モデルや女優として活躍中の杏さんが
「ほぼ日」に遊びに来てくれました。
以前から「ほぼ日」のことをご存知で、
書籍
『LIFE』
も
愛読してくださっているとのこと。
糸井とは初対面ですが、
杏さんが好きな歴史の話からはじまって、
着物やモデルの話にいたるまで、
なかなか盛り上がったんです。
「杏さんって、いろんなことを一人で考えてきた、
という感じがしておもしろいね」
と糸井が感心する場面も。
全5回、どうぞお楽しみください。
糸井
うちで、女優さんの対談って、
あんまりやらないんですよ。
杏
そうなんですか。恐縮です。
糸井
こちらこそ。
男の役者さんは、知ってる人がいると、
「最近どうしてるの?」みたいにやるんだけど、
女性とはほとんどないんです。
なぜかっていうと、何を話していいか
わかんないからなんですよ、ぼくが(笑)。
杏
(笑)
糸井
でも、いろんな話をしてくれる人となら
できるかもな、って。
たとえば、杏さんは歴史好きで、
「歴史の話をはじめると止まらない」
という噂を聞きまして。
杏
いやいや、止まらなくなるというよりは、
「ただ好き」というだけなんです。
糸井
もともと歴史の勉強が好きだったんですか?
杏
そうですね。
祖父が歴史好きで、
私もその影響を受けたんです。
子どものころ、
祖父が、池波正太郎の『幕末新選組』と、
司馬遼太郎の『燃えよ剣』を
送ってきてくれたことがあって。
糸井
シブいですねえ(笑)。
それ、送ってきても、
読まない子どもも多いと思いますよ。
杏
あ、私含め孫一同は
みんな祖父のことが大好きで、
「おじいちゃんがくれた本なら読む!」
っていう感じなんです。
糸井
歴史は、どこらへんに興味があるんですか?
杏
幕末あたりが好きですね。
私が生まれた年が1986年で、
泉重千代さんが亡くなった年なんです。
実際の年齢に関しては
いろいろな説があるみたいですけど、
一応は「江戸時代生まれの最後の1人」となってて。
それくらい、江戸時代って、
手を伸ばせば届きそうな感覚があって、
そういうところに惹かれます。
糸井
たしかに「生きてる人がいた」という、
その感覚って、やっぱり江戸までですよね。
それで言うと、うちの会社に、
徳川の末裔がいますよ。
杏
えっ。
糸井
親戚が「徳川さん」らしいです。
親戚が集まると、
「そこへなおれ!」みたいな
おじいさん、おばあさんが現れるそうです。
杏
すごい、やんごとなき方々が。
糸井
うん。家には槍があるそうです。
リアルですよね。
ぼくは、あなたみたいに
歴史についてそこまで興味はなかったんだけど、
江戸末期に穴を掘って金を埋めたという伝説の‥‥。
杏
徳川埋蔵金!
糸井
そう。そこに関わったというか、
引きこまれちゃったもんだから、
何年も番組をやったんです。
その時代について調べざるを得ないから
調べているうちに、
江戸時代の「近さ」については、
ものすごく感じましたね。
杏
ああ。
糸井
それと、ぼくには、
明治生まれのおばあさんも
身近にいたんだけど、
明治生まれの人というのは、実は
江戸と隣り合わせなんですよね。
埋蔵金を隠したと言われてる人も、
普通に明治の社会に生きていた。
それを昭和の時代に掘って‥‥
そこのつながり方が、なんかすごく
距離が短いなぁ、というのが1つの印象です。
もう1つは、これだけ時間があると、
たいがいの嘘はつけちゃうんだなということ。
「定かでないこと」だらけじゃないですか。
杏
はい。都合のいいことだけしか残ってなかったり。
糸井
そうですよね。
史実として間違いないと
言われていることにしても、
「その部分だけ取りだせば合ってるんだろうけど、
本当はどうなんだろう?」とか。
杏
そうですね。
糸井
歴史が好きだと、どこか、
ゆかりのある場所に旅をしたりもするんですか?
杏
はい。ちょくちょく行ってます。
糸井
あ、本気ですね、やっぱり(笑)。
どこ行きました?
杏
つい最近だと、新潟にある
「河井継之助記念館」です。
糸井
知らない、知らない(笑)。
杏
司馬遼太郎の『峠』という小説の
主人公にもなっている長岡藩の家老なんです。
先見の明があった人で、
当時、日本にガトリング砲という
最新兵器が3台あったんですけど、
そのうち長岡藩が2台所有してたんですね。
それは、家老だった
河井継之助が有能だったから、
という話があるんです。
かっこいいんですよ。
糸井
小説を読んで、
その人を好きになっちゃうんだ。
杏
はい。福島にも別の
「河井継之助記念館」があるらしくて、
そっちにも行きたいなぁと思ってます。
糸井
実際に、その場所に行くことで
ますます興味がわいてくるんですか。
「本当にいた人」として、
ジーンとくる、みたいな?
杏
そうですね。
「彼はこの石垣に触ったかな」
「この木はその頃から生えてるのかな」って。
今日、この対談の前に、
ほぼ日社内を案内していただいたときに、
和田誠さんや宮崎駿さんの
原画が飾ってあるのを見て、
「本物だぁ!」って感激したんですけど、
本物って、描いた人との距離感が一緒じゃないですか。
それと同じで、
以前、縄文土器を見に行ったときも、
「これ、縄文土器を作った人と同じ距離なんだ」
って思えて、うれしくなったんです。
糸井
ぼく、そういうのって、感覚的には、
「男のもの」かと思ってました。
杏
え?
糸井
たとえば、ドラマで言うと、
縄文土器を触りながら、
いろいろ想像してるのが男役で、
女の子が、
「いつまで見てるの」って言う役じゃん。
でも、あなたの場合は、
見つめてるほうの人ですよね(笑)。
杏
あ、そうですね。
糸井
男の子のほうが、
「もう行こうよ」なんて言ってそう。
杏
(笑)
私、兄がいるので、その影響で
ちょっと男の子っぽく育ってきたのかもしれません。
野球も好きですし。
糸井
ああ。どこのファンですか?
杏
そこまで熱心じゃないんですけど、
巨人ファンです。
糸井
そうですか。
お父さん(渡辺謙さん)は
阪神ファンですよね、激しく(笑)。
杏
父は、激しいですね。
ネットで見たんですけど、キャンプまで行って、
野次を飛ばしてるみたいで(笑)。
糸井
野球にも、
歴史的に見つめる感覚がありますか?
杏
うーん、神宮球場に「竣工大正何年」と
書いてあるのを見ると、
「わぁ、ずっとあるんだ」って思います。
あと戦時中、学徒出陣の出征式も
ここで行われたんだなぁって思ったり‥‥。
糸井
ああ。
ものが時間を超えて残ってるというのが
好きなんですね。
あの‥‥変って言われますよね、それ(笑)。
杏
そうですね。
はじめて免許を取ったときのことなんですけど、
車を借りてドライブしようと思って、
「明日、みんなで小旅行とかどうかな」って、
いろんな友達を誘ってみたんです。
糸井
あ、なんか予感が‥‥(笑)。
杏
「福島の会津若松に、
城を見に行こうと思うんだけど」って‥‥。
でも誰も来てくれなくて、一人で行きました。
糸井
免許取ったら、城(笑)。
まぁ、城はやっぱりすごみがありますからね。
ぼくも、かなり前に、
京都の新選組ゆかりの場所を
堺雅人君と一緒に回ったことがありますよ。
杏
それ、楽しそうですね。
糸井
すごく楽しかったですよ。
でも、京都の新選組って
「観光地化」されちゃってるんです。
拷問場所になっていた蔵が、
ある種の自慢になっていたり、
「ここに刀傷があります」って見せられたり。
で、入場料があって、
帰りにはお茶する場所があって‥‥。
堺君は大河ドラマの『新選組!』に出て、
切腹シーンとかも演じたことがあるから、
坊さんが、いかにも観光観光した解説をしてるのを、
かなり複雑な表情で聞いてました(笑)。
杏
その、実際に切腹した部屋も
まだ残ってるんですよね。
糸井
残ってます、残ってます。
杏さんは、そういう
歴史ものの役をやったことはありますか?
杏
歴史ものだと、大河ドラマの『平清盛』に出ました。
平安時代の話です。
私、幕末から入りましたけど、
戦国も、平安も、縄文時代も好きなんです。
糸井
宇宙創成とかまで
さかのぼっても大丈夫?
杏
はい。
糸井
ぼくが去年出した『知ろうとすること。』
という本のなかに、
水素の話が出てくるんです。
水素というのは、138億年前に
宇宙が誕生した直後にできたもので、
そのまま消えずに、いろんなものと
くっ付いたり離れたりしながら残ってるそうなんです。
「ぼくらの体内を構成してる水は
全部そのときのものです」
という話を聞いて、あまりに感心したもんだから、
本題とはずれるんだけど、
その内容も収録したんですよ。
地球の歴史が46億年なのに、
「138億年前の水素が、いま、自分の体内にある」って、
まさしく杏さんの好きなタイプの話ですよね。
杏
大好きですね。
宇宙の話でいうと、
すごくロマンのある話だなって思うのが、
いま私たちがやってるテレビやラジオの仕事も、
1回電波に乗ると、空中を漂って、その後、
永遠に宇宙空間をさまよい続けているそうなんですよ。
糸井
飛んで行ってるわけだ。
杏
はい。あの作品もこの作品も、いま、
宇宙空間のどこかにフワフワしてるんだと思うと、
おもしろいなって。
糸井
時間を感じるものが全部好きなんですね。
うん、だって、人は儚いものね。
儚いけど、その人にまつわるものや
場所はずっと残っていきますからね。
(つづきます)
2016-03-14-MON
星ガ丘ワンダーランド
20年前に姿を消した母親がある日突然、謎の死を遂げる―。
出会うはずのなかった7人が出会い、
それぞれの過去がつながって
真相が解き明かされる、至極のミステリー。
出演:中村倫也 新井浩文 佐々木希 菅田将暉
杏 市原隼人 木村佳乃 松重豊
監 督:柳沢翔
配給:ファントム・フィルム
(C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会
写真:小川拓洋 ヘアメイク:平元敬一(NOBLE') スタイリング:佐伯敦子 衣装協力:パンツ/
yunahica
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.