- 清水
-
昔、和田誠さんが、「こういう失礼な人がいるんだよ」と
話してくれたんだけど、「イラストをお願いしたいんだけど、
三つ四つ描いてください。それをこっちが選びます」
という会社。そういうこと、言われたことありました?
- 糸井
-
頼まれ仕事っていうのは、根本はみんなそれですよね。
「どれがいいかな」って、勝手に三つばかり
出しちゃうケースだってあるわけだしさ。
あいだに代理店が挟まってれば、「じゃ、この3案の中から」
ってクライアントに言いたいし。
だから、自然にそうなってるケースは多いと思うね。
- 清水
- そうなんだ。
- 糸井
-
ぼくはなるべく「どれでもいいよ」って
いくつか渡すことはあったけど、
それはだいたい本気の仕事じゃないときだね。
本気のときは、「これがいいから」と1本出して、
「どうしてもダメだったときにはこれがあるけど、
これはこういうところがダメだから」としていたかな。
でも、舞台の芸と違って、消しゴム使えたり、
引っ込めたりできるから、全然種類が違うよね。
舞台は今似てなかったら、おしまいだもんね。
- 清水
-
うん、おしまい。
「似てなかったと顔に出すんじゃない!」
って自分に注意したり。
- 糸井
- どうして声が似るの、と訊かれたことはある?
- 清水
- ない。どうしてだろう?
- 糸井
-
おかしいよね、声が似るってさ。
しゃべりの癖が似る、はできるよ。
ここがこうなんだな、と再現してるわけでしょ?
耳コピしてるわけでしょ?
- 清水
- そうそうそう。
- 糸井
-
それはできても、声の質まで。
だってユーミンと矢野顕子、似てないじゃん。
どうして「私」が挟まると、似ちゃう?
- 清水
-
たぶん、私1人でユーミンさんのモノマネして、
矢野さんのモノマネして、というなら
似てると錯覚するけど、
本物のユーミンさんが来て一緒に歌ったら、
全然違うってわかると思いますよ、たぶん。
- 糸井
- 矢野顕子とは、やってますよね。
- 清水
-
‥‥ユーミンさんとやったときも、
ちょっと似てるなと思った(笑)。
- 糸井
- 改めて自分で考えたことはない?

- 清水
-
モノマネしてる人ってみんなそうだけど、
10代のときに影響を受けた人止まりで、
30代、40代超えてから増えたレパートリーというのは
歌手ではもうほとんど。
- 糸井
-
ということは、
今流行ってる誰かのマネしなさいって言われても、
その誰かの声がそんなによく聞こえないんだね。
- 清水
- そうですね。よくわかりますね。
- 糸井
-
絵描きさんは、水の中に氷が浮かんでます、
というスケッチが描けるじゃないですか。
それは見えているから描けるわけですよね。
でも、ぼくらには解像度が低くて水の中の氷が
見えてないんですよ。だから、描きようがない。
- 清水
-
確かにそう。安室奈美恵さんがやめるっていうときに、
号泣する人たちの気持ちに1回なろうと思ったんだけど、
やっぱりなれない(笑)。
そこまでの感受性がないんですよね、この年になると。
- 糸井
-
号泣した世代に清水ミチコがいたら、
安室奈美恵のコピーができているんだろうね、きっと。
絵描きが見ている世界は違うものが見えてるんだよ、
というのと、おそらく同じなんだろうなと思いながら、
今日、清水ミチコさんに会って、初めて、
あ、できないんだ、って。
- 清水
- 聞こえ悪いな(笑)。でも確かに。
- 糸井
-
モノマネの人ってけっこう難しくてさ、
大ヒットが出たあとは、
その人と共に消えるじゃないですか。
でも、あなたの場合は、
なんやかんやいって編集し直すというか。
それで武道館ができちゃうんだから。
- 清水
-
本当だね。
私の好きな桃井さんとか矢野さんとかユーミンさんの
世代のキャラクターが強いっていうのもありますよね。
みんなが知ってるし。
- 糸井
-
お客の好き度も濃いんだね。
「またユーミンやって!」って言って来るわけだもんね。
- 清水
-
そうですね。私の心を込めた歌はいいから、
「ユーミンやって」。

- 糸井
- 心を込めた歌のほうに行き過ぎないで、よく留まってます。
- 清水
- 1回そういうのを嫌味にやってみようかな。
- 糸井
-
それはさ、みうらじゅんのバンド演奏を聞くときと
同じになるよ。
歌ってやっぱりリスクが高くてさ、人を二の線にするよね。
客呼ばないと単にカラオケで済むんだけど、客呼ぶと、
「え? そんなやつだったのか!」
- 清水
- 「あんた、二だったの?」(笑)
- 糸井
-
清水さんに大昔にさ、
ぼくが筋トレに前のめりになってたときに、
ジムで筋肉のついた胸板を突き出して
「ほら、ほら」と言ったら、
「誰もあんたにそんなこと望んでない」。
- 清水
- ひどいねえ。言いそう(笑)。
- 糸井
- その一言が、なんて当たってるんだろう、と思って。
- 清水
-
ちょうどその頃ね、同じこと言われた。
「これ食べたら太るかな」って内山(信二)君に言ったら、
「清水さんが太って困る人、どこにいるんですか」
と言われて、しまった、自分だけがこう、美に関して‥‥

- 糸井
-
実は感動したんですよ。
あれをどうしてみんな気づかないんだ!って(笑)。
- ――
-
あれを親しい人にもちゃんと言えるのは、
ある種のプロデュースでもあるなと思いました。
- 清水
- 本当?(笑)
- 糸井
-
清水さん、その後、トレーニングしてるもんね。
何か理由があって始めたんですか?
誰もそんなこと望んでないのに(笑)。
- 清水
-
単なる体力維持。
あと、意外とストレス発散になることがよくわかった。
糸井さん、なんでやめたのかなと思って。
- 糸井
-
やっぱり、社長業になったからだよ。
ずっと気は休まらないよね。やっぱり嫌なものだよ。
- 清水
-
えぇー。私、今日、最終的に聞きたいと思ったのは、
糸井さん、死にたくないだろうなってことなの。
- 糸井
-
ん? 死にたくない? 死にたくないよ、そりゃ。
まあ、死んだらしょうがないとも思うけど。
- 清水
-
私のイメージの中では、貧乏生活もしてきた子が、
孤独とか知りながら、いつの間にか70人超える大会社の
社長になってたわけじゃない?
そういう人が一番怖いのは、
やっぱり健康じゃなくなることとか、
死ぬことかなって思ったの。
- 糸井
-
それはべつに怖いとかじゃなくて、
さっきの永ちゃんのちっちゃいサイズ、
つまり責任があるんだよ。それだけのことだよ。
- 清水
- 「もうやめたい!」ってならない?
- 糸井
-
「やめたい」って言っちゃいけないじゃん。
「私」がモノマネをやめたいと思う必要がないわけだよね。
でも、あなたのおかげで生活できてる扶養家族がいるよね。
清水ミチコ事業という体系があるわけだから。
「私は倒れちゃいけない」ぐらいは思ってるでしょう?
- 清水
-
本番で倒れちゃいけないとは思うけど、
スタンスは、糸井さんとは全然違います。
- 糸井
-
そうか。でも、色、形、大きさは違うけども、
大人になったらみんなあるわけですよね。
「みなさん、お元気ですか」と言ったら、
「元気でーす!」と返ってくるのが、
まんざらでもないところがあるじゃないですか。
もはや、「元気でーす!」の声も含めてぼくですから。
だから、やれるうちはやろう。
ただもう引退の準備しながら一生懸命やってる状況ですよ。
しがみつく人になったらやっぱり悪いからさ。
- 清水
- 次の世代に?
- 糸井
-
うん。得意で社長業やってるわけじゃないから。
もっと得意な人がやったほうがいいのかもしれないし。
- 清水
- 100万円あげたりとかして?
- 糸井
- すかさず入れたね、時事ネタを。
- 清水
- 時事ネタ、入れますよ(笑)。
<つづきます>
