不幸になるような気がしない人
担当・コレット

第2回 責任感の強い、超パンダ
- 糸井
- このあいだ文章でも書いたんだけど、
エレキを買って練習してるとき、
まったく音楽もできなくて勉強も何もできないやつが
弾き始めちゃったのを見て、
何だったんだ、俺はって思った(笑)。
- 清水
- 俺、あいつに負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
- 負けてるどころじゃなくて、
登れない山をあいつは上で逆立ちしてると思った。
- 清水
- 価値観がもうひっくり返ったんだね。
- 糸井
- 親とか老人たちが、
「何でも基礎をしっかりしとけば何とでもなる」
って言うから一時はバイエルとか
習ってピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- そういうことの延長線上に自分も、
ビートルズとか弾けると思ったら大間違いで。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 自分が守ってた価値観の延長線上にある夢を
今日の明日叶えちゃってる人とか見ちゃうわけで、
あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
- そうか。
自分は大したものじゃないんだって感じ。
確かに芸能って習うものじゃないものは
あるかもしれないですね。
なぜかできるって人、多いですもんね。
- 糸井
- でしょう? で、もう一方では(清水さんは)
ピアノ弾けてるんですよね。
基礎が必要だっていうのと、やりゃいいんだよっていうのと、
自分ではどう思ってる?
- 清水
- どうなんだろう。
- 糸井
- 今日の明日じゃ
弾き語りモノマネはできないよね、
- 清水
- ああ、そうかもね。
それはやっぱり私が10代の頃にすごい感銘受けたから。
悔しかったんでしょうね。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。

- 糸井
- (笑)。
- 清水
- 頭おかしい(笑)。
- 糸井
- いやいやいや、いやいやいや、それは。
- 清水
- なんかできないっていうのがわかって。
- 糸井
- その心って大事かもね。
その、何ていうの、不遜な(笑)。
- 清水
- 何という自信なんですかね(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
- でも、今でも練習してもうちょっと頑張ったら
なれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
- 糸井
- ああ。
- 清水
- 基本ができてないだけで、もう少しやればとか
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
- 矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- あ、それは音感。
ピアノから何から、そうそう、音楽性。
- 糸井
- でも、同じ道で振り向いたら後ろに清水がいた、
ぐらいのとこにいるわけだ。
- 清水
- 矢野さん?
いない、いない、全然。
- 糸井
- それはいないの?
でも、遠くにいる(見える?)っていうぐらいには
いるんじゃない?
- 清水
- 矢野さんは一筆書きでササッと書いてるんだけど、
私は綿密にどういう一筆書きをやったかっていうのを
コピーしてコピーして頭の中に入れて、
さも今弾きましたみたいなふりをしてるだけで、
それはやっぱりすぐわかりますよ。全然違う。
- 糸井
- 思えばそれも
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。
それだったらうれしいね。
- 糸井
- 「こう見えてますよ」って。
で、そこには尊敬が入ってる場合と、
そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
- おいし過ぎる場合がね(笑)、
「必ずウケる、この人」っていうの。
別に桃井さんのこと強調してないんだけど、
普通にやっててもすごいウケるのよね。
あれと男の人がやる矢沢永吉さん。
- 糸井
- それは、子どものいるお母さんが
自分の子のハンカチに、動物を目印に描くじゃない。
でもネコとかクマと描いても何かわかんないけど、
パンダは、超パンダじゃない(笑)。
- 清水
- 何それ(笑)。
- 糸井
- で、永ちゃんって、超パンダなんだと思う。

- 清水
- ああ、なるほど。同じ動物界でも。
- 糸井
- 桃井かおりも(笑)。
- 清水
- 桃井さんも超パンダなんだ(笑)。
人が集まるしね。
- 糸井
- そう。
- 清水
- そうか。だから、おかしいのかな。
- 糸井
- だってさ、永ちゃんの面白さって、
とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
- 面白さって二つあるけど、
笑うほうと深みの。
- 糸井
- 結局それね、一つのものだよ。
- 清水
- あ、そう?
- 糸井
- 永ちゃんね、ひょうきんな子だったらしいんだ。
- 清水
- え、昔?『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
- 糸井
- ちょっとかいつまんでんだよ、あれは(笑)。
- 清水
- 書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
- 糸井
- 「それ、おかしい?」って聞きたくなるってところが、
あまりにも本物性で。
俺はね、今年また永ちゃん、
もっとものすごく好きになったんだけど、
暮れに急に電話があって14、5年前にうちで作った
『Say Hello!』っていう犬が生まれた本を今見て、
「いいよ。」って、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- (笑)。すごいうれしいですね。
- 糸井
- だから、どう言えばいいんだろう、
ボスの役割をして、ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
- 清水
- 永ちゃんにあって
糸井さんにないものっていうと何だと思いますか。
- 糸井
- うーん‥‥量的にものすごく多いんだけど、
責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それこそ、社長としても。
- 糸井
- ぼくは永ちゃんから学んでますよ。
どのくらい本気になれるかとか、
遮二無二走れるかとか、そういうのは‥‥
あ、生まれつきっていうか、
ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルといるんだよ。
- 清水
- そうか。成りあがり、そっちだったんだ(笑)。
- 糸井
- そうでもないサルが、
「ボス、すげえっすぅ!」みたいな(笑)。
前にチンパンジーのドキュメンタリーを見て、
その中でボス争いがあるんだよ。
どうやってボスを決めるんだろうって思わない?
喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩じゃないの?
- 糸井
- 教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソ(笑)。
- 糸井
- ボスと挑戦者が追っかけっこになって、
例えば川のそばに行くと、石とか持って
川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- 関係ないのに。
- 糸井
- ひっくり返ったり、水しぶきあげたり、
もう自分が嵐になるわけ。
で、結局のところ、
すごすごと負けたほうが引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
- じゃなくて、やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
- 糸井
- パフォーマンス(笑)。
で、それを見てからますます、
永ちゃんのステージとか見てると、
これは、もうできない。
大人数がひれ伏すような人たちは
芸能の世界にだっているけど、
やっぱり永ちゃんのボスザル感はすごいよね。
- 清水
- ユーミンさんが何かのインタビューで
どうして矢沢永吉さんは
毎日のようにやるパフォーマンスに飽きてないのか
本当に知りたいみたいなことをおっしゃってて。
どうなさってると思います?
- 糸井
- 「それは矢沢が真面目だから」。
(ちょっと真似をしながら)
- 清水
- やめてもらっていいですか(笑)。

- 糸井
- 手を抜けないんだよ、多分。
抜いたら矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
- みんなが思っている矢沢永吉を壊すのは
自分であってはいけないって気持ちがあるっていうか。
- 清水
- そうか。
- 糸井
- 分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れてると思うよ。とんでもない人たちは。
イチローでも何でもみんなそうですよ。
- 清水
- そうか、マウンドに出るときは。
- 糸井
- うん。清水ミチコはどうなんですか(笑)。
- 清水
- 私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。