三重県志摩市にある「ミキモト多徳(たとく)養殖場」と
「ミキモト真珠研究所」をたずねました。
いずれも一般非公開の研究施設です。
養殖真珠が世界的にひろまった、その原点がここにあります。
銀座本店の取材を通して真珠にたいする知識と興味がふくらんだ
伊藤さんといっしょに、歩きました。
さかのぼること1893年(明治26年)、
御木本幸吉は「半円真珠」の養殖と事業化をめざし
養殖場を開設しました。
それ以降養殖とともに研究を続け、
現在はここ多徳養殖場に研究所があります。
ミキモトがめざしているのは、
天然のアコヤガイ資源を守ること、
健全な漁場環境を守ること、
現在、養殖場はここ多徳と、
福岡県の「相島(あいのしま)」の2か所にあります。
こちらが、研究所所長で農学博士の永井清仁さん。
まずお聞きしたかったのは「貝リンガル」のこと!
養殖の過程で貝の健康を守るため、
海況の変化に応じて貝からケイタイにメールが来るしくみです。
このすばらしく、ふしぎなシステムは、
この研究所が中心となって共同開発されました。
危険なときは「助けて!」「苦しいよー」というふうに
文字だけでなく顔文字まで使ってのメッセージがとどきます。
「福岡の相島のアコヤガイからは、
博多弁でメッセージが送られてきますよ」
(永井さん)
「1992年に、アコヤガイが
大量に死んでしまったんです。
調べるうち、それは新種の赤潮プランクトンに
よるものだということがわかりました。
じゃあどうやって対処するか、というところから
『貝リンガル』がうまれたんです」(永井さん)
「私たちは貝を殺してしまうプランクトンの研究を
ずっとしていました。
特性をしらべていくうち、
二枚貝が、海況を敏感にとらえて
貝殻の開閉の動きで反応をすることがわかりました」
(永井さん)
その動きをとらえて、信号を送るしくみが
「貝リンガル」。海況を人が判断するのではなく、
“貝自身に教えてもらう”という、まさに逆転の発想です。
ここは、アコヤガイに核入れをおこなう棟。
核入れとは、淡水産二枚貝の貝殻をまるく削ったもの(核)と、
別のアコヤガイの外套膜(貝ひも)を2ミリ角ほどに切ったものを
母となる貝(母貝=ぼがい)に入れる手術のこと。
そうすると核のまわりに真珠層がつくられ
真珠となるのです。
この手術は真珠をつくるうえで
最も重要な仕事で、
真珠の品質に大きく影響します。
ここ多徳養殖場では、1975年頃から、
母貝(ぼがい)を稚貝から養殖する
人工採苗を行なっていますが、
目に見えないぐらいの稚貝から育て、
母貝に成長するまでに、
およそ2年から3年。
真珠の誕生まで、およそ4年です。
一方、福岡の相島養殖場で使われている母貝は、天然のもの。
「天然採苗」といい、真珠養殖の原点に戻る
養殖場として注目されています。
「人工採苗は、優秀な貝と貝との掛け合わせで、
いいものができるんです。けれども問題があって、
ある一定の環境下ではいいんですけども、
自然環境はどんどん変化しますから、
別の環境になったらばだめになることもあるんです。
農業でもそうですけれども、
品種改良して収穫量を多くするには、
人為的な環境下で育てます。
けれども、それは野生では育たないですよね。
海っていうのは、もともと自然環境なので、
人為的なコントロールはほとんど効きません。
できるとしたら、人間が、他の所に移動してやるとか、
寒い所から暖かい所にちょっと移してやるとか、
それくらいなんです。
人工採苗は、近親交配を長く続けると、
近交弱勢という問題が出てくるんですね。
弱くなっていく。
だから、必ず、天然の資源が必要になってくるんです。
その資源を守っていこうということで、
天然採苗も重要なんです」
(永井さん)
そんななか、見つけたのが福岡県の相島。
日本中のアコヤガイの生息を調べるなか、
九州大学を通して知ったそうです。
もともとはアワビを吊るしていた籠に、
なんだかいっぱい付着物が付いていて、
それを調べたところなんと天然のアコヤガイ。
純国産で病気にもかかっていない、
たいへん貴重な発見だったそうです。
多徳のようなおだやかな内海の英虞湾と違い、
外に開かれている相島では
真珠養殖はできないと考えられていたそうですが、
思い切ってやってみたところ、
たいへん大きな貝が育ちました。
そこは餌が多く、潮流も適度で、
真珠養殖に向く海だったのです。
天然採苗を行なう業者がどんどん減ってゆくなか、
天然資源を残すという目的のためにも、
永井さんたちは奮闘。
唯一の天然採苗をつらぬき、
2013年にはじめて相島の真珠が
世の中に出てゆくこととなりました。
天然採苗で母貝を育てることは、
たいへんなことなのだそうです。
まずアコヤガイの幼生はとても小さい。
(まるで砂の粒!)
海中に沈めた杉の葉に付着させるのですが、
タイミングがちょっと違うだけでも、
まったく付かなくなってしまいます。
付いても、ちゃんと保護してやらないと、
カニなどに食べられてしまう。
天然採苗の管理は、
人工採苗の何十倍も大変なことなのです。
(つづきます!)
2014-04-04-FRI