もくじ
第1回「私が演じる誰か」を聴いて 2019-02-05-Tue
第2回私が矢野顕子になるはずだったのに 2019-02-05-Tue
第3回みんなと幸せの尺度が違った 2019-02-05-Tue
第4回糸井さん、死ぬの怖くない? 2019-02-05-Tue
第5回不幸になる気がしない 2019-02-05-Tue

88年生まれ。渋谷でライター・編集の仕事をしています。aikoのことが大好きです。

清水さんのモノマネは、批評をしていないよね

清水さんのモノマネは、批評をしていないよね

担当・フクオヨウコ

第2回 私が矢野顕子になるはずだったのに

糸井
なんで似せられるのかって、
改めて自分で考えたことはない?
清水
うーん…
でも、モノマネしてる人っていうのはみんなそうだけど、
私が真似するのは10代のときに影響を受けた人ばかりで、
30代、40代超えてから増えたレパートリーっていうと、
瀬戸内寂聴さんくらいで(笑)。
糸井
真矢みきさん。
清水
確かに(笑)。
でも、歌手ではもうほとんどいないかもしれない。
糸井
ということは、たとえば今、
西野カナさんのマネをしなさいって言われても、
西野カナさんの声っていうのはそんなによく聞こえないんだね。

清水
そうですね、よくわかりますね。
糸井
絵描きさんだとね、
「水の中に氷が浮かんでいるスケッチ」とか、
描けるじゃないですか。
それは、見えているから描けるわけですよね。
清水
うん。
糸井
でも、ぼくらにはその氷が、
浮かんでいるものが見えてないんですよ。
清水
そうね。
糸井
それは、解像度が低いってことですよ。
だから、描きようがない。
清水
本当に、確かにそう。
私も、安室奈美恵さんがやめるっていうときに、
号泣したりしている人たちの気持ちに1回なろうと思うんだけど、やっぱりなれなくて(笑)。
糸井
その世代の清水ミチコがいたら、
安室奈美恵さんやそのファンのコピーができてるんだろうね。
清水
うん、きっとそうだと思いますね。
糸井
それはさ、iPhoneのカメラが同じだなと思ってて。
普通、カメラのレンズってピカピカに磨かれていて
サイズも大きいじゃないですか。
 
だから、いい写真を撮るにはレンズが大事っていうんだけど、
iPhoneのカメラレンズってものすごく小さい。
それで、あんなにも綺麗な写真が撮れるのは、
頭もいいからなんです。
清水
解像するんだもんね。
糸井
うん。
それで、すごくよく写るわけですよ。
 
だから、「絵描きが見ている世界には
違うものが見えてるんだよ」っていうのと、
清水さんのモノマネはおそらく同じなんだろうなと
思っていたんだけど、今日、話を聞いて初めて、
「あ、できないんだ」って。
清水
なんか聞こえが悪いな(笑)。

糸井
(笑)
つまり、10代のとき夢中になった人だからできるってことは、
そのときは受け止める側の細胞、
清水さんの脳細胞がバッチバッチに‥‥
清水
そうそうそう。
昔は感受性が強くて、歌で泣いたりとかね、
一緒に喜んだりしてたのが、
もうこの年になると出てこないんですよね、
そういう歌手の人ってね。
糸井
脳がついていってない(笑)。
清水
うん、解像できない。
糸井
ちょっと話は変わるんだけど、
清水さんのやるモノマネみたいな芸って、
誰かに習ったり、ひたすら練習したりすれば、
できるようになる類のものじゃないよね。
清水
そうですね。
芸能は習ったからというより、
なぜかできるって人が多いですもんね。

糸井
でしょう?
昔、エレキを買って練習してたときに、
まったく音楽もできないし、勉強もできない同級生が、
タンタカタンタン、タンタカタンタンって
いきなり弾き始めちゃったのを見て、
一生懸命練習してた俺は何だったんだ、って思った(笑)。
清水
あいつに俺、負けてるんだって(笑)。
糸井
負けてるどころじゃなくて、
登れない山の上であいつは逆立ちしてるよと思った。
清水
価値観がひっくり返ったんだね。
糸井
そう。
大人たちが言う、
「基礎をしっかりしとけば、何とでもなるんだから」
って言葉を真に受けて、
俺、一時はバイエルとか習ったんだから。
ピアノ教室も行ったんだよ。
清水
(笑)
糸井
そういう、地道な努力を続けた先に、
ビートルズを弾ける自分が作られると思ったら大間違いで。
彼は「ちょっと貸してみ?」って言ったんですよ、ギターを。
で、急に「ミッシェル」を歌ったんですよ。
 
だから、何だろう、
自分が守ってた価値観の延長線上にあると思っていた夢を、
今日の明日で叶えちゃってる人がいるのを見ちゃったわけで。
あれは、今の自分にも影響を与えてますね。
清水
そうか、自分は大したものじゃないんだって感じなのかな。
糸井
うん。清水さんの場合、
モノマネは習ってできるようになったものじゃないけど、
その一方ではピアノも弾けてるんですよね。
その、基礎が必要だっていうのと、
とにかくやればいいんだよっていうの、
自分ではどういうふうに考えてる?
清水
どうなんだろう。
糸井
弾き語りモノマネは、今日の明日じゃできないよね。
清水
それはそうかもね。弾き語りのモノマネは、
やっぱり私が10代の頃にすごい感銘を受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」って(笑)。
糸井
(笑)
清水
頭おかしいよね(笑)。
糸井
いやいやいや。
でも、その心って大事かもね。ある意味、不遜な(笑)。

清水
何という自信なんですかね(笑)。
でも、今でも練習してて、もうちょっと頑張ったら
なれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
糸井
ああ。
清水
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、
そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
糸井
矢野顕子さんにあって清水ミチコにないものは何なの?
清水
あ、それは音感。
糸井
指の動きとかではなくて。
清水
指ももちろん。
ピアノから何から、音楽性ですね。
糸井
でも、たとえばアッコちゃんと同じ道を歩いているとして、
彼女が振り向いたら後ろには清水さんがいた、
ぐらいのとこにはいるわけだ。
清水
それはいない、全然レベルが違う。
糸井
でも、遠くに見えるっていうぐらいの距離にはいるんじゃない?
清水
いや、いないと思う。
糸井
だって、ピアノくっつけて一緒に歌ってたじゃないですか。
清水
あれも、たとえるなら矢野さんは
一筆書きでササッと書くように演奏しているんだけど、
私はそれを綿密に、
どういう一筆書きをやったかっていうのを
コピーして頭の中に入れて、
舞台上ではさも一筆書きしました、
みたいなふりをしてるだけで。
それはやっぱりすぐわかりますよ。
全然違うんです。

糸井
思えば、それもさっきの瀬戸内寂聴さんの真似を
するときと同じともいえるね。
「あなたのやってることはこう見えてますよ」
っていうことだよね。
清水
あ、そうですね(笑)。
それだったらうれしいですね。
第3回 みんなと幸せの尺度が違った