「ワイン用のコップがほしい」という声は、
前回、2011年の「コップ屋」展のころから、
高橋さんのところに届いていました。
「安いはずのワインがおいしくなる!」
「いちど使うと手放せない‥‥」
「ワインがどんどん好きになって、
いろんなワインを試したくなりました」
と評判の、高橋さんのつくるワイングラス。
遠心力と重力、そして空気のちからを使って、
あとから口を削ることなく仕上げることで、
その口当たりのよさは抜群、
なんともいえない気持ちよさを持っています。
(そのあたりのくわしいことは、
前回、プラハのシノさんが書いてくださいました。)
けれども高橋さんのワイングラスは
脚(ステム、というそうです)の部分が長く、
台(フット、あるいはベースというそうです)が小さく、
ボウル(あるいはカップ。ワインが入るところですね)が
大きい。そのため、とても繊細なものに見えます。
▲高橋さんの「赤ワイングラス」。
もちろんあらゆるガラスの容器は繊細です。
強化ガラスでもない限り、
落とせばかんたんに割れちゃいます。
そんななかにあって、高橋さんのガラスの器は、
印象として、とりわけ繊細(に思える)。
だから「今日はワインを楽しむぞ!」みたいな、
とっておきの場面では活躍しても、
「酔っぱらったら、洗うのも怖いし‥‥」と、
ふだん用としてテーブルに登場させづらい、
というひともいます。
ぼく(武井)も家飲みが好きなので、
その気持ち、よぉくわかります。
使いたいんだけど、酔って割っちゃったらつまらないし!
なんて、妙にケチになっちゃったり。
だから、ふだん安ワインを飲むのに使うかというと、
それがなかなかできない。
「もうちょっとちゃんとしたゴハンをつくったときに‥‥」
なんて考えてしまって、
もったいなくて使わないという、
「あたらしい傘状態(雨に濡れるから使いたくない)」
になっちゃってるんですね。
ほんと、もったいないのですけれど。
だから高橋さんファンの飲んべえたちは、
「高橋さんが、ワインのコップを
つくってくれたらいいのに」と思っていたのです。
気さくにつきあえて、あんまり肩ひじ張らずに使えて、
とびきりおいしくなって、しかも、かわいい、
そんなコップがあったらなあ‥‥と。
じつは、「高橋さんのワインのコップづくり」を、
けっこう強めに希望したものがいます。
「ほぼ日」のです。
九州男児の西本は、飲むならビールか焼酎。
居酒屋とビアホールが大好きな40代です。
ぼくがワインを飲んでいるのを見ると
「武井さん、また気取っちゃって!
おれはぜんぜんわかんないんスよ~!」
なんて言うような男だったのです。
それが、取材で撮影班として高橋さんのアトリエに同行し、
高橋さんのワイングラスでワインを飲んだとき、
ワインにめざめてしまいました。
「ワインって‥‥うまいっスね!
生まれて初めて、ワインがうまいって思いましたよ!」
と、大感激。
ちなみにその時に飲んだのは、
いわゆるコンビニワイン、1000円以下で手に入るもの。
そういうワインが、ちゃんとおいしくなるのが、
高橋さんのワイングラスのすごいところなのです。
(ちなみに、ビールも、高橋さんのビアグラスで飲むと、
すごくおいしくなっちゃいます。)
その後西本は、「どうやら赤ワインって、
アンチエイジングにもいいらしいですよ」
なんて調べたりして、ワインを自宅で飲むことを正当化
(主に奥さんに、だと思われます)、
市販の(工業製品的な)ワイングラスを買い、
赤ワインを飲むようになりました。
けれども「なにかが違う!」。
「武井さん‥‥なんだか、高橋さんのところで飲んだのと、
ずいぶん印象が違うんですよ。
温度ですかねえ、それとも注いだあと、もっと
空気に触れさせなくちゃいけないんですかねえ。
それともやっぱりブドウの品種とか年度とか、
ちゃんと調べないとダメなんスかねえ‥‥
勉強、きらいなんだよなぁ‥‥」
中年陸上部では西本がコーチですが、
こと食いしん坊界においては
こっちにちょっとだけアドバンテージがあります。
ぼくは鼻の穴をふくらませて言いました。
「にしもっちゃん、
それは、グラスがちがうのだよ。
高橋さんのワイングラスで飲むと、
安いワインも、おいしくなるのだよ!」
「でも、武井さん、やっぱりあのグラスは
ぼくにはちょっと敷居が高いですよ。
子供がうっかり割っちゃいそうじゃないですか。
あのくらいの“うまさ”が出る
コップがあったらいいのに‥‥
そう思いませんか?」
おお、また「ワインのコップがほしい」男が
ここにもひとり。そんな声をうけて、
ご自身も飲んべえでワインが大好きという高橋さんは、
じぶんも、みんなも満足するような
「ワインのコップ」を考えはじめたのでした。
(つづきます!) |
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