杏さんが考えてきたこと。
モデルや女優として活躍中の杏さんが
「ほぼ日」に遊びに来てくれました。
以前から「ほぼ日」のことをご存知で、
書籍『LIFE』
愛読してくださっているとのこと。
糸井とは初対面ですが、
杏さんが好きな歴史の話からはじまって、
着物やモデルの話にいたるまで、
なかなか盛り上がったんです。
「杏さんって、いろんなことを一人で考えてきた、
という感じがしておもしろいね」
と糸井が感心する場面も。
全5回、どうぞお楽しみください。
目次
第1回:残っていくものが好き。 2016-03-14-MON
第2回:新品じゃないものの価値。 2016-03-15-TUE
第3回:着物をもっと身近なものに。 2016-03-16-WED
第4回:モデルの仕事と定型詩。 2016-03-17-TH
第5回:杏さんが考えてきたこと。 2016-03-18-FRI
第1回:残っていくものが好き。
糸井
うちで、女優さんの対談って、
あんまりやらないんですよ。
そうなんですか。恐縮です。
糸井
こちらこそ。
男の役者さんは、知ってる人がいると、
「最近どうしてるの?」みたいにやるんだけど、
女性とはほとんどないんです。
なぜかっていうと、何を話していいか
わかんないからなんですよ、ぼくが(笑)。
(笑)
糸井
でも、いろんな話をしてくれる人となら
できるかもな、って。
たとえば、杏さんは歴史好きで、
「歴史の話をはじめると止まらない」
という噂を聞きまして。
いやいや、止まらなくなるというよりは、
「ただ好き」というだけなんです。
糸井
もともと歴史の勉強が好きだったんですか?
そうですね。
祖父が歴史好きで、
私もその影響を受けたんです。
子どものころ、
祖父が、池波正太郎の『幕末新選組』と、
司馬遼太郎の『燃えよ剣』を
送ってきてくれたことがあって。
糸井
シブいですねえ(笑)。
それ、送ってきても、
読まない子どもも多いと思いますよ。
あ、私含め孫一同は
みんな祖父のことが大好きで、
「おじいちゃんがくれた本なら読む!」
っていう感じなんです。
糸井
歴史は、どこらへんに興味があるんですか?
幕末あたりが好きですね。
私が生まれた年が1986年で、
泉重千代さんが亡くなった年なんです。
実際の年齢に関しては
いろいろな説があるみたいですけど、
一応は「江戸時代生まれの最後の1人」となってて。
それくらい、江戸時代って、
手を伸ばせば届きそうな感覚があって、
そういうところに惹かれます。
糸井
たしかに「生きてる人がいた」という、
その感覚って、やっぱり江戸までですよね。
それで言うと、うちの会社に、
徳川の末裔がいますよ。
えっ。
糸井
親戚が「徳川さん」らしいです。
親戚が集まると、
「そこへなおれ!」みたいな
おじいさん、おばあさんが現れるそうです。
すごい、やんごとなき方々が。
糸井
うん。家には槍があるそうです。
リアルですよね。
ぼくは、あなたみたいに
歴史についてそこまで興味はなかったんだけど、
江戸末期に穴を掘って金を埋めたという伝説の‥‥。
徳川埋蔵金!
糸井
そう。そこに関わったというか、
引きこまれちゃったもんだから、
何年も番組をやったんです。
その時代について調べざるを得ないから
調べているうちに、
江戸時代の「近さ」については、
ものすごく感じましたね。
ああ。
糸井
それと、ぼくには、
明治生まれのおばあさんも
身近にいたんだけど、
明治生まれの人というのは、実は
江戸と隣り合わせなんですよね。
埋蔵金を隠したと言われてる人も、
普通に明治の社会に生きていた。
それを昭和の時代に掘って‥‥
そこのつながり方が、なんかすごく
距離が短いなぁ、というのが1つの印象です。
もう1つは、これだけ時間があると、
たいがいの嘘はつけちゃうんだなということ。
「定かでないこと」だらけじゃないですか。
はい。都合のいいことだけしか残ってなかったり。
糸井
そうですよね。
史実として間違いないと
言われていることにしても、
「その部分だけ取りだせば合ってるんだろうけど、
本当はどうなんだろう?」とか。
そうですね。
糸井
歴史が好きだと、どこか、
ゆかりのある場所に旅をしたりもするんですか?
はい。ちょくちょく行ってます。
糸井
あ、本気ですね、やっぱり(笑)。
どこ行きました?
つい最近だと、新潟にある
「河井継之助記念館」です。
糸井
知らない、知らない(笑)。
司馬遼太郎の『峠』という小説の
主人公にもなっている長岡藩の家老なんです。
先見の明があった人で、
当時、日本にガトリング砲という
最新兵器が3台あったんですけど、
そのうち長岡藩が2台所有してたんですね。
それは、家老だった
河井継之助が有能だったから、
という話があるんです。
かっこいいんですよ。
糸井
小説を読んで、
その人を好きになっちゃうんだ。
はい。福島にも別の
「河井継之助記念館」があるらしくて、
そっちにも行きたいなぁと思ってます。
糸井
実際に、その場所に行くことで
ますます興味がわいてくるんですか。
「本当にいた人」として、
ジーンとくる、みたいな?
そうですね。
「彼はこの石垣に触ったかな」
「この木はその頃から生えてるのかな」って。
今日、この対談の前に、
ほぼ日社内を案内していただいたときに、
和田誠さんや宮崎駿さんの
原画が飾ってあるのを見て、
「本物だぁ!」って感激したんですけど、
本物って、描いた人との距離感が一緒じゃないですか。
それと同じで、
以前、縄文土器を見に行ったときも、
「これ、縄文土器を作った人と同じ距離なんだ」
って思えて、うれしくなったんです。
糸井
ぼく、そういうのって、感覚的には、
「男のもの」かと思ってました。
え?
糸井
たとえば、ドラマで言うと、
縄文土器を触りながら、
いろいろ想像してるのが男役で、
女の子が、
「いつまで見てるの」って言う役じゃん。
でも、あなたの場合は、
見つめてるほうの人ですよね(笑)。
あ、そうですね。
糸井
男の子のほうが、
「もう行こうよ」なんて言ってそう。
(笑)
私、兄がいるので、その影響で
ちょっと男の子っぽく育ってきたのかもしれません。
野球も好きですし。
糸井
ああ。どこのファンですか?
そこまで熱心じゃないんですけど、
巨人ファンです。
糸井
そうですか。
お父さん(渡辺謙さん)は
阪神ファンですよね、激しく(笑)。
父は、激しいですね。
ネットで見たんですけど、キャンプまで行って、
野次を飛ばしてるみたいで(笑)。
糸井
野球にも、
歴史的に見つめる感覚がありますか?
うーん、神宮球場に「竣工大正何年」と
書いてあるのを見ると、
「わぁ、ずっとあるんだ」って思います。
あと戦時中、学徒出陣の出征式も
ここで行われたんだなぁって思ったり‥‥。
糸井
ああ。
ものが時間を超えて残ってるというのが
好きなんですね。
あの‥‥変って言われますよね、それ(笑)。
そうですね。
はじめて免許を取ったときのことなんですけど、
車を借りてドライブしようと思って、
「明日、みんなで小旅行とかどうかな」って、
いろんな友達を誘ってみたんです。
糸井
あ、なんか予感が‥‥(笑)。
「福島の会津若松に、
城を見に行こうと思うんだけど」って‥‥。
でも誰も来てくれなくて、一人で行きました。
糸井
免許取ったら、城(笑)。
まぁ、城はやっぱりすごみがありますからね。
ぼくも、かなり前に、
京都の新選組ゆかりの場所を
堺雅人君と一緒に回ったことがありますよ。
それ、楽しそうですね。
糸井
すごく楽しかったですよ。
でも、京都の新選組って
「観光地化」されちゃってるんです。
拷問場所になっていた蔵が、
ある種の自慢になっていたり、
「ここに刀傷があります」って見せられたり。
で、入場料があって、
帰りにはお茶する場所があって‥‥。
堺君は大河ドラマの『新選組!』に出て、
切腹シーンとかも演じたことがあるから、
坊さんが、いかにも観光観光した解説をしてるのを、
かなり複雑な表情で聞いてました(笑)。
その、実際に切腹した部屋も
まだ残ってるんですよね。
糸井
残ってます、残ってます。
杏さんは、そういう
歴史ものの役をやったことはありますか?
歴史ものだと、大河ドラマの『平清盛』に出ました。
平安時代の話です。
私、幕末から入りましたけど、
戦国も、平安も、縄文時代も好きなんです。
糸井
宇宙創成とかまで
さかのぼっても大丈夫?
はい。
糸井
ぼくが去年出した『知ろうとすること。』
という本のなかに、
水素の話が出てくるんです。
水素というのは、138億年前に
宇宙が誕生した直後にできたもので、
そのまま消えずに、いろんなものと
くっ付いたり離れたりしながら残ってるそうなんです。
「ぼくらの体内を構成してる水は
全部そのときのものです」
という話を聞いて、あまりに感心したもんだから、
本題とはずれるんだけど、
その内容も収録したんですよ。
地球の歴史が46億年なのに、
「138億年前の水素が、いま、自分の体内にある」って、
まさしく杏さんの好きなタイプの話ですよね。
大好きですね。
宇宙の話でいうと、
すごくロマンのある話だなって思うのが、
いま私たちがやってるテレビやラジオの仕事も、
1回電波に乗ると、空中を漂って、その後、
永遠に宇宙空間をさまよい続けているそうなんですよ。
糸井
飛んで行ってるわけだ。
はい。あの作品もこの作品も、いま、
宇宙空間のどこかにフワフワしてるんだと思うと、
おもしろいなって。
糸井
時間を感じるものが全部好きなんですね。
うん、だって、人は儚いものね。
儚いけど、その人にまつわるものや
場所はずっと残っていきますからね。

(つづきます)
2016-03-14-MON
杏さん出演映画「星ガ丘ワンダーランド」公開中!
20年前に姿を消した母親がある日突然、謎の死を遂げる―。
出会うはずのなかった7人が出会い、
それぞれの過去がつながって
真相が解き明かされる、至極のミステリー。

出演:中村倫也 新井浩文 佐々木希 菅田将暉 
杏 市原隼人 木村佳乃 松重豊 

監 督:柳沢翔

配給:ファントム・フィルム
(C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会