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atelier shimuraで生きる あたらしいつくり手たち。

今回から2回にわけて、atelier shimuraのなかから、
5人のつくり手のみなさんにお話をきいていきます。
(もっといらっしゃるのですが、代表して。)

取材チームの目には、みなさんがとてもたのしそうに、
まっすぐに、でもきちんと悩みながら、それを解決して、
前にすすんでいるように見えました。
仕事はとても忙しく、「染めていればいい」
「織っていればいい」というものではないようです。
新商品の開発、そのための連携、外部との連絡、
資料をつくったりウエブページをかんがえたり。
洋子さん、昌司さん、宏さんと密にやりとりしながら、
atelier shimuraを立ち上げる現場は、
ほんとうに活気にみちています。
それもそのはず、工房の「弟子」であると同時に、
みんな、atelier shimuraのこれからをしょって立つ
だいじなメンバーでもあるのですから。

さて、インタビューの質問は、
「なぜ、みなさんは、ここにいるのですか?」
というものでした。
出身地も経歴もばらばらなみなさんが、
なぜここにいるんだろうということに、
強く興味があったからです。

また、取材をしていて感じたのですが、
atelier shimuraは洋子さん、昌司さん、
宏さんはもちろんのこと、
みなさんが自分のことばで、自分の考えを、
きちんと伝えてくださいます。
これについて、いちばん先輩の吉水まどかさんに
その秘密を訊いたところ、
どうやら、洋子先生が
日々の(自然な)トレーニングを
してくださっているらしい、とわかりました。

まずはそんなお話から、
いちばん先輩である吉水まどかさんに。
そしてみなさんにも、
「なぜ、ここにいるのですか?」
という質問に答えていただきました。

atelier shimura で生きる
2

原 海音(はら あまね)さん

わたしはアルスの2期生です。
今年の春、みんなと一緒に
atelier shimuraのみどり工房に入りました。

もともと「織り」が好きでした。
仕事で札幌にいたことがあって、そのときに、
羊毛で織りを習っていました。
京都に戻ってきてからも織りをしたいなと思って、
ずっと探していたなか、滋賀でやっていた
ふくみ先生の展覧会を
母に連れられて見に行きました。
見たとき、「色が‥‥!」と思いました。
「わぁ、色だ。すごい色だ!」って。
わたしはとくに黄色、くちなしの黄色が
とても印象的でした。
それがふくみ先生に出会ったきっかけで、
そこから先生が学校を開かれているのを知り、
アルスに入ったんです。

▲atelier shimuraで染められた帯揚げ。微妙な色の違いで、100色もの色があります。

羊毛の織りとはまったくちがいました。
羊毛は、そっと、糸をそこに「置く」ように
ふわりと織るんです。
けれども絹や綿の平織りは
筬(おさ)を2回、トントン、と音をさせて
きっちり入れていくんですね。
その音がとても気持ちいいんです。
杼(ひ=緯糸を通す道具。シャトル)が
シャッ! と通る音も。
まるで楽器を演奏しているようで、
織っていてリズムよくその音がすると、
「今日は調子がいいな」って思います。
▲左が原海音さん、右がこのあと最後に登場する藤本里菜さんです。

佐藤菜生(さとう なお)さん

出身は新潟です。
最初の出会いは20歳のときに、
ふくみ先生の本を読んだことでした。
この人にすごく会いたい、と思ったんです。
新潟の大学の教育学部に通っていたんですけれど、
ずっとものを作ることが好きで、
本当は芸術系に行きたかったと思いながら
過ごしていました。
いっぽうで、教育学部のなかで
シュタイナー教育に触れて、
人と人をつなげたり、
人とものをつなげたりということに
つよく興味があった時期でした。
その時に、たまたま新潟で
織物を勉強する機会があって、
そこにはすごくいいものがあると気付いたんです。
それが新潟にあったということを
知らなかったこともショックでしたが、
そこが入り口になって、
染色や織物に興味を持ち始めました。
こういったすごくいいものが日本にあるのに、
伝統産業はどんどん廃れていくこの現状が
何だかすごくもったいないなと思っていたとき、
ふくみ先生のご本を読んで、
いろいろなことがつながりました。
興味を持っていたシュタイナーのことであったり、
その奥にあるゲーテのことであったり、
もの作りに対する姿勢、伝統、
ふくみ先生は日本の文化というものを
すごく考えてこられた方で、
それをご高齢になってもずっとやり続けている。
そんな方がいるんだっていうことを知り、
つよく興味を持ちました。

▲ふくみ先生のお話をされるときのまっすぐな目がとても印象的でした。

また、ご縁があって、
ふくみ先生の美術展に関わっていた
学芸員さんと出会いました。
そのかたはアルス1期生で、
こういう学校ができたんだよというのを
教えて下さって、見学に行き、
飾ってあった着物を見て衝撃を受けました。
今まで本では見ていて、
素敵だなとは思ってたんですけれど、
実際目の前で、植物で染められて織られた
着物を見たとき、「生きてる」と思いました。
‥‥なかなか言葉で言えないんですけど、
「ああ、ここだ!」と思ったんです。

そのときわたしは学校を卒業していて、
アルスは1期が始まっていたんですけれど、
予科の募集で秋のコースがあったので、
まずは予科に通ってみようと、
京都に住み、通いはじめました。

▲冬青(そよご)と桜で糸を染め、織り上げたお着物。
織り始めたのは春。冬が終わって春が来る、何かがはじまるようなワクワクする気持ちを感じながら織られたのだそうです。


藤本里菜(ふじもと りな)さん

わたしはアルスの3期生です。
ふくみ先生の本に引き寄せられたのが、
アルスに入るきっかけでした。

東京で働いていて、
たまたま埼玉の実家に戻ったとき、
かつてわたしの部屋だったところの本棚に
ふくみ先生の
『一色一生』があるのに気付きました。
父の本だったようです。
表紙はふくみ先生が織られた、
格子柄のデザインでした。
スッと引き寄せられて読みました。
そうなんです、作品を見るよりも
先に文章から入ったんですね。
けれどもその文を読んだだけで、
すごくその世界が伝わるということに
とても驚きました。
それまで、ものを作ってる方の文章を読んでも、
そこまで「伝わる」ものに
出会ったことがなかったんです。

わたしはもともと絵を描いたり、
ものを作るっていうことが、
小さい頃からすごく好きでした。
ものをつくっていると、
自分と一体となってるというか、
それがないとあんまり自分じゃないと
いうふうに思い込んでた部分もありました。
大学も美術系でしたが、
卒業して社会人になるというとき、
「生活する」ということと「美術」が
なかなかうまく結びつかないのが
葛藤というか、もどかしいと思いながら
何年かが過ぎていました。
絵を描いたり彫金をしたりしながらも、
仕事はまったく別。
美術をシャットアウトして生きる、
という暮らしが続くなかで、
『一色一生』に出会ったんです。

わたしは言葉で話すのは得意ではなく、
描いて表現したいと思っていたのですが、
ふくみ先生には両輪があります。
ほんとうに人に伝えるための言葉もすごいし、
その作品も力強くて訴えるものがあります。
同時に2つのものを持つ方がいらっしゃる。
そのことにも、びっくりしました。

そして学校があることを知り、
そこから2年ぐらいかけて
いろいろ準備をして、迷いなく仕事を辞め、
こちらに引っ越したんです。

▲「ちょっと体調が悪いなって思った日でも、機にのって一通り織ると、逆に気持ちがしゃんとしてくるっていう体験もありました。色から元気をもらうことがほんとうにとても多いんです。」


みなさん、ありがとうございました。
それぞれのものがたり、とても興味深く
聞かせていただきました。
そして、こんなふうにきちんと
自分のことを語れるのって、
やっぱりすごいなと感じます。
(洋子先生の特訓が生きている!)

TOBICHI2、そしてifs未来研究所での
展示やワークショップ、イベントには、
今回インタビューを受けてくださった
みなさんもやってきます。
どんどん話しかけて、染めや織り、
またふくみ先生や洋子先生たちのことを
訊いてみてくださいね。

さて、さいごにもうひとつ、
いちばん先輩である吉水まどかさんから聞いた、
印象的なことばを紹介します。
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わたしはここの工房に入って、
先生から学んだことがとても多いんですけれども、
実生活のなかでなるほどなと思うことの1つが、
「ピリオドを打たない」という教えです。
たとえば、「今日、こう決めました。」
「この結果はこうだ。」と
マルを打っちゃうと、頭のなかで、
「これは、決まったことだ」って固定してしまう。
次、何かが変わった時に、
「なぜ?一度決まったのに。」
ってなっちゃうんですね。
けれども、そういうふうに勝手にマルを打つのは
自分なんですよ。
だからマルを打たない。
常に、「決まった‥‥けれども」という部分を
持っておかないと、自分もしんどい。
先生たちは、いろいろと変わるんです。
いちばん最初は、そのリズムに慣れるのが
たいへんだったんです。
あっちに走ると思って、必死に走ってたら、
あれっ、こっちじゃない?
一所懸命走ってくったくたになる。
でも、先生は普通のペースで歩いていらっしゃる。
なぜなら全てのものごとはいつも常に変わる。
自然も人間も。
その変化を先生は
柔軟に受け入れていらっしゃるからなんだと。
染織を通してより、
この「ピリオドを打たない」の大切さを感じました。

この考え方は、この仕事だけじゃなく、
いろんなかたがたとのお付き合いもそうです。
これを習得して、すごく楽になりました。

▲話し方や内容はみなさん様々でしたが、自分のこころのなかにある言葉をひとつひとつ丁寧にお話しされる様子が印象的でした。そして、ほんとうにここでのお染や織りの仕事が好き!という気持ちがひしひしと伝わってきました。

しんどいときもあります。
でも、こういう新しい仲間が増えて、
とても勉強になります。
自分で手を動かすだけじゃなくて、
手を動かしている仲間から学ぶことが、
今のわたしは増えました。
(吉水まどかさん)


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いよいよ、11月8日より「ほぼ日ストア」で
atelier shimuraのストールを販売!
それに先行して11月3日から6日まで、
南青山のTOBICHI2にて
ストールと小裂の額装と小裂の画帖の販売と、
宏さん中心の染めのワークショップ、
糸井重里や葛西薫さん、
昌司さん、洋子さん、そして
atelier shimuraのみなさんたちとの
トークショーなどを開催します。
どうぞおたのしみに!
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2016-10-28-FRI

Photo: Hiroyuki Oe, Chihaya Kaminokawa