つづいて、外にも自由に出している
半室内飼いのOさんにお話をうかがいます。
長年連れ添っているメスの「蜜柑」は
これまで住宅街を自由に行き来していましたが、
ここ最近はほとんど室内にいるようで。
- ──
- 蜜柑は何歳になりましたか。
- Oさん
- 推定17、18歳かなあ。
一緒に暮らしはじめて16年になります。 - ──
- もともとはソトネコだったんですよね。
どういう経緯で飼うことになったんですか。 - Oさん
- 当時わたしが住んでいたアパートの窓のところに
このコがよく来ていたんです。
屋根伝いに歩いて来れるような場所でした。
初めは首輪がついていて、
どこかで飼われていたネコだったようです。 - ──
- あ、そうだったんですね。
- Oさん
- ただ、樹脂製の首輪だったんですけど、
色落ちしてひび割れていた状態で。
しかも首のサイズに対してかなり小さくて、
首がぎゅうぎゅうに締まっていて。 - ──
- 飼っていた人が捨てちゃったのか、
それともこのコ自身が首輪をしたまま
家に戻らなくなったのかなあ。
首輪が小さいまま大きくなっちゃったんですね。 - Oさん
- そのうち不憫に思えて、
牛乳とかつお節を入れたお皿を窓の外に置いてみたら、
うちに来るのが3日おきになり、1日おきになり、
とうとう毎日ごはんを求めて来るようになりました。
- ──
- 通いネコ状態ですね。
- Oさん
- 家に帰って電気をつけると、窓に影が見えるんです。
「あ、今日も来てるな」って。
そんな状態が1ヶ月くらいつづいたある日、
とうとう窓から部屋の中に入ってきたんですね。
入ってすぐのところで、どこか遠慮がちに。 - ──
- そうか、いきなり「飼います」じゃなくて、
徐々にお互いの距離が縮まっていったんですね。 - Oさん
- ええ。
ただ、首輪をしていたわけですから、
まだ誰かが飼い続けている可能性もあって。
わたしもペットを飼うつもりはなくて、
どちらかといえば近づけて嬉しいというよりは
「困ったことになっちゃったなあ」と感じていました。
だから当初は名前もつけずに「ネコ」って呼んで、
距離を置いていましたね。 - ──
- 名前をつけるようになったきっかけはありますか?
- Oさん
- 友達ふたりに相談したんです。
「こういうネコがいるんだけど、どう思う?」って。
ひとりにはものすごく怒られましたね。
「そうやって中途半端な愛情を注ぐからよ」って。 - ──
- うーむ。
- Oさん
- でも、もうひとりは
「ネコには飼ってみないとわからない面白さがあるから
気軽に飼ってみたら?」って言ってくれて。
そこからですね、家に入れるようになって、
一緒に暮らしはじめたのは。
- ──
- 「ネコ」が「蜜柑」になってからは
ずっと室内飼いですか? - Oさん
- わたしが家にいるときは家にいましたね。
で、彼女が外に出たら、わたしも外に出たりして。
あと、夜の9時や10時になると必ず外に出ていました。 - ──
- ネコの集会にでも参加していたんでしょうか(笑)。
- Oさん
- どうでしょう。
とにかく彼女が「外に出たい」と意思表示をしたら、
できるかぎり外に出してあげるようにしていました。
もともと外で長く暮らしていたコですし、
習慣をむりに変えさせることにためらいがあって。 - ──
- 蜜柑を外で見かけたこともあるんですか?
- Oさん
- そうそう、ばったり会ったことがあるんですけど、
そのときはなぜか他人のような素振りをされました。
家から数十メートルも離れてしまうと
「なんだお前?」みたいな顔をされましたね(笑)。 - ──
- ははは。
- Oさん
- ネコとイヌの違いを表すことばで
「ネコは家につく」「イヌは人につく」
というのがあります。
イヌはご主人様に対して信頼を寄せるけど、
ネコは住環境に対する信頼がつよい動物みたいで。
住処やテリトリーがとても大事なんじゃないかなあ。 - ──
- 家にいるときは家族だけど、
そうじゃないときは他人ってスタンスなのかな。
家の外では何をしていたんでしょうね。 - Oさん
- ケンカでもしてたんじゃないかなあ。
彼女はメスのわりに身体が大きくて、
かなり強かったみたいです。
ある日、ひたいに傷をつけて帰ってきたことがあって、
獣医さんに診せてみたら
「相手に向かっていってる証拠だよ」って。
弱いネコは足をやられたりするけれど、
彼女は真正面から相手に立ち向かっていく。 - ──
- 家の中でもそんな感じですか?
- Oさん
- いえいえ、全然。
だから家では見せない野生を、外で知るんです。
「あ、こんな大声を出すんだ」とか、
「こんなに速く走れるんだ」とか。
外だと野生のスイッチが入るんでしょうね。 - ──
- ネコにも内と外の二面性があるんですねえ。
- Oさん
- ただ、最近はすっかりお婆ちゃんになっちゃって。
2年前くらいかな、
他のネコに追い立てられて部屋に戻ってきたときは
胸がきゅーんと締めつけられました。
蜜柑も世代交代なのかな、って。 - ──
- さみしいなあ。
- Oさん
- だから外に出ていたのは昔の話で、
今はもう、ほとんど出なくなって、
出てもせいぜい1分くらいで戻ってきます。
ヘンなところに入り込んで出られなくなるのも困るから、
わたしとしては正直、安心するんですけどね。 - ──
- でも蜜柑はしあわせですよね。
16年もの間、外に出たいときに自由に出られて、
この歳までこんなに愛されて。 - Oさん
- うーん。
「これでいいのか?」って悩んだときはありますよ。
たとえばわたしが旅行するときは基本的に放置でしたし。
もちろん出入りできるように窓は開けていましたし、
ごはんやお水は十分に用意して、
一日おきに友人に面倒を見てもらっていましたが。 - ──
- ええ。
- Oさん
- 最近でも、わたしが関西に帰省するときは
キャリーバッグに入れて連れて帰っているんです。
蜜柑は高齢なので、さすがに置いていくのが心配で。
でも、これでほんとにいいのかなあって。 - ──
- ネコは移動がストレスですもんね。
- Oさん
- せめて新幹線はこだまに乗るんです。
のぞみは新横浜から名古屋まで止まりませんが、
各停のこだまは何かあったら途中下車できますから。
ただ、そもそも新幹線が良いのかどうかも含め、
帰省の仕方については模索中ですね。
- ──
- ちなみに、もしも蜜柑以外にもネコを飼うとしたら、
今度は完全に室内飼いをしたいですか?
それとも蜜柑と同じように半室内飼いですか? - Oさん
- うーん。
現代では「ネコは室内で飼う」というのが
なかば常識になっていますので、
今後は完全に室内飼いになるかもしれません。
ただ、やっぱりそのコ次第かなあ。
もしも飼うとしたら保護されたコを
里親としてもらうかたちになるでしょうけれど、
里親になるための条件がそれぞれあって、
その条件次第というのもあります。 - ──
- 蜜柑を外に出されていたのも、
それまでの生き方を尊重されていたからですもんね。 - Oさん
- この16年、蜜柑が事件や事故にあわなかったのは
とてもありがたいことです。
いずれにしてもまずは
彼女の天寿をまっとうさせることが、
わたしの使命だと思っています。
だから蜜柑以外のネコを飼うことは
今のところ考えられないですねえ。
(つづきます)
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