飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その9 祈る、そして沈黙のちから。
飯島 ナスフライです。
ポテトフライの代わりに
向こうでつくっていたものです。
荻上 あった、あった!
糸井 この赤いソースは?
飯島 ケチャップとタバスコが入ってます。
糸井 はい。
いただきます。
(ほおばる)
うっま。
うっま!
荻上 うーん、カリカリー!
おいしい。
糸井 なぜカリカリするの?
飯島 コーンスターチと小麦粉で。
糸井 うっま!
ナスはかならずヤケドに気をつけないとね。
(はふはふしながら)
『トイレット』は
上映館が前より多いってことはあるの?
荻上 いや、おなじくらいですよね。
上映館って。
映画
スタッフ
そうですね。
糸井 祈りましょうか。
荻上 はい。
── (口々に)ヒット、祈る。祈る。
糸井 こうすればひとが来るよなんていう方法、
ないもんね。
映画
スタッフ
そうなんですよね。
ほんとうにそうです。
糸井 ある、って嘘つくひといっぱいいますけど、
ないよね。
荻上 ないと思います。
もうほんと、祈るしかない。
糸井 ぼくもほんとう、およばずながら、一緒に。
いや、観たら
「いい感じ」になりますよ、やっぱり。
荻上 ありがとうございます。
祈る、ってこと、しますか?
糸井 しますよ。
できることってあんまり多くないから、
祈るしかないな、
って言い方をするじゃないですか。
でも「しかない」って言うと
ちょっと「祈る」にたいして
失礼な気がするんですよね。
案外‥‥、祈るって
「呪う」ってことですからね。
「呪い」と「祈り」はおなじですからね。
荻上 ああー。
糸井 ひとが呪ったら影響あるでしょ、絶対。
それくらい効くんですよ。
って、ぼくは思ってますから、
じぶんにどうしょうもないとき、
とにかく祈りますね。
荻上 その「祈る」対象ってなんですか。
やっぱり神様みたいなものですか。
糸井 わかんない。
祈るっていうこと自体をする、っていうか
「でありますように」って。
すごく雑に言えば
「なんとかなりますように」。
その「なんとかなりますように」っていうのは
キリスト教ふうに言えば
「みむねのままに」、
仏教ふうに言えば
「南無阿弥陀仏」じゃないですか。
おんなじですよね、
「なんとかなりますように」っていうのは。
荻上 わたしもすごい自分勝手な
お祈りばっかりしてます。
糸井 うん。
かなうものはかなうし、
かなわないものはかなわないんだから、
祈りって結局、
思ったとおりでいいんじゃないかなあ。
荻上 ふふ。
糸井 あんな映画がいっこずつつくれていくひとが
「もっとつくれますように」。
その祈り、ぼくは神様がいるとか
いないとかじゃなくて、
かなえられると思うよー。
オレが言うことじゃないけど(笑)。
このままじゃー、もったいないもんねえ。
荻上 そうです、なんか、
「やりたーい」って願ったりすることは
──バカみたいですけど、
できなかったことは実はあんまりなくて。
だから、よくインタビューとかで
「ぼくも映画監督になりたかったんですよ。
 だけどぼくには才能がなくて」って聞くんですね。
でもそういうひとって、きっとその
「どうしても!」の、「どうしてもさ」が
足りないのかなって思うんです。
糸井 それ、松田聖子も言ってましたね。
荻上 あははは! そうなんですかー。
ほんとですかー。
糸井 うん。
荻上 えええええー。
糸井 松田聖子もスキスキ光線を出せって。
その、ビームを出す電池の、
電気の部分は沈黙ですからね。
ようするに、お前ひとりでいるときに
なりたいなりたいって思わなかっただろう、
って疑うんですよ。
ひとに言うときに
「オレもなりたかったんですよね」
って言うけど、
ひとりのときに思ってなきゃ。
みんなひとりのときには思ってないんだよ!
監督やりたいなあ、って、ひとりのときに
心から思ってるひとりっていないんですよ。
荻上 そういうものなんですかねえ。
糸井 言ってなかったんだけど実は、
って言う方がまだね。
アイドルでだれが好き、って話になれば
みんな言うじゃないですか。
でも、ほんとうに好きなひとのことは
だまって、思ってますよね。
言わない。重要なのは
やっぱりひとりの時間なんですよ。
案外、ぼくも、そっち派ですよ。
荻上 (笑)
糸井 ひとりでいるときの顔を
想像できないひととは
あんまり友だちになりたくない、って
言い方をしてたことがあって。
荻上 ええー。
糸井 集団のなかにいる顔だけが
似合うひとっていうのは
世の中にはいっぱいいるんで。
荻上 そういうものですか?!
糸井 いますね。
ひとりになったときには
ツライだろうな、って見えちゃう。
さみしいだけだろうなって見えちゃうと
やっぱりそこまでにしか見えない。
さあ、ひとりになった、
っていってからの時間が彼の時間なんで。

じぶんも調子のいい人間ですけど、
じぶんなりにひとりの時間っていうのが
ひとといる時間以上に大事だっていうのがあって。
そこしか自分を育ててくれないですよね。

今日のお話は、ひとり遊びの話から始まったから、
ああすごいラクだなあって、ぼくは思いました。
飯島 デザートはいかがですか。
今日のデザートは、あんみつです。
一同 きゃーっ(歓声)!
飯島 あずきも煮たんです。
あんずをいただいたのでそれも。
糸井 シロップに!
うわあぁぁ、いいねえ!


(次回最終回につづきます!)

2010-09-02-THU

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