
文字のない世界
(浅生鴨)
朝の街を歩けば
黄色い砂埃に染まる空気と
回収されないゴミが
激しい渋滞とクラクションの音が
道の上を埋め尽くしている
いくら鳴らしても車は動かない
それでも人はクラクションを鳴らす
雑踏の向こうには読めない文字
それはただの模様
意味を持たない言葉
それは存在していないのと同じ
今、文字のない場所に僕はいる
見たものは見たままに
世界と僕との間にあった言葉が消えると
どんどん意味がむき出しになる
#12今日は、浅生鴨さんの詩です。
鴨さんが詩をかくなんて、知らなかった。
朝の街を歩けば
黄色い砂埃に染まる空気と
回収されないゴミが
激しい渋滞とクラクションの音が
道の上を埋め尽くしている
いくら鳴らしても車は動かない
それでも人はクラクションを鳴らす
雑踏の向こうには読めない文字
それはただの模様
意味を持たない言葉
それは存在していないのと同じ
今、文字のない場所に僕はいる
見たものは見たままに
世界と僕との間にあった言葉が消えると
どんどん意味がむき出しになる
かつて王様が詣でた寺院の足元には
数百年の歴史が震災に崩れ堕ちたままで
いつか誰かがもう一度
積み上げるのを待っているのだろうか
視線を上げれば、電線、電線、電線、電線
あまりにも多すぎて重すぎて
僕の目の前にまで垂れ下がる電線
ごった返す人々は
大きな荷物を背負ったまま
電線をくぐり抜けて行く
足元の瓦礫には目もくれずに
濃紺のダウンジャケット
真っ赤なクルタ
黒いネワリドレス
細かい刺繍のサリーはピンク
オレンジ色の袈裟を着たお坊さん
いたるところに大小の寺院
ちょっとした隙間に小さな仏像
赤く塗られた小さな仏像
品物を積み上げた店
金物と服と宝石と
杖とナイフとリュックサック
鶏がウロウロ
牛がのんびり
犬がゴロゴロ
人と人と人と人と人と人
荷物を積んだ自転車
人混みを走り抜けるバイク
カゴを担いだ老婆
土と砂利の道
砂煙が雑踏を隠し
頭上に黒い電線の走る街
素手で電線を張る工事人たち
足元には水たまり
黄土色の水たまり
明日につづきます。
2019-06-20-THU
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