Lesson1095
心はどこで洗うのか
2024-03-27
私たちは、洗う。
カラダは風呂で、
歯は歯磨きで、
着ているものが汚れたら洗濯機で。
もし、洗いたい時に洗えなかったら、
三日、四日、と洗えなかったら、
汚れも溜まるし、ストレスも溜まる。
やっと洗えた時、
まっさらに戻ったようにきれいになって、
またそこから清々しくスタートできる。
では、心は?
だれかがズカズカ踏み込んで荒らされたり、
冷たい風によじれたり泥をかぶったり、
くたびれ、すすけた、
「心はどこで洗うのか?」
先月、仕事で岡山を訪れた。
前日、会場を下見に行ったときのことだ。
主催者のご厚意で、まだ一般公開前の貴重な
「お庭」を見せていただけることになった。
「雑木の庭」。
たそがれ、
水の流れる音、
数寄屋造り、
庭を眺めているうち、
当初から感じていたカラダの感覚が、
しだいに無視できないほど大きくなった。
みぞおちのあたりがスーッ、とラクになる。
さっきまでそこには
日ごろのうさやストレスがたくさんあったと気づく、
それらが急速にどこかへ飛び去っていく。
ふっ、と、心が解き放たれる。
私たちは日ごろ生きてく中で
時間に縛られざるをえないんだけど、
その縛りがけっこうな重力になっていたんだと知る。
その時間の縛りから、ふっ、と自由になるというか、
自分が浮いている、ような感覚になる。
私は宗教はないし、
ここも宗教とは無縁の場、
けど、私は「禅」に近いような何かを感じていた。
あるいは「茶道」。
とうにやめてしまったが、茶道をやっている時の
スーッと心が静まる感覚、に近い。
庭を見終わった後、
この企業のご担当者に、
私の体験を言わずにはおられなかった。
この企業の研修講師を翌日にさせていただくのに、
あやしいやつと思われないか、でも、
正直な体験として言わずにはおられなかった。
すると、企業のご担当者は、
きわめて冷静に、私の言葉を受け止め、
パンフレットを差し出しながら、言った、
「やっぱり、そう感じられましたか」
この庭を訪れた複数の人が同じ感想を持つと、
そして「私も」、と担当者は言った。
差し出されたパンフレットには、
いま私が言ったような感覚が、
史実や知識を踏まえて適確に書かれていた。
何といってもパンフレットの表紙に書かれていた、
この庭の名まえ、まさに!
「時の庭」。
しかし、なぜあんな短時間で心洗われたのか?
庭にいた時間は1時間もない、
もしかしたら数十分だったかも、
あそこにいた時、時間の流れがちがっていた、
というか、時が止まっていた、というか。
私は茶道をとっくにやめ、
心の修養とは程遠い俗世間にまみれた生活をしている。
庭のこともほとんど無知、なのになぜ?
「自然」のチカラだ!
と、あれから考えていて気づいた。
自然には、心を洗うチカラがある。
心を休め、ストレスを取り去り、心を癒す。
とはいえ、自然と離れて久しい現代人、
野生の自然に放り込まれても、
自然に接する体験が少なく、
なかなか自然のよさを感受できない。
ジャングルに放り込まれたら、心を洗うどころか
恐怖を感じる人のほうが多いだろう。
そこで、「庭」のような人の手が必要となる。
自然の木々や草花、川のせせらぎ、
山、風、陽の光……、
そうした自然の声に耳を傾け、
その声を、聴いて、聴いて、聴きまくると、
そこには、人をくつろがせる自然の「秩序」がある。
その「秩序」を、自然の中から抽出し、
庭というカタチに「再現」できる造園家がいる。
時の庭を造ったのは、
「雑木の庭の第一人者」とも、
「雑木の庭の確立者」とも言われる、
経験と熟練を積んだ素晴らしい造園家だ。
そして、この庭を構想したのは、
直島アートサイトのおおもとを創った人だ。
いまや世界的なアートの島となっている
瀬戸内海の直島に行ったことがある人は、
こんなところがこの世にあるのか!と感動する。
そのアートの直島をゼロから構想し創った人だ。
二人の大人が出逢い、
自然の声を聴き、
人が心からくつろげる雑木の庭を、
想いに想い、考えに考え、
10年かけて考え抜いてつくった。
「雑木の自然風庭園」
訪れた人が心からくつろげるのも腑に落ちる。
そこでは、自然から抽出した、
心くつろぐ「秩序」が、訪れた人の心に、
スーッとしみこむように「再現」されている。
「自然に帰る」
それができれば、人は、
心洗われ、心くつろぎ、心豊かだ。
「これからの人生、私はこれでいいのか?」
ふだんスマホでひっきりなしに、
情報をたぐりよせていないと落ち着かない、
そんな自分の心のありようを貧しいと感じてしまった。
根底から生き方を揺さぶられた。
「なにもいらない」
時の庭にいたとき、ほんとにそう思えた。
満たされた。
魂が、帰るべき自分のふるさとに里帰りしたようだった。
「心の豊かさ」
それさえあれば私は幸せだし、
それなくしてどんな仕事をしても虚しい。
「心はどこで洗うのか?」
あなたが
心くつろぎ、心洗われるのは、
どこですか?
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『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
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無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
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または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
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いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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