Lesson1085
哀しみはいつまでつづく?
2023-09-06
「喪失感ってどこまで大きくなるんだろう?」
今年になって、
恐がりの私はビビっていた。
昨年、父が旅立った。
当時は、とくに母は、
一時期ガクンと認知が落ち、
もともと細かった食がさらにさらに細く、
やつれ、やせ細り。
家族はかつてない痛みの中にいたが、
無事、年もあけ、
親戚やまわりの人のおかげで、
かなり落ち着いてきた、
‥‥と楽観していたころ、「それ」がきた。
きっかけは「おはぎ」。
私は、おはぎが好きで、
お店で見つけると素通りできず、
ついつい買って食べてしまう、しかも、
2個。
どうしても1つで我慢できない好物だ。
父もおはぎが好物だったと知ったのは、
亡くなったあと。
母は、お供えものを準備するとき、
毎度毎度、
「おとうちゃんは、おはぎが好きじゃったけぇなあ。」
と言う。そこまで好きとは知らなかった。
饅頭や甘いもの全般が好きだったとは知っていたが。
「親子だなあ。」
それ以来、私は、おはぎを食べるたび、
父を想うになった。
近所におはぎのおいしいスーパーマーケットがあり、
週1回は食べるのだが(2個)、
それ以来、おはぎを買いに行く道すがらも、
スーパーでおはぎを手に取るときも、
帰る道すがらも、食べるときも、
ずーーーっと、
父のことがよみがえってくるようになった。
子どものころ、父と、
川にハエ(小さい川魚)釣りにいったことなど。
「父の日」のシーズンはつらかった。
テレビでも、ネットの広告でも、
スーパーのチラシも、
「父の日」一色になる時期がある。
「父の日も、母の日も、
親を亡くした人はこんな気持ちだったのかなあ。」
と、初めて味わう切なさにとまどう。
「自分にはもう孝行する父はいない」
という寂しさもあるが、
それ以上に罪悪感。
父とはよくケンカをした。
あきらかに反発して、
「母の日」にはプレゼントをしたが、
「父の日」には何もしなかった年もある。
「父はあのとき、どんな気持ちだったろう。」
痛みが、胸を突く。
哀しみがおさまったと楽観したころに、
襲ってくる「それ」とは、
「喪失感」
月日が立つにつれ、
「いない」がはっきり自覚され、
そのたびごとに哀しみが満ちてくる。
「哀しみはどこまで続くんだろう?」
父の一周忌。
私は、
喪失感はどんどん大きくなり一生つづくのでは、
という不安にとらわれたまま帰省した。
一周忌の法要は、偶然にも!
父の葬式と同じ部屋になった。
たまたま葬儀でつかう大きな部屋が、その日、
あいていて、「こっちでやらせてあげる」と
言われたそうだ。
一周忌は、葬式よりささやかに行われるので、
もともとは、より小さい部屋を予約していたので、
予想外の展開だった。
一周忌の法要が始まった。
1年前、父が旅立った時と、
まったく同じ会場、
おなじ顔ぶれ。
同じ父の遺影に向かって、
1年前と同じ席順で並ぶと、
1年前のことが、まざまざとよみがえってきた。
その瞬間、
「はっ! ちがう‥‥」
と、私は気づいた。
あまりのことに驚いた。
目が覚める想いがした。
「ちがう、ちがう、ゼンっゼン! ちがう!!」
1年前とは、カラダの感覚がまるで違う!
1年前、自分は、
母に比べれば、まいってないと思っていた。
けど、1年前と同じ席で、
1年前のカラダの感覚がよみがえってくると、
「あんなにヘトヘトで、痛みの中にいたんだ‥‥」
と、びっくりする。
1年前、自分は満身創痍だった。
1年たったいま、やっとそれに気づけるくらい、
痛みにつかれきっていた。
母を見ると、
「1年前の、あの痛々しさがない!」
1年前の母は、痛々しくて見てられなかった。
言葉やふるまい、表情もだけど、
何も言わなくても、何もしなくても、
存在から痛々しさが漂ってきて胸をしめつけていた。
そんな母も、1年前と比べると。
悲壮感がまるでちがう。
1日1日の回復は目に見えなくても、
1年ふりつもると目に見えて、母は、立ち直っていた。
会場をみまわし、
家族の顔をひとりひとり見ると、
1年前、家族を襲った大きな痛みは、
かなり静まっていた。
「たまたま同じ会場だったから気づけた。」
もし、同じ会場でなかったら、
1年前のカラダの感覚を呼び覚ますことがなかったら、
いまも、この先どこまで哀しみがつづくのかと、
不安がり、恐れて暮らしていただろう。
この先、何度も、
波のように喪失感が押し寄せても、
その時はつらくとも、
それは、あの1年前の満身創痍とは違う。
波と波の感覚はしだいに長くなっていく。
そう思えるようになった。
「カラダは勝手に立ち直っていくなあ。」
どんなに私が懐古にひたり、後悔に沈み、
前を向かずにいたとしても、
食べることや、
眠ることをおろそかにしなければ、
カラダは勝手に前を向いて、
生きる方へ生きる方へ、
立ち直り続ける。
1年つもると、目に見えるほどに。
それは心の痛みまでやわらげていく。
「哀しみはいつまでつづくのか?」
これを書いている9月、
終わりそうになかった今年の猛暑も、
かげりが見えてきた。
“暑さ寒さも彼岸まで”
どんな暑さも、どんな寒さも、永遠には続かない。
やがて必ずかげりが来る。
「哀しみ1年耐えてみよ。」
と、私は、自分に言うだろう。
万人にはあてはまらないかもしれない。
人によって、1年より短い人も、長い人も
いるかもしれない。けど、
私には、カラダの感覚としてつかんだ経験知だ。
「1年たてば、」
カラダのほうで勝手に立ち直ってくる。
そこから気持ちも、ずいぶんましになってくる。
「どんな哀しみ苦しみも永遠には続かない」
と私は思う。
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無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
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または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
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自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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