糸井 |
土屋さんの視聴者像を聞いていて、
いま思い出したことがあるんです。
ぼくは、今、農業関係の仕事で
田舎をまわっているんですが、そうすると、
やっぱり無骨な人やシャイな人とも
出会うんです。
最初は、仏頂面してボソボソ言っていたり。
ただ、その人に
もうちょっとだけつきあっていくと、
これがまぁ、ひとりずつが、
「あぁ、こんなことまで考えているんだぁ!」
ということまで考えていて、
感心するんですよ。
よく考えたら、女房子どもって、
そうですよね。
ふだんはふつうに
接しているだけの家族なのに、
「え、そういうやつだとは、
思わなかった!」
ってびっくりしちゃうぐらいに、たまに
いいことを言ったりするじゃないですか。 |
土屋 |
あぁ、それはそうですねー。 |
糸井 |
その家族みたいなのが、
「視聴者」なんですよ。
ふだんは全然出てこないけれども
いざ困った時のひとことに
「あれ、お前って、そんなやつだったの?」
と思わず感動してしまうというか、
人って、なかなか
わからないものなんですよね。
だから、一般的に
「視聴者」と呼ばれているような
固定した姿での人って、いないと思う。
ちょっと気になるのは、
例えば電波少年的放送局の掲示板の中には、
誰か固定のアイドルのファン
っていう人たちが、
必ず入ってきますよね。
「その子が何をしていても大好き」という人が
CS日本に
加入してくれている場合もあるでしょう。
だけど、その人は
土屋さんの話なんて聞いていないんですよ。
それよりも、自分の好きな
特定の女の子のうなじが見たいだとか、
そうなってくると、作っている側からすれば、
言いにくいでしょうけど、
腹が立つでしょうねぇ。 |
土屋 |
いや……あのね、
それは慣れているんですよ。 |
糸井 |
あぁ、慣れちゃっているんだ? |
土屋 |
逆に、「もう、そういうもんだよ」と。
だから、そのぐらい、ある意味で
テレビ側の人たちは
視聴者を侮辱しているんですよ。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
ぼくは、きっちりひとつずつに、
腹が立つんです。
「おまえ、それでおまえは幸せかよ!」
って、ついつい、言いたくなるんです。
ぼくはやっぱり、雇われている分だけは
一生懸命にやっているという枠ではないから、
やっぱり、メールを読んでいても、
おまえと俺と、という感じで
どこか、向かいあってしまうんです。
あんまり関わっているとコストが高いから
直接に怒りはしないけれども、心の中で、
「うなじがどうだとか、乳首がどうだとか、
そういう次元で生きているあなたっていうのは、
いつか、本気で恋をする時だって
あるでしょう?」
って、思っているんです。
「ほんとうに恋をした時に、
相手の服の隙間から
乳首が見えたとかどうだとかいうことだけを
気にするような人になっていたら、
ふられるよ。
もっと、違うようにつながっているほうが、
楽しいよ」
そんなようなことを、
言いつづけるしかないわけです。 |
土屋 |
なるほど。 |
糸井 |
さっき、家族の話をしたことの延長線で言うと、
今回の62時間の放送に事件があったのは、
かみさんが来たことですよ。
ほんとうに人みしりなやつなんだけど……。 |
土屋 |
あのタイミングで来たのは、
イトイさんの、隠し球だったんですか? |
糸井 |
そうじゃないです。
あれが隠し球だったとしたら、
ぼくはテレビの人ですよ。
「隠し球をじょうずに作れる
優秀なプロデューサー」ってことになる。
でも、それはないですよ。
出てくる時には、電話をするかもしれない、
とは言っていたんです。
でも、本人がイヤならいいか、とも思ってた。
……ぼくの場合は、
樋口可南子さんという人が奥さんですから、
何でもないやりとりが、視聴者にとっては、
「あ、見ちゃった」という楽しみになるから。 |
土屋 |
さっきの話で言うと、ジャンルとしては
「天皇陛下の日常の姿」の楽しみですね。 |
糸井 |
ちょっとは、ね。
で、案の定、向こうも、
「放送につながらない携帯電話だったら、して」
って言っていたぐらいなんです。
ただ、人が一生懸命になっていると、
絶対に手伝う人なんですよ。
一生懸命が半端な時は
ぜんぶ無視する人だけど。
でも、「そっちに行く」って言った時には、
ほんとうに真っ白になりましたね。
ふだん、そういうことはないから。
……と同時に、
「いま俺、まったくの個人として
電話でつながっている姿が見られちゃった」
とか、
「サービスとしてついついできちゃった」
とかいうことも残ってきますから、
もうそれ以後は、事故に遭った俺、
ということになっちゃったんですね。 |
土屋 |
ぼくはその話を聞いた時に
つかみきれない!というか何それは!というか、
糸井さんが事故とおっしゃって、
それでわかりましたけれど、ぼくの感想は、
「そんなことをしてもらうようなことを、
われわれは、していない」
という驚きでした。
これで5億円のギャランティを積んでいるなら、
もしかしたらそのぐらいは
してもらってもいいかなみたいなことはあるけど、
そんなことはない。
あれ?っていうのが、ありました。 |
糸井 |
ぼくは、そこで愛情を
読者に見せたいかというと
それはあんまりないから、
恥ずかしいですよね。
でも、「ま、いいや」とも思えた。 |
土屋 |
そこの「いいや」のボタンが、
別れ目でしょうね。
事故があったとしても、
「いや、俺、救急車はいいよ、
タクシーでいけるから」
っていうようになる場合も、
あるじゃないですか。 |
糸井 |
(笑)あるある。ありますよ、それは。 |
土屋 |
いやぁ、だからすごいびっくりした。 |
糸井 |
ああいう状況を、
土屋さんが引き受けられるかどうかが、
さっき言っていた
転換点を迎えたかどうか、なんです。 |
土屋 |
あぁ、そうでしょうねぇ。 |
糸井 |
たとえば、これから自分のやることについて、
「たいへんなことになるかもしれない」
って、今のぼくなら、言えるんですよ。
それは相手との関係の話でもあると同時に、
自己愛の話でもあるんですよ。
自己愛がなければ、
相手にも強いることができないから。 |
土屋 |
とにかく、ぼくはかみさんから
「樋口さんがいらした」と聞いた時に、
俺はお前と、
そうは向きあっていないなぁというか、
夫婦としては
非常に未熟なんだなあということを
実感させられたというか……。 |
糸井 |
あの事故は、様式ができていたがゆえに、
結果的にそうなった、
ということでしょうけどね。 |
土屋 |
ここで糸井さんと話している様子は
こないだと同様にテレビに映りますけど、
ぼくの場合、かみさんが番組を見ているわけです。
これで、ぼくが何を考えているかを、
彼女は、はじめて知ったりするんです。
ぼくは滅私奉公中ですから、
「この人、いったい何を考えているんだろう」
ということを、彼女は今まで
わかんなかったと思うんですよ。 |
糸井 |
あぁ、そうでしょうねぇ。 |
土屋 |
いまどんどん、少なくとも
「彼女からぼくへの理解度」
は深まっているところで、
これがどうなっていくんだろうなあ、
ということがありますよね。 |
糸井 |
うん。 |
土屋 |
そうは言っても、ふだん家に帰った時には
もう眠っているわけですが、
でも、かみさんと向きあうことには、
なるだろうなぁと思います。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
土屋さんがさっき
「テレビで人を豊かにしたい」
とおっしゃったけど、このテレビ、
まずは土屋家を豊かにしますよね。
すごくおもしろいなぁと思う。
ぼくの場合だと、ぼくの本を、
かみさんは読んでいないです。
「……へぇ」って言っておわりですから。
そのへんはある種の縁みたいなもので、
俺を理解しようとしてなんか、
相手は生きていないと思いますよ。
人って、そういうもんだと思っています。 |
土屋 |
うん。 |
糸井 |
逆に、ぼくのほうから、
かみさんを理解しようなんていうのは、
「こっそりやること」だと考えていますね。
今回、土屋さんとのべ何回か話すことで、
おたがいに
いくつか宿題を抱えたと思うんですけど、
ぼくのほうの宿題としては、
「土屋さんが
うらやましいと思ってくれるようなことを
ぼくは、これからどれだけできるか」
っていうことですよね。
土屋さんのほうの課題は、
「研究者肌でコンセプチュアルアートを
ずっとやってきた人が、
コンセプトから離れて
芸術家になっていくにはどうするのか」
というようなことかなぁ。 |
土屋 |
うん。 |
糸井 |
今は、古いひとに
会わなきゃならないかもしれないですね。
あたらしい人は、だいたい
同じ悩みを持っていたりしますから。 |
土屋 |
そうでしょうねぇ。
電波少年的放送局をやっていておもしろいのは、
やっぱり、
「俺は何にもわかっていなかったな」
というのがガーンを感じられるところなんです。 |
糸井 |
それは、おもしろいですよね。
土屋さんって、今は、
「戦術はぜんぶ持っていて、
戦略がときどき抜ける人」
だと思うんです。
戦術の部分ではほんとうにもう、ものすごい。
ただ、戦略の根っこにある動機の部分は
人に預けているから、だからこそ
サラリーマンという言葉を
たくさん使うんだろうし。
でもこれからこの放送を続けてどう変わるか、
ですよね。
……あ、関係ないけど、
今こうしてテレビに映っている
土屋さんや俺が、ものすごい男前だったら
どうなったんだろう?と、ふと思ったんですよ。
そうなったら、またおもしろいですよね。
それを考えないと、ポルノは作れない。 |
土屋 |
(笑)うん。 |
糸井 |
「巨根とは何か?」とか、
「男前とは何か?」とか、あのあたり、
作り手としては、
ものすごく興味がありますよー。 |