Lesson938
悪者にされてる言葉
2019-09-11
この歳になって、つくづく、
「人が自分に配ってくれる心は、
素直にいただいておこう」、と思うようになった。
「同情はいらない」とか、「心配されるのイヤ」とか、
若いころは、さんざん文句を言ったなあ。
でも実際、文句を言われた側になってみると、
次から何も言えなくなる。
苦境にある人に言葉をかける側は難しい。
声にのせた心を受け取ろう、私。
ふりかえるとかつての私は同情を毛嫌いしていた。
でも、英訳機では、Sympathy(シンパシー)。
国語辞書にも、「苦しみを相手の立場に立って理解」
と、結構いい感じのことものっている。
なのになぜ、「同情」を過敏に嫌うのか?
学生が授業でこんなことを教えてくれた。
「後悔を悪いもののように言う人多いですよね。」
確かに、そう言われると、
「後悔のない人生を送りたい」とか、
「後悔だけはしたくない」とか、
否定的に使われているのに気づく。
反射的に、私が脳裏に浮かべたのは、
よく言われる、
「やってするのは、良い後悔。
やらずにするのは、悪い後悔。」
でも、まてよ! 本当にそうか?
私が私にツッコミを入れた。
やらなかった後悔は、みな悪い後悔なのか、と。
学生はさらに続けて、
「私たちは失敗した時、よく後悔します。
ああすればよかった、これをしなければよかった、と。
後悔した時点で、では、どうすれば良かったのか、
ちゃんと気づけているんですよ。だから、
ちゃんと次に生かせばいいんです。
皆、失敗はしていいって、言いますよね。
なんで失敗はよくて、後悔はダメなんですか?」
たしかに! 私の経験に照らして考えてみた。
声をかけるべきタイミングで、
声をかけなきゃいけない人に、かけなかった。
「なんで声かけなかったんだ、かければよかった」と、
しなかったことへ、後悔を思いっきりした。
そこでちゃんと学んで、次からは、
そういう時、声をかけるようになった。
「後悔はしていいんです」、という学生の言葉が響いた。
どうも、ドラマとか、歌の歌詞とか、アニメとか、
私は、複数の作品に、「しなかった後悔は悪いものだ」、
「後悔しない生き方が良い」などと、
刷り込まれて生きてきたように思う。
先入観で悪者にしてしまった言葉。
「同情」もそうだ。
マンガやドラマで、「同情はいらない」と、
かっこよく言う主人公に憧れた。
自立しあぐねていた年頃もあいまって。
「同情」は、たしかに、
苦しんでいる人を高みから見て、
自分より低く扱い、おとしめたらダメだけど。
一緒になって、ズブズブに悲しんで、
共倒れになってしまっちゃ、ダメだけど。
ほんとに、そんな人いた?
家族にしろ、友だちにしろ、同僚にしろ、
私が苦しい時に言葉をかけてくれた人は、
「愛してるよ」とはなかなか言わないこの社会で、
ハグの習慣のない集団の中で、みな精一杯、
私に心を配ってくれていたんじゃないか。
そこに同情というレッテルを貼ってしまったのでは。
同情は悪いものか?
距離を保つにしろ、自立を促すにしろ、
そこに行くまえに、相手の悲しみに悲しむなど、
いったん同じ感情を共有しようとする過程は、
要るんじゃないか、ただ程度の問題で。
高潔に、繊細に、同情を拒否するのも自由だ。
でも、大切な人が苦しんでるとき、
自分は、そんなに高潔に、繊細に、うまく
言葉をかけられるのだろうか?
苦しい時にかけてくれる声を、
同情は悪いものだというバイアスをかけて見て、
その声にこめられている「心」を汲み取れないと、
やがて、
「誰からも、何も、言われなくなるぞ、若い日の私。」
声かけてくれるだけで、ありがたい。
いまの私は、心からそう思う。
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
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内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
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自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
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(書き下ろし236ページ)
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