しましたね。
- 糸井
- ドロップアウトをしてないんですよね、つまりね。
- 清水
- うん、してないです。
親に心配かけるようなことはしていない。
- 糸井
- なのに、やってることは、ずーっと(笑)。
- 清水
- うちの両親は、森山良子さんの「ざわわ」をやめろやめろって。
「まあまあまあ、今年でもうやめますから」って言って、
すでに30年も。
- 糸井
- 森山良子さんを見るたびに、
清水ミチコを思い浮かべるように‥‥(笑)
- 清水
- なっちゃうじゃないか!(笑)。
- 清水
- 私のひいおじいちゃんは、
エイザブロウという名前なんだけど、
「嘘つきエイザ」って呼ばれてました。
普通は自分の名誉やお金のためだったりするのに、
自分の楽しみのためにだけ、呼吸するように嘘をついて。
昔のお坊さんはすごく地位が高かったんだけど、
「田中んちのじいちゃんが死んだから、すぐ行け」
って真顔で言うと、お坊さん、飛んで行くでしょう?
それを見て、1人ですっごい笑ってたんだって。
「飛んでった、飛んでった」って。
- 糸井
- 単純な嘘だね。
- 清水
- それを何回も繰り返して1人で笑ってたって人が、
私の祖先なの。
- 糸井
- おじいちゃんは嘘つきかもしれないけど、
「私」はいい子だったんですか?
- 清水
- いい子でもなく悪い子でもなく、
パッとしない子だった。でも、高校のときに、
糸井さんの「ヘンタイよいこ新聞」を読んだり、
『オールナイトニッポン』聞いたりして、
だんだんそういうお笑いの世界で‥‥
- 糸井
- パッとしていったわけ?
- 清水
- 自分の中ではね、パッとしていったけど、
ほかの人はみんな恋愛してる中で、
自分だけが「ビックリハウス」載ったとか、
ラジオで投稿読まれたとか、
幸せの度合いがちょっと違う感じだった。
- 糸井
- だけど、ラジオで選ばれたり、
「ビックリハウス」載ったりするのって、
実はけっこう難しいことで。
今、やれよと言われて、載る自信、ないよ。
それができちゃったわけでしょう?
- 清水
- そんなことばっかり考えてたからね、青春時代ずっと(笑)。
- 糸井
- ハガキ職人ですよね、いわば。
- 清水
- そうそう。ハガキ職人ってけっこう幸せというか、
夢がありましたよね。
- 糸井
- ぼくはね、そういうお笑いが絡むようなものはできなくて。
ポエムが読まれるとチョコレートがもらえるという
番組があったんだよ。誰かが当選したと聞いて、
ぼくもやってみたら、もらえたことがあったけど、
もし「ビックリハウス」だったら、無理だったと思う。
お笑いじゃない人だったから。二の線だったから。
- 清水
- 自分で言った(笑)。そして、社員が笑っている。
- 糸井
- 昔は二だったんだ。おかしいなあ、戻ろうかな。
<つづきます>