Lesson997
ちゃんと、負ける。
2021-02-24
もしも、自分の居場所に、
「自分の座をおびやかす才能」が、
やってきたらどうするか?
例えば、
自分が成績トップであり続けた職場に、
中途採用でスゴイのがやってきて、
追いこされそうになる、などだ。
きれいごとでもなんでもなく、
私は相手の理解者になる。
「好きになっちゃえば、こっちのもの」
の精神で、これまで温かく迎え入れてきた。
これには理由がある。
大人たちが自分をおびやかす才能に、
嫉妬したり、マウントかけたり、を見て、
かっこわるいと感じてきたからだ。
小者である私は、嫉妬もされない。
それでも、小者だからこそ、と
マウントかけてくる人もいて、
つくづくこう思った、
「ああはなりたくない。」
過日、
私がいつも教えている教室に、
スーパースターがやってきた。
(Aと仮に呼ぶ、イニシャルではない。)
生徒のあんな顔は今まで見たことがない。
いまをときめくA先生に、生徒は、
わくわく目を輝かせ、心躍らせ、熱中した!
そりゃあそうだ。
A先生は、私が心底リスペクトする人。
私とは異業の幅広い分野でいま活躍している
万能の人だ。
A先生の活躍を100とすれば、私は1。
しかし、生徒があそこまで喜ぶとは!
やっぱり本物はわかるんだな、
私の目に狂いはなかった。
よかった、よかった。
なぜか、ずーん、と気が沈む。
「100のA先生に遠く及ばなくても、
1の私にしかできない授業をするだけだ。」
前向きな言葉で自分を埋めようとしても、
ずーーんと、どんどん気が沈む。
その時、生徒の意外な声がした。
「くやしい!」
その生徒は、“敗北感”をむき出しにした。
聞けば、その生徒は、
A先生と同じ分野に進むと言う。
「自分は、いちばんになりたい。
Aを超えなきゃ、いちばんになれない」と。
自分よりはるかに幼いこの生徒が、
それでも一歩も降りず、Aと同じ座標にいる。
その瞬間私は、
もうどうにもごまかしようなく、
はっきり気づいてしまった。
「負けた。」
私は同じ生徒に授業をして、
A先生に負けたんだ。そして、
「くやしい。」
そう気づいた瞬間、ボワッ!!! と、
まるで息をふきかえしたように、
沈んでた気持ちに、一気に生気が戻ってきた!
さらに自分が自分に言った、
「世の中での活躍が100と1?
はっ?! だから何?
1の気持ちで授業をされる生徒の身になってみ?
私は1じゃ嫌なんだ。
100目指して頑張りたいんだ。
くやしいのは自信があるからだ!」
不遜にもそう思った瞬間、
浮かんだのは、
「トップランナーの目に映る風景」
だった。
トップを走る人の目の前に、誰もいない。
私は自分の世界をせまくして、
そのせまーい世界で、目の前無人のコースを
走っている。その風景は孤独、そのもの。
「そこに、追い越して先を行く背中が現れた」
それはすごくいいこと、と直感した。
家族に話すと、
「マラソンでも、トップの人が、
“目の前に誰もいない=ひとり旅”では、
記録が伸びない。
そこで、わざわざお金を払って、
ペースメーカーと呼ばれる凄い走り手を雇って、
先を走らせ、引っぱらせ、記録を伸ばすんだ」と。
その後、敗北感や焦燥感にかられない
と言ったら嘘になるが、
それも全部、燃料にして、
私はひたすら先へ進む行動をとった。
結果、つぎの授業で私は、
いままで生きてきて見たことのない、
“生徒の新たな歓ぶ顔”を見ることができた。
「先へ、進めた!」
ただそのことが内からひたひた幸せをくれる。
もうA先生に勝った、負けた、は気にならない。
結局、勝つ相手は“自分”だと思う。
なんでそれまで、
“ひとり旅=自分の前に背中がなかった”か?
謙虚ぶって、
負けることから、ていよく逃げた。
競争相手がいないんじゃなく、
おなじ座標から降りてたんだ、私は。
それじゃ、スタートラインにも立てない。
もしも、自分の居場所に、
「自分の座をおびやかす才能」が、
やってきたらどうするか?
いまの自分ならこう答えるだろう。
「ちゃんと、負ける。」
ちゃんと負けて、
ちゃんと悔しがって、先へ、進む。
負けを認める勇気と、
そこから自分を前に進める行動力と、
両方がいる。
そう腹をくくったら、
内から清々しい新しい風が吹き始めた。
これから私が、恐がらず、
どんどん外へ出て、
狭かった自分の世界をどんどん広げていったら、
次々と目の前に、先を行く、
多彩な背中が現れるだろう。
プライドがガラス細工の私は、
悔しくて、泣くかもしれないな。
それもまた、いいこと。
それは、無料でペースメーカーを雇って
走っていくような贅沢なことだ。
負け惜しみでなく、私にとって、
「希望の風景」
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聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
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または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
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まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
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「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
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『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
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『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
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自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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