糸井 | 荻上さんの家にいる絵描きの男の子は、 音楽にもくわしかったわけですね? |
荻上 | それが、ピアノは初めてで、 一所懸命練習してくれて。 |
糸井 | 嘘っぽくなかったですよね。 |
荻上 | うふふ。 嘘っぽくないように、撮りました。 |
糸井 | 撮り方によっては 嘘っぽく見えることもありえた? |
荻上 | そうですね。 あとは編集も、うまくつなげてくれて。 ふつうだったら、 ここで見せないだろうっていうようなところで あえて指の動きを見せたりとか。 |
糸井 | へえー。 そういうところは 機能の部分なんですかね、映画の。 |
荻上 | 機能‥‥そうですね。 こういうショットを撮るっていうのを カメラマンと打ち合わせして、 ほんとうに撮っていくという作業を重ねて、 彼も彼でちゃんと練習してくれて、 編集マンは編集マンで編集してくれて。 |
糸井 | そういう頼りになる技術があると 広がりますよね、表現できる幅が。 |
荻上 | そうですね、ええ。 |
糸井 | 素人でもいい映画つくれるよ、ってこと、 極限ではほんとうのことなんだけど、 実は、むずかしいですよね。 |
荻上 | うーん、どうですかね。 最近ほんとに、 いろんなかんたんな機材がいっぱい出てきて だれでも映画を撮れることになっています。 そんななかで ほんとうにこれは素人じゃないよな、 っていうようないい映画が いっぱいありますよ。 |
糸井 | なんなんだろうね、そういうのってね。 |
荻上 | わからないです(笑)。 |
糸井 | そのひとの沈黙が出てるんでしょうね。 |
荻上 | 技術だけじゃない、 “なにか”で見せてるっていうひともいますし。 わたしも昔、自主映画をつくってたので まわりにお友だちがいっぱいいて、 いまも、続けたりしています。 |
糸井 | その自主映画っていうのは じぶんでいいとかわるいとか 判断できたんですか。 |
荻上 | 全然! |
糸井 | できなかった? |
荻上 | ただただつくっていくだけです。 わけがわからないけれども、 想像だけでつくっていくって感じで。 |
糸井 | ひとがなにか言ってくれたの? |
荻上 | そうですね、ひとに見せて、 「こうすればいい」とか フィードバックがあって、だんだん。 |
糸井 | そのときの気持ちって いまになると興味あるね。 |
荻上 | そうですね。 どう思ってつくってたんでしょう。 でもそういうのは意外と、 ひねくれないで「はい」って ちゃんと受け入れていました。 |
糸井 | よかったですよね! 若い子がよく 「ぼくには根拠のない自信がある」 っていう言い方で じぶんを表現することがものすごく増えてきて。 そのことば見つけなきゃよかったのに、 って思うんですよね。 |
荻上 | 根拠のない自信(笑)。 |
糸井 | 根拠のない自信って言うと 一応礼儀はつくしてるんですよね。 つまり、自信があるって言いたいんだけど、 根拠がないんで、 まちがってるかもしれないですけど、 って言い方ですよね。 |
荻上 | はあはあ。 |
糸井 | でも、自信があるって言いたいんですよね。 それを言わないと 負けちゃうような気がするから。 |
荻上 | ああ、ああ、ああ。 |
糸井 | だから、そのことば使わない方がいいよ、 ってオレ、言ったことがあるんですよ。 |
荻上 | へえー。 |
糸井 | ないか、あるかでいいよ、どっちでも。 考えてもいない、でもいいし。 だけど、根拠のない自信があるんですけど、 って言われると、話が進まないんだよ。 ひとが言うことだから、それは。 荻上さんは、最初に映画を撮ろうと思って撮って、 なにがなにやらっていうときに メゲもしなかったわけですよね。 そのときの気持ちを もし再現できたらおもしろいなあって。 |
荻上 | そうですね、ほんとうに。 ずっとつくっていくなかで やっぱりどんどん歳をとっていくと、 おなじ大学行ってた友だちが お金も持ちだすし、 家族も持ちだすってことで ちょっとあせったりもするんですけど、 なんかどっかで一時(いっとき)に決めたんです。 ずっと自主映画のままで終わっても 絶対にこれから一生映画をつくり続けるって。 このままちゃんと商業的な映画を撮れなくても とにかくこのまま続けて、映画をつくると決めた。 決めたらだいじょうぶになったというか。 |
糸井 | ああ、そうですか! ラクになるんだ。 |
荻上 | ラクになりました。 |
糸井 | 昨日、ちょうどアニメの監督と会っていて やっぱりどこかのところで いろんなわがままな欲望みたいなものを眠らせて 一回社会人の部分をやらないと、 つくること自体が おぼつかない時代になってる、と。 とくにアニメって。 |
荻上 | ああ、たいへんそうですもんね。 |
糸井 | そこでの悩み方っていうのは だいぶちがうんだろうなと思って。 まあ、だいたいの仕事が 受け負いの仕事っていうのが 世の中ほとんどですから。 その場合にはきっと ちがう悩み方してるんだろうな。 するとどっかで頼まれてやってる仕事のなかに じぶんを込めようとしたり、 あるいは足りないものを もっと勝手にやってやろうと思ったりして ちょっとこう、 大げさになっちゃうんじゃないかなあ、 気の毒だなあと思ったんですよね。 いまの荻上さんの、 なんであろうがつくるんだ、っていうのは わりとシンプルだよね。 |
荻上 | シンプルだと思います、はい(笑)。 |
糸井 | シンプルですよね。 少し宣伝になるようなことを 言いたいと思うんだけど。 お客さんはいっぱい入った方が いいと思うんです(笑)。 |
荻上 | ほんとうにそう思います。 |
糸井 | 『かもめ食堂』が好きだ、 『めがね』が好きだ、ってひとの 両方がよろこぶと、数が増えますね。 |
荻上 | そうですね(笑)。 |
糸井 | ボーッとしたところの分量は どっちよりも少なくなってますね。 |
荻上 | はい、はい、はい。 |
糸井 | ボーっとしてるところがいいのよね、って、 もし言うひとがいたら、 ちょっとがまんしてほしいね。 もっとおもしろくなっちゃったよって(笑)。 |
(つづきます) |