2010年、桜の季節。
さわやかな風に乗って届いた、1本のニュース――。




この「ラヂヲ先生、ふたたび起つ」の報は、
各媒体の担当編集者など
関係者の間を、一夜にして駆けめぐった。

「大本命、最右翼‥‥今度こそ、優勝だろう」

「いえ、オードリーの若林正恭選手や
 光浦の相方の大久保佳代子選手、
 三人組のロバートの秋山竜次選手など、
 今回も手強い相手ばかりよ」

「本業は大丈夫か」

「それより、おしりに抱えた小さな爆弾は‥‥」

「ダイナマイト関西では
 長時間、イスに着席した状態での戦いを
 強いられるんでっしゃろ?」

「No! マサカ explosion ‥‥シマスカ!?」

「いいえ、ラヂヲ先生のイボ痔は
 念入りなクリーム塗布で完治したはずだわ」

「ともかく締切りが心配だ」

関係者の思惑は交差し、
さまざまな憶測が、飛び交っては消えた。


時は流れ、季節はめぐった。
2010年5月2日、決戦の日がやってきた。

戦いの「リング」に選ばれたのは
日本初の格闘技専用アリーナとして建設された
ディファ有明である。

プロレス団体「プロレスリング・ノア」が道場を置く
このホールこそ、
ダイナマイト関西という「笑いのデスマッチ」の
舞台として
なんとふさわしい場所であろうか。

たった一人しか立てない「頂点」を目指して、
死屍累々の山を築く
あまたのお笑い芸人たちにとって、
なんとふさわしい「死に場所」であろうか‥‥。


開演直前のステージには、すでに「瘴気」ならぬ「笑気」が充満。

そもそも、ダイナマイト関西とは、何か。
知らないという人も、多いだろう。

それは、

「ゴチャゴチャ言わんと
 誰がいちばんおもろいか
 決めたらええんや」


というコンセプトにのっとって行なわれる、
1対1の大喜利トーナメントバトルである。


ザックリ言うと大の大人が1対1で勝負する大喜利大会。
※クリックすると拡大します。

そんな、「笑い」に生きる者たちが、
自らの「笑い」をかけ、
真剣で斬り合うガチンコ勝負に、
我らがラヂヲ先生が、ふたたび挑戦する――。

各媒体の担当編集者たちはディファ有明に集合、
名刺交換もそこそこに、応援団を結成した。

伝説の漫画誌
『COMIC CUE』編集長・堅田浩二氏、
『週刊ヤングジャンプ』の藤原隆博氏、
『ファミ通』のサマァズ後藤氏‥‥
錚々たる面々に混じって
「ほぼ日」からは、わたくし奥野が末席に。


選手は玄武コーナーと白虎コーナーに別れて「笑い」を競う。

さらに、ラヂヲ先生と懇意の大先輩、
『ストップ!! ひばりくん!』等であまりにも有名な
江口寿史先生をお呼びし、
『がんばれ!和田ラヂヲ』とばかりに
特別観覧ブースから、
みんなで戦局を見守ることとなったのである。


特別観覧ブースの江口先生。14型テレビデオのブラウン管で熱戦をモニター。

「ラヂヲ先生は、何のために戦うんですか?
 金? 名誉? 女? 酒?
 あるいは、大喜利王者という称号のため?」

以前、そのような質問をされたとき、
先生は「何かプライスレスなもののためかな」と、
そんな趣旨の返答を、していた気がする。

プライスレスなもの――それはすなわち、
愛? 友情? 家族? ミーたん? 
思い出づくりのため? あるいは‥‥プライド?
 
ともかく「お金じゃ買えない何か」のために、
ラヂヲ先生は
こうしてふたたび、戻ってきたのだ。

それで、よいではないか。


バトル開始まであとわずか、設営スタッフの疲労もピークに達した。

開演直前、トーナメント表が掲示される。


※クリックすると拡大します。

優勝争いのライバルと目される強豪芸人さんたちと
うまく別ブロックに。
我らの脳裏によぎった「‥‥奪れる!」の想い。

なお、初戦の相手は、伊藤修子選手である。

なるほど、伊藤修子選手が来たか。
ふむ、伊藤修子選手ね。
伊藤修子選手、伊藤修子選手、伊藤修子選手‥‥。

伊藤修子選手?


伊藤修子選手って、フー・アー・ユー?


刹那、いかんとも表現しがたい「嫌な予感」が
われらの背すじを走ったが、
すぐに1000名超の大歓声にかき消された。

「誰がいちばんおもろいか」を決める
戦いの火ブタが、
いま、切って落とされたのである―。

『それでは白虎コーナーより、
 和田ラヂヲ選手の入場です』

『2008年のダイナマイト関西で
 クセ者ぞろいのノンジャンル予選を
 みごとに制覇―』


『すべての回答をイラストで提出、
 大喜利の常識を覆す、
 現役バリバリのギャグ漫画家―』


『ベスト4進出を果たした前回に続き、
 今宵も
 貫禄のイラスト回答が炸裂するのか―』


『ヲヲギリ漫画家‥‥
 和田ー、ラーヂーヲー!』


会場 ワァァァァ‥‥!
司会 和田選手、今のお気持ちは。
ラヂヲ こんにちわ。
江口 ‥‥今のお気持ち言わんかい。



『それでは玄武コーナーより、
 伊藤修子選手の入場です』


『未知なる強豪を発掘する目的で
 
開催された、D関無双
 その舞台に衝撃が走った――――』

「無双」出身者‥‥。腕はたしか、ということか。



『劇団・拙者ムニエルに所属――――』


‥‥劇団員? 何のムニエル?



『笑熱の女優魂‥‥』


なんだか‥‥。




『いとうーーーーーーー』



 なんだか‥‥。



『しゅうーーーこーーーー』



 なんだか‥‥。









<つづく>

2010-10-15-FRI



   








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