TV
テレビという神の老後。
電波少年T部長と青臭く話した。

5月下旬の電波少年的放送局・62時間の生放送では、
夜中に必ず「T部長」こと土屋編成部長が、
ブランコに乗って降りてきて、
ある意味場違いな、真面目モードの話をしたっけ。

これがいちばん長い時間なのではないかと思えるくらいで、
この場に流れている時間は、他のゲストのときと
また別の妙にエキサイティングな雰囲気がありました。

その土屋さんが、6月7日に
もう一度カメラ連れて訪ねてきて、一気に語り合った。
その中身は、価値創出論なのか? 仕事論なのか?
メディア論なのか? はたまた、幸福論でさえあるのか?
現場をやり続けてきたふたりの「大の大人」に、
見えない謎は山ほどあった。

第1回 フィクションとノンフィクションの境界

第2回 テレビという3文字のジレンマ

第3回 「テレビにタレントが映る」ということ

第4回 視聴者は「濡れ」を求めている?

第5回 「嫌な感じ」が、開放感を生む

第6回 設計図のない商品づくり

第7回 偉大な作品は、「偶然」で残る

第8回 自分も大事にしないと、仲間を作れない

第9回 その作品は、消費者の舵を切らせたか?

第10回 正力松太郎って、バケモノだよ

第11回 あなたは、消費者を信用できますか?

第12回 「家族と向きあうこと」って、何?


糸井 土屋さんの視聴者像を聞いていて、
いま思い出したことがあるんです。

ぼくは、今、農業関係の仕事で
田舎をまわっているんですが、そうすると、
やっぱり無骨な人やシャイな人とも
出会うんです。
最初は、仏頂面してボソボソ言っていたり。
ただ、その人に
もうちょっとだけつきあっていくと、
これがまぁ、ひとりずつが、
「あぁ、こんなことまで考えているんだぁ!」
ということまで考えていて、
感心するんですよ。

よく考えたら、女房子どもって、
そうですよね。
ふだんはふつうに
接しているだけの家族なのに、
「え、そういうやつだとは、
 思わなかった!」
ってびっくりしちゃうぐらいに、たまに
いいことを言ったりするじゃないですか。
土屋 あぁ、それはそうですねー。
糸井 その家族みたいなのが、
「視聴者」なんですよ。
ふだんは全然出てこないけれども
いざ困った時のひとことに
「あれ、お前って、そんなやつだったの?」
と思わず感動してしまうというか、
人って、なかなか
わからないものなんですよね。
だから、一般的に
「視聴者」と呼ばれているような
固定した姿での人って、いないと思う。

ちょっと気になるのは、
例えば電波少年的放送局の掲示板の中には、
誰か固定のアイドルのファン
っていう人たちが、
必ず入ってきますよね。
「その子が何をしていても大好き」という人が
CS日本に
加入してくれている場合もあるでしょう。

だけど、その人は
土屋さんの話なんて聞いていないんですよ。
それよりも、自分の好きな
特定の女の子のうなじが見たいだとか、
そうなってくると、作っている側からすれば、
言いにくいでしょうけど、
腹が立つでしょうねぇ。
土屋 いや……あのね、
それは慣れているんですよ。
糸井 あぁ、慣れちゃっているんだ?
土屋 逆に、「もう、そういうもんだよ」と。
だから、そのぐらい、ある意味で
テレビ側の人たちは
視聴者を侮辱しているんですよ。
糸井 なるほどなぁ。
ぼくは、きっちりひとつずつに、
腹が立つんです。
「おまえ、それでおまえは幸せかよ!」
って、ついつい、言いたくなるんです。

ぼくはやっぱり、雇われている分だけは
一生懸命にやっているという枠ではないから、
やっぱり、メールを読んでいても、
おまえと俺と、という感じで
どこか、向かいあってしまうんです。

あんまり関わっているとコストが高いから
直接に怒りはしないけれども、心の中で、
「うなじがどうだとか、乳首がどうだとか、
 そういう次元で生きているあなたっていうのは、
 いつか、本気で恋をする時だって
 あるでしょう?」
って、思っているんです。
「ほんとうに恋をした時に、
 相手の服の隙間から
 乳首が見えたとかどうだとかいうことだけを
 気にするような人になっていたら、
 ふられるよ。
 もっと、違うようにつながっているほうが、
 楽しいよ」

そんなようなことを、
言いつづけるしかないわけです。
土屋 なるほど。
糸井 さっき、家族の話をしたことの延長線で言うと、
今回の62時間の放送に事件があったのは、
かみさんが来たことですよ。
ほんとうに人みしりなやつなんだけど……。
土屋 あのタイミングで来たのは、
イトイさんの、隠し球だったんですか?
糸井 そうじゃないです。
あれが隠し球だったとしたら、
ぼくはテレビの人ですよ。
「隠し球をじょうずに作れる
 優秀なプロデューサー」ってことになる。
でも、それはないですよ。

出てくる時には、電話をするかもしれない、
とは言っていたんです。
でも、本人がイヤならいいか、とも思ってた。
……ぼくの場合は、
樋口可南子さんという人が奥さんですから、
何でもないやりとりが、視聴者にとっては、
「あ、見ちゃった」という楽しみになるから。
土屋 さっきの話で言うと、ジャンルとしては
「天皇陛下の日常の姿」の楽しみですね。
糸井 ちょっとは、ね。
で、案の定、向こうも、
「放送につながらない携帯電話だったら、して」
って言っていたぐらいなんです。
ただ、人が一生懸命になっていると、
絶対に手伝う人なんですよ。
一生懸命が半端な時は
ぜんぶ無視する人だけど。
でも、「そっちに行く」って言った時には、
ほんとうに真っ白になりましたね。
ふだん、そういうことはないから。

……と同時に、
「いま俺、まったくの個人として
 電話でつながっている姿が見られちゃった」
とか、
「サービスとしてついついできちゃった」
とかいうことも残ってきますから、
もうそれ以後は、事故に遭った俺、
ということになっちゃったんですね。
土屋 ぼくはその話を聞いた時に
つかみきれない!というか何それは!というか、
糸井さんが事故とおっしゃって、
それでわかりましたけれど、ぼくの感想は、
「そんなことをしてもらうようなことを、
 われわれは、していない」
という驚きでした。
これで5億円のギャランティを積んでいるなら、
もしかしたらそのぐらいは
してもらってもいいかなみたいなことはあるけど、
そんなことはない。
あれ?っていうのが、ありました。
糸井 ぼくは、そこで愛情を
読者に見せたいかというと
それはあんまりないから、
恥ずかしいですよね。
でも、「ま、いいや」とも思えた。
土屋 そこの「いいや」のボタンが、
別れ目でしょうね。
事故があったとしても、
「いや、俺、救急車はいいよ、
 タクシーでいけるから」
っていうようになる場合も、
あるじゃないですか。
糸井 (笑)あるある。ありますよ、それは。
土屋 いやぁ、だからすごいびっくりした。
糸井 ああいう状況を、
土屋さんが引き受けられるかどうかが、
さっき言っていた
転換点を迎えたかどうか、なんです。
土屋 あぁ、そうでしょうねぇ。
糸井 たとえば、これから自分のやることについて、
「たいへんなことになるかもしれない」
って、今のぼくなら、言えるんですよ。
それは相手との関係の話でもあると同時に、
自己愛の話でもあるんですよ。
自己愛がなければ、
相手にも強いることができないから。
土屋 とにかく、ぼくはかみさんから
「樋口さんがいらした」と聞いた時に、
俺はお前と、
そうは向きあっていないなぁというか、
夫婦としては
非常に未熟なんだなあということを
実感させられたというか……。
糸井 あの事故は、様式ができていたがゆえに、
結果的にそうなった、
ということでしょうけどね。
土屋 ここで糸井さんと話している様子は
こないだと同様にテレビに映りますけど、
ぼくの場合、かみさんが番組を見ているわけです。
これで、ぼくが何を考えているかを、
彼女は、はじめて知ったりするんです。
ぼくは滅私奉公中ですから、
「この人、いったい何を考えているんだろう」
ということを、彼女は今まで
わかんなかった
と思うんですよ。
糸井 あぁ、そうでしょうねぇ。
土屋 いまどんどん、少なくとも
「彼女からぼくへの理解度」
は深まっているところで、
これがどうなっていくんだろうなあ、
ということがありますよね。
糸井 うん。
土屋 そうは言っても、ふだん家に帰った時には
もう眠っているわけですが、
でも、かみさんと向きあうことには、
なるだろうなぁと思います。
糸井 なるほどなぁ。
土屋さんがさっき
「テレビで人を豊かにしたい」
とおっしゃったけど、このテレビ、
まずは土屋家を豊かにしますよね。

すごくおもしろいなぁと思う。

ぼくの場合だと、ぼくの本を、
かみさんは読んでいないです。
「……へぇ」って言っておわりですから。
そのへんはある種の縁みたいなもので、
俺を理解しようとしてなんか、
相手は生きていないと思いますよ。

人って、そういうもんだと思っています。
土屋 うん。
糸井 逆に、ぼくのほうから、
かみさんを理解しようなんていうのは、
「こっそりやること」だと考えていますね。

今回、土屋さんとのべ何回か話すことで、
おたがいに
いくつか宿題を抱えたと思うんですけど、
ぼくのほうの宿題としては、
「土屋さんが
 うらやましいと思ってくれるようなことを
 ぼくは、これからどれだけできるか」
っていうことですよね。
土屋さんのほうの課題は、
「研究者肌でコンセプチュアルアートを
 ずっとやってきた人が、
 コンセプトから離れて
 芸術家になっていくにはどうするのか」
というようなことかなぁ。
土屋 うん。
糸井 今は、古いひとに
会わなきゃならないかもしれないですね。
あたらしい人は、だいたい
同じ悩みを持っていたりしますから。
土屋 そうでしょうねぇ。
電波少年的放送局をやっていておもしろいのは、
やっぱり、
「俺は何にもわかっていなかったな」
というのがガーンを感じられるところなんです。
糸井 それは、おもしろいですよね。
土屋さんって、今は、
「戦術はぜんぶ持っていて、
 戦略がときどき抜ける人」
だと思うんです。
戦術の部分ではほんとうにもう、ものすごい。
ただ、戦略の根っこにある動機の部分は
人に預けているから、だからこそ
サラリーマンという言葉を
たくさん使うんだろうし。
でもこれからこの放送を続けてどう変わるか、
ですよね。

……あ、関係ないけど、
今こうしてテレビに映っている
土屋さんや俺が、ものすごい男前だったら
どうなったんだろう?と、ふと思ったんですよ。
そうなったら、またおもしろいですよね。
それを考えないと、ポルノは作れない。
土屋 (笑)うん。
糸井 「巨根とは何か?」とか、
「男前とは何か?」とか、あのあたり、
作り手としては、
ものすごく興味がありますよー。

(おわり)

このページへの激励や感想などは
メールの表題に「Tさん」と書いて
postman@1101.comにくださいね。
Tさんにも、転送いたしますよー。


2002-06-25-TUE

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