Lesson1088
読者の声―表明しておく
2023-10-25
「言ったところで、叶わないし、
どうにもならない想いなら、
言わずに済ませられる」
と思っている人は多い。
「なんなら心の墓に埋めて、
無かったものにできる」と。
ところが私は、今年、
自分の想いを押し殺そうとした二人の人の、
生々しい体験談を聞いて衝撃を受けた。
「想い」は何としてでも外へ表れ出ようとする。
自傷という形で本人自身を傷つけてでも、
ときに本人自身を滅ぼしてでも。
本人の命を滅ぼしたら、
想いも外にでられなくなるのに、本末転倒なのに、
それでも想いは外に出たくてしかたがない。
だから、想いを表現しよう。
鍵付きの人に見せない日記でもいい。
できればそこから一歩進んで、
きちんと人に対して、
何も求めず、望まず、ただ、
「表明しておく」
先週、表明しておくことの大切さを書いたところ、
読者からとても共感するおたよりが届いた。
さっそく紹介しよう!
………………………………………
<自分のために表明していい>
今回の「表明しておく」を読んで、
自分に激しく思い当たることがあり、
思わずメールします。
好きだった相手と、
自分から連絡を取れる状況ではなくなり、
何のやりとりもしなくなった数ヶ月後、
相手は区切りをつけるために
思いの丈を込めたメールを私に送りました。
気遣いだったのでしょう、最後に
「どうしても伝えたかったので。返信はいりません」
と添えられていました。
それを読んで、
「私の考えていることは、相手には必要ないのだ」
「この気持ちは、誰にも必要とされていないんだ」
と感じました。
もちろん返信はせず、
思い出すと自分が保てないので、
極力考えないようにして、
自分の想いを無きものにしようと
何年も、もがきました。
出産、子育ての忙しさと、時間薬のおかげで、
当時を思い出して泣いたり、
相手が夢に出てくる頻度は年に一度くらいになりました。
たまに感傷に浸り、悲しみを弄べるくらいの余裕も
出てきたと思っていた頃、
あるイメージが浮かぶようになりました。
檻に入ったトラがこちらを見ているのです。
フッと浮かぶだけなので、
最初は「なんだろうな?」と思いながらも
気にしていませんでした。
だんだん、
イメージが浮かぶ回数が増えてきました。
そのうち、
トラが自分の気持ちであることがわかりました。
檻に入っていることはかわいそうだけど、
仕方がないことだ。
「檻に入れたまま一生生きていくんだ。」
そう思って過ごしました。
トラも檻から出たがっているふうでもなく、
大人しいものでした。
何年か過ぎて、
檻に入ったトラと生きていくことに
疑問を待つようになりました。
「ずっと檻に入れたまま生きて、いいのか。
私しか、気づいてやれないのに。」
納めるところに、
納めなければいけないような気がしました。
供養しなければならないと。
10年ぶりに、
相手に連絡をとり、
当時の自分の想いを伝えました。
その日から、
檻に入ったトラは浮かばなくなり、
そのかわり、
プライベートビーチに伏せて、
のんびり海を眺めて過ごすトラが
浮かぶようになりました。
寂しさはあるけど、今後もやっていけそうな待遇です。
想いは、
相手や世の中に必要とされてなくても、
どうしても自分だけは、
必要としているのではないでしょうか。
「自分のためだけに、表明していい。」
気持ちにフタをしても、何らかの形で現れてくる。
私の場合はトラだったけど、
それが希死念慮だったり病気だったりすることも
あると思います。
今思えば、
相手も最後のメールで気持ちを表明することで、
出口を作っていたのかなと。
お葬式や供養も、
行き場のない気持ちの出口を作るためのものなのかな、
なんて思いました。
必要だから、あるんですね。
長文になってしまいました。
いつもズーニーさんのコラムを
楽しく読ませていただいています。
ありがとうございます。
これからも読み続けます。
(ポックス)
………………………………………
ズーニーです。
これを読んで、まっさきに浮かんだのは、
以前ここで紹介した
「れん」さんの「うなされる夢」だ。
れんさんは、
子どもの時から、
お父さんに暴力をふるわれて育ち、
高校の時、お父さんに
授業料を止められてしまった。
れんさんは、自力で高校を卒業しようと、
大学生のふりしてホステスのバイトをした。
あと一週間で高校を卒業できるという日、
れんさんのバイト先の店に、
高校の教頭先生と生活指導の先生が、
お客としてやってきた!!!
「どうしよう、自力で頑張って働いて
卒業しようとしているのに、
バレたら高校を卒業させてもらえない。」
内臓が全部飛び出しそうになるれんさん。
教頭と生活指導の先生は、
着物を着て髪をアップにしたれんさんを、
まさか生徒とは思わなかったのか、
なんとかバレずに済んだ。
れんさんは高校を卒業できた。
だが、その時のことを「夢」に見るようになった。
繰り返し、繰り返し、うなされるように
「夢」に見続けた。
れんさんにとって、
もっと苦しいこと悲しいことがあったという。
なのに、暴力をふるったお父さんのことでもなく、
自分をひどい目にあわせた男のことでもなく、
「バレたら高校を卒業させてもらえない」と、
内臓が飛び出しそうだったあの時のことばかり、
なぜ繰り返し夢にみるのか?
れんさんはずっと答えが探せないでいた。
高校を卒業して10年、
れんさんは、自分で働いて貯めたお金で
通信の大学に通い始めた。
しばらくして、ぴたっと、あの夢を見なくなった。
れんさんが、あの時、
一番恐かったのは、
学校をやめさせられること。
自力で頑張って卒業しようとしているのに、
誰かの妨げで卒業させてもらえない。
「誰にも甘えないから、
誰にもこの先の私の未来を決めてほしくない。」
れんさんの切なる想い。
「未来は自分自身で切り拓く!」
この想いは、
れんさんの中で決して消えることはなく、
「夢」となって表れた。
何度も、何度も、何度も‥‥。
そして10年後、
自力で大学に進学できた時、
つまり、未来を自分自身で切り拓くことができた時、
想いは、解放された!
だから、ぴたっと夢を見なくなった。
(れんさんの文章はLesson647に。)
れんさんの、繰り返し見る「夢」。
読者のポックスさんの、「トラ」。
どちらも、外へ出たがっている
自分の想いからのメッセージだ。
そして、どちらの想いも、
10年かけてやっと外へ出ることができた。
想いは、10年でも、20年でも、
いや一生かけてでも、
コツコツ実現していっていい。
でも、どうしても果たされぬ想いなら、
きちんと供養して成仏させる道もある。
「トラ」はあなたの中にいますか?
いるとしたら、
いまどんな顔をしていますか?
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『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
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無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
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もがいている人の、現在進行形の悩み、
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インターネット、
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「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
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相手に通じる文章になる!
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ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
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内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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