ほぼ日刊イトイ新聞
VOW のこと。2代目総本部長・古矢徹さんと、編集担当・藪下秀樹さんに訊く。

こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
たまたまだと思うんですが、
先日、20代の若者たちと語らった際、
思った以上の若者が、
お笑い投稿コンテンツの元祖である
『VOW』を知らない様子で。
えっ、そうなの? えっ、なんで? 
えーっ、もったいない! ということで、
差し出がましいとは知りつつも、
『VOW』を紹介したいと思いました。
語り部としてご登場いただくのは、
尊敬するふたりの編集者。
『VOW』2代目総本部長・古矢徹さんと、
宝島社『VOW』担当編集・藪下秀樹さん。
文中、とくに脈略もなく、
『VOW』ネタが挟まることがあります。
あらかじめ、ご了承ください。

藪下秀樹さん。

──
ここまでの話の流れを振り返りますと、
藪下さんが、
まっとうな人物に見えてしまいますね。
古矢
真実を伝えていないね。
──
たぶん『VOW』の歴史を語るうえでは、
担当編集である藪下さんの
特異なキャラクターも重要だと思います。
藪下
いやいや、勘弁してくださいよ。

僕の話はいいですよ。
ハゲの話なんかしてもつまんないですよ。

2代目総本部長が見えないピアノ線を引っ張ると、
藪下秀樹さんの左頬がピクピクする(という芸)。

──
実は藪下さんには、8年くらい前に、
「ほぼ日」に
ご登場いただいたこと
があって、
そのときの不気味なインパクトたるや、
夢に出てくるほどでした。
古矢
そういえば、藪下さんって、
いつ『VOW』の担当になったんだっけ。
藪下
あんまり覚えてないんですけど。
──
そんなわけないでしょう(笑)。
藪下
90年くらいに宝島社に入社したんです。
──
その前は何をされてたんですか。
藪下
広告代理店に3年いたんです。

で、宝島社には広告営業で入ったんですが、
あまりに使えないってことで、
編集に移ったんです。それが92年かなあ。

宝島社『ベストオブVOW』p57より

古矢
『えび天』に出てたのは、いつ?
藪下
その、広告営業のときです。
──
ご存じない方のためにご説明しますと、
こちらの藪下さんは、
宝島社のいち社員でありながら、
伝説的な深夜番組『えび天』において、
映像作品『春のめざめ』で、
「金監督」の称号に輝いたお方で、
同番組への最多出場記録も持ってます。

そして‥‥それは、なんでですか?
藪下
いや、たまたまなんですよ。

別に映像が好きだったわけじゃなくて、
ウケを狙うのが好きで、
飲み屋とかで、筋肉合唱団とか言って、
大胸筋をピクピク動かしながら
歌を歌う映像とかを一生懸命撮ってて。
──
‥‥ええ。
藪下
そういうのを、
『カトちゃんケンちゃんごきげんテレビ』
に送りつけてたんです。
──
それは‥‥おそらく採用されませんよね。
その時間帯ですと。内容的に。
藪下
うん、採用されるのは、
赤ちゃんだとか犬猫のネタばっかりでね。

完全に無視されてたんだけど、
『えび天』に送ったら褒められたんです。
──
やっぱり「時間帯」って、あるんですね。

テレビの時間帯によって、
無視されもすれば褒められもするという。
藪下
ずっと無視される人生だったのに、
はじめて褒められたんです、一瞬だけど。
──
深夜に一瞬だけ褒められた。
古矢
公にしてはいけないような芸だからねえ。
藪下
それで嬉しくなって何本か作ったんです。

ビデオになってるやつもあるんですが、
当時の上司に渡したら
「本当につまんないな」って言われた。
──
そうなんですか(笑)。
でも、いちおう見てくださったんですね。
藪下
親も見たいっていうから、
いっぺん、いっしょに見たんですけど、
ふと横見たら寝てましたよ。

宝島社『ベストオブVOW』p277より

──
内容はあえて聞かないほうがいいですか?
藪下
ううん。
──
聞いたほうがいいんですか?(笑)
古矢
説明できるの?
藪下
いや、人間、どこまでくだらないことが
やれるのかっていうチャレンジでね。

たとえば、学生時代からの友だちですが、
ドリアン助川って人に出てもらったり、
デルモンテ平山って人に出てもらったり。
古矢
タイトルは?
藪下
え、いや、それ聞くの?
いいですよ、別に。もう忘れましたよ。
──
いま「藪下秀樹」の名前で検索したら、
Amazonで中古ビデオがヒットしました。

『ビデオは笑ふ 世紀末ヤブシタワールド』
「VHS」で、3981円です。最後の一本。
古矢
値段が中途半端だなあ。
見よう見よう。注文してよ。
藪下
いやいや、見なくていいですよ!

僕だって、もう本当に、何ていうの、
焼き物かなんかの先生と同じで、
できた瞬間にもう興味なくして、
あれから1回も見てないんですから。
古矢
たとえ話が焼き物の先生って、え、何、
濱田庄司とか、
そういう意味で言ってる? 何様だよ!
──
まったく内容が伝わってきません。
古矢
たぶん聞いてもわかんないと思うよ。

この人の笑いは「極北」行き過ぎてて、
俺にもまったくわからないんだから。
──
そういえば、藪下さんは、
なつかしの『スーパージョッキー』の
「熱湯コマーシャル」にも
ご出演された過去が、あるそうですね。
古矢
5秒しか入れなかったんだよ。

新しい『VOW』の宣伝で、
俺と当時の投稿選考主任だった吉田豪と
3人で行ったのに、5秒。
──
つまり宣伝時間も5秒。
藪下
いや、だって、もうめちゃくちゃ熱くて、
本当にちょっとね、
あれで完全に子種が死んだと思いました。
古矢
そこまで熱くないだろ。
藪下
いやいや、マジですよ。
古矢
だってあれ、ずっと置いてあったんだよ。
スタジオの脇のほうに、湯を張ったまま。
藪下
たしかにね、最初に入ったときは、
「あ、我慢できる」と思ったんですよ。

そしたら、
スタッフの人が熱湯を足してくるんです。
古矢
ああ、そうそう。
藪下
その瞬間、メチャクチャ熱くなって、
あわてて飛び出しましたよ。
──
やっぱり入るのは、藪下さんなんですね。
役割的にというか、立ち位置的に。
古矢
必然的にそうなったよね。
──
たしかに、その3人だったら、
藪下さんになっちゃいそうですよね。
古矢
でしょ。
藪下
今となってはいい思い出ですけどね。
子種も無事でしたし。
古矢
そうまとめるんだ。

宝島社『ベストオブVOW』p6より

 ~知ってる人も、知らない人も~ すぐに笑えて、ずっと笑える。それが『VOW』。

ゲエテ『若きウェルテルの悩み』の扉には
「親しい友を見つけられずにいるのなら
この小さな書物を心の友とするがよい」
と書かれていますよね。
もしもあなたが、運命のめぐり合わせで、
親しい友を見つけられずにいるのなら、
このおかしな書物を心の友とするがよい。
人生のくもり空が、日々のモヤモヤが、
すこーし、晴れるかもしれません。
知ってる人も、知らない人も、
すぐに笑えて、ずっと笑える。
これもまた、われら人類のりっぱな営み。
最新刊ですが、やっておられることは
ひとつも変わっていません(←とてもいい意味)。



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SPECIAL THANKS
歴代『VOW』カバーデザイナーの皆様(敬称略)

MIKE SMITH
マーチン荻沢(HIT STUDIO)
角谷直美(HIT STUDIO)
金井久幸(TWO THREE)
赤石澤宏隆
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