- 糸井
-
先日、読売新聞に、
ご自身のお写真が出ちゃったから、
顔を出すのはもう問題ない?
- 浅生
- はい、もう大丈夫です。
- 糸井
- あれ、今まで出さないでいた理由っていうのは。
- 浅生
- 何か「めんどくさい」が。
- 糸井
-
「めんどくさい」だったんですね。
漫画家の方とかと同じですよね。
- 浅生
- はい。
- 糸井
-
写真でわかっちゃったことだけど、
片言で「ワッカリマセン」って言えば、
通じちゃうような外見ですよね。
- 浅生
- ただ、意外に通じないんですよね。
- 糸井
- 「きみは日本人だろう」って言われるの?
- 浅生
- うん……。言われるんです。
- 糸井
- そうか。
- 浅生
- そうなんです。
- 糸井
- ハンパですね。
- 浅生
-
ハンパなんです。
そのハンパなのを、一々説明するのがめんどくさくて。
つまり常にみんなが「どっちかな?」って思うんですよね。
聞く人は1回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回と言っているので、
飽きてるんですよね。
- 糸井
- カードにして持ってたら(笑)?
- 浅生
-
うちの母なんかは、
「テープに入れて1回100円で
ボタンを押させたらどう?」
ぐらいのことを。
- 糸井
-
母、商売っ気があるねぇ。
ということは、暗に「ここでも聞くな」と…。
- 浅生
-
そんなことはないですけど(笑)。
もう、なんですかね。
…飽きてくると、茶目っ気が出て。
- 糸井
- 嘘を混ぜる(笑)?
- 浅生
-
ちょっとおもしろいことを
混ぜたりするようになるんですよ。
- 糸井
-
嘘つきになっちゃったわけですね。
めんどくさいが理由で。
- 浅生
-
相手が誤解して「こうじゃないの」って言ったときも
「そうです」みたいな。
つまり訂正もめんどくさいから「そうです」って言うと、
それが本当になるんです。
- 糸井
- なりますね。人は思いたいほうに思うからね。
- 浅生
-
また別の人からは「あなたって、こうですよね」
って言われてうなずくと、
AさんとBさんでは違う「そうです」になってて、
たまたまAさんとBさんとぼくが一緒にいると、
話がすごいことになっちゃうわけですよ。
さらにぼくが説明するのをめんどくさがって
「両方合ってます」みたいなことを言うと、
もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始めて。
- 糸井
- それはもう空に書いた小説じゃない。
- 浅生
- そうですよね。
- 糸井
-
ぼくも最初に会ったときに、
「この外国の人は、流暢だな」って思ったもん。
- 浅生
-
やっぱり「日本語上手ですね」っていう人はいて、
「いや、お前よりな」って思うことが多いですけど。
「お前より絶対流暢」って(笑)。
- 糸井
-
ペンネーム、もう1つ「○○流暢」っていうのを、
付けておきたいね。
- 浅生
- ほしいですね。
- 糸井
-
「大和流暢」みたいなね。
見た目や国籍がどうだっていう話は、
ずーっと続いてきましたか?
- 浅生
-
ずーっとですね。
たぶん、ぼくが日本人として日本で生きていく限りは
ずっと続くだろうなって。
でもまぁ今、新しく生まれる子どもの30人に1人が、
外国のルーツが入ってるので。
ちょっとずつ時代は混ざってきてる。
- 糸井
- ケンブリッジ飛鳥君とかいるもんね。陸上の。
- 浅生
-
そうですね。
ヨーロッパやアメリカで、
「キミ英語流暢だね」とか
言い合ったりしないじゃないですか。
「キミはなに人?」みたいな話も出てこないから。
そういう意味では、日本はこれから時間かけて
混ざっていくんだろうなっていう。
ちょっと早すぎたんです。
- 糸井
-
早すぎたのね。
自分がそういうユラユラしてる場所に立たされてると、
明らかに心もそういうふうになりますよね。
- 浅生
- なります。
- 糸井
-
だから、嘘言ったり、デタラメ言ったり、
めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。
- 浅生
-
でも、あんまり嘘は…。
そのときそのときで、嘘は言ってないんですよ。
- 糸井
- 言ってます。
- 浅生
- 言ってんのかな。
- 糸井
-
「何かを庭に埋めておくと育ちます」
みたいなレベルの話はもう無数に言ってます。
- 浅生
- ああ、そうですね。
- 糸井
-
でもそれが仕事になると思わなかったですね。
ずっと嘘をついてれば仕事になるんだもんね、この先。
- 浅生
- まあ、小説家はそういう仕事ですよね。
- 糸井
- 嘘の辻褄合わせみたいだね。
- 浅生
- 辻褄は合ってなくてもいいんです、別に。
- 糸井
- そうか。
- 浅生
-
だからなんか、最近ずっと書いてる短編なんかは、
もう辻褄は合わせないほうがおもしろいんですよね。
- 糸井
- 投げっぱなし。
- 浅生
- 投げっぱなしで。
- 糸井
-
あの、じゃあ辻褄をやめます。
辻褄をやめて、今日は話してみましょう。
<つづきます>