
聖なる洞窟で。
(古賀史健)
ヒンドゥー教徒にとってのハレシ、
仏教徒にとってのマラティカ、
その聖地中の聖地ともいえる地下の洞窟に、
シャラドの案内で降りていく。
それだけ神聖な場所だからだろう、
写真撮影が禁止された洞窟は、
天井から無数のコウモリがぶら下がり、
キーキーキーキー不協和音のような声をあげている。
とにかく失礼があっちゃいけない。
神妙な面持ちで歩いていると、
突然シャラドが何事か大声で叫んだ。
「なんて言ったの?」
「神さまに『こんにちは!』って言ったんですよ」
それは敬虔な信徒が捧げる祈りというよりも、
神社であそぶ子どもが賽銭箱の前で
ガンガンガラガラ鈴を鳴らしている音に近い。
うん、ここでシャラドの話をしよう。
シャラドは日本で「ライくん」と呼ばれている。
おそらくは読みやすさ、
憶えてもらいやすさを優先して、
本人も「ライくん」を認め、それで通している。
日本のぼくらが知る「ライくん」は、
純真で、あかるくて、まっすぐで、穢れを知らない、
どこか聖人君子のような元留学生だ。
それはもちろん彼のパーソナリティなのだけど、
ネパールで毎日接するなか、
少しずつ知っていった「シャラド」は、
いたずら好きで、冗談も大好きで、
やんちゃで負けず嫌いな、
ちゃんとした喜怒哀楽をもった
いわば普通のネパール人青年でもある。
ぼくはその「普通の青年」としてのシャラドに、
深く感銘を受けた。
たしかに彼はすごい人だ。
すでにとんでもなくすごいし、
この先もっともっとおおきなことを、
やろうとしている。
そのための準備を進めている。
このコタン郡に生まれた彼が、
なんでもない「普通の青年」である彼が、
これだけのことを成し、
もっとおおきなことを成そうと前を向いている。
なんというかそれは、
普通の人間であるぼくらが
みんな持っているはずの可能性を、
教えてくれているように思えるのだ。
そうだよな、
そもそもYouMeスクールって
そういうことを教えるための場所なんだよな。