最終回 私たちに頼ってください
───小豆島の平林有里子さんと対談編(5)

糸井
親子だとか、家族のあいだでは、
詐欺的商法の話をするのが‥‥むずかしい。
yuriさん
そのご家族によるとは思います。
「こういう詐欺が多いから気をつけて」
というお子さんからの忠告を
素直に受けとめる親御さんも、
もちろんいらっしゃいますから。
糸井
ええ。
yuriさん
ただ、どうなんでしょう‥‥
「自分の親とお金の話をする」というのは、
あんがいむずかしいところがあって‥‥
糸井
それは、ありますね。
yuriさん
これも実際にあった事例なんですが‥‥
ご相談をお受けしているときに、
「お金って汚いものだから
 そんなの子どもに話せないでしょ」
と言われたことがあります。
糸井
‥‥なるほどなぁ。
yuriさん
その方は、かなり多額の被害を受けていました。
もう私では手が負えない大きさです。
弁護士さんへ依頼されることをおすすめし、
お繋ぎしようと思っていたら‥‥
あきらめられたんですよ。
「今まで自分が親として築いてきたものが、
 被害を取り戻そうとすることで
 崩れてしまうんだったら、私はあきらめます」
糸井
子どもに知られたくない。
yuriさん
ええ。
糸井
そこで親としてのプライドを選ぶのは、
だれにも非難できないですよね。
yuriさん
「築いてきたものが大事だから、もういいです」
って。
糸井
うーーん‥‥。
yuriさん
親子間で、すごく連絡を取り合っている方でした。
いろいろと心配しているお子さんから、
毎朝、電話がかかってくるような方です。
なのに、
そういうことが起きてしまった。
糸井
それ、その方に限ったことじゃないですよね。
yuriさん
似たようなケースは多いと思います。
ですから、
ご両親を気にかけることはもちろん大切ですが、
連絡をしていれば大丈夫だとは‥‥
糸井
言い切れない。
yuriさん
はい。
糸井
そういう意味で、「むずかしい」んですね。
親子だから、親戚だからこそむずかしい。
なるほど‥‥。
yuriさん
ですから結局、申し上げられるのは‥‥
糸井
「私たちに頼ってください」
yuriさん
そうです。
気づいたらすぐに、気軽に電話してください。
そしたらそこから、チームで考えられる。
糸井
例えがまた、野球で申し訳ないんですけど、
チームが「強い」と言われる理由のなかに、
「怪我がすくない」っていうのがあるんです。
強いチームには
怪我をさせないためのプロがたくさん、
軍団となっているんですよ。
yuriさん
そうなんですか。
糸井
消費生活センターさんは、それですよね。
怪我はどうしたってするものである。
でも、肉ばなれしそうなときに声をかければ、
すぐにマッサージしてくれる。
yuriさん
そうですね。
声さえかけていただければ。
私たちで手に負えないことは
専門家の方におつなぎできますし。
糸井
‥‥うん。
きょうぼくはyuriさんとお会いする前には、
「こういう手口があるから注意ね」
というのがたくさん並ぶと思ってたんです。
でも、お話しててわかったのは、
「知識はちょっとでいいから、
 とにかく
 頼りにしたほうがいいぞ」
ということでした。
yuriさん
はい。
糸井
それは、ものすごくわかりやすいです。
糸井
最後に。
yuriさんは子どものころ
どんなおとなになると思ってました?
yuriさん
‥‥え?
そんな急に(笑)。
糸井
いや、どういうベースから
ここにたどりついたんだろうと思って。
消費生活センターの人になるって、
子どものときから思ってはいませんよね?
yuriさん
‥‥私は、子どものときから、
「変わってる」と言われ続けていたんです。
だからぜったい、
ふつうの奥さんになってやると思ってました。
糸井
なってるじゃないですか(笑)。
yuriさん
いや、もっとふつうの‥‥
とにかく「いい奥さんになるんだ」と。
糸井
いわゆる良妻賢母というような。
yuriさん
はい。
糸井
十分いい妻でいいお母さんだと思いますが、
まあ、なるほど。
で? なぜいまの仕事に?
yuriさん
‥‥あるときですね、
ちょっと不動産トラブルがあったんです。
賃貸の契約でトラブルが。
向うの言ってることが
どうにもおかしいなぁと思ったんで、
ネットとかでいろいろ調べたんですね。
「どうやら、こうこうこうだから、
 こういうふうにやればいいんだな」
っていうのがわかりました。
でも、やっぱりまだ不安だったので、
とりあえず消費生活センターに行って
話を聞いてもらったんです。
「こうこう、こういうことがありまして、
 こういうことを言われたんだけど、
 こういう理由があるからおかしいと思う。
 だったらわたしは、こうこう、こうして、
 こうできると思うんですがどうでしょう?」と。
そしたら相談員さんが、
「あなた、そこまで調べてて、
 なんのためにここに来たの?」
って言われたんです。
糸井
ばっちり合ってた(笑)。
自分で仕事をしちゃってたんだ。
yuriさん
そしてその場で、
消費生活相談員という仕事をすすめられたんです。
糸井
おもしろーーい(笑)。
yuriさん
そんな経緯でした。
糸井
なるべくしてなったんですねぇ。
いやぁ、その話、
きょうのオチとして最高ですね。
yuriさん
(笑)
糸井
これをオチに、そろそろ終わりにしますが、
‥‥何か言い残したことがあれば。
yuriさん
言い残したこと‥‥
やっぱりその、感謝を。
糸井
はい。
yuriさん
いろいろな法律ができてから
わたしは相談員になりました。
何もなかった時代から
先輩方が築き上げた世界で、
はたらかせてもらっているんです。
糸井
そのことはよく
ツイッターでもおっしゃってますね。
yuriさん
はい。
先輩を尊敬しているから、
この仕事を尊敬できています。
糸井
ああ‥‥いいですねぇ。
yuriさん
わたしはたぶん、
すごく幸せな相談員なんだと思います。
夫も横目で見ながら自由にやらせてくれますし。
糸井
ご主人のことをぼくは何も知らないんですが、
いい人ですよね。
yuriさん
はい。
糸井
即答ですね。すばらしい。
yuriさん
わたしは外から来た人間なんですが、
主人を育ててくれた小豆島の町を
だいじにしたいと思っています。
糸井
‥‥泣かせるなぁ、それ。
yuriさん
なんだか、すみません(笑)。
糸井
いやいや、こちらこそすみません。
遠くからお越しいただいた上に、
長い時間お話いただいて。
yuriさん
とんでもない。
ありがとうございました。
糸井
「おもしろかったです」で終わってしまうのは
なんだかへんなことかもしれませんが、
あえて、
おもしろかったです。
yuriさん
はい(笑)。
(これにて、連載を終了いたします。
 最後までお読みくださりありがとうございました。
 『イマサギ。』は、連載開始からツイッターを中心に
 多くの反響があったコンテンツでした。
 メールもたくさん寄せられています。
 最後まで読んでのご感想を、ぜひお送りください。
 お世話になった国民生活センターの方々や、
 小豆島のyuriさんにお届けしたいと思います。)
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2013-12-06-FRI

もくじ

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消費者からの相談を受け付ける国の機関、
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消費者保護を目的とした都道府県・市町村の行政機関で、
日本全国にたくさん設けられています。
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互いに協力し合い、消費者対応を行っています。
相談をしたい場合はどちらでも大丈夫。
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