- 糸井
-
松本人志さんが共通一次形式の
お笑いのテストを作ったことがあったんですよ。
ぼくもやったんだけど、ちっとも面白くないの、自分が。
中でもくっきり覚えているのは、
「6Bを超える一番濃い鉛筆は何ですか」。
- 清水
- いい質問ですね。なんて書きました?
- 糸井
-
提出するわけでもないのに、
できないよ、俺、できない、みたいになっているわけ。
あとで見たら模範解答が、「鬼B」。
- 清水
- あははは。なんか悔しい。
- 糸井
- 悔しいだろう?
- 清水
-
バカリズムさんが、
謎かけができない人の気持ちがわからないって
言ってたけど、あるんでしょうね、きっと個性が。
- 糸井
-
『IPPON』みたいな番組があるじゃないですか。
めちゃくちゃ面白いじゃないですか。
あれどうですか、清水さん。もしゲストで呼ばれたら。
- 清水
- 全然無理です。
- 糸井
-
矢野顕子が、意外とうまいんだよな。
お笑いに行くんじゃなくて、
ちょうどいいのを書くんだよね。
- 清水
-
ツイッターでね。ちょうどいいですよね、
狙ってない感じで。
- 糸井
- 清水さんはできないですか。
- 清水
-
全然できない。
私の場合は、耳で聞いたことを自分なりに
「こういうふうに感じました」って提出すると、
多少違っててもおかしいと思ってもらえるんだろうね。
- 糸井
-
ああそうだ、明日清水さんに会うんだなと思って、
何か一つくらい自分から伝えたいと思って発見したのが、
「『私はこう感じています』ということを
清水さんはしているんだね」ということだった。
- 清水
- 本当? 当たってます(笑)。
- 糸井
-
なぜそういうことをお風呂に入りながら考えたかというと、
批評していないんだよ、全然。
- 清水
- あ、うれしい。

- 糸井
-
つまり、いいだの悪いだのは一つも言ってないんですよ。
たとえばある芸能人が、概ね強気なことを
言っているのはみんなが感じていることだけど、
「私には、あなたがすごく強気なことを言ってる人として
面白いなあと見られちゃってますよお!」と。
そうするとお客が、「見えてる、見えてる」って(笑)。
- 清水
- そうそうそう(笑)。共感するお客様が多いんでしょうね。
- 糸井
-
共感ですよね。ツッコみ過ぎないじゃないですか。
立ち直れないようなことしないじゃないですか。
モノマネだから、そういうふうに表現できるわけで、
文章で書いてもつまんないよね。
- 清水
- そうだと思います。
- 糸井
-
文章は文章で面白いんですよ。ぼく、清水さんの文章を
「みんな、このくらい書けるようになりなさい」
って言った覚えがありますよ。
「文章の修業したつもりのない人が
こんな文章を書けるということに、
もっとおののいてください」って。
- 清水
- わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
- ご本人は、文章は何だと思ってるの?
- 清水
-
ブログは、寝る前にその日1日のことを書くと
スッキリして寝られるので、
トイレみたいな感じですかね。排泄(笑)。
- 糸井
-
ほう。でも、何も思わないで生きていたら、
書く段になって書けないじゃないですか。
例えばアシスタントの子が気が利くなあって思ったから、
そのことが書けるわけじゃない? 思ってる分量は多いよね。
- 清水
-
きっと多いと思う。
高校のときにすでに自分の面白ノートというのがあって、
それの真面目なエッセイ欄を、
「今回も書きましたけど、どう? 読む?」
って回してもらって、読んでいる人が笑っていると、
すっごい幸せみたいな。
- 糸井
- 周りの人が面白がるみたいなのが原点。
- 清水
- そうですね。
- 糸井
-
それはなかったなあ。
漫画描いたりして回覧板的に回すみたいなことでしょう?
少しはしてるんです。してるんだけど‥‥
つかめなかった、お客さんを。
- 清水
- あはははは。芸人だったらダメな言葉だね。
- 糸井
-
せいぜい何人かで、女の子のほうが見てくれた。
男には案外ダメだった。男は認めるの得意じゃないね。
つい、勝ち負けを考えちゃうから。
- 清水
-
そうかもね。男って面白い男の人に
嫉妬するっていいますもんね、今でも。
- 糸井
-
学生時代、エレキを買って練習してるときに、
音楽もできない勉強もできない、
誰とも遊んでないようなやつが、
「ちょっと貸してみ?」と言って
タンタカタンタン、タンタカタンタン弾いて、
急にミッシェルを歌い始めたんですよ。
それを見て、何だったんだ、俺は、って思った。

- 清水
- あいつに俺、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
-
負けてるどころじゃなくて、登れない山のてっぺんで
あいつは逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- 価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
「基礎をしっかりしとけば何とでもなるんだから」
って親とか老人たちが言うから、ピアノ教室も行ったよ。
そういうことの延長線上に、ビートルズとか弾ける自分が
作られると思ったら大間違いで。
自分の守ってきた価値観の延長線上にある遠くの夢を、
今日の明日叶えちゃってる人を見ちゃうのは、
今の自分に影響与えてますね。
- 清水
-
そうか。自分は大したものじゃないんだって感じ。
確かに芸能には習うものじゃないものが
あるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。
- 糸井
-
でしょう?
清水さんは、もう一方ではピアノが弾けてるんですよね。
たけしさんがタップダンスしたがるみたいなものですよね。
あれができてるのが俺の基礎だって言ってますよね。
- 清水
- 違うような気がするんですけど(笑)。
- 糸井
-
つまり、そこにはたけしさんの作家性が入ってないからね。
たけしさんは、作家性というよりは芸のほうに
すごく興味があるから。
基礎が必要だというのと、やればいいんだよというのと、
自分ではどう思ってる?
今日の明日じゃ、弾き語りモノマネはできないよね。
- 清水
-
それは、10代の頃にすごい感銘を受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな。
頭おかしい(笑)。
- 糸井
- その心って大事かもね。その、何ていうの、不遜な(笑)。
- 清水
-
何という自信なんですかね。
でも、今でも練習してて、もうちょっと頑張ったら
なれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
基本ができていないだけで、もう少しやれば、とか、
そういう変な希望みたいなのがあるんですよね。
- 糸井
- 矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- あ、それは音感。
- 糸井
- 音感。指の動きとかではなくて。
- 清水
- 指ももちろん、ピアノの技術から音楽性から何から。
- 糸井
-
でも、同じ道で、振り向いたら後ろに清水がいた、
ぐらいのところにいるわけだ。
- 清水
- 矢野さんの? いない、いない。レベルが全然違う。
- 糸井
-
でも、遠くに見えるぐらいのところにはいるんじゃない?
ピアノ2台くっつけてやってたじゃないですか。
- 清水
-
あれも、矢野さんは一筆書きでササッと書いてるんだけど、
私は、どういう一筆書きだったかを
綿密にコピーしてコピーして頭の中に入れて、
さも今弾きましたみたいなふりをしているだけで。
やっぱりすぐわかりますよ。全然違う。

- 糸井
-
思えばそれも
「あなたのやってることはこう見えてますよ」だよね。
- 清水
- それだったらうれしいね。
- 糸井
-
そこには、尊敬が入ってる場合と、
そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
-
必ずウケるこの人っていう場合がね。
べつに桃井さんのこと強調してるわけでもないのに、
普通にやっててもすごいウケるのよね。
それと男の人がやる矢沢永吉さん。不思議ね、あれ。
- 糸井
-
幼稚園に行く子どものいるお母さんが、
自分の子どものハンカチに、クマとかウサギとか
目印に描くじゃない。それは、あの、パンダだね。
- 清水
- 何それ?
- 糸井
-
目印に描くだけなんだけど、ウサギは耳でわかるとして、
ネコとクマを描いても違いがわかんないじゃない。
でも、パンダは、超パンダじゃない。
永ちゃんって、超パンダなんだと思う。桃井かおりも。
- 清水
- あはははは。桃井さんも超パンダなんだ。
- 糸井
-
だってさ、永ちゃんの面白さって、
とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
-
あ、そう。面白さって二つあるけど。
笑うほうと深みのほうと。
- 糸井
-
結局それね、一つのものだよ。つまりね、永ちゃんね、
二の線じゃないんだよ、大もとは。
ひょうきんな子だったらしいんだ。
- 清水
- 昔? 『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
- 糸井
- だから、ちょっとかいつまんでいるんだよ、あの本は(笑)。
- 清水
- 書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
- 糸井
-
永ちゃんは、なんかね、
おかしい子なの、ひょうきんな子なの。
で、ひょうきんな子のレパートリーに
二の線も入ってるんだよ。だから、できるんです。
- 清水
- そうかな。永ちゃんを笑っても、平気?
- 糸井
-
いや、そこのところは、あまりに本物で、
「それ、おかしい?」って聞いてくるのも本物性だからで。
- 清水
- あはははは。
<つづきます>
