- 糸井
-
『アグニオン』を持ってきちゃいましょう、
この机の上へ。
日本で1番、
「買ったけど読んでない」っていうことを
申し訳なさそうに告白する人が多い本。
あらすじ
人類から悪意を分離すれば、善き人(アグニオン)の世界が訪れるはず――。全てを有機神経知能(サピエンティア)に管理された未来社会で、恐るべき最終計画が始動した。人々の欲望を削ぎ、嫉妬も争いも根絶せんとする監理者に、少年たちはどう立ち向かうのか? お求めの方はこちらからどうぞ
- 浅生
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女川でもそういう人に会いました。
「持ってます」っていう。
何ですか、この現象。
- 糸井
- 作者に対する親しみが強くてね。
- 浅生
-
普段本を全然読んだことのないようなタイプの人が
「買いました!」って。
申し訳なくてなんか…。
- 糸井
- 書いておいて(笑)。
- 浅生
- 発注されたからしょうがない…。
- 糸井
- 『アグニオン』はどこからはじまったんですか?
- 浅生
-
1番最初は2012年かな。
そのころ、ちょっとツイッターが炎上して、
始末書を書いたりするようなことがあって。
落ち込んでてショボンとしてたときに、
新潮の編集者がやって来て、
「何でもいいから、何かちょっと書いてもらえませんか」。
と言われて、「はぁ」みたいな。
最初に新潮社の『yom yom』っていう雑誌を読んで
「何が足りないと思いますか」って言われたんで、
「若い男の子向けのSFとかは、今この中にないよね」
みたいな話をして、
「じゃ、なんかそれっぽいものを…」。
- 糸井
- えっ。そんなことだったの?
- 浅生
-
そういう話を1回したことがあって、
とりあえず10枚ぐらい書いてみたら、
SFの原型みたいなのになってて。
それを編集者が読んで
「これおもしろいから、物語にして連載しましょう」
って言われて。
- 糸井
- SFは好きだった?
- 浅生
-
嫌いではないですけど、
そんなマニアではないです。
- 糸井
- いっぱいは読んでるでしょ。
- 浅生
- いっぱいは読んでます。
- 糸井
- そのへんがずるいのよ。
- 浅生
- ずるくないですよ。
- 糸井
- 海外のテレビドラマシリーズとかも全部。
- 浅生
- あぁ。
- 糸井
- いっぱい観てるでしょ。
- 浅生
- いっぱい観てます。
- 糸井
- もうねぇ、ずるいんだよ。
- 浅生
-
これに関してはほんとにワッと書いたら、
ほんとにそこの「最後の少年」っていうのが
ポツッと最初に出てきて、そっから編集と一緒に…。
- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
-
そうです。
「あ、こういう物語なんだ」って
自分でも書いてみるまで、わかんないんですよ。
- 糸井
-
終わったとき、
作家としての新しい喜びみたいなのは出ましたか?
- 浅生
- 「終わった」っていう。
- 糸井
- 「終わった」。
- 浅生
-
何だろう、
マラソンを最後までちゃんと走れたっていう。
- 糸井
- 達成感。
- 浅生
-
達成感というか、「よかった」っていうか。
自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、
誰かにエントリーされて走ったみたい。
- 糸井
-
ぼくも新潮社に頼まれて書いたことがあったけど、
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、
もう本当に嫌でしょうがなかったけど。
浅生さんはまた頼まれたら書く?
- 浅生
- 多分嫌いじゃないんです。
- 糸井
- ぼくはめんどくさいもん。
- 浅生
-
めんどくさいんです。
間違いなく。
- 糸井
-
めんどくさいの種類が違う。
ぼくのめんどくさいは、
もうほんとにめんどくさいから。
- 浅生
- ぼくのめんどくさいだって負けてませんよ。
- 糸井
-
横尾忠則さんとかも「めんどくさい」
って言いながら絵を描くじゃない。
ぼくは書かないもん。
- 浅生
- でも18年間、毎日原稿書いてますよね。
- 糸井
- ほんとに嫌なんだ。
- 浅生
- ぼく毎日書いてないですもん。
- 糸井
-
毎日のほうが楽なんだよ。
かえって、アリバイができるから。
日曜もやってる蕎麦屋がまずくてもね、
しょうがないよって言われるみたいな。
努力賞がほしいね、ぼく。
- 浅生
- 毎日やってるという。
- 糸井
-
うん。
いや、でもね、
書くのが嫌いな人にはできないですよ、うん。
- 浅生
-
『アグニオン』が辛かったのは、
自分で始末しなきゃいけない。
- 糸井
- 当たり前だよ。
- 浅生
-
連載のそれこそ1話とか2話では、
自分でもどんな話になるかわからないのに、
いろいろ伏線を仕込むから、
回収していかなきゃいけなくて。
- 糸井
-
『おそ松くん』とかを連載で読んでいたぼくには、
そういうのって全然気にすることないよって思うね。
だって、『おそ松くん』は六つ子の物語のはずなのに、
チビ太とかデカパンとか異形の者たちの話になってる。
- 浅生
-
これも元々そうで、
実は1回原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。
最後の最後に、
それまでの物語を解決するために、
1人キャラクターが出てきて、
しめていくようになってたんですけど。
それを読んだ編集が
「このキャラいいね。
このキャラを主人公にもう1回書きませんか」
って言われて。
ゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
-
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
-
そうなんです。
それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこが多分1番の矛盾。
- 糸井
-
矛盾ですよね。
「何にも書くことないんですよ」とか、
「言いたいことないです」、
「仕事もしたくないです」、
だけど、何かを表現してないと…。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
-
でも、受注ない限りはやらないっていうね。
ひどいですね。
- 糸井
-
だから、
「受注があったら、
ぼくは表現する欲が満たされるから、
多いに好きでやりますよ、
めんどくさいけど」って。
ぼくたちはそこがちょっと、
似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。
- 糸井
-
うん。そうねぇ。
何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
-
表したい欲ですよね。
表したい欲って、
裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
-
うん。表現したいってことは、
「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか
「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、
そういうことでしょう?
- 浅生
-
画家の目が欲しいんですよ。
あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。
画家の目はきっとあるとおもしろいなって。
あと、見たとおりに見えてるじゃないですか。
ぼくらは見たとおりに見えてないので。
- 糸井
-
画家は個性によって、実は違う目だったりする。
でもそれは、
ぼくなんかが普段考える「女の目が欲しい」とか、
そういうのと同じじゃないですかね。
受け取る側の話をしてるけど、
でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、
受けると出る…。
これはどうでしょうねぇ。
臨終の言葉をぼくさっき言ったんで、
浅生さんは、臨終の言葉を何か、どうでしょう。
受注、今した。
- 浅生
-
はい。死ぬときですよね。
前に死にかけたときは、
「死にたくない」って思ったんで、
すごく死にたくなかったんですよ。
今もし急に死ぬとして…
「仕方ないかな」。
- 糸井
-
(笑)。
これで終わりにしましょう。
いいですね。
- 浅生
-
「仕方ないかな」
っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
-
「人間は死ぬ」と
あまり変わらないような気がしますけどね。
<おしまい>