もくじ
第1回二の線の男子学生と、三を目指した女子高生 2019-02-05-Tue
第2回矢野顕子にあって清水ミチコにないもの 2019-02-05-Tue
第3回永ちゃんにあって糸井重里にないもの 2019-02-05-Tue
第4回「誰もあんたにそんなこと望んでない」 2019-02-05-Tue
第5回いい気にならずにきた二人 2019-02-05-Tue

フリーで書籍の編集とライターをしています。陽気な母との暮らしを満喫中。シーズンごとに急に体を動かしたくなって、ランニングをしたりトレッキングに行ったりします。趣味は合唱。昔とった杵柄です。

今さらだけど、あらたまった話をしよう</br>清水ミチコ×糸井重里

今さらだけど、あらたまった話をしよう
清水ミチコ×糸井重里

第3回 永ちゃんにあって糸井重里にないもの

糸井
今年また永ちゃんをもっと好きになったんだ。
永ちゃんとはひょいと思い出して電話をかけあうんだけど、
お互いに、自分が持ってないものを持っている人扱いを
しているらしいんだ、向こうもね。
 
その永ちゃんから暮れに急に電話があって、
それは、うち(ほぼ日)で14、5年前に作った
『Say Hello!』を見たからなんだけど、
「今見たら、糸井、面白いことしてるねえ」って。
何年前の本だよ!って。 
清水
あははははは。すごいうれしいですね。少年っぽい。
糸井
「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、
俺にはそういう優しさが、ないのね」って。
清水
そんなことないですよね、きっと。
糸井
で、「それは違うよ。同じものを
こっちから見てるか、あっちから見てるかだけで、
俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」
「そうかな。うれしいよ、それは」って。
 
いいでしょ? 
清水
うん。
糸井
ボスの役割をしているボスが、
ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
それをぼくは全部見ているので、あの世界では
もうトップ中のトップ、別格になっちゃったけど、
ああ、全然同じだな、相変わらずだなと思って、
また今年、じーっと見てようかなと。
清水
永ちゃんにあって糸井さんにないものは何だと思いますか。
糸井
うーん‥‥量的に、責任感じゃないかな。
清水
へぇー。それこそ、社長としても。
糸井
永ちゃんから学んでますよ。やれるかやれないかで、
やるべきだとなったときに、どのくらい本気になれるか、
遮二無二走れるか、そういうのは‥‥。でもね、
そこだけでいうと、そういう人はいっぱいいるからなあ。
 
あ! 生まれつき、ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルとがいるんだよ。
 
チンパンジーの戦争のドキュメンタリーというのがあって、
ボス争いがあるんだよ。
クーデター起こそうとして失敗したやつが
結局追い払われて、隣の山からずーっと様子を見てる。
清水
かわいそう!
糸井
メスたちは、ボスのそばについて
「蚤取ります、蚤取りますよ」。
長老みたいなのも、
「この方が偉いのは、私にはよくわかっていた」(笑)。
 
そのボスっていうのを、
何で決めるんだろうって思わない?
喧嘩じゃないんだよ。
清水
喧嘩じゃないの? 喧嘩以外にあるの?
糸井
教えましょう。パフォーマンスなのよ。
清水
ウソ(笑)。

糸井
「俺はいずれ挑戦しますからね」
みたいな目でボスを見るところからまず始まって、
クーデター前には、「最近のおまえは目に余る!」なんて
ボスがやると、すごすごっと逃げたりを繰り返すわけ。
 
あるとき、「ちょっとは仲間もいるんですよね」と来て、
「いつまでもボスと呼んでると思ったら大間違いですよ」
とグッと迫って、なめた態度で「なあ、ネエちゃん」
と出ると、ボスが、「目にもの見せてやる!」って
バーンとかかっていく。
 
1回ふにゃふにゃっとなるんだけど、
追っかけっこになるんだよ。例えば川のそばに行くと、
石を拾って川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
で、ボスのほうも、バシャバシャ投げるんだよ。
清水
関係ないのに? すごいね。
糸井
木があると、枝をつかまえて、ざわわざわわ! やるのよ。
ボスも、ざわわざわわって。
清水
「ざわわ」やめてください(笑)。
糸井
ひっくり返ったり、水しぶきをあげたりして、
自分が嵐になるわけ。結局のところ、
それで、すごすごと負けたほうが引き下がるの。
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
清水
やろうと思ったらこれだけできるよという‥‥
糸井
パフォーマンス。それを見てからますます、
永ちゃんのステージを見てると、これはもうできない。
 
芸能の世界にだって、
大人数がひれ伏すようなチンパンジーたちはいるよ。
人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。
でも、やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。
清水
ユーミンさんが何かのインタビューで、皮肉じゃなくて、
「どうして矢沢永吉さんは、毎日のようにやる
自分のパフォーマンスに飽きないのか知りたい」
と言ってらしたけど、どうなさってると思います? 
糸井
「それは矢沢が真面目だから」
「矢沢、手は抜かない」
清水
やめてもらっていいですか(笑)。
糸井
たぶん、そういうことだと思うよ。
手を抜いたらどうなるか、矢沢が矢沢じゃなくなる。
だから、手を抜けないんだよ。
矢沢は矢沢を全うするんですよ。

清水
そうか。それはみんなのためでもあるし。
糸井
うん。さっき「責任」って言ったのはそういうことで、
それのちっちゃいやつはみんな持ってるわけです。
 
例えば清水さんの最初の武道館って、
大勢が集まりましたよね。あのときに、
「私がぐずぐずしてらんない」というのが
あったんじゃないですか。なくはないですよね?
清水
糸井さんが、「お客さんはけっこう1人でやる
清水ミチコを見たがっている」と言ってくれて、
そうかなと思って1人でやってみたら、
「あ、これ、いただいた」
という感じがして、快感でしたね。
糸井
すごかったでしょう?
やっぱり、ここを私がちゃんとしないといけない
みたいなのは、ちょっとずつはみんな持ってるんですよね。
清水
そうか。そういえばその武道館、
このあいだ森山良子さんと一緒にやったんですけど、
リハーサルスタジオに行って
うちのスタッフがエレベーターに乗ったら、
「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで、
めっちゃビックリしたって言ってた。
「3階だけど、言えない。押させられない‥‥」。
やっぱりいい人なんですね。そういう方なんですね。
糸井
そういう方なんです。
矢沢永吉としてできていると
みんなが思っているものを壊すのは、
自分であってはいけないという気持ちがあるというか。
ある意味では、分裂していると思うよ。
みんなが思っている矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れていると思う。
清水
そうでしょうね。
糸井
イチローでも誰でも、みんなそうですよ。
とんでもない人たちは。
 
清水ミチコはどうなんですか?
清水
私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
糸井
プッて、自分で言ったことにふく人は、
そのままの人が多いね。
松本人志と清水ミチコ、その2人はふくね。
清水
あ、そうか。幸せ(笑)。

糸井
それ興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては、ずっと下につこうと、
決意すらしていますね。
清水
下のほうが気持ちいいんでしょうね。
糸井
すごい楽しいの、ボスザルを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないのでね。
親しくすることもできるし、見上げることもできるし、
というのは、ありがたいことだよね。
清水
ちょいちょい電話がかかってくるという関係も
またいいですね。
糸井
ちょいちょいじゃなくて、何かの節目なんだよ。
何かで会う機会はあるんだけど、
これからアメリカに行くんだ、こうしようと思うんだ、
みたいなときにかかってくる。
それはずっと意識してるからだって
本人は説明するんだけど、謎だよね。
清水
普通にしゃべることはできます? 
糸井
それは普通。俺は負けてる場所にいるから、も言えるし。
 
清水さんだって、
アッコちゃんと普通にやれるじゃないですか。
清水
いや、そうでもないです、やっぱり。
嫌われたくないというのが強過ぎて、よく噛む、本当に(笑)。
普段もっと面白いんですけどねえって思いながら
自分のお尻を叩くんですけどね、何も出てこない(笑)。
糸井
即席で、舞台をやるわけにもいかないか。
舞台を見せたことはあるんですか、矢野顕子に。
清水
見に来てくださったことはありましたね。
糸井
ご飯食べながら舞台はやらないんですか。
清水
ディナーショーみたいなこと? やらないよ。
糸井
ご飯作ってみんなで食べて、
じゃあ、やりますかって。(笑)
清水
すごいね、その勇気。
糸井
矢野顕子はそれができる人だよ。
「じゃあピアノ弾くね」ができるよ。
清水
矢野さんがご飯を食べるようにピアノを弾くからね。
あと、しゃべりながら弾けるでしょう? 
ものすごいよね。どうなっているんだろう。

糸井
あんなにプロでありながら惜しみなく歌ったりするのは、
矢野顕子さんと玉置浩二さんだよね。
清水
あ、玉置さんもそう?
糸井
玉置浩二さんはもう、タダでいくらでも歌うね。
清水
私、ユーミンの歌を歌いながら
テレビ局の廊下歩いていたら、
その3度下を歌いながら玉置さんが近づいてきて、
めっちゃビックリした。途中でやめるのも変だし。
糸井
ハハハハ。素晴らしいエピソード。
たぶんそれ、外でもやると思うよ。
清水
たぶんね。歌バカ(笑)。
一番幸せでしょうね、そういう人。

<つづきます>

第4回 「誰もあんたにそんなこと望んでない」