ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 八木澤商店 篇
セキュリテ被災地応援ファンドのこと 東日本大震災で被災した企業の姿から学ぶ 「東北の仕事論」シリーズ。 第3弾は、しばし「壊滅的」と表現される 岩手の陸前高田市で 二百年間つづく老舗の醸造業・八木澤商店です。 ご登場くださるのは、 震災後に新社長に就任された、河野通洋さん。 まずは、今年の5月初旬、 ぼくたちがはじめて陸前高田に お伺いしたときのようすを、プロローグとして。 そのあとに、 糸井重里とのあいだで交わされた濃い対談を 全4回として、お届けいたします。 陸前高田の若きリーダーが 仲間といっしょに描く、復興へのビジョンとは。 担当は「ほぼ日」奥野です。
前回の取材から、4ヶ月。
陸前高田の八木澤商店・河野通洋社長に
「その後の話」をうかがいました。
味噌醤油工場の再建へ向け、
一歩一歩、確実に歩みはじめた同社ですが
やはり、思うに任せないことも多々。
その「危機感」から新しい会社も設立した
河野さんが思い描く、
北欧型地域社会という将来ビジョン。
その根底には、
「アフリカを緑化したい」と思った
若き日の夢がありました。
第1回 なつかしい未来創造株式会社。
── 6月の末にお話をうかがった時点から
だいぶ、状況も変わったと思うのですが。
河野 そうですね。
── あのときはまだ「進行中」だった案件が
その後、けっこう進んだともお聞きしていて。
河野 はい。
── 今日は、
そのへんの話をうかがえたらと思います。

八木澤商店とその周辺は、
いま、どのような状況なのか‥‥という。
河野 えーと、どこから話したらいいか。
── あの、前回お会いしたときに
河野さん、
「絶対、仲間の会社は潰したくない」って
言ってたじゃないですか。
河野 はい、はい。
── あの言葉が、すごく印象に残っていて。

潰さないために、
つまり、陸前高田の若い人たちが
町の外に出ていっちゃうのを止めるために
「受け皿をつくらなければ」という‥‥。
河野 潰れませんでしたよ。
── おおー!
河野 陸前高田・大船渡の仲間で結成している
中小企業家同友会のうちでは
1社だけ廃業しましたが、
その他は、倒産を食い止めることができました。

‥‥もっとも、
個々の経営状況はかなり厳しいですけど。
── でも、すごいです。
河野 従業員を一時的に解雇した会社はありましたが、
その後、雇い戻したりしまして。

震災直後の「もうダメだ‥‥」からはじまって、
それぞれ再建の道を
なんとか、歩み出はじめているんです。
── 河野さんの「潰したくない」という言葉は
あの時点では、まだ
「いつかホントにしてやろうと思っているウソ」
だったかと思うんですけど。
河野 もちろん、ほとんどの会社は「債務超過」です。

店舗から工場から何から、
ぜんぶ、津波で流れちゃった人ばっかりなんで。
── そうですよね‥‥。
河野 ただ、陸前高田全体でみても
「地元高校の来春新卒者にたいする
 地元企業の求人」は
昨年に比べて「1.5倍」に、伸びてるんです。
── えっと、つまり震災前より?
河野 陸前高田の外からの新卒者も合わせた数字なら
「1.7倍」になります。
── ははー‥‥。

確実に「受け皿」は、つくられてるんですね。
ちゃんと実現してるのが、すごいです。
河野 ただし現実は、そうとう厳しいです。

お客さまも被災していますし、
金融機関からも、お金を借りられない状況。

潰れなかったとは言うものの、
これから
バタバタ倒産していく可能性は、高いです。
── そうですか‥‥。
河野 まぁ、さっきの求人倍率の話以外にも
人口流出や失業率が
低くとどめられているという「いいニュース」も
あるはあるんですけどね。
── 前進しはじめたけど、楽観はできないぞ、と。
河野 そうですね、それは。

ちなみに、八木澤商店のことで言うと
来春、合計3名の大学生・短大の新卒者に
内定を出すことができました。
── おお、それじゃあ
八木澤商店さんにも新入社員さんが!
河野 あははは、ええ、おかげさまで(笑)。
── ‥‥河野さん、嬉しそうですね。
河野 うん、はい、そりゃあ‥‥だって、
あの地域で生まれて
これからも
あの地域で生きていきたいという若者が
働く場所がないという理由で
外へ出ていかざるを得ない状況というのは
絶対に間違ってると思いますし。
── そうですよね。
河野 あとは‥‥そうそう、西日本の学生さんに
インターンシップで来てもらって‥‥
という話をしてたと思うんですけど、以前。
── はい、インターン期間中に
「陸前高田で
 1年以内に起こせる事業のビジョン」を
文章にまとめてもらって
これはいけそうだ、というアイディアがあったら
起業を支援するんだと。
河野 あれ、来年の4月に
陸前高田で会社を興しますっていうのが
ひとり出ましたよ。

広島大学の大学院生なんですが。
── ほんとですか! 具体的には、何をやるんですか?
河野 グリーンツーリズムの会社。
── グリーンツーリズムっていうと‥‥。
河野 まぁ、都市部の人が農村に長期滞在して、
土地の農業などを体験しつつ
のんびりと過ごす休日‥‥みたいなやつです。
── つまり、陸前高田を
グリーンツーリズムの「旅先」にする、と?
河野 ええ、震災後、陸前高田には
たくさんの人がやってきてくれていますが
交流人口が増えることって
われわれにとって
やはり、とても大事なことだと思うんです。

その流れを、きっちりツアー化しようと。
── はー‥‥広島の大学院生さんが。
河野 本人はいま、創業資金を獲得するために
いろんなコンペに
ビジネスプランを提出したり、
いろいろと奔走してるみたいですけどね。
── 4月、ですか。
河野 4月1日に来るって言い切りました。
── それは楽しみですね。
河野 あとは、そういったような
陸前高田での起業の動きを支援するために、
新しい会社もつくりまして。
── えーと、八木澤商店とは別に?
河野 そう、地域の復興のために
陸前高田で、起業家を育てていこうという
目的を持った会社です。

年間で数百人のインターン生を受け入れて、
陸前高田から
社会の役に立つ仕事をつくってもらう。
── へぇー‥‥。
河野 「いま、何とか手を打っておかないと
 これから中小企業がバタバタ倒産していって
 地域全体がダメになってしまう」
という危機感から、立ち上げた会社なんです。
── なるほど。
河野 3つくらいの仕事を同時に進められる、
優秀な女性を
東京からヘッドハンティングしてきたりして。
── その会社に、すでに?
河野 もう、引越しもすみました。
── 河野さんがその会社の社長になったんですか?
河野 いえ、私は専務です。
ヒゲの田村のオヤジ(田村滿さん)が、社長。
── やりたいことを達成していくスピード感‥‥
ほんと、すごいです。

ちなみに、
そういう会社って「何業」っていうんですか?
河野 インキュベーションカンパニー、と言います。

起業支援という意味なんですけど
これまでの行政サービスだけでは実現できない、
「新しい公共」という枠組みで
何かできないかなと、市とも相談しています。
── 新しい公共。
河野 スウェーデンのように
北欧型の「持続可能な社会」になったらいいなと
ぼくたち、思っていて。
── 陸前高田が。
河野 お年寄りが安心して暮らせる町であり‥‥。
── はい。
河野 同時に、日本でいちばん、起業家の生まれる町。
── 年配の人に優しくて、
同時に、若々しく、エネルギッシュな。
河野 そう、そんなふうにしたい。

計画では、10年の時限会社にする予定です。
陸前高田で多くの事業を生み出し、
若い経営者を育てて、自立させていく。

陸前高田の町を
本当に「質の高い持続可能な社会」に
つくり上げられたら
会社は、早期に消滅させる予定です。
── できるだけ早く辞めるというのは
やっぱり、大切なのは「スピード感」だから?
河野 われわれ、本業がありますんで。
── あ、そうですよね。
河野 その会社から
役員報酬がもらえるわけでもないですし、
私が別会社の専務を兼任してたら
うちの社員にも苦労かけちゃいますから。
── そうです‥‥よね。
河野 幹部会議で「別の会社の専務をやるわ」って
言ったら、大揉めに揉めまして(笑)。
── はー‥‥。
河野 泣かれましたから。
── あの、北欧型の社会を実現するにあたって、
具体的にはどういった活動を?
河野 たとえば、陸前高田の森林の間伐材を利用した
バイオエネルギーの開発。
── ええ、ええ。
河野 あるいは、コミュニティタクシーや
カーシェアリングのシステムを構築して
なるべく
車の乗り入れを少なくできるような仕組みを
提案したり。
── なるほど。
河野 オレたち「アホ」がよってたかって集まって
いろいろアイディアを出してこうと。
── ちなみに、その会社って何という‥‥。
河野 なつかしい未来創造株式会社、と言います。

<つづきます>
2011-12-27-TUE
   
 
 
第1回 なつかしい未来創造株式会社。 2011-12-27-TUE
第2回 北欧+味噌・醤油。 2011-12-28-WED
第3回 金融機関を動かせる会社に。 2011-12-29-THU
第4回 アフリカを緑化したい。 2011-12-30-FRI
 
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