僕はもう、 この夫婦の関係っていうものが かわいそう過ぎて‥‥。 |
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関係がかわいそう? |
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奥さん、やっぱり 大切にしなきゃだめだなあって。 |
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あらー。 |
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へぇー。 |
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それ映画館出てすぐおっしゃってた。 |
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それから、どっかで、僕個人ですよ、 引き出しの、すみっこに、 ちょっと置いてあることがあって、 それが熊本さんとの友情の物語で ぴったり波長があいました。 自分の物語としては こちらのほうを中心に 見ていたかも知れません。 |
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一同 | ああ〜〜〜。 |
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ほ〜〜〜。 |
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そこの、むしろそこの 結びつきとかのほうが、 なんでしょうかね、この夫婦の、 僕の物差しから見たらもう かわいそうにしか見えないところ、 完全に飛び越えちゃって。 もう、友情みたいなところが‥‥。来た。 |
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友情のほうがまっすぐで同質で 同じとこに立ってるだけに ぶつかる瞬間もあるんだけど、 濃いんだよね。 |
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だって、幸江とふたりのなれそめのところ。 あんなね、あんなに好きで、 あれだけきちんと心入れ替えるという日。 |
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ああ、イサオがね。 |
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うん。あそこまでやった過去があるのに。 |
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非難なんですか、急に(笑)! |
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非難です。 |
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イサオを。反イサオ勢力。 |
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じゃあ、イサオをかばおうかな。 |
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何で二人が一緒になったかっていうと、 イサオのほうが惚れるんですよね。 |
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そうですね。 |
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で、惚れた時代の幸江さんっていうのは、 中学を出て、逃げるようにふるさとを捨てて 都会に出てきたあとに、 流れ流れて、とってもかなしいおしごとを 一人でしてる人になってるんですよね。 |
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身を持ち崩す。 |
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「アカシアの雨がやむとき」 のようなこころもちで‥‥ |
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落ちるところまで落ちましたって。 |
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そう。ねえ、死んでしまっても おかしくないような状況の中で、 惚れられるんですよね。 で、ある意味、命を掛けて イサオは幸江を救い出したんですよね。 |
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そうですね。 だからね、そこまでして一緒になったのに、 お膳ひっくり返してるじゃないですか。 その間にどういうグラデーションが あったのかっていうのが、本当‥‥、 あえて描かれていないんですけど。 |
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あえて何も描かれていないんですよ。 |
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でも、納得するとすれば、 男っていうものは そういうものなのかっていう。 |
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あっ!! それを言ったな!! |
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だめだよ、その台詞は。 |
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がーっ! |
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いや、スガノさん、 そうだと言いたいわけではなくて、 そう納得せざるを得ないところが ちょっと哀しいわけですよ。 そこになんか、どうしてもしょうがない 事情があったのかもしれないですけど、 でもそれは書かれてないから。 だから、その行間を読むとすれば、 男っていうのはそういうものなのかって 捉えちゃう‥‥。 |
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まあ、大変ねっ! |
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怒ってるよ。 |
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一時期、心を入れ替えても、やっぱり‥‥。 |
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というか、やっぱり事情が変わって、 抱えきれないんじゃないですか。 幸せが、手からこぼれてしまうというか。 |
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ああ。 |
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でも、自分でいっぱいいっぱいな人なのに、 それもなんとかしなくちゃいけなくて、 うわあっと、こう、 なってる状態なんじゃないかな。 |
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かばいますね。 |
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私はかばうよ! かばいますよ! |
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りかさんは、 惚れた側の立場として かばってますね。 |
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まぁね、それはわかるよ? だって一生覚えてるもん。 助けてもらったことは。 |
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じゃあ、そんなふうになっちゃっても やっぱりわかる? わかる、それ? |
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まあ、しょうがないんだろうなって。 |
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あはは‥‥。 |
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僕はだから、マスターですね。 |
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一同 | マスター! |
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マスター、すきー。 |
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もう! ラーメン屋のおっちゃんのことですね。 幸江さんに横恋慕してる不器用な男。 |
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でも、マスターは 落ちるまで落ちた私を救ってはくれないよ。 |
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そうなんですよね。 マスターはそこらへんのことも 分かってるんですよ。 |
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(笑)えええ、マスターがですか。 |
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えっ。マスターそこまでオトナ? |
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あ、ちょっと微妙か。 |
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だって、好きなあまりに 同じ名前のソープ嬢に 入れあげるようなタイプですよ。 |
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だめだよ。 |
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そうだね。あ、分かってんのは アパートの隣人の、 小春さんかな。 |
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不憫やなあって言ってる。 |
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カルーセル麻紀さん。 小春おばさん。 |
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あっ(笑)。 |
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ん? |
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「小春おばさん」。 |
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そういう曲がありますね。 |
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そうですね! |
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あっ、本当だ。 |
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また古いこと言っちゃいました。 |
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もう〜〜。 |
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隣に住んでるのが カルーセル麻紀さん演じる 小春おばさんなんです。 なにかとよくしてくれるんです。 |
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小春おばさんは理解者ですよね。 幸江とイサオの物語の 行間を埋められる人。 |
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埋められる。 |
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なぜこうあそこまで好きになったのに ちゃぶ台ひっくり返すまでに いたっているかという行間は、 みなさんには、わかるんですか。 |
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「だめなひと‥‥」って 寝顔に言えばいいのよ。 |
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なんだろう、今までの自分がだめだったって ことがあるからかもしれないけど、 幸せになる寸前症候群、 みたいなのってあるのよ。 |
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あるんですか。 |
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なんかあるらしいですよ。 |
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幸せになる直前に、 なんかポーンってひっくり返しちゃう人が。 |
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自ら? |
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自ら。もうすごい幸せになりそうになると、 今までの自分の負い目だったり 悲しいことだったり どうしよう、大丈夫かなみたいなのが 出てきて、ちゃぶ台をひっくり返す人。 |
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いますね。 |
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それは、ええと、本当に行動として ひっくり返すの? |
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行動としてそう。だめにしちゃうの、 自分で、その場を。 |
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よくなりすぎるのが 怖いみたいなことですか。 |
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うん。怖いの。もう、幸せになるのが怖い。 |
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なんじゃ、それは! |
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え〜〜。いるのよ〜。 |
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どういうことですか! |
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たしかに悲恋好きっていますよね。 |
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ああ、そうですね。 |
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悲しい恋に身をやつす自分が 一番モチベーションが高くて、 どきどきしていられるみたいな。 |
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そういう悲劇のヒロインみたいな。 そうですね。いますよね。 |
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だからもう、すごく。 |
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むむ。 |
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理解しがたいって顔で山下さんは イサオの写真をにらんでますよ。 |
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いや、悲恋が好きなんですよって 言われると、もうなんか 施しようがないじゃないですか。 |
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幸江が悲恋好きとはかぎらないと思うよ。 でも、施しようがないんですよ、 この物語は。受け入れるしかない。 |
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施さないで大丈夫です。 |
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だから、人間。 あ、人間やなあと、 わたしもあんたもみんな、 あほやなあと思うんです。 |
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だけど、ちゃんと映画も原作も 幸せへの道を示唆して終わりますよね。 それは、幸せになったとかっていう 結末では全然なくて。 |
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じゃないですけど、 「幸や不幸はもうどうでもいい」って。 |
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この人たちはこのままかもしれないけど。 |
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いいんです。 |
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それぞれだよという終わり方だよね。 |
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ですから、最後のエンドロールの、 その後まで必ず見てください! |
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あ、そうだ。 |
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あ、そうですね。 エンドロールの後に 物語がつづきます。 |
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そうだ、そうだ。 エンドロールで立ち上がって 帰っちゃだめです。 エンドロールの後まで全部見てくださいと。 |
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(つづきます) |
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2007-11-08-THU |
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