- 糸井
-
今年また永ちゃんをもっと好きになったんだ。
永ちゃんとはひょいと思い出して電話をかけあうんだけど、
お互いに、自分が持ってないものを持っている人扱いを
しているらしいんだ、向こうもね。
その永ちゃんから暮れに急に電話があって、
それは、うち(ほぼ日)で14、5年前に作った
『Say Hello!』を見たからなんだけど、
「今見たら、糸井、面白いことしてるねえ」って。
何年前の本だよ!って。
- 清水
- あははははは。すごいうれしいですね。少年っぽい。
- 糸井
-
「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、
俺にはそういう優しさが、ないのね」って。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
-
で、「それは違うよ。同じものを
こっちから見てるか、あっちから見てるかだけで、
俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」
「そうかな。うれしいよ、それは」って。
いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
-
ボスの役割をしているボスが、
ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
それをぼくは全部見ているので、あの世界では
もうトップ中のトップ、別格になっちゃったけど、
ああ、全然同じだな、相変わらずだなと思って、
また今年、じーっと見てようかなと。
- 清水
- 永ちゃんにあって糸井さんにないものは何だと思いますか。
- 糸井
- うーん‥‥量的に、責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それこそ、社長としても。
- 糸井
-
永ちゃんから学んでますよ。やれるかやれないかで、
やるべきだとなったときに、どのくらい本気になれるか、
遮二無二走れるか、そういうのは‥‥。でもね、
そこだけでいうと、そういう人はいっぱいいるからなあ。
あ! 生まれつき、ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルとがいるんだよ。
チンパンジーの戦争のドキュメンタリーというのがあって、
ボス争いがあるんだよ。
クーデター起こそうとして失敗したやつが
結局追い払われて、隣の山からずーっと様子を見てる。
- 清水
- かわいそう!
- 糸井
-
メスたちは、ボスのそばについて
「蚤取ります、蚤取りますよ」。
長老みたいなのも、
「この方が偉いのは、私にはよくわかっていた」(笑)。
そのボスっていうのを、
何で決めるんだろうって思わない?
喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩じゃないの? 喧嘩以外にあるの?
- 糸井
- 教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソ(笑)。

- 糸井
-
「俺はいずれ挑戦しますからね」
みたいな目でボスを見るところからまず始まって、
クーデター前には、「最近のおまえは目に余る!」なんて
ボスがやると、すごすごっと逃げたりを繰り返すわけ。
あるとき、「ちょっとは仲間もいるんですよね」と来て、
「いつまでもボスと呼んでると思ったら大間違いですよ」
とグッと迫って、なめた態度で「なあ、ネエちゃん」
と出ると、ボスが、「目にもの見せてやる!」って
バーンとかかっていく。
1回ふにゃふにゃっとなるんだけど、
追っかけっこになるんだよ。例えば川のそばに行くと、
石を拾って川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
で、ボスのほうも、バシャバシャ投げるんだよ。
- 清水
- 関係ないのに? すごいね。
- 糸井
-
木があると、枝をつかまえて、ざわわざわわ! やるのよ。
ボスも、ざわわざわわって。
- 清水
- 「ざわわ」やめてください(笑)。
- 糸井
-
ひっくり返ったり、水しぶきをあげたりして、
自分が嵐になるわけ。結局のところ、
それで、すごすごと負けたほうが引き下がるの。
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
- やろうと思ったらこれだけできるよという‥‥
- 糸井
-
パフォーマンス。それを見てからますます、
永ちゃんのステージを見てると、これはもうできない。
芸能の世界にだって、
大人数がひれ伏すようなチンパンジーたちはいるよ。
人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。
でも、やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
- 清水
-
ユーミンさんが何かのインタビューで、皮肉じゃなくて、
「どうして矢沢永吉さんは、毎日のようにやる
自分のパフォーマンスに飽きないのか知りたい」
と言ってらしたけど、どうなさってると思います?
- 糸井
-
「それは矢沢が真面目だから」
「矢沢、手は抜かない」
- 清水
- やめてもらっていいですか(笑)。
- 糸井
-
たぶん、そういうことだと思うよ。
手を抜いたらどうなるか、矢沢が矢沢じゃなくなる。
だから、手を抜けないんだよ。
矢沢は矢沢を全うするんですよ。

- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。さっき「責任」って言ったのはそういうことで、
それのちっちゃいやつはみんな持ってるわけです。
例えば清水さんの最初の武道館って、
大勢が集まりましたよね。あのときに、
「私がぐずぐずしてらんない」というのが
あったんじゃないですか。なくはないですよね?
- 清水
-
糸井さんが、「お客さんはけっこう1人でやる
清水ミチコを見たがっている」と言ってくれて、
そうかなと思って1人でやってみたら、
「あ、これ、いただいた」
という感じがして、快感でしたね。
- 糸井
-
すごかったでしょう?
やっぱり、ここを私がちゃんとしないといけない
みたいなのは、ちょっとずつはみんな持ってるんですよね。
- 清水
-
そうか。そういえばその武道館、
このあいだ森山良子さんと一緒にやったんですけど、
リハーサルスタジオに行って
うちのスタッフがエレベーターに乗ったら、
「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで、
めっちゃビックリしたって言ってた。
「3階だけど、言えない。押させられない‥‥」。
やっぱりいい人なんですね。そういう方なんですね。
- 糸井
-
そういう方なんです。
矢沢永吉としてできていると
みんなが思っているものを壊すのは、
自分であってはいけないという気持ちがあるというか。
ある意味では、分裂していると思うよ。
みんなが思っている矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れていると思う。
- 清水
- そうでしょうね。
- 糸井
-
イチローでも誰でも、みんなそうですよ。
とんでもない人たちは。
清水ミチコはどうなんですか?
- 清水
-
私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
- 糸井
-
プッて、自分で言ったことにふく人は、
そのままの人が多いね。
松本人志と清水ミチコ、その2人はふくね。
- 清水
- あ、そうか。幸せ(笑)。

- 糸井
-
それ興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては、ずっと下につこうと、
決意すらしていますね。
- 清水
- 下のほうが気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
-
すごい楽しいの、ボスザルを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないのでね。
親しくすることもできるし、見上げることもできるし、
というのは、ありがたいことだよね。
- 清水
-
ちょいちょい電話がかかってくるという関係も
またいいですね。
- 糸井
-
ちょいちょいじゃなくて、何かの節目なんだよ。
何かで会う機会はあるんだけど、
これからアメリカに行くんだ、こうしようと思うんだ、
みたいなときにかかってくる。
それはずっと意識してるからだって
本人は説明するんだけど、謎だよね。
- 清水
- 普通にしゃべることはできます?
- 糸井
-
それは普通。俺は負けてる場所にいるから、も言えるし。
清水さんだって、
アッコちゃんと普通にやれるじゃないですか。
- 清水
-
いや、そうでもないです、やっぱり。
嫌われたくないというのが強過ぎて、よく噛む、本当に(笑)。
普段もっと面白いんですけどねえって思いながら
自分のお尻を叩くんですけどね、何も出てこない(笑)。
- 糸井
-
即席で、舞台をやるわけにもいかないか。
舞台を見せたことはあるんですか、矢野顕子に。
- 清水
- 見に来てくださったことはありましたね。
- 糸井
- ご飯食べながら舞台はやらないんですか。
- 清水
- ディナーショーみたいなこと? やらないよ。
- 糸井
-
ご飯作ってみんなで食べて、
じゃあ、やりますかって。(笑)
- 清水
- すごいね、その勇気。
- 糸井
-
矢野顕子はそれができる人だよ。
「じゃあピアノ弾くね」ができるよ。
- 清水
-
矢野さんがご飯を食べるようにピアノを弾くからね。
あと、しゃべりながら弾けるでしょう?
ものすごいよね。どうなっているんだろう。

- 糸井
-
あんなにプロでありながら惜しみなく歌ったりするのは、
矢野顕子さんと玉置浩二さんだよね。
- 清水
- あ、玉置さんもそう?
- 糸井
- 玉置浩二さんはもう、タダでいくらでも歌うね。
- 清水
-
私、ユーミンの歌を歌いながら
テレビ局の廊下歩いていたら、
その3度下を歌いながら玉置さんが近づいてきて、
めっちゃビックリした。途中でやめるのも変だし。
- 糸井
-
ハハハハ。素晴らしいエピソード。
たぶんそれ、外でもやると思うよ。
- 清水
-
たぶんね。歌バカ(笑)。
一番幸せでしょうね、そういう人。
<つづきます>
