

ドローン、死す
(浅生鴨)
ネパールの山の上に建っている
ユメスクールを空撮したらきっとすてきな映像になる。
そう思った僕は、今回わざわざ
ドローンを持ってきたのに、問題が発生していた。
ドローンの操作に使うためのiPhoneを
カトマンズで盗られてしまったから、
もう一つの通信用のiPhoneを使うよりほかなくて、
でもこれはもうけっこう古いので、
バッテリーがあまり持たないのだ。
昨日、いちど軽く飛行は試したのだけれども、
いよいよ今日は本格的に
ドローンで撮影をするのに
そもそも僕はドローンを飛ばしたことがないから、
まずは説明書を読むところから始めないといけない。
これがもう今どきの機械なもんだから、
ネットでPDFを読んでねという仕組みになっていて、
通信状態の厳しいコタンの山上で、
まさかそんな苦行を強いられることに
なろうとは思ってもいなかったし、
これでずいぶんとバッテリーを消耗してしまった。
消耗したわりには、結局PDFは取り込めず
説明書が読めない。予想外の展開だ。
もともと僕は説明書は読まずに始める感覚派なので、
もう詳しいことはいいだろうと、
さっそくドローンをセットして飛ばすことにした。
説明書なんてめんどうくさい。
実際に飛ばしながら覚えればいいのだ。
今のドローンは本当によくできていて、扱いも簡単だ。
何度か飛ばしているうちに、
だんだんとやり方もわかってきたから、
いよいよ撮影に入ることにした。
ところが、寒さのせいもあってモニターに使うiPhoneが
すぐに電池切れになってしまい、あまり長く飛ばせない。
いや、目視で飛ばすことはできるのだけれども、
細かな設定ができなくなるので、
このままでは狙いどおりの撮影ができないのだ。
もちろん僕はこう見えて用意周到だから、
こんなこともあろうかと、
巨大なバッテリーを持って来ているし、
そのバッテリーがあれば
何度でもiPhoneを充電できるのだが、
そのバッテリーをホテルに忘れてきたから、
どうしようもない。詰めが甘いのです。
しかたなく、永田さんのモバイルバッテリーを借りて
電源の落ちてしまったiPhoneの充電を始めることにする。
ケーブルをつないで少し待っていると、
すぐにiPhoneが立ち上がったので、
僕はさっそくドローンのコントローラーに
取りつけようとした。
ところが永田さんが怒るのだ。
「まだですよ、まだ」
「だってもう立ち上がったじゃないですか」
「立ち上がっただけじゃダメです」
僕はすぐにでも飛ばしたいのに、永田さんは、
バッテリーのゲージが20%になるまでは
ドローンを飛ばしちゃダメだというのだ。
バッテリーにうるさい男なのだ。
ひどく怒られるから、僕はバッテリーのゲージが
20%になるまでじっと我慢したあと、
ようやくコントローラーにiPhoneをとりつけた。
「飛ばします」
いきなり飛び上がったドローンは遙か上空へと向かう。
何度か失敗もあったものの、空から撮られた学校の姿が
手元のiPhoneに映し出されると、ちょっと感動する。
「おおお、いいね」永田さんも感動しているっぽい。
僕はコントローラーを操作して、学校を中心に円を描く
ような撮影をするようにドローンの動きをセットした。
こうすれば、あとはドローンが勝手に動いて
最適な撮影をしてくれるのだ。
こういう撮影が自動的にできるのだから、
技術の進歩って本当にすごいなあと感心する。
ゆっくりと円弧を描きながら空中を滑っていくドローンを
僕たちは、ただじっと見ていた。
「ねえ、鴨さん」永田さんが声を出した。
「このまま行くとさ、あの電柱にちょうどぶつからない?」
「ああ、そうかも」
確かにドローンが飛んで行く方向にある高台の上から、
電柱が一本にょっきりと生えていた。
「ああ、ああ」永田さんが悲痛な声を上げた。
ガシャガシャン。
遠く離れたところに立っていた僕たちにも、
その音ははっきりと聞こえた。
ドローンは電柱に直撃したのだった。
墜落したドローンに向かって子供たちが一斉に走って行く。
僕は思わず大声を上げて笑い始めた。
いやあ、そんなことがあるんだなあ。
それは直径十センチほどの細い電柱で、
まさか数百メートルの範囲で円を描いているドローンが
ぶつかるとは思いもしなかった。
ドローンは完全に壊れていた。もう撮影の続行はできない。
それでも僕はホッとしていた。
ぶつかったのが電柱でよかったのだ。
もしも電線を切ってしまっていたら、そのせいで、
停電を引き起こしていたらと考えると、恐ろしい。
「まあ、墜落する瞬間までは撮れているし、
墜落シーンなんてめったに撮れない映像も撮れたから、
これはこれでいいんじゃないですかね」
壊れたドローンから回収した
映像を確認しながらそう言った僕を、
永田さんがちょっぴり哀れむような目で
見たような気がした。