真珠。
 その5



ところで、真珠の白い輝きって、
そもそもどうやって生まれるのでしょう?
お店の取材でも、真珠にはピンクっぽいものや
ゴールドなど、いろいろなものがありましたが、
やっぱりその本質的な美しさは白にあるように思えます。

「真珠の色は基本的に白ですが、
 干渉光によって、ピンクに見えたり、
 グリーンに見えたりするんですね。
 真珠層の、煉瓦のような積み重なりのなかから
 出てくる色があるんですよ。
 それは何かと言うと、例えば、CDの裏面って、
 光っているでしょう?
 あれは回折(かいせつ)といい、
 色が付いてるわけじゃないんです。
 光の作用、真珠の場合は真珠層の構造によって、
 光が反射してくる。その時に、干渉し合って、
 色が生まれるんです。
 昆虫とか鳥なんかも、すごくきれいな色を
 示すのがありますね。
 あれは、干渉光なんですよ。
 そうだ、シャボン玉がありますね。
 シャボン玉とか油膜に見られる色、あれも干渉光です」
(永井さん)


なるほど、真珠の輝きとシャボン玉の輝き、
ちょっと似ていますね。

「シャボン玉は薄膜干渉といって、
 本当に薄い単層ですけれども、
 真珠には何百層、何千層とある。
 だから真珠の中に入ってきた光が干渉し合って、
 強められた光が出て来るんです」(永井さん)

そう、じつは真珠層の結晶はたいへん薄く、
アコヤガイは0.35ミクロンといわれます。
白蝶真珠はちょっと厚くなるため、
干渉を示さなくなってくる。
真珠層の構造によって、真珠の色は変わってくるのです。

「そして真珠層の中に色素が含まれると、
 色素の色と干渉光の組み合わせになります。
 黒蝶真珠ですと、黒い色素が入るので、
 表層の干渉が強まるんです。
 もっと深いことを言いますと、
 アコヤ真珠っていうのは、
 表層で干渉し合ってくる光と、
 いったん内部に入って透過して、
 抜けてくる干渉とがあります。
 アコヤ真珠って、ものすごく不思議なんですよ。
 光のマジックなんですけど、
 球体に入った光は、
 この中をぐるぐる回ってるんです」(永井さん)

だからアコヤ真珠が、複雑で深みのある輝きに
なっているんですね。
ちなみに真珠層に亀裂が入ると、
それだけで全体の光り方が変わってしまうのだそうです。
ミキモトがネックレスに絹糸を使っているのは、
その輝きをできるだけ
失わないようにする工夫でもあるそうです。

光によって変化する真珠の輝き。
黒い背景で見る真珠は、
完全に真珠に当たった光だけで輝きます。
白い背景で見る真珠は、
下から跳ね返って、反射してくる光が
真珠を抜けてあらわれてきます。

真珠の選別をする時は、
人の目には、北窓の午前中の光のもとが、
いちばんだそう。
真珠の大きさ、色、光沢、形などをみて、
隣り合う真珠が同じ美しい輝きを醸し出すよう、
「連相」と言われる表情をつくるためのこまかな手作業は、
最も熟練したスタッフが自然光の下で行なうそうです。

かつては海女たちが、地上と
海底を往復し、はぐくんだ真珠。

養殖の成功から120年を経たいまも、
かがやきはかわることがないようです。
かつて、御木本幸吉が暮らした場所から、
英虞湾を見せていただきました。
ゆたかな英虞湾は、いまもゆっくり、
ゆっくり、真珠をはぐくんでいます。
「まるで物語のページを
 ゆっくりとめくるように始まった
 真珠をめぐる旅。
 小さな小さな稚貝が、
 やがてあの美しい一粒に・・・
 「世界中の女性を真珠で飾りたい」
 かつて御木本幸吉が言ったというその言葉の奥には、
 品質の確かさからくる自信、そして
 真珠に対する愛の深さが感じられました。
 そしてその愛は、
 ミキモトのすべての社員の方々に
 受け継がれているのでした。
 美しい一粒は、やがてアクセサリーとなって
 お客様のもとへ。
 物語はそこでおしまい、ではなく、
 そこからまたはじまります。
 おだやかな朝の光や、
 少し日が傾き始めた午後、
 揺らめくキャンドルの光の中・・・
 真珠の持つ輝きは、
 光に寄ってさまざまに変化していきます。
 刻々と変わっていく、真珠の様子を見るのも
 またたのしみのひとつです。
 ジュエリーをつけたら、
 きちんとお手入れしてケースに。
 ネックレスの絹糸は、
 1、2年に一度、交換して。
 大切にしていけば、
 それこそ一生もののミキモトの真珠。
 ここで手に入れたものなら安心。
 そんな信頼できるおつきあいが始まったことは、
 この取材の大きな収穫でした」
(伊藤まさこ)


2014-04-07-MON 

まえへ
このコンテンツのトップへ

 



ツイートする
感想をおくる
「ほぼ日」ホームへ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 取材協力:ミキモト 写真:有賀傑