もくじ
第1回ニヤニヤしていたい 2016-10-18-Tue
第2回不安を持って生きること 2016-10-18-Tue
第3回震災後の対応について 2016-10-18-Tue
第4回たくさんの嫌なもの 2016-10-18-Tue
第5回おまけで事故の話 2016-10-18-Tue

1993年生まれです。
大体都内にいます。

似ている2人の考え方

似ている2人の考え方

元「NHK_PR1号」の中の人で、
今年8月にSF単行本『アグニオン』を出版された浅生鴨(あそう かも)さんと、
ほぼ日刊イトイ新聞主宰の糸井重里。

どこか似ていて、どこか違う。

そんな2人の対談です。



プロフィール
浅生鴨(あそう かも)さんのプロフィール

第1回 ニヤニヤしていたい

糸井
まずは浅生鴨さんの隠し事の部分の線を引きましょうか。
浅生
はい。
糸井
先日の読売新聞に、浅生さんの写真が出ちゃってたけど、あれはもう問題ない?
浅生
もういいです、はい。
糸井
あれ、今まで出さないでいた理由っていうのは。
浅生
何か「めんどくさい」が。
糸井
「めんどくさい」だったんですね。漫画家の方とかと同じですよね。
浅生
はい。
糸井
今の時代、出さなくっても結構なところまで商売できるんですよね。
浅生
そうなんです。
糸井
そういう虫のいいことを考えてるわけですよね。
浅生
そうです。
糸井
NHKの仕事してたときは、NHK_PRっていうペンネームじゃないですか。
あれが俺だっていうのはマズイわけですよね。あの時代は。
浅生
あの時代はそうですね。
糸井
そうですよね。だから、あのときはあのときの隠し事があったわけですよね。
浅生
はい。常に隠し事があるんです。
糸井
幼少時からずっとあるわけですか。
浅生
常に隠し事だけが、つきまとう(笑)
糸井
隠し事の歴史を語る。それで、あとで語れるのが多いですよね。
浅生
そうですね。「実はあのとき」っていうのが多いです。
糸井
「あなた日本人じゃないですね」っていうことで「ワッカリマセン」って言えば、通じちゃうような外見ですよね。
浅生
ただ、意外と通じないんです。ハンパなんです。そのハンパなのを、一々説明するのがもうめんどくさくて、つまり常にみんなが「どっちかな?」って思うんですよね。そうすると必ず、「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、父方がヨーロッパの血が入ってて‥‥」みたいなことを、毎回言わなきゃいけないんですね。聞く人にとっては1回なんですけど、言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、もう飽きてるんですよね。
糸井
ということは、暗に「ここでも聞くな」っていうふうにも聞こえますけど。
浅生
そんなことないですけど。怪我して、ギプスをしてると「どうしたの」って聞かれて、最初2回ぐらいはいいんですけど、50回ぐらになってくると飽きるじゃないですか。そんな風に、飽きてくると、ちょっと茶目っ気が出て。
糸井
嘘を混ぜる(笑)
浅生
そう。ちょっとおもしろいことを混ぜちゃったりするようになるんですよ。そうすると、こっちでちょっと混ぜたおもしろいことと、別の場所でちょっと混ぜたおもしろいことが、それぞれが相互作用して、すごいおもしろいことになってたりして。だんだんめんどくさくなってきちゃうんですよね。なので「もうめんどくさい」って思って、あんまり世に出ないようにするっていう。
糸井
嘘つきになっちゃったわけですね。飽きちゃったから。めんどくさいが理由で。
めんどくさくなければ、1回か2回聞かれるんだったら本当のことを言ってたんだけど。
浅生
訂正もめんどくさいから、相手が誤解とかしていて「こうじゃないの」って言ったときに「そうなんですよ」って言うと、そうなっちゃうんですよね。
糸井
なりますね。思いたいほうに思うからね。
浅生
別の人が「あなたって、こうですよね」って言うと、「あぁ、そうです」って言うと、AさんとBさんでは違う「そうです」になってて、それがたまたまAさんとBさんとぼくが一緒にいると、話がすごいことになっちゃうわけですよ。Aさん側のことでもあり、Bさん側のことでもあって、さらにぼくが説明するのめんどくさいから、「いや、もう両方合ってます」みたいなことを言うと、もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始めてしまう。
糸井
それは小説家だってことじゃない。空に書いた小説じゃない。
浅生
そうですよね。
糸井
幼少の時の、見た目とか「あ、日本語喋れるんだ」的な、そういうようなことですよね。
浅生
そうです。まぁ、今でもたまにありますけどね。
糸井
ぼくも最初に会ったときに、「この外国の人は、流暢だな」って思ったもん(笑)
浅生
やっぱり「日本語上手ですね」っていう人はいて、「いや、お前より絶対流暢」って思いますけど(笑)。
糸井
見た目だとか国籍がどうだとかっていう話は、ずーっと続いてきたんですか?
浅生
ずーっとですね。多分一生。日本にいる限りは、ぼくが日本人として日本で生きていく限りは、多分ずっとまだ続くだろうなって。
でも今、新しく生まれる子どもの30人に1人が、外国のルーツが入ってるので。ちょっとずつ時代は混ざってきてる。
糸井
ケンブリッジ飛鳥君とか走ってるもんね。
浅生
そうですね。今回のオリンピック・パラリンピックでも、ずいぶんたくさん出てきてて。芸能の世界では昔からたくさんいたんですけど。別にヨーロッパに行ったりアメリカに行ったりしてて、「お前、英語流暢だね」とかわざわざ言い合ったりしないじゃないですか。「お前なに人?」みたいな話も別に出てこないから。そういう意味では、日本はこれから時間かけて混ざっていくんだろうなっていう。ちょっと早すぎたんです。
糸井
ずいぶん社会的なこと発言してますね、意外に(笑)
浅生
早すぎたんです。
糸井
早すぎたのね。自分がそういうユラユラしてる場所に立たされてるっていうことで、明らかに心がそういうふうになりますよね。
浅生
なります。
糸井
だから、嘘言ったり、デタラメ言ったり、めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。今もそうですよね。
浅生
でもまぁ、あんま嘘は‥‥。そのときそのときで、嘘は言ってないんですよ。
糸井
言ってます。どうでもいいことについての嘘は、もう無数に言ってますよね。
浅生
そうですね(笑)
糸井
「そうですね」って、すぐにまぁ。それが仕事になると思わなかったですね。
浅生
ビックリしますね。
糸井
ずっと嘘をついてれば仕事になるんだもんね、この先。
浅生
まぁ、まぁそういう仕事ですよね。
糸井
嘘の辻褄合わせみたいだね。
浅生
合ってなくてもいいんです、別に。
最近ずっと書いてる短編なんかは、もう辻褄合わせないほうがおもしろいんですよね。
糸井
投げっぱなし。
浅生
投げっぱなしで。
糸井
辻褄の話はね、また違うテーマでゆっくり語れるようなところがありますよね。辻褄に夢中になりすぎですよね、みんなね。
浅生
決着を付けたがるので。でも、そんなに物事、辻褄がうまく行くとは限らないし。
糸井
辻褄の話は、どっかで特集したいですね。特集「辻褄」とかね。
浅生
「俺と辻褄」
糸井
「阪妻と辻褄」みたいな(笑)
浅生
「いい辻褄、悪い辻褄」。
糸井
あの、辻褄をやめます、だから。浅生さんが人生を変えるような経験についてもさんざん聞かれましたが。それについても、もう何万回しゃべってる?
浅生
そうですね。
糸井
人生を変えるようなな大事件が浅生さんの身の上に起こって‥‥
浅生
「すごいことが起こったんです。でも言わない」みたいな(笑)。でもまぁ、ほんとにぼくはそれで「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥、もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
糸井
でも、心臓は止まってたんですよね。
浅生
一瞬ですけどね。やっぱり「死ぬとは何か」をちょっと理解したんですよ。
糸井
身体でね。
浅生
体験した。ほんとかどうかわからないにしても。よく、死ぬのが怖くないから俺は何でもできるみたいな人がいるけど、それも嘘で。別にぼく、「死ぬ」はそんなに怖くないんですけど、だからといって死ぬの嫌ですから、怖いのと嫌なのは別じゃないですか。怖くはなくなったんですよ。死ぬってこういうことかと。
糸井
より嫌になるでしょうね、きっと。
浅生
より嫌になる、、
なんか、すごく淋しい。
糸井
それはね、若くして年寄りの心をわかったね。俺は年を取るごとに、死ぬの怖さが失われてきたの。で、もう最後に映画の中で、自分が「お父さん」とか呼ばれながら死ぬシーンをもう想像してるわけ。そのときに、何か一言いいたいじゃない。それをしょっちゅう更新してるの。「これでいこう」っていうのがあって、で、結構長いことこれがいいなと思ってたのは、「あー、おもしろかった」っていう。これが理想だなと思ったの。で、嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。この頃は違うの。さぁ命尽きるっていう最期に、「何か言ってる、何か言ってる」って言ったら、「人間は死ぬ」(笑)
浅生
真理を(笑)
糸井
そう。「人間は死ぬもんだから」っていう、それを言って死ぬのを一応みなさまへの最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。
浅生
人間は死にますから。
養老先生でしたっけ、人間の死亡率100%であるって。
糸井
うん。明らかにわかってることはね、それは遺伝子に組み込まれてるからっていう。
浅生
そうなんです。
糸井
で、同時に「死ぬ」がリアルになったときに、「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。それはどうです?
浅生
そうですね。だからといって、何か世の中に遺したいとか、そういう気は毛頭なくて。ただ、死ぬということが、ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、だから生きてる間は「楽しくしよう」みたいな。別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、パーティー行ったりとかする気は全然ないし、むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
糸井
そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
浅生
そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。
糸井
カブリオレとか買うじゃないですか。ああいうのもニヤニヤして。
浅生
ニヤニヤです。だから、自分自身が楽しむだけじゃなくて、あれを見た人の反応も想像して楽しめるというか。
糸井
屋根がないだけで、車のね、ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
浅生
そうなんです。で、あれを見た人たちが、やっぱり「派手な車だ」とか、
糸井
「寒いんじゃない」とかね。
浅生
いろんなことを言うじゃないですか。そこがおかしいというか。だって屋根ないだけで、壊れた車だって屋根ないわけだから、同じじゃないですか。でも、壊れた車で屋根ないときは、みんなもっと緊迫感あること言うんですけど、最初から屋根ない車だともっといいことを言ってくれるっていうか。不思議ですよね、同じ屋根ないだけなのに。
糸井
みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。走ってる感が強くなりますよね。
浅生
自転車とかオートバイに近いというか、機械に乗ってる感じがすごくするので不思議ですよね。
糸井
ぼくはこれを編集する人に言うんですけど、この人のカブリオレに乗せてもらったんです。味の素スタジアムから東京まで。同じ速度でも出てる気がしますね。100キロ近く出ると、もうちょっと怖いぐらいですよね。バイクにちょっとやっぱり似てました、うん。だから緊張感がちょっとある分だけ、ニヤニヤしがちですよね。緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。
浅生
先生に怒られてるときとか、必ずニヤニヤしますよね。
糸井
そういうことで怒られますよね。神戸で‥‥。
浅生
神戸でニヤニヤして‥‥。
糸井
生まれて。
浅生
多分、生まれたときはニヤニヤしてないと思うんですけど。
糸井
ニヤニヤ、オギャーみたいな。
浅生
ぼく、本当にずっと神戸で生まれ育って、高校出るまではずっと神戸で、高校出てから東京にやってきたと。
糸井
神戸で、何をしてたんですか? みんなと溶け込んでたんですか?
浅生
表面上は。
糸井
自分の時間みたいなのがありますよね。犬をなくしてたりしてたんですよね。犬がなくなる話、しましょうか。
浅生
犬はね、もう思い出すと悲しいんですよね。
糸井
ときにはそういうの混ぜないとさ。浅生さんのおうちでは犬を飼ってらっしゃったんですね。
浅生
かつて。かわいい、かわいい、柴とチャウチャウのミックスという、どう見ていいのかわからない犬がいたんですけど。ぼくがいくつのときかな、中学のときか高校の始めぐらいに子犬としてうちにやってきて。ずっと面倒みて、本当に頭のいい犬で言うことも聞くんですけど、ぼくが東京に出てきて、しばらくしてうちの親も震災のあと‥‥。
糸井
神戸の震災に遭ったんですね。
浅生
東京に出てくるんですけど、そのとき犬は連れてこれないので。実家は広い庭があって、普段から犬を庭で放し飼い、庭が山につながってるような場所なので、そこで放し飼いにしてたんですけど。うちの母は、東京と神戸を行ったり来たりして、週に何回か家に帰ってエサとか水とかを用意して、犬のための。犬は犬で山の中で勝手に自分で水場‥‥庭に川があるので、水はそこで飲めるし。
糸井
半野生みたいな。
浅生
みたいな感じ。昔から、子犬のときからそういう感じだったんですね。だから、勝手にどっかに行ってて「ご飯だよー」って呼ぶと、山の向こうから「ワウワウ!」って言いながら、ガサガサっと現れるっていう。半野生のようなワイルドな犬。
糸井
どういうところに暮らしてたのか、前に地図を見たら、たしかにとんでもないそういう場所でしたね。
浅生
山ですよね。
糸井
神戸っていうと、みんな外国人墓地的な。
浅生
おしゃれタウン。
糸井
おしゃれタウンを想像しますけど、神戸、山ですね、ずいぶん。
浅生
多分神戸市って、南の港のほうはごく一部なのかな。面積的には、北のわりと広い範囲が山だったりするので。
糸井
それで大阪の人に「神戸っておしゃれやん」とか言われたらわりが合わないですよね。
浅生
あそこは、もうぼくらは神戸じゃないと見なしてて。
糸井
おしゃれなとこは?
浅生
いや、おしゃれなとこだけが神戸。それ以外はもうなかったことにしてます。
糸井
ほぉ。ま、そういうところに犬がいた。
浅生
で、結局、ある日犬は‥‥、年老いて17歳18歳なり‥‥、もうそろそろ。
糸井
あ、そんなになってたの?
浅生
そう。結構な年だったんです。
糸井
お母さんが半分ぐらいずつ行ったり来たりしてる時期っていうのは、何年ぐらい続いたんですか?
浅生
何年ぐらいだろう。でも、いっても6年とかだと思うんですけどね。
糸井
そんなにそういう暮らししてたの。
浅生
ええ。それで、最終的には犬が戻ってこなかったんですね、山から。ぼくも神戸帰るたびに、大声で呼ぶと犬が山の中から現れてたので。それがついに現れなくなったんですよ。ってことは、普通に考えると年取ってたし、山の中で亡くなったんだろうなと思うんですけど。姿をとにかく見てないので‥‥。やっぱり見てないと、亡くなったって信じきれない感じがどうもあって。ほんとは山の中でまだやってるんじゃないかなっていう思いが1つと、もう1つはやっぱりぼくとか母が東京に来ちゃってる間、犬としてはもちろん山の中楽しいだろうけど、時々家に戻ってきたときに誰もいないっていう。ほんとに淋しかっただろうなっていう。それが本当に悪いことしたなと思って。犬に対しては、淋しい思いさせるのが1番悪いなっていう。
糸井
そのときには、彼は彼で‥‥。
浅生
彼女です。
糸井
「彼女は彼女で、悠々自適だ」っていうふうに思ってたけど、それはそうとは限らなかったなと。
浅生
そうなんです。ほんとに淋しかったんじゃないかなと思って。無理してでも東京に連れてくれば良かった。まぁぼく、貧乏生活ですからとてもじゃないけど犬どころか自分ちの水道が止まるかどうかの暮らしだったので、あんまりそんなことできないんですけど、それでも何とかして東京連れてきたほうが、もしかしたら淋しくなくて。走り回れはしないけど、少なくとも誰か人といるっていう、そういうことはできたかなと思うと。もうそれを思うと後悔が‥‥。
糸井
今まで、浅生さんのお話では、犬のその話はそんなに長く生きてた犬だってことをまず語ってなくて、山と家の間を行ったり来たりしてたんだけど、ある日呼んだら来なかったっていう、おもしろい話として語られてたけど、ちゃんと時間軸をとると、切ない話ですね。
浅生
切ないんです。でも、物事はだいたい切ないんですよ。
糸井
まあね。犬って、飼い主の考えてる愛情の形のまんまですよね。
浅生
そうなんです。それが怖いんです。
糸井
怖いんですよね。同棲生活をしてる家で飼われてる犬が、愛の終わりとともに押し付けあわれたり、だんだんと見てやれなくなったりみたいな、愛と名付けたものと犬って同じですよね。だから、飼えるぞっていうときに飼ってもらわないと。
浅生
迂闊に飼うと、ほんとになんか‥‥。犬もそうだし、人もどっちも後悔するというか、どっちも悲しい思いをするので。
糸井
犬の話は聞くんじゃなかったっていうほど悲しいですね。
浅生
悲しいんです、もう。
糸井
この間までは、ピーって鳴ったらピューッて入ってきて。
浅生
まぁ、原則そうなんです。呼ぶとパーッて現れて、ワウワウ言いながら。
糸井
そこの、クライマックスのおもしろいとこだけをぼくら聞いてたんで。それがある日来なくなっちゃったんですよ、だからまだ走ってるんですよっていう、そういう小説じみたお話だったんですけど。案外リアリズムっていうのは悲しいですよね。
浅生
悲しいんです。だから、そういうところでぼくは嘘をついちゃうわけですよね。悲しいところを、常に削っておもしろいとこだけを提示してるので。だから、突きつけていくと、いろいろとあれあれ? みたいなことがいっぱい出てきちゃうんですよね。
糸井
そうだね。だからインタビューとかされちゃダメなのかもしれないね、もしかしたらね。
浅生
本来は。だから、隠れて生きてたっていう、そこに立ち戻るんですけど。
糸井
でも、人ってそれは薄めたようなとこありますよね。だいたい。そのことをもう2段ぐらい深くまで聞くと、言いたくないことにぶち当たるっていうか。それはフィクションの中に混ぜ込んだりすれば書けるけど。
浅生
多分、人をそれこそ2段階掘ると、その人が思ってなかったこととかが出てきちゃうじゃないですか。そこがおもしろくもあり怖くもあり、あんまりそこ聞いちゃうと、この人の本当のことを聞いてしまうっていう‥‥。他人の本当のこと、ぼくどうでもいいというか、背負いきれないというか。
糸井
どうでもいいというか、背負いきれないというか‥‥。それって、水面下の話にしておきましょうっていう約束事が、何かお互いが生きてくときのためにあるような気がしますね。
浅生
で、それは、特に今、みんなが持ってる箱を無理やり開けようとする人たちがいて、その箱は開けちゃいけないよねっていう箱が、どうも勝手に来て無理やり奪い取って勝手に開けて中身出して「ホラ」ってやる、そういう人たちがたくさん。実は開けられる側も、本人は大切にしてる箱なんですけど、開けてみたら大したことはなかったりするんですけど、それでも本人にとってはそれが大事な箱だったりするので。
糸井
この間ぼくも書いたことなんだけど、自分から言う底の底の話はいいんだけど、人が「底の底にこんなものがありましたよ」っていう、つまり引き出しの中からヨゴレたパンツが出てきて、自分から「なにこのヨゴレは〜」って言って笑いをとるとかだったらいいけど、穴の開いたパンツとかね。でも、人が探して「このパンツなに!」って言ったら、嫌だよね。
浅生
いましたよね。勝手に人のカバンの中を探って「こいつ、こんなもの持ってきてる」ってやる。
糸井
いたんですか?
浅生
いましたね、そういう子。
糸井
学校に。
浅生
いましたね。
糸井
そういう時代があったんですか?
浅生
それはぼくじゃないんですけど。
糸井
学校が荒れてる時代ですか?
浅生
ちょうど校内暴力時代なんです。
糸井
俺、それ知らないんですよね。聞くと、ものすごく西部劇の中のならず者みたいな人たちだらけですね。
浅生
ほんとにすごい時代ですよ。スクールウォーズの時代ですから、ほんとに中学校の先生が‥‥これ言うとみんなビックリするんですけど‥‥ヌンチャク持ってるんですよ。
糸井
またちょっとさ、ちょっと補色(?)‥‥(笑)。
浅生
いや、これしてないんです。
糸井
そう? ヌンチャク的な白墨とか何か。
浅生
本物のヌンチャク持ってる。竹刀持ってる先生とヌンチャク持ってる先生がいて、生徒が悪いことすると、竹刀とかヌンチャクで頭やられるんですよ。でも、生徒側もただではやられないので、そこに対抗しに行ったりするようなワルの生徒は、っていう、今考えると、マッドマックスの世界です。
糸井
マッドマックスじゃない。
浅生
今考えると不思議なんです。ほんとにみんなが、あんな‥‥。
糸井
その地域にもよるんでしょ。
浅生
もちろんそうだと思いますけど。
糸井
あなたが見てこられたのが、そういうとこなんでしょ、きっと。
浅生
うちは、神戸の中学校・高校の中では比較的‥‥、高校のときはもう校内暴力ほとんど収まってたんですけど、ちょうど中学の頃に、まだマシなほうではあったんですけど。
糸井
ヌンチャクが?
浅生
まだマシな方だったんですけど。
糸井
そうするともう、イガイガした鉄の玉とかになっちゃうじゃない。
浅生
バレーボールに、灯油をかけて火を付けて投げるみたいなことをやってる中学もあったので。ただ、幸いうちは山の上に中学があったので、山の上の中学の利点は、他校が殴り込みに来れないっていう、みんな息が上がっちゃうので。
糸井
はぁー。だから犬も帰って来られなかった。
浅生
だから、ものすごい急な坂の上に中学があるので、そうすると他校が「殴り込みだー」って言ってもその坂の途中ぐらいでへばっちゃうんだと思うんです。
糸井
タバコ吸ってるからね。息が切れやすいよね。
浅生
ま、そんな感じの。わりと荒れた学園みたいな。
糸井
その中では、あなた何の役なんですか? ヌンチャク部じゃないですよね。
浅生
ぼくはうまく立ち回る。
糸井
ヌンチャクもやるんですか。
浅生
ヌンチャクはやらないですけど。
糸井
何をやったんですか。
浅生
いやぼくは普通に、強そうな悪い奴がいたら、そいつの近くにいるけど積極的には関わらないっていう。腰巾着までいかないポジションを確保っていう。
糸井
戦国時代のドラマに出てきそうな。
浅生
かと言って、真っ向から対抗するとやられるので、真っ向から対抗はしない。
糸井
意外と体つきがいいから、強かったんですか?
浅生
いや、ぼくは中学の頃とかヒョロヒョロのちっちゃい感じ。ほんとちっちゃかったので。ターゲットになるとしばらくイジメられるから、とにかくターゲットにはされないように立ち回るっていう。
糸井
そんなのでもさ、考えとしてわかってても相手が決めることだから、なかなかうまく行かないでしょ?
浅生
でも、相手が得することを提供してあげれば。中学生だから、単純で褒めれば喜ぶわけですよね。その子が思いもしないことで褒めてあげれば、つまり喧嘩が強いやつに「喧嘩強いね」っていうのはみんなが言ってるから、でも「キミ字、キレイね」ってちょっと言うと、「おっ」ってなるじゃないですか。
糸井
すっごいね、それ。
浅生
そうやってポジションを(笑)
糸井
磨いた?
浅生
なんとか自分のポジションを。
糸井
「字、キレイ」で。
浅生
ものすごい嫌な人間みたい(笑)
糸井
いやいや(笑)。ま、西部劇だからね。
浅生
生き残らなきゃいけないので。
糸井
よく言う、そういうのに対抗する関西の強さは笑いだから「俺はそれでお笑いになった」みたいな人、いっぱいいるじゃないですか。ああいうのとちょっと似てますね。
浅生
そうですね。
糸井
「字、キレイね」ってお笑いではないんだけど。
浅生
違う切り口でそこに行くっていう。
糸井
一目置かれるってやつですかね。
浅生
うーん。なんですかね。ちょっと違う球を投げるというか。
糸井
今も似たようなことやってますね、なんかね。
浅生
常に立ち位置をずらし続けてる感じが。
糸井
安定してると、やっぱり人がじっと見てるうちには弱みも強みもわかってきて、いいことも悪いこともあるんだけど、どっちもなくていいやと。
浅生
はい。
糸井
いいことも悪いこともなくていいやと。今日を生きよう、できるだけ楽しく。
浅生
そう。今さえ。
糸井
いやいやいや、なるほどね。それ動物っぽいですよね。
浅生
動物っぽいですね。多分子どもの頃から、そういう‥‥、あんまり目立ちたくないというか。
糸井
自然に目立っちゃうからでしょうね、やっぱりそれは。遠くにいたらわかるじゃない。
浅生
どうしても目立ちがちなので、もうあんまり目立たないようにするにはどうしようかなっていう。
糸井
今はじめて思ったんだけど、若くして16ぐらいでグラビアアイドルみたいな子いるじゃない。ああいう子の心の中って、あっけらかんとしたことしか言わないけど、あれ田舎にいたらエライ大変だろうね。
浅生
そうでしょうね。
糸井
あんなボディした子がさ。
浅生
わがままボディが。
糸井
わがままボディが炸裂してる状態でさ、社会の勉強とかしてるわけでしょう? それ浅生さんどころじゃないよね。
浅生
大変だと思います。
糸井
はぁー。俺、これからはそういう目であれらを見よう。
第2回 不安を持って生きること