NHK_PRさんあらため、あそうかもさんと話をしよう
第2回 「死ぬ」はすごく淋しいと体験したから、生きてるあいだは「楽しくしよう」
- 糸井
-
浅生さんの人生を変えるような経験についても、
もう何万回としゃべってますか?
- 浅生
-
そうですね。
- 糸井
-
じゃあ、このまま語らないでおこうか(笑)。
- 浅生
-
「すごいことが起こったんです。
でも言わない」みたいな。
それは、ヒドイです(笑)。
でもまぁ、
ほんとにぼくはそれで「死ぬ」がどういうことかを…
ちょっと理解したんですよ。
- 糸井
-
身体でね。
- 浅生
-
体験した。
よく「死ぬのは怖くないから俺は何でもできる」
みたいな人がいるけど、
それはきっと嘘で。
ぼく、怖くはなくなったんですよ。
だからといって死ぬのは嫌ですから。
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。
- 糸井
-
より嫌になるでしょうね、きっと。
- 浅生
-
より嫌になる… うーん。
- 糸井
-
どうですか、そのへんは。
- 浅生
-
なんか… すごく淋しい。
- 糸井
-
それは、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに死ぬ怖さが失われてきたの。
最期、自分が「お父さん」って呼ばれながら
死ぬシーンをもう想像してるわけ。
そのときに何か言いたいじゃない。
それ、しょっちゅう更新してるの。
長いこと、これがいいなと思ってたのは
「あー、おもしろかった」って言うこと。
嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
でも最近は違うの。
さぁ命尽きるっていう最期になにを言うかと思ったら、
「人間は死ぬ」(笑)。
- 浅生
-
真理を。
- 糸井
-
そう。「人間は死ぬもんだから」っていう。
それを最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。
- 浅生
-
人間は死にますから。
- 糸井
-
うん。「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」を考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
- 浅生
-
そうですね。
だからといって、世の中に何かを遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬことがすごく淋しいと体験したので、
生きてるあいだは「楽しくしよう」みたいな。
別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこう、みたいな感じです。
- 糸井
-
そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
-
そうですね。
ニヤニヤして生きていきたい。
- 糸井
-
ぼく、カブリオレに乗せてもらったじゃないですか。
(カブリオレは、オープンカーの型のひとつです)
ああいうのもニヤニヤして買うでしょう。
- 浅生
-
ニヤニヤです。
自分が楽しむだけじゃなくて、
あれを見た人の反応も想像して楽しめるというか。
- 糸井
-
屋根がないだけで、ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
- 浅生
-
そうなんです。
あれを見た人たちが「派手な車だ」とか。
- 糸井
-
「寒いんじゃない」とかね。
- 浅生
-
いろんなことを言うのがおかしいというか。
だって壊れて屋根がない車だって同じじゃないですか。
壊れた車だとみんなもっと緊迫したことを言うんですけど、
最初から屋根がない車だと
もっといいことを言ってくれるっていうか。
不思議ですよね、同じ屋根なしなのに。
- 糸井
-
みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。
走ってる感が強くなります。
100キロ近く出ると、ちょっと怖いぐらい。
バイクにやっぱり似てました。
だから緊張感がちょっとあるぶんだけ、
ニヤニヤしがちですよね。
緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。
- 浅生
-
先生に怒られてるときとか、
必ずニヤニヤしますよね。
- 糸井
-
そういうことで怒られますよね。
神戸で…。
- 浅生
-
神戸でニヤニヤして…。
- 糸井
-
生まれて。
ニヤニヤ、オギャーみたいな。
- 浅生
-
生まれたときはニヤニヤしてないと思うんですけど。
- 糸井
-
神戸では、何をしてたんですか?
みんなと溶け込んでたんですか?
- 浅生
-
表面上は。
- 糸井
-
自分の時間みたいものもありますよね。
そう、神戸で犬がなくなる話もありましたね。
- ほぼ日
-
あの、すみません。
次の話にいってしまいそうなので、その前に。
「事故の話」について、
何なのかがまったくわからなすぎるので…
言える範囲で教えてもらえますか。
- 浅生
-
はい。すごく簡単に言うと、
31歳のときにバイクに乗ってて、大型の車とぶつかって、
足をほぼ切断し、身体も内蔵もいっぱい破裂し…
もう要するに死んでる状態で病院に運び込まれて、
そこから大手術をして復活したんです。
それから1年ぐらいは入院して車椅子生活で。
最初に「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリをして、少しずつ歩けるようになって今に至ると。
大事故で、普通なら死んでたんです。
ぼくはしばらくの期間、意識不明というか、植物というか、
まったく意思の疎通が取れない状態になってたんですけど、
そういう日々を世界が歪んだ状態で認識しているっていう。
- 糸井
-
何日ぐらい?
- 浅生
-
正確にはわからないんですけど、多分10日ぐらい。
- 糸井
-
意識不明が。
- 浅生
-
意識不明というか、意識混濁というか…。
多分、妻の日記とか見るとわかるんですけど。
- 糸井
-
そのときは妻もいたんですね。
大変だったね。
- 浅生
-
大変なんですよ。
事故当日の夜がやっぱりヤマなんですよね。
そこを越えれば生きられるけど、そこで大概は死ぬ。
でも、妻がちょうど海外出張してて連絡が取れなくて。
ぼくが連絡とる術もないので、
何らかの方法で妻に連絡はいったんですけど。
ただ、「ここで死んだら妻にものすごく怒られる」と。
妻に会って謝ってから死のうと思ったんです。
もう死ぬのはわかってたんで、
一言「ごめん」って言ってから死ねば、
そんなに怒られずにすむだろうと思って。
そしたら妻に連絡を取るのに1日かかり、
妻が海外から戻るのにまた1日かかりで、
2日ぐらいかかっちゃったんです。
だからその間に峠を越しちゃったっていう。
- 糸井
-
謝らなきゃならないから?
- 浅生
-
そう。もうとにかく謝るまで死ねないと思って。
- 糸井
-
ちょっとした意識があるんだ。
- 浅生
-
そうです。
で、妻が来て「ごめん」って謝って、
意識がなくなったんですよ。
- 糸井
-
え、そっから意識がなくなった?
- 浅生
-
そっから意識がなくなった。
そこまで何とか意識あったんです。
もう怒られたくない一心。
- ほぼ日
-
愛の物語と言えなくもないですね。
- 糸井
-
付随して、いい話はいっぱいあるんだよね。
例えばリハビリをなぜ頑張ったかっていうと、
お金がもらえないから。
- 浅生
-
そうです。
同時期に同じような事故で入院した方がいて、
年も同じぐらいだったんですけど。
その方の事故の相手はお偉い方だったみたいで、
わりと初期の段階から弁護士とかと
「3億は堅いですよ」みたいな話をしてるわけです。
こっちは無保険の車だったので、
ビタ一文出ない状態なんですよ。
だからとにかくぼくは早く社会復帰して
働かなきゃいけないと思って、
一生懸命リハビリするんです。
その方は治れば治るほど慰謝料が減るんで…
あんまりリハビリを頑張らなかったんですよ。
結果どうなったかというと、
ぼくは今こんな感じですけど、
その方は多分今もちゃんと歩けない状態。
- 糸井
-
今じゃオープンカーでぶっ飛ばしてるからね。
その話、すごくいいっていうと変だけど…。
- 浅生
-
イソップ寓話みたいですよね。
- 糸井
-
ねぇ。すごいよねぇ。
<つづきます>