伊賀の陶土を使って、土楽の職人さんが
手ろくろでひいて作った土鍋は、
使えば使うほど、煮えやすく丈夫な土鍋に育っていきます。
はじめてお使いになるかたは、
量産型の土鍋とは特徴や使い勝手が違うので、
とまどわれることも多いかもしれません。
そこで、土楽の四女・道歩さんに、
煮えやすくじょうぶに育つ使い方のコツや気をつけたいこと、
お使いのかたからよくいただく質問について、教えていただきました。

 

はじめにおかゆを炊くのはなぜ? 
おかゆのでんぷんで、素地の隙間や貫入をうめて、
水漏れをおさえること。
そして、熱にならすことが目的です。
目の粗い伊賀の陶土を使い、
職人さんが手ろくろで、土をひきのばしながら作った土鍋は、
機械の型押しで陶土をつぶして作る量産型の土鍋と異なり、
陶土に含まれていた空気をより多く保っています。
この空気があるおかげで、
直接、火があたっているところばかりでなく、
土鍋全体がゆっくりとあたたまり、
その結果、食材本来のうまみを引き出します。
また、空気は保温性が高いため、
一度、高温になると火からおろしても長時間さめません。

この土楽さんの土鍋で、
使いはじめにおかゆを炊く理由のひとつは、水漏れをおさえることです。
目の粗い素地の隙間や窯に入れて焼いたときにできる貫入やひびを、
おかゆのでんぷんでうめていきます。

でんぷんでめどめしないまま、水を入れて放置すると、
極端に例えれば、植木鉢のようなもので、水が素地に浸透し、しみ出します。

おかゆを炊くもうひとつの理由は、
熱にならして、よいひびや貫入を入れることです。
伊賀の陶土を使い、手ろくろで作った土鍋は、
熱したときに膨張し、さめたときに縮む特徴を持つため、
火にかけると、ひびや貫入が入ります。
細かいひびや貫入がいっぱい入ったほうが、
熱したときのエネルギーが分散し、
突然、大きな悪いひびが入ることを防いでくれます。

おかゆの炊き方

用意するもの
ごはん大さじ1と水
もしくは、お米大さじ1とお湯

土鍋にごはんと水を入れたら、
すぐにガスの火にかけます。
すぐに火にかけないと、
めどめしていない土鍋から
水が染み出てきますので注意してください。

ガスの火は弱火で、
土鍋全体をじっくりあたためる。

沸騰したらガスの火を強火にします。

木じゃくで、米つぶをつぶしながら
おかゆがのり状になるまで煮ます。

のり状になったら、
24〜48時間、おかゆを入れたまま、
のりをじっくり土鍋に浸透させて完了です。

裏技もあります。
時間がないときは、でんぷんでめどめができればよいので、
ごはんの代わりに、小麦粉や片栗粉を大さじ1を使います。
 

火にかけるとき、最初、弱火にするのはなぜ?
急激な温度変化に弱いためです。
伊賀の目が粗く空気を多く含む土鍋は、空気と素地の膨張率が異なるため、
突然、強い火にかけると、直接、強火が当たった部分の空気が先に膨張し、
大きなひびが入ることがあります。
また、火に当たるところに水がしみこんでいると、
水が沸騰する温度が、土鍋が膨張する温度よりも低いため、
水が先に沸騰して大きなひびが入る原因になります。
土鍋はかならずよく乾かしてから火にかけてください。

火にかけるときは、最初は弱火で。
土鍋全体があたたまってきたら、中火に。
そして、強火に‥‥と、少しずつ温度を上げて行ってください。
 

よいひびと、割れにつながる悪いひびの見分け方は?
ひびや貫入は、かならず入ります。
ひびにはよいひびと、悪いひびがあります。
伊賀の目の粗い、空気を多く含む土を使って
手ろくろで、土をひきのばしながらつくった土鍋は、
土のなかの空気が保たれています。
ここが、土楽さんの土鍋が量産型の土鍋と一番違うところです。
土鍋をまっぷたつにして、素地の断面を見てみました。





▲協力:三重県工業研究所窯業研究室 伊賀分室


土楽さんでは手作りの味わいをだいじにするため、
伊賀の粗い目の土を、均一化していません。
そのため素地に隙間が多いです。
また、伊賀は大昔、琵琶湖があった場所で、
当時、有機物を多く含んでいた土は、多孔質と呼ばれ、
目に見えない小さなあながたくさんあいています。
土鍋に空気を含んでいることが料理をおいしくしている秘訣です。

量産型の土鍋は熱したときの膨張を防ぐ目的で、
陶土にペタライトという海外産のガラス質の石粉を混ぜて、
素地の隙間や多孔質だった陶土の目に見えない細かいあなをふさいでいます。

多孔質を保った土楽さんの土鍋は、土鍋に含まれる空気によって、
直接、火があたるところだけでなく、鍋全体がじっくりとあたたまり、
一度、高温になるとさめにくく、保温性が高いことが特長です。
また、表面が均一でないため、直火で肉を焼くときも、
肉が土鍋にぺたっとひっつくことなく美しく焼くことができます。
土楽さんでは、多孔質でなくなった土鍋は、土鍋のよさが失われていると考えて、
ペタライトは使わないそうです。

この土鍋に含まれる空気と、釉薬がかかっているところ、素地は、
熱したときの膨張率がそれぞれ異なるため、熱したときに膨張し、
ひびや貫入が入り、さめたときに縮む特徴があります。
使えば使うほど、ひびや貫入が入り、
煮えやすく、割れにくい、よい土鍋に育っていきます。


よいひびの例

蜘蛛の巣のように
ひびがはりめぐらされたもの。

土楽さんで3年ほど使った土鍋です。

横に1本、目立つひびがはいったもの。

使いはじめや、
熱になれていないときに入りやすいひびです。
このあと、どんどん使っていただいて、
ひびや貫入がたくさん入ってくると
段差がなくなって目立たなくなっていきますので、
ご安心ください。

横に1本ひびが入り、
釉薬が少しはがれたもの。

ひびができて、断層化して、縦にずれた場合、
釉薬の一部が小さくはがれることがあります。
釉薬が少しはげても、
ご使用にまったく問題ございませんので、ご安心ください。

目立つひびがないのに釉薬がとれたもの

土鍋が熱になれず、ひびがちゃんと入っていないうちに、
いきなり強火で熱したり、
汁気のない料理をしたときに
釉薬がはじけとんだあとです。
土鍋の素地に含まれ水分が加熱によって膨張し、
釉薬を押し上げたとき、
ひびが入ってないと逃げ道がないため、
逃げ場を求めて破裂したことでできます。
これができたときは、
どんどん使って、ひびを入れていってください。

悪いひびの例

土鍋のフチや取手まで
ひびが伸びているもの。

上から押すと、ひびの周囲がぎしぎしして
ずれる感じがわかります。
この状態になった土鍋は
火にかけて膨張すると
割れることがありますので、
ご使用にならないでください。

「ほぼ日の土鍋 ベア」シリーズの代表的なひびをご紹介しました。
本製品について、ひびのことや、使い方について不安なことがあるときは、
postman@1101.comまでお問い合わせください。
なお、土楽でつくっていない他の窯の製品については
お答えできませんので、あらかじめご了承ください。

 

火加減のこつは?
最初は弱火。
最初は弱火で、土鍋全体があたたまってから
中火→強火と強めていきます。

沸騰したら弱火にします。
保温性が高いため、一度沸騰すると、強火でも弱火でも、ぐつぐつと煮えます。

食材や出汁、水などを入れたときは、温度が下がるので、火を強くします。
出汁を足すときに、冷たいものではなく、あたためたものを使うと
煮立ちが早くなります。


食材を入れるときの注意

土鍋は温度差に弱いです。
そのため冷蔵庫から取り出したばかりの食材を直火で焼いたり、
カンカンに熱くなった土鍋に、冷たい出汁を注ぐと、
大きなひびが入ることがあります。
食材は常温に戻しておく、出汁や水は、常温のものか、
あたためたものをお使いください。


 

水漏れするときは?
おかゆを炊く。
または、でんぷんを使った料理をしてください。
よいひびや貫入が入れば入るほど、
煮えやすくじょうぶな土鍋に育っていく土鍋は、
使いはじめだけでなく、長くお使いいただく間にも、多少水漏れします。
水漏れが気になったときは、おかゆを炊いてめどめをするか、
雑炊、うどん、ラーメンなど、でんぷんを使った料理を作ってください。

釉薬のカケができて、水漏れが気になるときは、
カケた部分にごはんつぶをすりこんで、一晩乾かしてください。
ごはんつぶがノリの代わりになって水漏れを押さえてくれます。


 

カケてしまったときは?
修理はできません。
サンドペーパーでなめらかにしてください。
「フタや胴のフチがカケてしまったので、
 修理できませんか?」
というお問い合わせをよくいただきます。

陶器の修繕方法には、
金継ぎや陶器用のボンドを使う方法がありますが、
熱したときに膨張する特徴を持つ土鍋には使えません。

土鍋がカケて手にあたって痛いときは、
サンドペーパーでなめらかにします。

割れにつながる悪いひびが
入っていないことを確認します。

こまかい目のサンドペーパー
(1000、2000番)で、
カケた部分だけを、ゆっくりやさしくこすって
なめらかにします。

触れても痛くない状態になります。
これでだいじょうぶです。

お使いいただくうちに、目立っていたところも
次第に色がなじんでいきます。
また、フタの場合、直接、食材に触れませんので、
サンドペーパーでなめらかにした後、
炭を塗ると、カケた部分の白さが
目立たなくなります。
 

においがついてしまったときは?
お茶を使って消臭します。
お茶、もしくは、水と茶殻を入れて、
弱火から少しずつ加熱して10分くらい煮立てます。
お茶の成分がいやな匂いを吸収してくれます。
 

かびがはえてきたときは?
お茶や酢で殺菌します。
伊賀の土を使い、手ろくろで作った土鍋は
多孔質で素地のなかに水分が入りやすく、
かびがはえやすいです。
じめじめしているときは、
洗って乾かしても、
空気中の水分を吸収してかびることがあります。
かびがはえてもメンテナンスすれば、
問題なくお使いいただけます。

カビがはえるとこんな感じになります。

土鍋を洗ってカビを取り、
火があたる部分をよく拭いて
水気を取り除きます。

茶葉や茶殻、もしくは酢を水を入れて、
すぐに火にかけます。
(今回は番茶を使いました)
火加減は弱火です。
鍋全体があたたかくなったら中火にします。
(酢を使う場合、ベア1号は大さじ2〜3杯、
 ベア2号は大さじ1〜2杯です)

沸騰したら、弱火にして10分くらい煮立てます。

さっと洗います。

乾かします。
洗った後、まだ熱いコンロの上に置いておくと
よく乾きます。
 

こげがこびりついてしまったときは?
スプーンでやさしくこすります。
土鍋が乾いた状態で、スプーンで、こげているところだけを
釉薬をはがさないように気をつけながら、やさしく何度もこすります。

これがこげです。

スプーンでやさしく何度もこすります。
丁寧に時間をかけて行います。

さらにこすると、しっかり落ちます。

布でこすって洗えば完了です。

落ちにくいときは、
こげたところを水でふやかしてから
スプーンでこすってください。
動物性タンパク質のこげは、
レモンや酢を入れたぬるま湯に
しばらくつけておくと、とれやすくなります。

 

鍋しきを選ぶときの注意は?
たいへん高温になるため、
化繊やシリコン製のものは溶けることがあります。
土楽さんの土鍋は、たいへん熱くなり、
また、火からおろした後も高温が長時間続きます。
そのため、化繊やシリコン製の鍋しきを使うと、
それらが溶けて、土鍋に張りつくことがあります。
張りついてしまったときは、洗ってもとれないため、
ガスの炎で焼いて、焦げ落ちるのを待つしかないのですが、
ニオイが残りますし、気分のよいものではありません。

「ほぼ日」では、佐渡のおばあちゃんたちがつくる
わら鍋しきをおすすめしております。
そのほかにも、コルクや木製ものなど
高温で溶けない素材をお使いください。

ベアシリーズにぴったりの佐渡のわら鍋しきはこちら

 

土鍋のしまいかた
ほかのうつわや鍋と重ねないこと。
新聞紙がおすすめです。

ふだんしまうとき

フタと胴をじかに重ねると
キズの原因にもなるため、
新聞紙をフタと胴の間にはさみます。
フタをひっくり返して重ねると場所をとりません。
素材が異なるほかのうつわや鍋は
重ねないでください。


長期間、しまっておくとき。

完全に乾いたことを確認して、
まず、新聞紙でフタをくるみます。


フタを胴におさめます。

フタと胴をあわせて、くるみます。

しっかりくるんで、通気のよいところに
置いて保管してください。

このほかにも、土鍋をお使いになっていて
気になることや、おこまりになることがあれば、
お気軽にpostman@1101.comまでご連絡ください。
ひびやカケなどがある場合、
メールにお写真を添付してお送りくださると、
すぐに判断ができるのでたすかります。

2014-04-01-TUE