もくじ
第1回辻褄は合わせないほうがおもしろい 2016-10-18-Tue
第2回「死ぬ」はすごく淋しいと体験したから、生きてるあいだは「楽しくしよう」 2016-10-18-Tue
第3回飼ってた「動物」のすごくて悲しい話と「動物」っぽい浅生さんの話 2016-10-18-Tue
第4回浅生鴨のインタビューはむずかしい 2016-10-18-Tue
第5回受注型人間の数少ない「決断」 2016-10-18-Tue
第6回何かを表現してないと、生きてられない 2016-10-18-Tue

東京の下町で、ねこ3匹と暮らしています。音楽と漫画があれば、だいたい楽しく生きていけるような気がしています。

NHK_PRさん</br>あらため、あそうかもさんと話をしよう

NHK_PRさん
あらため、あそうかもさんと話をしよう

第2回 「死ぬ」はすごく淋しいと体験したから、生きてるあいだは「楽しくしよう」

糸井
浅生さんの人生を変えるような経験についても、
もう何万回としゃべってますか?
浅生
そうですね。
糸井
じゃあ、このまま語らないでおこうか(笑)。
浅生
「すごいことが起こったんです。
でも言わない」みたいな。
それは、ヒドイです(笑)。
 
でもまぁ、
ほんとにぼくはそれで「死ぬ」がどういうことかを…
ちょっと理解したんですよ。
糸井
身体でね。
浅生
体験した。
よく「死ぬのは怖くないから俺は何でもできる」
みたいな人がいるけど、
それはきっと嘘で。
ぼく、怖くはなくなったんですよ。
だからといって死ぬのは嫌ですから。
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。
糸井
より嫌になるでしょうね、きっと。
浅生
より嫌になる… うーん。
糸井
どうですか、そのへんは。
浅生
なんか… すごく淋しい。

糸井
それは、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに死ぬ怖さが失われてきたの。
最期、自分が「お父さん」って呼ばれながら
死ぬシーンをもう想像してるわけ。
そのときに何か言いたいじゃない。
それ、しょっちゅう更新してるの。
長いこと、これがいいなと思ってたのは
「あー、おもしろかった」って言うこと。
嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
でも最近は違うの。
さぁ命尽きるっていう最期になにを言うかと思ったら、
「人間は死ぬ」(笑)。
浅生
真理を。
糸井
そう。「人間は死ぬもんだから」っていう。
それを最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。
浅生
人間は死にますから。
糸井
うん。「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」を考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
浅生
そうですね。
だからといって、世の中に何かを遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬことがすごく淋しいと体験したので、
生きてるあいだは「楽しくしよう」みたいな。
別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこう、みたいな感じです。
糸井
そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
浅生
そうですね。
ニヤニヤして生きていきたい。
糸井
ぼく、カブリオレに乗せてもらったじゃないですか。
(カブリオレは、オープンカーの型のひとつです)
ああいうのもニヤニヤして買うでしょう。
浅生
ニヤニヤです。
自分が楽しむだけじゃなくて、
あれを見た人の反応も想像して楽しめるというか。
糸井
屋根がないだけで、ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
浅生
そうなんです。
あれを見た人たちが「派手な車だ」とか。
糸井
「寒いんじゃない」とかね。
浅生
いろんなことを言うのがおかしいというか。
だって壊れて屋根がない車だって同じじゃないですか。
壊れた車だとみんなもっと緊迫したことを言うんですけど、
最初から屋根がない車だと
もっといいことを言ってくれるっていうか。
不思議ですよね、同じ屋根なしなのに。
糸井
みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。
走ってる感が強くなります。
100キロ近く出ると、ちょっと怖いぐらい。
バイクにやっぱり似てました。
だから緊張感がちょっとあるぶんだけ、
ニヤニヤしがちですよね。
緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。
浅生
先生に怒られてるときとか、
必ずニヤニヤしますよね。
糸井
そういうことで怒られますよね。
神戸で…。
浅生
神戸でニヤニヤして…。
糸井
生まれて。
ニヤニヤ、オギャーみたいな。
浅生
生まれたときはニヤニヤしてないと思うんですけど。
糸井
神戸では、何をしてたんですか?
みんなと溶け込んでたんですか?
浅生
表面上は。
糸井
自分の時間みたいものもありますよね。
そう、神戸で犬がなくなる話もありましたね。
ほぼ日
あの、すみません。
次の話にいってしまいそうなので、その前に。
「事故の話」について、
何なのかがまったくわからなすぎるので…
言える範囲で教えてもらえますか。

浅生
はい。すごく簡単に言うと、
31歳のときにバイクに乗ってて、大型の車とぶつかって、
足をほぼ切断し、身体も内蔵もいっぱい破裂し…
もう要するに死んでる状態で病院に運び込まれて、
そこから大手術をして復活したんです。
それから1年ぐらいは入院して車椅子生活で。
最初に「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリをして、少しずつ歩けるようになって今に至ると。
 
大事故で、普通なら死んでたんです。
ぼくはしばらくの期間、意識不明というか、植物というか、
まったく意思の疎通が取れない状態になってたんですけど、
そういう日々を世界が歪んだ状態で認識しているっていう。
糸井
何日ぐらい?
浅生
正確にはわからないんですけど、多分10日ぐらい。
糸井
意識不明が。
浅生
意識不明というか、意識混濁というか…。
多分、妻の日記とか見るとわかるんですけど。
糸井
そのときは妻もいたんですね。
大変だったね。
浅生
大変なんですよ。
事故当日の夜がやっぱりヤマなんですよね。
そこを越えれば生きられるけど、そこで大概は死ぬ。
でも、妻がちょうど海外出張してて連絡が取れなくて。
ぼくが連絡とる術もないので、
何らかの方法で妻に連絡はいったんですけど。
 
ただ、「ここで死んだら妻にものすごく怒られる」と。
妻に会って謝ってから死のうと思ったんです。
もう死ぬのはわかってたんで、
一言「ごめん」って言ってから死ねば、
そんなに怒られずにすむだろうと思って。
そしたら妻に連絡を取るのに1日かかり、
妻が海外から戻るのにまた1日かかりで、
2日ぐらいかかっちゃったんです。
だからその間に峠を越しちゃったっていう。
糸井
謝らなきゃならないから?
浅生
そう。もうとにかく謝るまで死ねないと思って。
糸井
ちょっとした意識があるんだ。
浅生
そうです。
で、妻が来て「ごめん」って謝って、
意識がなくなったんですよ。
糸井
え、そっから意識がなくなった?
浅生
そっから意識がなくなった。
そこまで何とか意識あったんです。
もう怒られたくない一心。
ほぼ日
愛の物語と言えなくもないですね。
糸井
付随して、いい話はいっぱいあるんだよね。
例えばリハビリをなぜ頑張ったかっていうと、
お金がもらえないから。
浅生
そうです。
同時期に同じような事故で入院した方がいて、
年も同じぐらいだったんですけど。
その方の事故の相手はお偉い方だったみたいで、
わりと初期の段階から弁護士とかと
「3億は堅いですよ」みたいな話をしてるわけです。
こっちは無保険の車だったので、
ビタ一文出ない状態なんですよ。
だからとにかくぼくは早く社会復帰して
働かなきゃいけないと思って、
一生懸命リハビリするんです。
 
その方は治れば治るほど慰謝料が減るんで…
あんまりリハビリを頑張らなかったんですよ。
結果どうなったかというと、
ぼくは今こんな感じですけど、
その方は多分今もちゃんと歩けない状態。
糸井
今じゃオープンカーでぶっ飛ばしてるからね。
その話、すごくいいっていうと変だけど…。
浅生
イソップ寓話みたいですよね。
糸井
ねぇ。すごいよねぇ。
 
<つづきます>
第3回 飼ってた「動物」のすごくて悲しい話と「動物」っぽい浅生さんの話