NHK_PRさんあらため、あそうかもさんと話をしよう
第5回 受注型人間の数少ない「決断」
- 糸井
-
小説は頼まれ仕事?
- 浅生
-
はい。
- 糸井
-
自分からはやらない?
- 浅生
-
やらないです。
- 糸井
-
頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
-
やってないです。
- 糸井
-
頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
-
頼まれなくてやったこと…
仕事でですよね?
- 糸井
-
仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
-
ないかもしれない。
- 糸井
-
…1個ずつ全部「おしまい」が付いたね。
- 浅生
-
ちょっと頑張ります。
つなげる何かを。
- 糸井
-
頼む。
- 浅生
-
何ですかね、この受注体質…。
- 糸井
-
受注されたあとは
頼まれなくてもやってることって
いっぱいあるんじゃないの?
入り口を利用して、むしろ過剰に。
- 浅生
-
やりたいことがあんまりないんですけど、
やりたいことは頼まれた相手に、
ちゃんと応えたいっていうこと。
10頼まれたら、16ぐらい返す感じにはしたいなって。
- 糸井
-
ご自分の変な公式ホームページとか。
誰もそんな発注してないでしょ。
(リンク先は音が流れます。ご注意ください)
- 浅生
-
あれも
「話題になるホームページってどうやったらいいですか」
っていう相談をされて、
「じゃあお見せしますよ」ってやった感じなんですよ。
- 糸井
-
「自分がやりたいと思ったことってないんですか」に
「ない」っていうのは、
俺もずっと言ってきたことだけど、
たまには混じるよね。
「あれやろうか」ってね。
- 浅生
-
NHKにいて自分からやったのって
東北の震災のあとに作ろうとしたCMの2本で
…だけど通らなかったんです。
要は神戸の話をしようと思ったんです。
「絆」とかのワードがいっぱい出始めたころに、
今そんな話をしたって意味がないから
「神戸は17年経って日常を取り戻しました」
っていうCMを作ろうと企画を出したんですけど
「何で東北じゃなくて神戸なんだ」って言われて。
- 糸井
-
それはね、通さなかった人の心はわかんないんだけど、
神戸がどのくらいかかったかという話って、
東北の人にとってものすごくがっかりすることだったの。
「絆」でやってくっていうのも、
「絆」が効果をあげてるときには力になるんだけど、
「いくら言ったってダメじゃない」ってときもある。
20年先はこうなるって話をしても
「そんなに待てないんだよ」っていう人、
つまり80歳の人にとってはもう死んじゃうわけだし、
若い人だったら1番大事な時期に、
「ずっとこの中で生きるんですか」
っていうことになるし。
概念とかロジックでものを語れる人と、
今、気休めを欲しい人っていうのと両方いて、
どっちに対してもかける言葉みたいなものは、
実は必要なんですよね。
- 浅生
-
でも、覚悟はやっぱり必要で。
ぼく、30年かかると思ったんですよ、東北のとき。
だけど、必ず戻るものがあるっていうのも含めて、
神戸で暮らしてる人が17年前に大変な思いをしたけど、
17年経った今、笑顔で暮らす毎日があります、
っていうだけの「神戸」のCMを作ろうと思って。
ただ、ぼくも怖くて、
CMの企画をして東北に行ったんですよ。
「こんなCMを考えてるんですけど、どう思いますか?」
って聞いて回って、
「これだったら、ぼくたちは見ても平気だ」
ってたくさんの人が言ってくれたんで
「よし、じゃあ作ろう」と思って。
ただNHKでは企画が通らなかったので、
「もういいや、作っちゃえ」
って勝手に作っちゃったんですよ、自腹で。
最後の最後にNHKが全部お金出してくれたんで、
うちは家庭が崩壊せずに済んだんですけど。
それぐらいです、自分からやろうと思って作ったのって。
あとはだいたい受注ですね。
- 糸井
-
でも浅生さんがNHK_PRさんだったころ、
震災のなかで中学生がNHKの映像を
そのままインターネット中継で流していたのを
「独断なので、あとで責任をとります」
といって拡散しましたよね。
(そのときの詳しい話は、こちらでよめます)
あれは誰も受注しないですよね。
- 浅生
-
いや、でもあれも
「こういうのが流れてるのに、
何でNHKリツイートしないんだ」みたいなのが来て、
初めてそれで知って…、
だから人から言われてやったようなもんで。
自分で探して見つけたわけではないから。
- 糸井
-
まぁ、それはそうだろうけどね。
- 浅生
-
まぁでも、
やるって決めたのは自分ですね。
- 糸井
-
あのあたりが、すごく「決断だったな」と言えるし
同時に「これは決断しちゃうでしょう」
っていうくらいの雰囲気もあったよね。
その大きな波が読めた瞬間ですよね。
大きく逆らって磔になるようなことしたわけじゃなくて。
- 浅生
-
いいことですから。
- 糸井
-
何とかすればできるし、
「いいことですから」っていう。
あれ、すごく昔のような気がするね。
- 浅生
-
5年前ですね。
- 糸井
-
ぼくも震災のときに、お金の寄付を決めたのは、
受動なんです、やっぱり。
「あれ? このまま行くと、
どっかで募金箱に千円入れた人が
終わりにしちゃうような気がするな」
っていう、実感。
それが何だか辛かったんですよね。
だって、ニュースで見た映像と、
誰かが募金箱に千円入れて、あるいは百円入れて、
終わりにしちゃうような感覚が
どうしても釣り合いが取れないなと思ったんで。
痛みを共有するっていうことを… しないとな、みたいな。
でも、あれも嫌だったよね、
「お前はいくらしたんだ」的なね。
イタチごっこですからね。
たとえ全財産投げ出しても
たぶん「そんなもんか」って言われるわけですから。
- 浅生
-
ぼくは寄付したくなかったので、
福島に山を買ったんです。
- 糸井
-
今も持ってるんですか。
- 浅生
-
今もです。
もちろん、すごい安いんですよ。
山林で、ほんとにぼくが買える程度の金額なので、
全然大したことはないんですけど。
山を買うとどうなるかっていうと、
毎年固定資産税を払うことになるんですよ。
ぼくがうっかり忘れてても勝手に引き落とされるので、
そこ持ってるを限りは永久に
福島のその町とつながりができるので。
- 糸井
-
ぼくたちは「ああいうのが嫌だな」
っていう感覚が似てるんじゃないかな。
意地悪なんだと思う、2人とも。
- 浅生
-
ぼく、意地悪じゃないです。
- 糸井
-
いや、嫌なものがあるんですよ、いっぱい。
「何で嫌なんだろう」って思うと、
「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。
そうすると、面倒でも嫌なことをしない方法をとる。
- 浅生
-
ぼくはだから、システムにしちゃうと。
そうすると、あとは何もしなくてもそうなっていくので、
そうしちゃいたいんですよね。
- 糸井
-
そうそう。
予算に組み込んじゃうとかさ。
「人は当てにならないものだ」とかね、
「人って嫌なことするものだ」とか、
「いいことって言いながら嫌なことするもんだ」とか、
そういう意地悪な視線っていうのは、
明らかに鴨さんのエッセイや小説を読んでても
そういうもんだらけですよ、やっぱり。
それを裏を返せば「優しさ」って言ってくれる人もいる。
西川美和さんの『永い言い訳』っていう新しい映画が、
ものすごくいいんだよ。
女性ならではの意地悪な視線が活きてるの。
それは、裏を返せば優しさなんだよ。
「そういうことしがちだよね、人間って」っていう。
- 浅生
-
不思議なんですよね。
人間って、しょせん裏表がみんなあるのに、
ないと思ってる人がいることがわりと不思議で。
- 糸井
-
そう。「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
-
そんなのわかんないですもんね。
<つづきます>