もくじ
第0回課題3をはじめるにあたって。 2016-06-28-Tue
第1回売れる→天狗?じつはもっと複雑で。 2016-06-28-Tue
第2回仕事はだれのため?何のため? 2016-06-28-Tue
第3回震災は、考えかたそのものを変えた。 2016-06-28-Tue
第4回結局は、ちかくの人に褒められたい。 2016-06-28-Tue
第5回あらためてお金のはなしをしましょうか。 2016-06-28-Tue
第6回古賀さんと糸井、それぞれのシゴト論。 2016-06-28-Tue

AUTOCAR というサイトの編集部に所属しています。

もう一度、古賀さんと糸井の対談を。

担当・上野太朗

編集者の古賀史健さんと糸井には、
おたがいに聞きたいことがありました。
その、小さいものから大きいものまで。

第1回 売れる→天狗?じつはもっと複雑で。

糸井
つぎつぎとヒットを生みだす編集者との対談。
はじまりは「お天気がいいですね」じゃなくて、
「古賀さんの本、売れてますね」ですねぇ(笑)
古賀
ありがとうございます(笑)
糸井
本が100万部売れるっていうのは、やっぱり、
一種の裏方商売のつもりで生きてるひとにとっては
おそらく不思議な実感でして、
自分の経験としてしゃべってる人も
あんまりいないと思うんですよね。
古賀
たしかにそうだと思いますね、はい。

やっぱりおっしゃる通り、
ずっと裏方の仕事という意識でやっていて、
それで普通の作家さんとか著者さんだと、
これだけ売れたんだぞっていうふうに、
ちょっと天狗になるような瞬間。
そういうのってあると思うんです。

僕もね、昔から100万部いけば、
さすがに俺も天狗になるだろうなぁと
思ってたんですよ。

糸井
その数字ですよね(笑)
古賀
そうですね(笑)
そのタイミングがきたら、
もうちょっと世の中にいろいろ発信したりとか、
ものを申すみたいな活動を
躊躇なくできるようになるのかなと
思ってたんですけど、まったくできないですね。

もしかすると実感がないのかな……。

糸井
いままで発信することを躊躇していたんですか(笑)

古賀
100万部というのはやはり大きな数字ですから
いいたくなるんだろうなと思ってたんです。
だけど、「俺の話を聞け」みたいなのが、
やっぱり僕はほんとにないんですね。
編集者としても、僕自身としても欲求といえば
「この人の話を聞いてください」なんですよ、
基本的に……。
糸井
うんうん。
「その人が考えてること、とても好きなんです」
とか、それは自分のメッセージでもありますしね。
古賀
そうですそうです。「こんなにすばらしい人がいる、
こんなに面白い人がいる、みんな聞いてください!」
というスタンスでずっとやってきて、
でもその中で何かしらの技術だったりとか、
その人の声を大きくして伝える時に、
こうした方がいいという経験は積みかさねてるので、
そこについて大声で言いたくなるだろうなぁ
と思っていたんですけど、それが未だに全くなくて。

古賀
次のこの人というか、次に好きになる人だったり、
僕がマイクを渡して「大きな声でいってください」
みたいな人を捜し回ってる状態ですね。相変わらず。
糸井
うんうん。古賀さんの考え、すごくよくわかります。
古賀
天狗になる、
っていうのとはちょっとちがうと思いますが
糸井さんもテレビに出演する機会が増えて、
コピーライターとしても、「テレビの人」としても
加速度的に名前が広まったときがあったと思います。
糸井
はいはい。
僕もおなじようなことを考えたことがありますねぇ。
古賀
天狗……。
糸井
30歳くらいのときでしたね。
僕の場合は天狗になったんですよね、きっと。
なったか、ならないかのことについて考えて、
なんなかったつもりでいたのに、なってるんですよ。
古賀
うんうん。
糸井
天狗になってないつもりでいるのに、
過剰に攻撃されたり、無視されたりするというのが
体が感じるので、それに対して矛と盾でいうと、
盾のつもりで肩を張っちゃうんですね。

古賀
あぁ、わかります。
糸井
そんなところに俺はいないよっていうか、
そこまでチンケじゃないみたいなことはいいたい。
でもそこに応接室があってふかふかのソファがあると
ドスンと座るってなことをするんですよね。

たとえば女子大で講演してもらえませんか?
みたいなのがある時に、
語れることなんか大してないじゃないですか。
なのに「糸井さんやってくださいよ」なんていわれると
悪い気しなくて、
鼻の下長くして「そう? 行こうか?」なんつって。
結局のところ、楽しいのは控え室までなのに(笑)

古賀
ふふふ(笑)

糸井
あとはテレビですよね。
テレビは帯で司会などをやっていたから、
その道具建てがあると人に会えたりします。
それはもうほんとにハッキリと、
よかったなと思うんですね。
でも、そのお陰で、余計な拍手やらを受けたり……。
古賀
え、拍手も余計ですか?
糸井
僕は余計だと思うんです。
褒められたくてしょうがないのは、
若い時は当然ありますけど、
一歩離れた視点からみると、
実はそれってゴールじゃないですよね。
だけど過分に褒められたりするとね、
「僕はそんなことない」って言えなくなるんです。
古賀
たとえば当時だと、
「天才」とか「言葉の魔術師だね」とかですか。
糸井
そうだったそうだった。
そう言われたときに特に否定しないんです(笑)
なんで? っていわれたら、‘営業上’ でもあるのかな。
自分でもその辺わかんないです。
古賀
たしかに、糸井さんの、特に30歳ぐらいからの、
テレビをはじめとするメディアに出たりの活動って、
コピーライターっていう仕事をみんなに認知させる
という意識もたぶんあったんじゃないかと思います。
糸井
んー。
古賀
僕も本のライターというのがどういう仕事なのかを
声高に言った方がいいのか、あるいは裏方として、
このままマイクとか拡声器とかの役に徹しているのが
いいのかっていうのは、まだちょっとわからなくて。
糸井
それはねぇ、当時は自分でもよくわかってなくて。
自分のいってたことって、
たぶん厳密にいうと嘘だったと思うんです。
古賀
嘘、ですか?
糸井
「業界のために」って、ものすごくいうんですよ。
もちろん全部が全部、嘘ってわけじゃないんです。
ただ同時に、「業界のために」っていう方が楽だから
っていう気持ちが混ざっているんですよ。

エゴていう言葉で言い切るつもりもないんだけど、
自分の居やすい状況を、誰だって作りたいんですよ。
でもね、例えばですよ。
「業界のために」っていいながら、
‘優秀な若いの’ が入ったときに、
「あぁこれで業界がよくなる」って
心の底から思えるでしょうか?(笑)

古賀
そっか、たしかに。
糸井
こういうのって出版業界よりもお笑い業界の方が
露骨かもしれないけれど、
「別に俺は若手のいいやつなんか芽を摘んでやる」
なんて言葉、いくらでも耳にしますよね。(笑)

その辺、逆に古賀さんはどうですか?

第2回 仕事はだれのため?何のため?