ニーポンが暮らす部屋の外には庭があります。
そして時おり、仲間が遊びにきます。
仲間というのは色んな毛並みのノラネコたちで、
ライオンのたてがみみたいにフサフサのコもいれば、
チャップリンみたいなヒゲのコもいます。
いずれもノラネコならではのすごみがあって、
庭先に突然現れると、人間はぎょっとします。
でも、ニーポンは色めき立ちます。
同じネコの友達が来てくれたことを
心から喜ぶようにはしゃぎます。
たまに風格のあるボスネコタイプにすごまれて
びくつくこともあるけれど、
しっぽを太くして敵対心を表すことはありません。
ふだんは一匹だけで暮らしているからか、
やはり自分と同じネコが来るのは嬉しいようです。
ただ、最近はノラネコたちもめったに来なくなりました。
というのも彼らはごはんを求めて来てるのに、
ぼくたちからはもらえないことを悟りはじめたから。
彼らにあげはじめると数が多いから切りがないし、
うちでもらうくせがついたあとに、
もしもぼくたちが引っ越してしまったら、
ごはんにありつけなくなってかわいそうですし。
いろいろ考えましたが「あげない」と決めました。
何よりいずれのコたちもご近所さんに地域ネコとして
すでに大切に扱われていることがわかっているので、
よそからやってきた新参者の立場もわきまえて、
無用な手出しをしないことにしたのです。
その決断に後悔はないのですが、
唯一気がかりなのはニーポンの心境です。
もう、めっきり仲間が来なくなったものだから、
「来ないかなあ」「来ないかなあ」と
彼らを待ち構えるように、
いつも窓の外を眺め続けているんですね。
もしかしたらニーポンも窓の外に出て、
彼らノラネコたちと一緒になって遊べたら、
楽しい時間を過ごせるんじゃないだろうか。
彼らのようにたくましい野生を取り戻して、
本来のネコらしく生きる一生の方が
彼にとってはしあわせなんじゃないだろうか。
ぼくは腕を組んで、考えこんでしまいます。
ある日、彼のからだにハーネスを取りつけて、
少々いやがるキャリーバッグの中に入れて、
近くの公園に連れ出したことがあります。
リードが届く範囲に限られるけれど、
一度自由に走らせてあげようと考えたんですね。
でも、彼は一歩も外に出ませんでした。
慣れない外の気配におびえてしまって、
キャリーの中で縮こまって、出てこなくなりました。
「ほら、外も楽しいだろう?」
そんな言葉をかけるつもりが、予想外の展開に。
なんだか逆にかわいそうなことをしました。
もしかして、彼は「外」を望んでいないのでしょうか。
あんなにじっと眺めていた窓の外は、
あこがれの地ではなかったのでしょうか。
そこで思い出すのは、
かつて実家で飼っていた3匹のネコ。
「ミー」「ピー」「チー」のことです。
(つづきます)