── |
6月の末にお話をうかがった時点から
だいぶ、状況も変わったと思うのですが。
|
河野 |
そうですね。
|
|
── |
あのときはまだ「進行中」だった案件が
その後、けっこう進んだともお聞きしていて。
|
河野 |
はい。
|
── |
今日は、
そのへんの話をうかがえたらと思います。
八木澤商店とその周辺は、
いま、どのような状況なのか‥‥という。
|
河野 |
えーと、どこから話したらいいか。
|
── |
あの、前回お会いしたときに
河野さん、
「絶対、仲間の会社は潰したくない」って
言ってたじゃないですか。
|
河野 |
はい、はい。
|
── |
あの言葉が、すごく印象に残っていて。
潰さないために、
つまり、陸前高田の若い人たちが
町の外に出ていっちゃうのを止めるために
「受け皿をつくらなければ」という‥‥。
|
河野 |
潰れませんでしたよ。
|
|
── |
おおー!
|
河野 |
陸前高田・大船渡の仲間で結成している
中小企業家同友会のうちでは
1社だけ廃業しましたが、
その他は、倒産を食い止めることができました。
‥‥もっとも、
個々の経営状況はかなり厳しいですけど。
|
── |
でも、すごいです。
|
河野 |
従業員を一時的に解雇した会社はありましたが、
その後、雇い戻したりしまして。
震災直後の「もうダメだ‥‥」からはじまって、
それぞれ再建の道を
なんとか、歩み出はじめているんです。
|
── |
河野さんの「潰したくない」という言葉は
あの時点では、まだ
「いつかホントにしてやろうと思っているウソ」
だったかと思うんですけど。
|
河野 |
もちろん、ほとんどの会社は「債務超過」です。
店舗から工場から何から、
ぜんぶ、津波で流れちゃった人ばっかりなんで。
|
── |
そうですよね‥‥。
|
河野 |
ただ、陸前高田全体でみても
「地元高校の来春新卒者にたいする
地元企業の求人」は
昨年に比べて「1.5倍」に、伸びてるんです。
|
── |
えっと、つまり震災前より?
|
河野 |
陸前高田の外からの新卒者も合わせた数字なら
「1.7倍」になります。
|
── |
ははー‥‥。
確実に「受け皿」は、つくられてるんですね。
ちゃんと実現してるのが、すごいです。
|
河野 |
ただし現実は、そうとう厳しいです。
お客さまも被災していますし、
金融機関からも、お金を借りられない状況。
潰れなかったとは言うものの、
これから
バタバタ倒産していく可能性は、高いです。
|
── |
そうですか‥‥。
|
河野 |
まぁ、さっきの求人倍率の話以外にも
人口流出や失業率が
低くとどめられているという「いいニュース」も
あるはあるんですけどね。
|
── |
前進しはじめたけど、楽観はできないぞ、と。
|
河野 |
そうですね、それは。
ちなみに、八木澤商店のことで言うと
来春、合計3名の大学生・短大の新卒者に
内定を出すことができました。
|
── |
おお、それじゃあ
八木澤商店さんにも新入社員さんが!
|
河野 |
あははは、ええ、おかげさまで(笑)。
|
|
── |
‥‥河野さん、嬉しそうですね。
|
河野 |
うん、はい、そりゃあ‥‥だって、
あの地域で生まれて
これからも
あの地域で生きていきたいという若者が
働く場所がないという理由で
外へ出ていかざるを得ない状況というのは
絶対に間違ってると思いますし。
|
── |
そうですよね。
|
河野 |
あとは‥‥そうそう、西日本の学生さんに
インターンシップで来てもらって‥‥
という話をしてたと思うんですけど、以前。
|
── |
はい、インターン期間中に
「陸前高田で
1年以内に起こせる事業のビジョン」を
文章にまとめてもらって
これはいけそうだ、というアイディアがあったら
起業を支援するんだと。
|
河野 |
あれ、来年の4月に
陸前高田で会社を興しますっていうのが
ひとり出ましたよ。
広島大学の大学院生なんですが。
|
── |
ほんとですか! 具体的には、何をやるんですか?
|
河野 |
グリーンツーリズムの会社。
|
── |
グリーンツーリズムっていうと‥‥。
|
河野 |
まぁ、都市部の人が農村に長期滞在して、
土地の農業などを体験しつつ
のんびりと過ごす休日‥‥みたいなやつです。
|
|
── |
つまり、陸前高田を
グリーンツーリズムの「旅先」にする、と?
|
河野 |
ええ、震災後、陸前高田には
たくさんの人がやってきてくれていますが
交流人口が増えることって
われわれにとって
やはり、とても大事なことだと思うんです。
その流れを、きっちりツアー化しようと。
|
── |
はー‥‥広島の大学院生さんが。
|
河野 |
本人はいま、創業資金を獲得するために
いろんなコンペに
ビジネスプランを提出したり、
いろいろと奔走してるみたいですけどね。
|
── |
4月、ですか。
|
河野 |
4月1日に来るって言い切りました。
|
── |
それは楽しみですね。
|
河野 |
あとは、そういったような
陸前高田での起業の動きを支援するために、
新しい会社もつくりまして。
|
── |
えーと、八木澤商店とは別に?
|
河野 |
そう、地域の復興のために
陸前高田で、起業家を育てていこうという
目的を持った会社です。
年間で数百人のインターン生を受け入れて、
陸前高田から
社会の役に立つ仕事をつくってもらう。
|
── |
へぇー‥‥。
|
河野 |
「いま、何とか手を打っておかないと
これから中小企業がバタバタ倒産していって
地域全体がダメになってしまう」
という危機感から、立ち上げた会社なんです。
|
|
── |
なるほど。
|
河野 |
3つくらいの仕事を同時に進められる、
優秀な女性を
東京からヘッドハンティングしてきたりして。
|
── |
その会社に、すでに?
|
河野 |
もう、引越しもすみました。
|
── |
河野さんがその会社の社長になったんですか?
|
河野 |
いえ、私は専務です。
ヒゲの田村のオヤジ(田村滿さん)が、社長。
|
── |
やりたいことを達成していくスピード感‥‥
ほんと、すごいです。
ちなみに、
そういう会社って「何業」っていうんですか?
|
河野 |
インキュベーションカンパニー、と言います。
起業支援という意味なんですけど
これまでの行政サービスだけでは実現できない、
「新しい公共」という枠組みで
何かできないかなと、市とも相談しています。
|
── |
新しい公共。
|
河野 |
スウェーデンのように
北欧型の「持続可能な社会」になったらいいなと
ぼくたち、思っていて。
|
── |
陸前高田が。
|
河野 |
お年寄りが安心して暮らせる町であり‥‥。
|
── |
はい。
|
河野 |
同時に、日本でいちばん、起業家の生まれる町。
|
── |
年配の人に優しくて、
同時に、若々しく、エネルギッシュな。
|
河野 |
そう、そんなふうにしたい。
計画では、10年の時限会社にする予定です。
陸前高田で多くの事業を生み出し、
若い経営者を育てて、自立させていく。
陸前高田の町を
本当に「質の高い持続可能な社会」に
つくり上げられたら
会社は、早期に消滅させる予定です。
|
|
── |
できるだけ早く辞めるというのは
やっぱり、大切なのは「スピード感」だから?
|
河野 |
われわれ、本業がありますんで。
|
── |
あ、そうですよね。
|
河野 |
その会社から
役員報酬がもらえるわけでもないですし、
私が別会社の専務を兼任してたら
うちの社員にも苦労かけちゃいますから。
|
── |
そうです‥‥よね。
|
河野 |
幹部会議で「別の会社の専務をやるわ」って
言ったら、大揉めに揉めまして(笑)。
|
── |
はー‥‥。
|
河野 |
泣かれましたから。
|
── |
あの、北欧型の社会を実現するにあたって、
具体的にはどういった活動を?
|
河野 |
たとえば、陸前高田の森林の間伐材を利用した
バイオエネルギーの開発。
|
── |
ええ、ええ。
|
河野 |
あるいは、コミュニティタクシーや
カーシェアリングのシステムを構築して
なるべく
車の乗り入れを少なくできるような仕組みを
提案したり。
|
── |
なるほど。
|
河野 |
オレたち「アホ」がよってたかって集まって
いろいろアイディアを出してこうと。
|
── |
ちなみに、その会社って何という‥‥。
|
河野 |
なつかしい未来創造株式会社、と言います。
<つづきます> |