飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その10 勇気って、失敗に向かえること。
荻上 今回も、前回もそうですけど、
奈美さんからアイデアをいただいたことが
たくさんあって、
餃子の打ち合わせをしたときに
奈美さんが皮からつくっていて、
あ、これは美しい! おもしろい! と思って、
そこからつくっていただこうと思ったり。
糸井 飯島さんと荻上監督の組み合わせって、
それはもう、なんだろう、
漫才コンビくらいに。
荻上 (笑)
糸井 どんだけしゃべったか、料理が。
荻上 はい。
糸井 ひとの心を、とかしたり。
飯島さんの料理を
アテにするようになりますよね、だんだん。
荻上 あら(笑)。どうしましょう。
糸井 飯島さん抜きで映画をつくるってことも
ありえたっていいのに、
いまのところ、だいたい100パーセントになってますね。
飯島さんさ、
「今回、飯島さんと組まないんです」
って、監督が言いにきたら、どうします?
飯島 ショックです!
荻上 (笑)
糸井 「なんか、お茶ひとつくらいあるでしょう」
とか言う?
飯島 今回もあやうく、餃子だけだったら
呼ばれないかなぁ‥‥と思ったりして。
荻上 ええ?! そんなことはないですよねえ。
最初から。
映画
スタッフ
ないですよ。最初からもう。
糸井 (笑)
荻上 奈美さんしかありえない。
飯島 だれになんと言われようと
「連れて行ってください」って。
糸井 そうだよね、そういう気持ちだよね。
はあー。
なんていうの、
タレントを生みだしてるみたいなもんですからね。
映画のなかに、おにぎりだ、お重だ、
いっこずつ、聖子ちゃんを次々に生みだしてる。
荻上 聖子ちゃんを生みだしてる!(笑)
飯島 糸井さん、『めがね』のちらし寿司
すごい印象的だったとおっしゃってましたね。
糸井 あれだったの。
ぼくはやっぱり
パンッとつかまれたのはあれだったですよ。
『かもめ食堂』は後から観ましたから。
荻上 あ、そうでしたか。
糸井 ぼく映画観る人間じゃなかったんですが、
『かもめ食堂』はみんなが観てる映画だって知ってて、
『めがね』の試写会に行ったら、
なにこれー!(裏声)ってなって、
なんだい、あのちらし寿司は、って思った。
それですぐに『かもめ食堂』を観ました。
荻上 おいしそうでした。
おいしかったし。
糸井 あの海に行ってさあ、
あんなの見せられたらさあ。
荻上 あの映画のなかで
光石さんって役者さんは
トマトしか切ってないんですよ、実は。
でもすっごい料理うまそうに見えますよね(笑)。
飯島 さすが俳優さんですよねー。
糸井 ええ! そうだったー?
荻上 一回ぐらいしか。
しかもトマトしか切ってない。
糸井 すごいですねえ。
はあー。
荻上 すごい料理上手なひとに‥‥。
糸井 飯島さんの料理がこんだけ生きてくると、
欲がでちゃうよね。
で、お客も欲がでちゃうんですよね。
今度なに? って思っちゃうんです。
それはそれでいいマンネリズムにもなるし、
いつかやめてみようっていう日がくるかもしれないし。
その筆の動きもぼくはたのしみ。
書かないっていう書道ありますよね、時にはね。
飯島 あんみつ、できました。
荻上 (置かれたあんみつを見て)
すごーい、美しすぎ。
糸井 (さっそく口に運ぶ)
あ、寒天にミント入れてる?
飯島 しょうがです。
糸井 しょうがかあ!
荻上 わー、すごーい。えー、しょうがー。
飯島 冷やしあめみたいな味になるんです。
糸井 なるほど。
荻上 おいしーい。
糸井 いいねえ。
うまーい。
おいちい。

荻上さんの、写真やろうとして
カメラをつくるような学部に
行っちゃったって話は
ほんと、おかしいね。
それがよかったんだろうなあ。
そういう遠まわりって。
荻上 たぶん。
途中で留学しちゃおうかとも思ったんですけど、
しちゃったら絶対に帰ってこないと思ったんで
これは卒業してから行こうと思って。
糸井 運もあるけど、
こういういい遠まわりができるって、
ほんとうにいいことですよね。
その間に育つものって大きいですよね。
だって、花咲かせられないんだもん。
まちがってるから。
その間、根っこ伸ばすしかないじゃないですか。
荻上 たしかにそうかもしれないです。
映画やろうなんて思ってもみなかったですから。
糸井 アメリカの映画の学校を
えらぶのっていうのは
じぶんで考えてえらんだんですか。
荻上 そうです。はい。
ほんとうになにもわからなかったので、
とりあえずいちばん有名なところ、
みたいな感じで。
糸井 それは試験とかあるんですか。
荻上 ちょっとした試験と、大学の成績、
あといままでの作品とかを出したり。
でもいちばん重視されるのは、
作文なんです、なぜか。
糸井 英語の作文?
荻上 はい、英語の。
糸井 じゃ、英語はけっこうできた?
荻上 いや、それが英語も全然できなくて。
ひとに直してもらったりとかして出したんです。
いまもできないです。
糸井 じゃ、苦労しますよね。
向こうに行ってからは。
荻上 そうですね。
そういう学校はほんとうにみんな
エゴイスティックで、
みんながみんな、
次のスピルバーグになりたいとか
思ってるやつらばっかりで。
だから、アジア人で英語も話せないと、
全然相手にされなかったんですよ。
それまで、ひとから相手にされないっていうことの
経験があんまりなかったので、
とてもショックだったのですが、
まあ、半年くらい経ったら慣れてきて、
やさしくしてくれた子も、
ゲイの子だったり。何人かいました。
卒業して10年経って、
いま、映画をつくりはじめて、
海外の映画祭とか行くと、会うのは、
当時、そんなわたしに
やさしくしてくれた子ばっかりなんです!
糸井 (拍手)
一同 (拍手)
荻上 (笑)すごいうれしいです、それが!
糸井 そういうことなんだ。
スピルバーグたちは?!
荻上 スピルバーグたちは
どっか行っちゃって(笑)。
糸井 証券会社とかにいるんじゃない?
荻上 もしかしたら(笑)。
不動産会社とか。
いま思うと、そういう競争のなかでも
ひとにやさしくできる、余裕があるひとが
きっと映画もつくっていけるって思ったんです。
糸井 機能とか効率だけでくっついたものっていうのは
接着されないんだね。
荻上 はい。
糸井 (しみじみと)はあー。
へえー、へえー‥‥。
ほんとだったんだ、そういうことってねえ。
うれしいですよねえ。
やっぱりみんなどっかのところで
だまって失敗してる時間っていうのが
すごい重要な時間なんだね。 
恐れすぎてると、
そういう時間のなかに飛び込んでいけないんで。
勇気って、失敗に向かえることなんですよね。
荻上 ああ、そうかもしれないです。
糸井 いやあ、いま思った。
勇気、勇気って言うけど、
ただ勇気ってないと思うんだよね。
そんな相手にしない場所っていうのは
うすうす想像できるわけで。
でも行ってしまおうっていうだけの
その行き場のなさと、
ちょっとした勇気っていうか楽天主義と。
荻上 楽天主義(笑)、はい。
糸井 ああ、いい話だなあ。
飯島 もしもおなかに余裕があれば、
ドーナツなんですけど。
荻上 ないけど食べたい〜!
糸井 飯島さん、オレ食べるよ!
飯島 じゃ、半分こ、します?
荻上 半分こ、ぜひぜひぜひ。
糸井 しょうがないもん。
荻上 出ちゃったらしょうがないですね。
糸井 うん!
なにこれ、揚げたて?!
飯島 はい。
糸井 揚げたて、揚げたて?
わる!
(ぱくっとかぶりつく)
おいしい!
ありがとうございます。
うめっ。
飯島 研究の成果です。
── これが『LIFE3』に載ります。
荻上 うーん、おいしい!
別腹で入っちゃいますね、これ。
糸井 オレ、初めて。
荻上 食べたことないのになつかしい。
飯島 冷めてもおいしいように
かたくならないようにしてるんです。
揚げたても食べて、冷めても食べて。
荻上 奈美さんのシナモンロールも
あったかいうちはもちろんおいしいんですけど
冷めてもおいしいんですよ。
飯島 よかったー。
糸井 まいったなあ。
そろそろもう、終わりにしちゃうね。
いやあ、おもしろい、
やっぱりそういう監督だったんだ、
と思ったらなんか。
荻上 すいません、わたしがあんまり
しゃべることがあんまりできなくてー。
ほんとうにすいませーん、もうー!
糸井 だいじょうぶ、
だいじょうぶというか、
十二分です。
ぼくがちょっとおしゃべりだったね。
荻上 いやもう、あの、○×△?◇‥‥。
糸井 なんじゃそれは(笑)。
じゃあ、ぼくは引っ込んじゃおう。
飯島 ありがとうございました。
荻上 ありがとうございました!
糸井 お祈り申し上げております。


(おわります)

2010-09-03-FRI

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