糸井 |
そうすると、宮本さんの見ている
「いいチーム」っていうのは、
スーパー・スターは生まれないですね。 |
宮本 |
んー。 |
糸井 |
つまり、あいつに任せりゃ大丈夫、
ってほっとかれるようだと、
「ゼルダ」をつくるときには、
かえって困ると思うんです。
宮本さん、ピカソのDVD見ましたか?
紀伊国屋で出したDVDで、
ピカソが絵描いてるやつがあるんですよ。 |
宮本 |
見たことないな。 |
糸井 |
ピカソがどんどん絵を描いてくんですよ。
で、なんだ、ピカソって
手塚治虫みたいじゃん、
って思ったんだけど。
別にさ、僕ら、美術っていうと、
つい、あの、なんていうの?
基本になる軸から描いてって、
とかって思っちゃうじゃないですか。
違うんですよ。
手塚さんがアトムを描くように、
体とか描いてくんですよ。
ビュンビュン輪郭で。
で、そこをね、足してくとね、
いつの間にか最初に描いた
アウトラインがね、
別の場所に移動してたりするの。
描けた時には。
で、それをぜんぶ、
惜しげもなく全部さらけ出してるんです。 |
宮本 |
ああ、すごく見たい。 |
糸井 |
見たい? あ、じゃあとっとく。
あのね、あれでわかったのは、
天才の秘密とかいって、
彼の心とか頭の中に、
追求してはいけない
不可触なものがあるって、
思ってたら大間違いだってことなんです。
ぜんぶさらけ出してもピカソなんです(笑)。
あんなすごい人がああなんじゃさ、
クリエイティブでございます、
って言ってる人たちが、
「そっから先、俺に任せて」
っていうのって、
どうも怪しいなと(笑)。 |
宮本 |
うん。そういう人、
ある程度、1人の力で進んで行くような、
カリスマ的な人がいたとしてもね、
集団にはなれないんですよ。 |
糸井 |
そうだ。 |
 |
宮本 |
僕は「絵」の出身でしょう。
そこにたとえば、
「ゲームっていうのは
プログラマーが作るんですからね」
ってひとことプログラマーが言ったら?
「あんたひとりで何ができるんですか?」
ってプログラマーに言われてしまうと?
「はい、そのとおりです」って
へこむしかないですよね。
「何もできないです」って。 |
糸井 |
言われたことはない? |
宮本 |
ない、まだ(笑)。
これね、20年やっててね、ないんですよ。
いつか言われるかな? と思って。
「じゃ自分で作りなさいよ」って(笑)。 |
糸井 |
それは宮本さん、人徳だよ。 |
宮本 |
初めてゲームを作った頃にね、
「こんな学生みたいなやつを連れてきて、
こんなもんで物ができんのか?」
って言われことはあるよ。 |
糸井 |
どう思った?(笑) |
宮本 |
ホンマ、そう言われれば
学生みたいなもんやと
思いましたよ(笑)。 |
糸井 |
誰も専門じゃないわけだしね。 |
宮本 |
チームの中では、
そういうふうに言ってくれる人は
けっこう大事なんですよ。 |
糸井 |
そうとう素っ裸になりあってないと、
ダメですよね。
僕は前に、多少ゲームを
作った経験あるじゃないですか。
で、追い詰められてくとみんな、
自分の範囲っていうのを守りはじめる。
自分には秘密のダシの素があるみたいな、
そういうふうに閉じこもってくんですよ。
あれが困るわけですよ。
で、そういうチームにいると、
自分もそうなりますよね。 |
宮本 |
ウチ、踏みにじっていきますからね、
そういうの(笑)。
「ハイハイ」って言って、
「でも直して」って、
「とにかく直して」
っていう感じですよ(笑)。
潔いのかな?
その踏みにじり方が、けっこう(笑)。
けっこう傷ついたり
してると思うんですけどね。
けど、ホントに、踏みにじらないと……。 |
糸井 |
宮本さん自身も踏みにじられてるわけ? |
宮本 |
あんまり、僕はそう思ってないですね。
適当に無視されてる(笑)。
けど、デザイナーとかやっぱりほら、
描いた線を消されたり、
作ったものポイッて捨てられるんで、
そういうときは踏みにじられてる、
と思うでしょうね。 |
糸井 |
そこに、遠慮みたいなのは? |
 |
宮本 |
いや、ないですよ。
あ、ケアはしますよ。
作ってる人としてのケアはするから、
言葉を選んだりはしますけど、
基本的には作るものにとって
邪魔なときは外すし。 |
糸井 |
例えば、女の子のキャラクター
ひとつ作るのにも、
みんながどーもあの女の子の絵は
魅力ないなー、っていうことは、
いっくら描いた人がいいと思っても、
ありますよね(笑)。 |
宮本 |
あります。 |
糸井 |
そういうときのやりとりなんてさ、
遠慮してたら、
みんなが気に入らないものに
なりますよね。
でも、正解はないわけじゃないですか。 |
宮本 |
そういうケースなら、
いっぱいですね(笑)。 |
糸井 |
多々、だよね(笑)。
そういうこと、だらけ、ですよね。 |
宮本 |
うん。それはね、
自分が確信を持ってる、
正解だっていう
ネタがあるときは、強く言うけど、
それ以外は、ま、
よほどウエイトが高いものでなかったら、
「ま、いいやない?」って
説得しますね、周りを。 |
糸井 |
はー。 |
宮本 |
うん。 |
糸井 |
たとえばピクミンの姿なんていうのは、
絶対に気に入るまで描かなきゃ
ダメですよね。 |
宮本 |
はー、そう、ですねー。 |
糸井 |
案外軽く言うね(笑)。 |
宮本 |
あれも、最初はデザイナーから
抵抗があったんですよ、直す過程で。 |
糸井 |
へえ! |
宮本 |
それでも、成行きにまかせて
色々やってるとね、
そのうち、みんな好きになってきて、
直したものがそのデザイナーの
一番自然なデザインに見えてくる。 |
糸井 |
あれ、軸だものね。 |
宮本 |
子供のものに見えるのと、
大人が恥ずかしくないものとの線って、
微妙なとこですしね。微妙なとこで、
タッチを変えるだけでも
変わったりするので。
「ゼルダ」とかは、デザイナーの
個性にゆだねる部分が多いですね。
絵は、多分みんな「いやや」って
言うやろうなっていうところで
作ってますからね、今回はね。 |
糸井 |
織り込み済みだよね、それこそね(笑)。 |