- 浅生
- 目立たない方法って2つあって、ほんとに気配を消してうまく溶け込むか、逆に突き抜けるぐらい目立っちゃうかのどっちかしかなくて。
バーンって飛び抜けて目立っちゃえば、それはもう普通の目立ってるとは違うので、また違う立ち位置に行けるんですよね。だから、ぼくいつもそのどっちかをわざと選ぶっていうか、溶け込むようにするか、思い切ってワーッて前にいくか。
- 糸井
- 突き抜けるくらい目立つっていうの、どういう経験?
- 浅生
- 例えば、そういうみんながやらないようなことにあえて「はい」って。どうせいずれ押し付けられる可能性があるものに関しては、自分から先にいっちゃうとか。先回りしちゃうっていう。そうやることで、どこかで納得したいというか。「自分で選んだんだ」っていうことを自分自身に納得させるというか。自分で目立つことを選んだから、目立つのはしょうがないよねって。
- 糸井
- NHK_PR時代とかは、結構そういう開き直りを感じました。
- 浅生
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 陽動作戦みたいに、呼び寄せて逃げるとかね。あれ、NHKっていう名前ついていながらあれをやるっていうのはノウハウがないじゃないですか。あれはおもしろかった。
- 浅生
- おもしろかったですね。相当ムチャでしたから。まぁ、あれも結局、やっちゃって飛び抜けちゃったほうが楽になるっていう。たしかに楽になったんですよね。
- 糸井
- 自分も楽になるっていうことですか?
- 浅生
- ええ。1番いいのは「あいつはしょうがない」って思われると1番楽ですよね。
- 糸井
- でも「あいつはしょうがない」っていってエライ迷惑な人がいるじゃないですか。そういうのは嫌でしょう?
- 浅生
- 嫌です。
- 糸井
- だから「あいつはしょうがない」けども、あんまり人に迷惑かけてないっていうのは、なかなかすごいバランスのところに立ってますよね。
- 浅生
- そうですね。だから、「あいつはダメだ」なんです。
- 糸井
- いや、どっちでもなくて「おもしろい」になっちゃってるんじゃないかな。
- 浅生
- 最終的には。
- 糸井
- うん。NHK_PRは、おもしろいが武器になっていたケースで。
- 浅生
- でも、冷静によくよく見ると、そんなにおもしろくないんですよ。1つ1つは。
- 糸井
- 1つ1つじゃないもの。
- 浅生
- 相対として「なんかおもしろいかも」っていう雰囲気だけはあるんですけど、よく見ると、そんなにおもしろくなかったりするんですよね。
- 糸井
- 仕事ってそういうとこありますけどね。おもしろかったですよ。あの、何だろう。「それは人が言ったことがないな」みたいなことが結構いっぱいあった。だから、変なおもしろさ。ものすごいツイートもしたし、ものすごい人のツイートも見たでしょうけど、あれはほぼ24時間みたいなものですよね。
- 浅生
- いや、あれはほぼやってないんですよ。
- 糸井
- どういうことですか?
- 浅生
- 自動設定してあって、だいたい前日のうちに翌日やることをワーッて書いて、タイマーで設定しちゃって、いわゆる返信とかリツイートも全部タイマーで設定してあるんです。
だけど、リプライとかリツイートは、まさか前の日のツイートに対してリツイートしてるなんてみんな思わないので。リツイートされた本人だけは「あ、これ昨日のやつを今頃リツイートしてる」って思うんですけど、普通に見てる人たちはまさかのリアルタイムツイートのように見てるっていう。
- 糸井
- っていうことは、「本人よりも見てるだけの人のほうが数が多い」っていうことをよくわかってやってるわけだね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 本人って1人だもんね。
- 浅生
- はい。
- 糸井
- ツイッターってそうですね。
- 浅生
- 結局ツイッターって、何だかんだ言っても絞り込むと1対1のやりとりなので、その1対1を他人にどう見せるかっていうことだけ演出してあげると、すごくやってるように見える。ぼく、普通に番組作ったりしてたんで、そんな24時間ツイートできないですし。
- 糸井
- でも、俺なんかNHK_PRさんと何回かリアルタイムでやりとりしたことがあるよ。
- 浅生
- リアルタイムをたまに混ぜると、
- 糸井
- 混ぜるんだ。
- 浅生
- たまに混ぜるんです。
だから、嘘にほんとを少し混ぜると、全部がほんとに見えるっていう。
- 糸井
- そういう作戦考えるのはわりとお好きなんですね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- ね。構造で考えるっていうか。
- 浅生
- 何ですかね。それもきっとでも、強いワルとどう向き合うかに近いんだと思うんですけど。分析して構造を考えて、どこに何を置けばいいか、何を言えばいいかっていう。
- 糸井
- 戦国時代の人みたいですね。『真田丸』のようですね。
- 浅生
- 『真田丸』のように。
- 糸井
- 『真田丸』観てないでしょ。
- 浅生
- そう、観てないんです。
歴史あんまり知らないので‥‥。
- 糸井
- 誰も知らないですよ。
- 浅生
- みんな知ってますって。すごく知ってますよ。
- 糸井
- それは、観ているうちに知るの。大丈夫大丈夫。知らない。
- 浅生
- でも、知ってますよね。
- 糸井
- 知らない。
- 浅生
- ほんとですか? このあと、真田幸村死ぬんですよ。
- 糸井
- それは知ってますよ。だって、あらゆる人間は死ぬんだから。
- 浅生
- 100%ですからね。
- 糸井
- この間の読売新聞のインタビューみたいなのは、これからも増えていくと思うんですけど、主にあのへんは本を出したりする関係で、作家として聞かれますよね。
作家としてならインタビューとか成り立つ?
- 浅生
- 成り立つのかなぁ。わかんないです。成り立ってないような気もするんですけど、記者の人が優秀だと成り立つんですよね、きっと。
聞かれたときにはわりと丁寧に答えてはいるんですけど、どうもその答えの方向が求められてるのと違うことらしくて(笑)
- 糸井
- 違うんですよ。次の質問をさせない答えなんですよ。
インタビューって次の質問の隙間がモアっとあって、目がそっちに行くように話ができてるんだけど、
浅生さんと話してると、1つで終わっちゃうんですよ(笑)
- 浅生
- 何でですかね? ご飯の食べ方が、ぼくそうなんですよ。幕の内弁当でもいいですし、定食でも普通におかずとご飯とってありますよね。
ぼく、三角食べができなくて。1つずつ全部キレイになくなっていくから、ご飯がすごい余るんです。
- 糸井
- でもさ、1つずつやるタイプでもないじゃないですか、仕事とか。
- 浅生
- いや、1つずつやるタイプだから大変なんです同時になると。並行して進めないから、こっち終わるまでこっちに手が出せないみたいな。
- 糸井
- インタビューアーになったこともあるでしょ?
- 浅生
- あります。ぼくインタビューすごい得意です!
- 糸井
- それ、ちょっと思うんだけど、相手が「何とかしたい」って思っちゃうんだろうね。
- 浅生
- ぼく、質問して相手が話し始めたら、わりと黙ってじーっと聞いてるんですよ。特にテレビのインタビューだと、カメラ回ってるじゃないですか。カメラ回ってるときに、インタビューする人って「あれも聞かなきゃ」「これも聞かなきゃ」って回ってるから焦っていろいろ聞くんですけど、ぼくだまってカメラ回ったまんま、じーっと黙ってたら相手が沈黙に耐えられなくなって、いろいろ言い始めるんですよね。それでうっかりなことしゃべっちゃったりするので、結構なネタ拾えたりとかするんです。
- 糸井
- ちょっとわかります。聞く側としては辛いけど、聞かれる側でも辛いもん。
- 浅生
- すいません(笑)
- 糸井
- 日常で会話してる分には、なんでもないんですけどね。楽しいんだけどね。
- 浅生
- 孤独に耐えられるので、沈黙とか孤独が全然怖くないので。
- 糸井
- 相手が怖がってるっていうのについて、多少思いやりとか無いもんなのかね。
相手は孤独とか沈黙、嫌だよ。
- 浅生
- 嫌だと思いますけど、でもまぁぼくじゃないので。
- 糸井
- (笑)
- 浅生
- 嫌なら自分で何とか。
- 糸井
- 何とかしなさい(笑)
それ、お母さんに言われてるような気がする。お母さんと、震災のときにお互いに連絡とらないことって決めたんだよね。
- 浅生
- そうです。
- 糸井
- 連絡とろうとして、いろんなことがややこしくなるから。
- 浅生
- 生きてればそのうち連絡とれるし、死んでりゃいくらやっても連絡とれないから、慌てないこと。それわかりやすい。
- 糸井
- わかりやすいですよね。
- 浅生
- 多分、母もすごい合理的なんだと思うんですよね。
- 糸井
- 母に似てますね。その考えはね。
- 浅生
- 母も他人に興味がないんです。
- 糸井
- 他人っていうの考えたことないの?
- 浅生
- 多分、自分がどう思っているかだけで、もういっぱいいっぱいというか。
もちろん、相手の気持ちとか、ぼく優しい人間なので「この人はこういうふうに感じてるだろうな」とかっていうのは、わりとわかるほうではあるんですけど。だからといって、そこを何とかしてあげたい、とまでは思わないんですよね。
- 糸井
- でも、女川の手伝いとか、そういうのはするじゃないですか。
- 浅生
- そう。でもそれは、ぼくが楽しいからやってるんであって、嫌なら行かないですから。
神戸のときは揺れたときはいなかったんですよ。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 浅生
- 揺れた瞬間はいなくて、ただもう燃えてる街をテレビで観てて、当時ぼく座間のほうのある大きな工場みたいなところで働いてて。そこの社員食堂のテレビを見てたらワーッと燃えてて、死者が2千人、3千人になるたびに周りで盛り上がるんですよ。「おぉーっ」とか、言ってみればもう「やったー」みたいな感じで。「2千超えたー」「3千いったー」みたいな感じで、ちょっとゲーム観てるみたいな感じで盛り上がってるのが、ちょっと耐えられなくて。それですぐに神戸に戻って、そこから水運んだり、避難所の手伝いしたりっていうのをしばらくずっとやって。
- 糸井
- お母さんも、その現場にはいなかったの?
- 浅生
- うち、山のほうなので、家自体は大丈夫だった。祖父母の家が潰れちゃったりはしたんですけど。とにかく帰ったときは、まだ街が燃えてる状態で、まだ火が消えてない状態のときに帰って。友達もずいぶん下敷きになって燃えたりとか。神戸の場合は下敷きというより、火事がひどかったんで。
- 糸井
- あれが神戸じゃなかったら、また違っていたのかも。
- 浅生
- 全然違うと思います。
- 糸井
- もしあれが実家のある場所じゃなかったら。
- 浅生
- 多分、ぼく行ってないと思います。もしかしたら「2千人超えたー」って言う側にいたかもしれない。そこだけは、ぼくが常に「やったー」って言う側にいないとは言い切れないんで、むしろ言っただろうなという。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。自分が批難してる側にいないっていう自信のある人ではないっていうのは、大事ですよね。
- 浅生
- いつも、自分が悪い人間だっていう恐れがあって。
人は誰でもいいとこと悪いところがあるんですけど、自分の中の悪い部分がフッと頭をもたげることに対するすごい恐怖心もあるんですよ。
だけど、それは無くせないので、だから「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうのは、わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
- そのとき、その場によって、どっちの自分が出るかっていうのは、そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを普段から思ってるっていうことまでが、ギリギリですよね。
- 浅生
- だから、よくマッチョな人が「何かあったら俺が身体を張ってお前たちを守ってみせるぜ」って言うけど、いざその場になったらその人が最初に逃げることだって十分考えられるし。多分それが人間なので、そう考えるといつも不安‥‥、「もしかしたらぼくはみんなを捨てて逃げるかもしれない」って不安も持って生きてるほうが、いざというときに踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕みたいなものを作れるかどうか、どっちでありたいかっていう。
それは「このときも大丈夫だったから、こっちを選べたな」っていうことは足し算ができるような気がするんだけど、一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。