HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
はたらき方をさがす旅。皆川明さん+松家仁之さん+糸井重里 鼎談
皆川明さんは、1995年に設立したブランド
「ミナ ペルホネン」とは別の、あたらしい店を
この夏、青山でひらくことにしました。
その店の名は「call」といいます。
松家仁之さんは、コンセプトも編集メンバーも
販売方法も斬新な雑誌「つるとはな」を
岡戸絹枝さんといっしょにつくっています。
そして糸井重里は、WEBサイト「ほぼ日」以外に、
TOBICHIというリアルスペースを開設したり、
手編みのニット製品を製造販売する
「気仙沼ニッティング」の立ち上げに
関わったりしています。
「あたらしいはたらき方」をつぎつぎに
提案しているように見えるこの3人は、
「人がはたらくこと」について
いったいどんな考えをもっているのでしょう?
「つるとはな」第3号発売記念トークイベントで
語られたことを、読みものとしてまとめました。
もくじ
松家
本日は、ぼくが進行のような役割をさせていただき、
皆川明さん、糸井重里さんと
「はたらくこと」について
お話ししたいと思います。

「はたらく」というテーマで、
なぜ糸井さんと皆川さんにお話いただくかというと‥‥
いや、そんな説明はなくてもいいですね。
糸井さんと皆川さんは、
お仕事の種類もお人柄も、違うように思えますが、
「はたらく」というキーワードで考えると、
重なるところがあるのではないかと思います。
皆川
そうですね、そう思います。
松家
糸井さんは
「ほぼ日刊イトイ新聞」
株式会社東京糸井重里事務所、
そして、皆川さんは
「ミナ ペルホネン」
株式会社ミナの代表をしておられます。
糸井
で、松家さんは、小説家であり、
「つるとはな」の編集者でもある方です。
松家
「つるとはな」の創刊時から、おふたかたには
ほんとうにお世話になっています。
糸井さんはたくさん相談に乗ってくださり、
TOBICHIで「つるとはな」創刊の
記者発表を開かせていただくことになりました。
また、皆川さんは、創刊を知って、
「何かぼくにできることありますか」と
声をかけてくださいました。
涙が出るくらいうれしかったです。
皆川
第3号になって、やっとぼくたちが
「つるとはな」に
関わることができましたね。
松家
そうなんです。
皆川さんが、あたらしくお店を
はじめられることになって‥‥。
糸井
「call」というお店なんですね。
皆川
はい、そうです。
松家
「つるとはな」第3号には、
「call」がどんなお店でどういう品を扱うのか、
皆川さんにお話をうかがって、掲載しています。
さらに広告費までいただいて、
「call」ではたらく人を募集する、
人材募集広告も載せているんですよ。
糸井
いやぁ、おもしろいですねぇ。
松家
「call」の人材募集で、
皆川さんは、世の中に
かなり斬新な提案をなさっているんです。
皆川
「つるとはな」に載せていただいた
求人広告をごらんいただくとわかるのですが、
そのご案内には、
私どもの住所だけが書いてあるんです。
糸井
ホントだ(笑)。
皆川
メールや電話の問い合わせは
受けつけていないんです。
また、年齢は、
100歳までの方を募集、と記しました。
それ以上でも、
もちろんいいのですけれども。
糸井
うん、うん、‥‥すごいですね。
松家
ぼくもこれ、驚きました。
皆川
じつはこれまで、
はたらくことがなぜ年齢で区切られているんだろう?
という疑問が、
なんとなくありました。
疑問ってことは、つまり
「おかしいな」と思っているわけです。
松家
はい、はい。
皆川
まわりの友人を見ても――
建築家、デザイナー、ものをつくる職人さんたち――
みなさんとても元気で
「社会的な定年」をすっかり超えてなお
ますますいきいきとはたらいています。

先日、ぼくがフィンランドに行ったときに
ある骨董屋さんをのぞいたのですが、
そのお店は80歳ぐらいのご婦人たちが
きりもりしてて、
すごく素敵でした。

いっぽう、人を募集する側は
なんだかいつも「人手がないね」と言っている。
そのことを、とても不思議に感じていました。

ですから、
ほんとうはどうなんだろうか、
不思議なことを確かめてみよう、
というのが、今回の募集で
年齢制限がないことを特にうたったきっかけです。
はたらき方そのものをぼくたちがきちんと理解して、
提案してみたいと思ったのです。
松家
糸井さんの運営なさっている「ほぼ日」は
『はたらきたい。』という本を出したり、
東日本の気仙沼ニッティングも含めて、
いろんな発信と実現をなさっています。
皆川さんと糸井さんが
共通するとぼくが思うことのひとつは、
おふたかたとも、
学校を出て、就職活動して、会社に入って、
という人生を歩んでこられたわけでは‥‥
糸井
ないですね。
皆川
違いますね(笑)。
松家
企業には入らずに、わりに最初から
個人ではたらいてきたおふたりが、
「チームではたらくこと」について
たえず提案しつづけておられるのが、興味深くて。
糸井
はい、それはもう、ずっと考え中です。
皆川さんも、ぼくも、ここに来るまでに
いろいろあったと思います。

皆川さんが「call」でやろうとしていることは
ひとつの試みだと思います。
人材募集はお金もかかりますし、
社内外でみんなが期待しますから、
物理的にも精神的にも、負担はもちろんあります。
そして「やっぱりダメだったな」というところに
たどりつく可能性もなくはない。
皆川
そうですね。
糸井
けれども、世の中の経営者の大半は
「ぜったいにダメじゃないほうに」
向かわなきゃいけないものなんですよ。
なぜかといえば、
大きなコストを払って失敗したら
恥をかくからです。
皆川さんはそうじゃない。

この「call」の人材募集が
いちばん大きな失敗をしたら
いったいどうなるか?
考えてみたら、たいしたことじゃない。
だいたい想像がつくことなんです。

例えば「ひとりも採用できなかった」場合。
これは失敗ですが、
そんなに大きな失敗ではありません。
それから
「たくさん採用したけれど、全員がダメだった」場合。
これがいちばんきついかもしれない。
でも、けっこうアリです。
それでいいとぼくは思います。
それ以上のひどいことには、たぶんならない。
皆川
そうですね。
松家
いま、「ほぼ日」ではどんなふうに
採用をなさっているんですか?
糸井
うちは、どんどんおおげさに
人を採るようになっています。
合宿のように何泊もして面接することもあります。
その「長い採用試験」につきあってくれる人でないと
参加ができないんですけどね。

ぼくの労働に対する考えの根本は、
「はたらきたいか、はたらきたくないか」
というところの疑いからはじまっているんです。
松家
‥‥というと?
糸井
ぼくは若いころ、はたらくのが嫌で
うなされた人間です。
布団の中で泣いた覚えもあります。
「みんな、はたらくことはいいことだと決めてるけど、
 なぜ? 自分はすごく嫌だ!」
と思ってたし、そう思う自分が、確実に
いまでもいます。
だけど、結果的には自分はずいぶん
はたらく人間になってしまった。
松家
ええ、ええ、結果的にはそうですよね。
糸井
振り返って考えてみると、ぼくも
はたらきたかったんです。
ただ夢中でやってきたけど、
やってよかったことだらけだった。
あんなに嫌だったはずなのに、
こういうことがあり得るんだ、とわかりました。

「はたらくのはいいこと」という決まり文句で
かたづけられていることを、ひとつずつ
もう少しだけ疑ってみよう、という作業を
社長になったいまも、ずっと
くり返している気がします。
つまり、
「はたらきたくない自分を受け入れる会社を、
 自分がさがして、つくっている」
という、旅のような状態です。
とてもひねくれてるんですけどね。
(つづきます)
2016-06-27-MON
call

2016年7月15日(金)オープン
東京都港区南青山5-6-23(スパイラル5階)
庭付き!
Open. 11:00~20:00
(カフェ「家と庭」ラストオーダー19:30)
www.mp-call.jp

世界中から、いろいろな手の中から、
新しいものも古いものも
暮しにあって心わきたつものを
集めてご紹介するお店です。

隣には、焙じ茶をベースに
さまざまなフレーバーをゆっくり楽しめる
茶房/ショップ「櫻井焙茶研究所」も
同時にオープンします。
ぜひお出かけください。

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN