最後に、ぼくの妻に話を聞きます。
ゆずたんや蜜柑の話をうかがった上で、
われらがニーポンについてのしあわせを
考えてみたいと思います。
- ──
- いきなりだけど、彼、しあわせなのかな。
- 妻
- どうかなあ。
- ──
- Uさんに「うちのコ、しあわせそうですか?」
って訊いてみたのね。そしたら、
「絶対にしあわせだよ」って。
「毛並みがごわごわなノラネコと違って
ポンさんはやさしく扱われてて、
あの箱入り息子感はスゴイ」って。 - 妻
- ははは。
でもわたしは、いつも「ゴメン」って思ってるよ。
日中は仕事でかまってあげられてないし、
せっかくの休日も人間だけで出かけちゃうし。 - ──
- うん。
- 妻
- だから「毎晩おもちゃで遊ぶ」というのを
ひそかに自分に課してるんだよね。
このコは「遊んで」「遊んで」って、
常に人にかまってほしいタイプでしょう。
だけど日中は応えてあげられないから、
どんなに仕事で疲れてヘロヘロでも、
深夜の2時でも3時でも必ず遊んであげる。
なんていうか、言葉は悪いけど、
飼い殺しみたいになっちゃうのがいやで。 - ──
- そうだね。
- 妻
- ネコって、どれだけ長く生きても20年で、
人間とは1日の重みが違うわけじゃん?
もっと1日1日を大切にしてあげたいなって。 - ──
- たしかにね。
ネコの1年は人間の4年分くらいだし。 - 妻
- もちろん、日中もなでてあげたりはするけど、
それってわたしのためだから。
わたしが癒されたいからしているだけで。
だから「彼のため」に、遊んであげたい。 - ──
- うん。
- 妻
- でも、そこまで義務に感じなくてもいいのかな。
- ──
- うちの場合、日中もずっと一緒にいるのに
十分に相手をしてやれないから、
かえって放ったらかしてるみたいで、
余計にさみしさを感じさせてるかもしれない。 - 妻
- まあ、本人に訊いてみないとわからないよね。
- ──
- 「聞きなし」って言葉があるでしょう。
- 妻
- 聞きなし?
- ──
- ニワトリの鳴き声は「コケコッコー」だけど
英語圏では「クックドゥードゥルドゥー」に聞こえる。
人や言語によって聞こえ方が違うってやつ。 - 妻
- はいはい。
- ──
- ウグイスだってきれいな声で気持ちよく
「ホー、ホケキョ」って鳴いてるようだけど、
実際は「はー、吐き気」かもしれなくて。 - 妻
- なるほどね(笑)。
- ──
- つまり生きものがどう鳴いているかなんて
人間の都合のいい解釈でしかなくて、
ほんとの気持ちはわかりようがない。 - 妻
- そうだね。
- ──
- だから答えは出ないかもしれないけど、
「こうしてあげた方がいいかな」
「その方が喜んでくれるかな」
ってことを考えつづけてあげたいね。
- 妻
- わたし、もしも家を建てるなら
真ん中に中庭がある家がいいなあ。 - ──
- ああ、『建もの探訪』で見たやつだ。
ユニークなお宅を訪ねるテレビ番組の。 - 妻
- そう。空から見たら「ロ」の字になっていて、
家の中をぐるぐる回遊できる家。
で、真ん中に屋根のない大きな庭がある。 - ──
- ネコが走り回れるくらいの大きさがあってね。
- 妻
- あれだったら「外」の危険はないけど、
太陽は浴びられるし、風にも当たれる。
本人は望まないかもしれないけど、雨も降る。 - ──
- 雪が積もれば、はしゃぐかもしれないね。
外じゃないけど「ほとんど外」が中にある。
それは理想的だなあ。 - 妻
- 都内でそんな大きな家を建てるなんて
経済的にも現実的じゃないけれど、
いつかそんな「ネコ屋敷」を建てられたらいいな。 - ──
- そういえば、ポンを実家に連れていくと、
いつも身体がほっそりするね。 - 妻
- そうそう、都内のわが家よりも広いし、
階段を「たたたー」って昇り降りして、
かなり運動不足が解消されてるっぽい。
自分で降りられない高さの神棚にも上がったりして。
- ──
- お義母さんも言ってたね、
「ポンちゃんはこっちで過ごす方がいいんじゃない?」
って(笑)。 - 妻
- ふふ、一度預かってもらったら
なかなか返してくれなかったよね(笑)。 - ──
- よし、ポンのためにも広い家を建てよう!
そういえば知り合いが、ネコの階段を設計してたね。 - 妻
- あ、友達の旦那さんが建築家で、
なにかの賞をとったやつね。
ネコが歩けるように壁に配置された板が
空中階段みたいになっていて。 - ──
- ああいうのなら、今からでもできるかも。
- 妻
- どうかなあ、うちは賃貸だしね。
そこまで手を入れられるかどうか。
- ──
- 公園に連れていくのは、やっぱり難しいか。
せめて庭に出してあげられるようにしてみようか。
まわりを柵で囲めば、道路には出ないでしょう。 - 妻
- いや、たぶん出ると思う。
わたしの伯母がネコを飼ってたとき、
庭先に30万円かけてつくった柵を
あっさり飛び越えて出て行っちゃったらしいから。 - ──
- うちは集合住宅だから避難経路も確保しなきゃだし、
さすがに庭を完全にふさぐってわけにもいかないか。 - 妻
- 前にわたしの友達が遊びにきたとき、
間違って窓をガラガラって開けちゃって、
ポンちゃんが庭に飛び出したことがあったよね。 - ──
- あった、あった。
- 妻
- 彼は公園では怖がっちゃって出なかったけど、
たぶん隙あらば外に出たいタイプ。
柵なんてカンタンに破られると思うな。
目の前は道路だし、やっぱり危ないよ。 - ──
- じゃあ、このコのためにも
はやく「中庭のある家」を建ててあげよう。 - 妻
- まずはもっと稼がなきゃ(笑)。
それよりも、わたしはポンちゃんのために
もう一匹飼ってあげたいな。
わたしたちが相手してあげられない時間でも、
ネコ同士でいっしょに遊べるコがそばにいたら
毎日もっと楽しく過ごしてくれる気がして。 - ──
- 2匹も飼えるほど広い部屋じゃないし、
ネコ同士の相性もあるだろうけど、
彼のことを思えばそれがベターかもしれないね。 - 妻
- 彼のしあわせを思うと、ね。
(つぎは最終回です)
出ケツ大サービスのポーズ